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きらめく
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「お母さん、変じゃない? うしろの髪はねてない?」
「大丈夫よ。……ふふっ、ほほえましいわねぇ」
はじめてのデートに緊張する私にお母さんはやわらかい笑みをうかべるだけ。
ほほえましいって、私は玲衣くんに少しでもかわいいって思われたくて必死なのに!
今日着ているのは、ちょっと前にお母さんが私に似合うと思って、と買ってくれたピンクのワンピース。
女の子らしいかわいいデザインだけれど、フリルとかは控えめで甘すぎないタイプ。
髪型はハーフアップにして、以前紗香とショッピングしたときに買った水色とピンクの小花デザインのバレッタで留めた。
バレッタも紗香に「似合うよ!」って太鼓判をおしてもらえたから大丈夫だとは思うけど……。
ピンポーン
「っ! 来た。じゃあお母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてねー」
十時ピッタリに鳴ったチャイムの音にあわてて玄関に向かった。
ドアの前で軽く深呼吸をしてから開けると、外の熱気といっしょに夏の日差しが入ってくる。
そんなまぶしいほどの明かりに照らされて、私の大好きな幼なじみが立っていた。
「おはよ、莉緒。行こうぜ」
「う、うん」
水色の半そでワイシャツにキレイ目な黒のジーンズ。
シンプルな格好だけれど、クールな印象の玲衣くんにはピッタリだった。
涼やかにも見えて、いつも以上にカッコ良く見えるのは私が玲衣くんに恋してるからかな?
それとも単純に今日のデートが楽しみすぎてそう見えるだけ?
どっちもな気がする。
なんて思いながら玲衣くんの横を歩いていると。
「莉緒、なんか今日かわいくしてるな?」
「え!? あ、うん。カフェに行くって言うからちょっとオシャレしちゃった。……変かな?」
かわいいと言ってもらえたことに喜びつつ、玲衣くんとのデートだからっていう本当の理由を誤魔化す。
さすがに意識してはりきったって知られるのははずかしくて。
「変じゃないよ。本当、かわいい」
「あ、ありがと……」
ふわっとした優しい笑顔を向けられて結局はずかしくなっちゃった。
メガネごしに見えた目に甘さも感じた気がして、いつも以上にはずかしいしドキドキする。
しょっぱなからこんなんで、私今日もつのかな?
帰ったころには発熱していそう。
なんて思いながら暑い道を進んだ。
***
おすすめだって言われたレアチーズケーキを一口食べる。
瞬間口の中に広がった酸味と鼻に通ったレモンの香りが爽やかで、ケーキ自体もとけるように消えちゃった。
「うわっすごい」
「本当だ。教えてくれた先輩に感謝だな」
同じケーキを二人で食べて笑顔になる。
「他にもおすすめあるって先輩言ってたし、また一緒に来ような」
「いいの?」
「もちろん。っていうか、逆に俺一人じゃあこういうところ来れないし」
確かに周りを見ると女性客の方が多いもんね。
「うん、じゃあ今度は私がおごるね!」
なんて、ちゃっかり次のデートの約束までしちゃった。
好きな人とデートして、楽しく話して。
幸せ過ぎて忘れちゃってたのかな?
私が小説を書いていることを良く思わない人たちがいるってことを。
このすぐ後に、それを思い出すことになるなんて……。
***
満足してお店を出て、また二人で街を歩く。
「この後はどうしよっか? さすがに帰るのは早いよね?」
出来ればもう少し一緒にいたいなって思って話すと、玲衣くんは「ああ」とちょっとかたい表情でうなずいた。
「ちょっと、莉緒を連れていきたいところがあるんだ」
いいか?って聞いて来る玲衣くんにいいよってうなずいたけれど、なんだか緊張している様子の玲衣くんを見ると不安になる。
その不安を聞いてもいいのかどうか迷っていたときだった。
「……莉緒ちゃん?」
「っ!」
久しぶりに聞く声に、私は息をのんで固まる。
そろそろと声の方を見ると、美乃梨ちゃんとそのお友達がいた。
「美乃梨ちゃん……」
「あ、本当に莉緒ちゃんだ。なーに? オシャレしちゃって。受賞のお祝いに彼氏とデート?」
「うっわ、パクったりするような子の作品の受賞なんてたまたまだっていうのにうかれちゃって、バカみたい」
私が美乃梨ちゃんたちに気づくと同時に彼女の友だちからいつもの嫌味が飛んでくる。
ううん、いつも以上に辛辣だ。
私をにらむ目には確実に敵意がこめられているから。
「なんだ? 莉緒、知り合い?」
「うん、クラスメートなんだけど……」
明らかに私を敵視している美乃梨ちゃんたちをムッとした顔で見ながら聞く玲衣くんに答える。
すると彼女たちは玲衣くんにも話しかけてきた。
「てかよく見たら彼氏イケメンじゃん! 本当に莉緒ちゃんみたいなのと付き合ってるの?」
「だとしてもやめた方がいいよー。才能がないからって人の作品パクるような子だもん。彼氏にも平気でウソとかついちゃうよきっとー」
「や、めて……」
玲衣くんの前でそんなこと言わないで。
玲衣くんなら私のこと信じてくれるって思ってるけど、私がクラスメートからこんなこと言われてるなんて知られたくなかった。
「本当に。ていうか受賞自体間違いだったんじゃない? 莉緒ちゃん程度の実力で受賞なんてありえないもの」
どこまでも私の作品を否定する美乃梨ちゃんの言葉に、ふるえる声でもう一度「やめて」って声を出そうとする。
でも、すぐとなりからこわいくらい低い声が聞こえた。
「……そうやって頑張ってるやつけなして楽しいかよ?」
「え?」
聞いたことのないような玲衣くんの声におどろいて見上げると、強い怒りを宿した目が見えた。
「な、なによ。本当のこと言ってるだけじゃない……」
無表情でも玲衣くんが怒ってるってことはわかったんだろう。
美乃梨ちゃんの友だちは明らかにひるんでた。
「そ、そうだよ! 莉緒ちゃんが美乃梨の作品パクったのは事実じゃん!」
「それって運営に消されたレビューの話か? 何が事実だよ。どこにでもありそうな展開が似てたってだけでパクリなわけないじゃん。あんなのただの誹謗中傷だろ?」
「なっ……」
淡々と正論を口にする玲衣くんに美乃梨ちゃんの友だちはそれ以上何も言えなくなったのか言葉を失う。
でも、その代わりのように美乃梨ちゃんが声を荒くした。
「だとしても! 文章力もない莉緒ちゃんが受賞なんて絶対おかしい! 一番読まれてて人気もあった私の作品じゃなくて、なんでほとんど読まれてもいない莉緒ちゃんの作品が受賞なの!?」
「美乃梨ちゃん……」
そう、コンテスト作品の中でずっと一番人気だった美乃梨ちゃんの作品は受賞していなかった。
最終選考に残った作品も紹介されてたけれど、そこにもなかったんだ。
それに関しては私自身もおどろいたから何も言えなかった。
でも、玲衣くんには理由がわかってたみたい。
「一番読まれてたっていうとあの作品か……。だとしたら当然だろ?」
「え!? 当然なの!?」
あまりにもハッキリ言うから私の方がおどろきの声を上げちゃった。
玲衣くんは私を見てうなずいてから美乃梨ちゃんに厳しい目を向ける。
「選考中もずっと一番上にあった作品だったし、俺も読んだよ。正直面白かった、でも、それだけだ」
「え? な、なによそれ」
「あのコンテストにはきらめく恋のお話を求めてるって書いてあった。あの作品はストーリーは面白かったけど、恋に関してはちょっとドロドロしててきらめくっていうのとはちがった。編集さんたちが求めてる作品じゃなかったんだ、落選して当然だろ?」
「っ!?」
そ、そうだったんだ……。
私は玲衣くんにきらめく恋のお話で書きたいものがあるかどうか聞かれて、ちょうど書きたいものがピッタリだったからあの受賞作を書いた。
編集さんが求めている作品だったから、賞をもらえたんだね。
今さらながら、納得した。
「で、でもなんで莉緒ちゃんなの!? 私より後に書き始めたのに! 最初の作品なんてひどすぎだったのに!」
美乃梨ちゃんは自分が受賞出来なかったことには納得したみたい。
けれど、私の受賞は納得できないらしい。
「そうだよ、あんな文章力で小説書くなんてあり得ない。受賞だってやっぱり何かの間違いだよ。さっさと書くのやめればいいのに!」
「っ!」
涙目になりながらも私をにらむ美乃梨ちゃんにひるむ。
でも、そんな私を勇気づけるように玲衣くんがそっと手をにぎってくれた。
「確かに莉緒の初めての作品はひどかったよ。でも、それを直して上手くなるよう頑張ったんだ。だから受賞も出来た! その頑張りをけなすやつは誰であろうと俺は許せない」
「玲衣くん……」
ずっと側で私の頑張りを見守ってくれていた玲衣くん。
そんな彼の言葉は、美乃梨ちゃんたちからのナイフのような言葉で傷つく私の心を癒してくれる。
やっぱり玲衣くんは私の薬だね。
うれしくて、心が温かくなって、勇気がわいてくる。
私は玲衣くんの手をにぎり返して、グッとあごを引く。
今までのように言われっぱなしじゃなくて、ちゃんと立ち向かうように美乃梨ちゃんを見た。
「美乃梨ちゃん、私恋愛小説が好き。前は読むだけで良かったけれど、何作品か書いて書くのも好きだってわかったの」
「莉緒、ちゃん?」
「好きだから、頑張るって決めた。もっともっと上手くなれるように、これからも頑張るよ。美乃梨ちゃんはやめればいいのにって言うけれど、私はやめたくない! だからこれからも書き続けるよ!」
ハッキリ宣言して、スッキリした。
これからも学校では嫌味を言われるかもしれないけれど、私はそんなの気にせず書き続けるって言ってやった。
そんな私に美乃梨ちゃんはくやしそうに顔をゆがませる。
何か言いたそうに口を開いたけれど、結局言わずに後ろを向いて走って行ってしまった。
「え? み、美乃梨?」
「ちょっと待ってよー!」
友だちたちも美乃梨ちゃんを追いかけて行ってしまって、私と玲衣くんが残される。
「……莉緒、カッコ良かったな」
「え?」
「最後にしっかり宣言してだまらせただろ? なんかスカッとした」
「そ、それを言ったら玲衣くんの方がカッコ良かったよ? あの子たちを淡々と言い負かして」
「そっか? まあ、莉緒を守れたんならいいや」
優しい笑顔で見下ろしてくる玲衣くんにトクンと心臓がはねた。
玲衣くんは私を癒してくれるお薬で、守ってくれるナイトでもあったみたい。
なんだかもっと好きになったみたいにドキドキと胸が高鳴るのをおさえられない。
「じゃあ、行こうか」
そう言った玲衣くんは、つかんでいた私の手を引いて歩き出した。
「う、うん」
つながれた手を今さらながら意識する。
剣道もやっててかたくなった玲衣くんの男の子の手に、どうしようもなくドキドキした。
「大丈夫よ。……ふふっ、ほほえましいわねぇ」
はじめてのデートに緊張する私にお母さんはやわらかい笑みをうかべるだけ。
ほほえましいって、私は玲衣くんに少しでもかわいいって思われたくて必死なのに!
今日着ているのは、ちょっと前にお母さんが私に似合うと思って、と買ってくれたピンクのワンピース。
女の子らしいかわいいデザインだけれど、フリルとかは控えめで甘すぎないタイプ。
髪型はハーフアップにして、以前紗香とショッピングしたときに買った水色とピンクの小花デザインのバレッタで留めた。
バレッタも紗香に「似合うよ!」って太鼓判をおしてもらえたから大丈夫だとは思うけど……。
ピンポーン
「っ! 来た。じゃあお母さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてねー」
十時ピッタリに鳴ったチャイムの音にあわてて玄関に向かった。
ドアの前で軽く深呼吸をしてから開けると、外の熱気といっしょに夏の日差しが入ってくる。
そんなまぶしいほどの明かりに照らされて、私の大好きな幼なじみが立っていた。
「おはよ、莉緒。行こうぜ」
「う、うん」
水色の半そでワイシャツにキレイ目な黒のジーンズ。
シンプルな格好だけれど、クールな印象の玲衣くんにはピッタリだった。
涼やかにも見えて、いつも以上にカッコ良く見えるのは私が玲衣くんに恋してるからかな?
それとも単純に今日のデートが楽しみすぎてそう見えるだけ?
どっちもな気がする。
なんて思いながら玲衣くんの横を歩いていると。
「莉緒、なんか今日かわいくしてるな?」
「え!? あ、うん。カフェに行くって言うからちょっとオシャレしちゃった。……変かな?」
かわいいと言ってもらえたことに喜びつつ、玲衣くんとのデートだからっていう本当の理由を誤魔化す。
さすがに意識してはりきったって知られるのははずかしくて。
「変じゃないよ。本当、かわいい」
「あ、ありがと……」
ふわっとした優しい笑顔を向けられて結局はずかしくなっちゃった。
メガネごしに見えた目に甘さも感じた気がして、いつも以上にはずかしいしドキドキする。
しょっぱなからこんなんで、私今日もつのかな?
帰ったころには発熱していそう。
なんて思いながら暑い道を進んだ。
***
おすすめだって言われたレアチーズケーキを一口食べる。
瞬間口の中に広がった酸味と鼻に通ったレモンの香りが爽やかで、ケーキ自体もとけるように消えちゃった。
「うわっすごい」
「本当だ。教えてくれた先輩に感謝だな」
同じケーキを二人で食べて笑顔になる。
「他にもおすすめあるって先輩言ってたし、また一緒に来ような」
「いいの?」
「もちろん。っていうか、逆に俺一人じゃあこういうところ来れないし」
確かに周りを見ると女性客の方が多いもんね。
「うん、じゃあ今度は私がおごるね!」
なんて、ちゃっかり次のデートの約束までしちゃった。
好きな人とデートして、楽しく話して。
幸せ過ぎて忘れちゃってたのかな?
私が小説を書いていることを良く思わない人たちがいるってことを。
このすぐ後に、それを思い出すことになるなんて……。
***
満足してお店を出て、また二人で街を歩く。
「この後はどうしよっか? さすがに帰るのは早いよね?」
出来ればもう少し一緒にいたいなって思って話すと、玲衣くんは「ああ」とちょっとかたい表情でうなずいた。
「ちょっと、莉緒を連れていきたいところがあるんだ」
いいか?って聞いて来る玲衣くんにいいよってうなずいたけれど、なんだか緊張している様子の玲衣くんを見ると不安になる。
その不安を聞いてもいいのかどうか迷っていたときだった。
「……莉緒ちゃん?」
「っ!」
久しぶりに聞く声に、私は息をのんで固まる。
そろそろと声の方を見ると、美乃梨ちゃんとそのお友達がいた。
「美乃梨ちゃん……」
「あ、本当に莉緒ちゃんだ。なーに? オシャレしちゃって。受賞のお祝いに彼氏とデート?」
「うっわ、パクったりするような子の作品の受賞なんてたまたまだっていうのにうかれちゃって、バカみたい」
私が美乃梨ちゃんたちに気づくと同時に彼女の友だちからいつもの嫌味が飛んでくる。
ううん、いつも以上に辛辣だ。
私をにらむ目には確実に敵意がこめられているから。
「なんだ? 莉緒、知り合い?」
「うん、クラスメートなんだけど……」
明らかに私を敵視している美乃梨ちゃんたちをムッとした顔で見ながら聞く玲衣くんに答える。
すると彼女たちは玲衣くんにも話しかけてきた。
「てかよく見たら彼氏イケメンじゃん! 本当に莉緒ちゃんみたいなのと付き合ってるの?」
「だとしてもやめた方がいいよー。才能がないからって人の作品パクるような子だもん。彼氏にも平気でウソとかついちゃうよきっとー」
「や、めて……」
玲衣くんの前でそんなこと言わないで。
玲衣くんなら私のこと信じてくれるって思ってるけど、私がクラスメートからこんなこと言われてるなんて知られたくなかった。
「本当に。ていうか受賞自体間違いだったんじゃない? 莉緒ちゃん程度の実力で受賞なんてありえないもの」
どこまでも私の作品を否定する美乃梨ちゃんの言葉に、ふるえる声でもう一度「やめて」って声を出そうとする。
でも、すぐとなりからこわいくらい低い声が聞こえた。
「……そうやって頑張ってるやつけなして楽しいかよ?」
「え?」
聞いたことのないような玲衣くんの声におどろいて見上げると、強い怒りを宿した目が見えた。
「な、なによ。本当のこと言ってるだけじゃない……」
無表情でも玲衣くんが怒ってるってことはわかったんだろう。
美乃梨ちゃんの友だちは明らかにひるんでた。
「そ、そうだよ! 莉緒ちゃんが美乃梨の作品パクったのは事実じゃん!」
「それって運営に消されたレビューの話か? 何が事実だよ。どこにでもありそうな展開が似てたってだけでパクリなわけないじゃん。あんなのただの誹謗中傷だろ?」
「なっ……」
淡々と正論を口にする玲衣くんに美乃梨ちゃんの友だちはそれ以上何も言えなくなったのか言葉を失う。
でも、その代わりのように美乃梨ちゃんが声を荒くした。
「だとしても! 文章力もない莉緒ちゃんが受賞なんて絶対おかしい! 一番読まれてて人気もあった私の作品じゃなくて、なんでほとんど読まれてもいない莉緒ちゃんの作品が受賞なの!?」
「美乃梨ちゃん……」
そう、コンテスト作品の中でずっと一番人気だった美乃梨ちゃんの作品は受賞していなかった。
最終選考に残った作品も紹介されてたけれど、そこにもなかったんだ。
それに関しては私自身もおどろいたから何も言えなかった。
でも、玲衣くんには理由がわかってたみたい。
「一番読まれてたっていうとあの作品か……。だとしたら当然だろ?」
「え!? 当然なの!?」
あまりにもハッキリ言うから私の方がおどろきの声を上げちゃった。
玲衣くんは私を見てうなずいてから美乃梨ちゃんに厳しい目を向ける。
「選考中もずっと一番上にあった作品だったし、俺も読んだよ。正直面白かった、でも、それだけだ」
「え? な、なによそれ」
「あのコンテストにはきらめく恋のお話を求めてるって書いてあった。あの作品はストーリーは面白かったけど、恋に関してはちょっとドロドロしててきらめくっていうのとはちがった。編集さんたちが求めてる作品じゃなかったんだ、落選して当然だろ?」
「っ!?」
そ、そうだったんだ……。
私は玲衣くんにきらめく恋のお話で書きたいものがあるかどうか聞かれて、ちょうど書きたいものがピッタリだったからあの受賞作を書いた。
編集さんが求めている作品だったから、賞をもらえたんだね。
今さらながら、納得した。
「で、でもなんで莉緒ちゃんなの!? 私より後に書き始めたのに! 最初の作品なんてひどすぎだったのに!」
美乃梨ちゃんは自分が受賞出来なかったことには納得したみたい。
けれど、私の受賞は納得できないらしい。
「そうだよ、あんな文章力で小説書くなんてあり得ない。受賞だってやっぱり何かの間違いだよ。さっさと書くのやめればいいのに!」
「っ!」
涙目になりながらも私をにらむ美乃梨ちゃんにひるむ。
でも、そんな私を勇気づけるように玲衣くんがそっと手をにぎってくれた。
「確かに莉緒の初めての作品はひどかったよ。でも、それを直して上手くなるよう頑張ったんだ。だから受賞も出来た! その頑張りをけなすやつは誰であろうと俺は許せない」
「玲衣くん……」
ずっと側で私の頑張りを見守ってくれていた玲衣くん。
そんな彼の言葉は、美乃梨ちゃんたちからのナイフのような言葉で傷つく私の心を癒してくれる。
やっぱり玲衣くんは私の薬だね。
うれしくて、心が温かくなって、勇気がわいてくる。
私は玲衣くんの手をにぎり返して、グッとあごを引く。
今までのように言われっぱなしじゃなくて、ちゃんと立ち向かうように美乃梨ちゃんを見た。
「美乃梨ちゃん、私恋愛小説が好き。前は読むだけで良かったけれど、何作品か書いて書くのも好きだってわかったの」
「莉緒、ちゃん?」
「好きだから、頑張るって決めた。もっともっと上手くなれるように、これからも頑張るよ。美乃梨ちゃんはやめればいいのにって言うけれど、私はやめたくない! だからこれからも書き続けるよ!」
ハッキリ宣言して、スッキリした。
これからも学校では嫌味を言われるかもしれないけれど、私はそんなの気にせず書き続けるって言ってやった。
そんな私に美乃梨ちゃんはくやしそうに顔をゆがませる。
何か言いたそうに口を開いたけれど、結局言わずに後ろを向いて走って行ってしまった。
「え? み、美乃梨?」
「ちょっと待ってよー!」
友だちたちも美乃梨ちゃんを追いかけて行ってしまって、私と玲衣くんが残される。
「……莉緒、カッコ良かったな」
「え?」
「最後にしっかり宣言してだまらせただろ? なんかスカッとした」
「そ、それを言ったら玲衣くんの方がカッコ良かったよ? あの子たちを淡々と言い負かして」
「そっか? まあ、莉緒を守れたんならいいや」
優しい笑顔で見下ろしてくる玲衣くんにトクンと心臓がはねた。
玲衣くんは私を癒してくれるお薬で、守ってくれるナイトでもあったみたい。
なんだかもっと好きになったみたいにドキドキと胸が高鳴るのをおさえられない。
「じゃあ、行こうか」
そう言った玲衣くんは、つかんでいた私の手を引いて歩き出した。
「う、うん」
つながれた手を今さらながら意識する。
剣道もやっててかたくなった玲衣くんの男の子の手に、どうしようもなくドキドキした。
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