クールな幼なじみと紡ぐロマン

緋村燐

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トクベツな 後編

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 そんな日常も数日で終わり、夏休みが始まる。
 夏休みのほとんどは紗香と遊んだり勉強したりして過ごした。
 玲衣くんは夏休み明けの大会に出るからって部活に打ちこんでる。
 それでも用事のない日は今まで通り私の手伝いをしてくれてて、逆にいいのかなって思っちゃう。

「……玲衣くんはさ、その……彼女とかいないの?」
「は? 何だよいきなり」

 いつものように次の作品の下読みをしてもらってるとき、勇気を出して聞いてみた。

「いや、手伝ってくれるのはうれしいんだけど……玲衣くんの時間うばっちゃってるんじゃないかなって思って」
「はぁ……いないよ。それに莉緒に協力することが今俺がやりたいことだって前にも言っただろ? 俺の時間うばうとか、気にするなって」

 あきれたようにため息をはいた玲衣くんは、手をのばして私の前髪をくしゃっと乱す。

「あ、もうやめてよー。……でも良かった」

 髪を乱されて文句を言いつつも、私は内心すごくホッとしてた。
 玲衣くん、彼女はいないんだ……。
 中学生になってイケメン度が上がったから、もしかしたらいるかもって思っていたから。

「そういう莉緒はどうなんだよ? その……いんの? 彼氏」
「へ? いるわけないでしょ?」

 まさか私が逆に聞かれるとは思わなくて素でおどろいた。
 特別美人なわけでも可愛わけでもない私に彼氏とか。
 ……まあ、玲衣くんが彼氏になってくれたらいいな、なんて思ってるけど。
 って、本人すぐ目の前にいるのに何考えてるの私!?

「そっか……良かった」
「へ? ごめん、なんて言ったの?」

 はずかしいことを考えていた私は玲衣くんの言葉をちゃんと聞いてなかった。
 聞き返したけれど、玲衣くんは「なんでもない」ってそっぽ向いちゃった。

「いいから莉緒は続き書けよ。俺も書けた分の下読みするから」

 ちょっと素っ気ない感じの玲衣くんはそのままスマホに視線をもどす。
 その耳がなんだか赤く見えた気がした。

***

 紗香や玲衣くんと過ごすことが出来て、美乃梨ちゃんたちからの嫌味を聞かずにすむ夏休みは充実じゅうじつしてた。
 でもそんな夏休みも後半になってしまう。
 楽しい時間は早く過ぎちゃうなって残念に思っていたある日。
 夜ご飯も食べ終えて、お風呂に入るまでにちょっと小説の続きを書いておこうかなってスマホを見た。
 そしたらメールが届いていて、何かのキャンペーンメールかな? と思って開くと……。

「………………え?」

 メールの内容を見て、私は息を止めた。

***

 一週間後。

「莉緒!」

 お昼も過ぎて暑さもピークな時間帯。
 玲衣くんがあわてた様子で私の部屋に突撃とつげきしてきた。

「わっ!? れ、玲衣くん!? ノックぐらいしてよ!」
「あ、悪い」

 あわててきてくれた理由はなんとなくわかるけれど、でも女の子の部屋にいきなり入ってくるなんていくら玲衣くんでもダメだ。

「もう、次からは気をつけてね」
「ああ。……でさ、コンテストの結果見たよ」

 いつもの落ち着きを取りもどした玲衣くんだけれど、どこかソワソワしてるのがわかる。
 実は私もまだドキドキしてるから、きっと二人そろって似たような気持ちなのかもしれない。

「うん、実は一週間前に連絡来てたんだ。でも公表しないでくださいって書いてあったから、玲衣くんにも言っていいのかどうかわからなくて……」

 だまっててごめんね、って謝ると。

「そんなのどうだっていいよ。とにかくすごい! 特別賞おめでとう、莉緒!」
「わっ!」

 お祝いの言葉といっしょに玲衣くんが抱き着いて来た。
 とつぜんのことにおどろいたけれど、すぐに顔が真っ赤になるくらい体温が上がる。
 好きな人に抱きしめられるのはうれしいけれど、心臓が持ちそうにないくらい鼓動こどうが一気に早まった。

「あ、の! ちょっ、一回はなれて!」

 ドキドキしすぎて死んじゃう!

「あっ……わ、悪い。ついうれしくて」

 はなれてもらったけれど、まだ余韻が残ってる感じで胸の鼓動が早い。

「……」
「……」

 しかもお互いなんだか無言になっちゃって、なおさらはずかしい。
 ドキドキがちょっとおさまってきて、なんて話そうかと思っていたら玲衣くんの方から話してくれた。

「その……とにかくおめでとう。ずっと莉緒の小説読んでアドバイスしてきたからさ、俺も自分のことのようにうれしい」
「ありがとう。玲衣くんに手伝ってもらったおかげできっと一人で書くよりも早く上達出来たんだ。玲衣くんにそう言ってもらえて、私もうれしい」

 鼓動も落ち着いて、笑いあった私たちは座ってゆっくり話しはじめた。

「でも本当にすごいよ。特別賞ってようは、受賞とはいかなくても選外にするにはしい作品ってことだろ? 絶賛されたわけじゃないけど、編集さんに惜しいって思われたってことだもんな」

 いつもはクールで落ち着いた印象の玲衣くんなのに、興奮したみたいにたくさん話してくれてる。
 それだけ喜んでくれてるんだって思うと私もすごくうれしい。

「特にほら、選評のここ。『ヒーローを思うヒロインの描写びょうしゃがとてもよく書かれている』って、莉緒の描写力がほめられたってことだろ?」
「う、うん。それは本当、特にうれしかったよ」

 選評の文面の一部を指摘してきされてドキリとした私は、笑顔で誤魔化ごまかして返した。
 だって、その部分は玲衣くんを思って書いたところだったから。
 ヒロインが私で、ヒーローが玲衣くんだったらこんな気持ちになるなって思いながら書いたから……。
 あー、でもそれを玲衣くんもふくめてたくさんの人に読まれたんだよね?
 わかっていたことだけど、今さらながらはずかしい……。
 また赤くなりそうな顔をかくすように両手ではさんでいると、玲衣くんが「そうだ!」となにか思いついたように声を上げた。

「受賞祝いにさ、ケーキでもおごってやるよ」
「え? いいの? というか、いつも手伝ってもらってるんだから私の方がおごるべきじゃない?」
「お祝いって言っただろ? 受賞したのは莉緒なんだから、遠慮えんりょするなって」
「う……わかった。じゃあ後で私からもお礼させてね?」
「よし! じゃあ明日十時に出かけような。甘党あまとうの先輩にすすめられたカフェに連れてってやるよ」
「え? わ、わかった」

 メガネの奥で目をキラキラさせて玲衣くんは明日の予定を決める。
 ケーキを買ってきてくれて家で食べるのかと思っていた私はちょっと戸惑ったけれど勢いにのまれてうなずいちゃった。
 ていうか……もしかしてこれ、デートなんじゃない!?
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