地味男はイケメン元総長

緋村燐

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二章 互いの秘密

閑話 日高 陸斗

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 コンビニでサラダを買ってからアパートに帰って来た俺は、買ったものをローテーブルの上に袋のまま放置してベッドに仰向けになった。
 今日も疲れたが、気分的には悪くない――というより、かなり良いかもしれない。
 何と言うか、今日は濃密な日だった。

 学校でも一緒に昼を食うようになった校外学習の班メンバー。
 俺の食事に文句を言った倉木は面倒だったが、わざわざ作って来てまで足りない栄養分を補給させようとするなんてやっぱり面白いヤツだと思った。
 だからちゃっかり毎日作るように誘導したら、マジで作ってくるとか。
 ま、味も悪くねぇし食うもんが増えるからいいけどな。
 それにあの時のあいつの顔は愉快だったし。

 そんな楽しくなってきた学校生活だったが、流石に今日は朝から億劫おっくうだった。
 約束とはいえメイクをしなきゃならねぇとか。
 黙って座っていりゃあ良いんだろうけど、顔を好きなようにいじられるのはあんまりいい気分じゃないからな。
 しかも場所があいつの家とか。
 一瞬誘ってるのか? と思ったが、あいつはそっち系の感覚がかなり鈍いらしい。
 本当にお前の家で良いのか、ってSNSで聞いても化粧道具がある家の方が存分に出来るし! と見当違いの返事が来た。

 うん、あいつは本当にメイクの事しか頭にないな。
 ま、それでも約束は約束だからな。
 億劫でもあくびをしながらゆっくり待ち合わせ場所に向かった。

 俺の方が遅いのは確実だったし、あいつが先に待ってるだろうと思ったのになかなか見当たらねぇ。
 そうして探しているうちに誰かとぶつかったんだ。
 まさか先日お化け屋敷でのした相手に再会するとは思わなかったけど。
 でもまさか、そいつにナンパされてた女が倉木だったとは。

 思い出し、俺は両手で目を覆った。
 あの時の恥ずかしさと衝撃と、他にも色んなものが思い出されたから。

 待ってと呼び止められて、見た目が好みだったこともあってつい誘惑して連絡先くらい聞いておこうかと思ったのが間違いだった。
 総長やってた頃は主に年上の女が寄って来たし、素顔を見せれば気を引くくらいは簡単だと思った。

 なのに倉木だったとか!

 素顔を知っている奴、しかも誘惑に一度失敗している奴に同じことするとか!
 そんな恥ずかしさ。
 でもそれより衝撃だったのは倉木の変わりようだ。
 メガネをコンタクトにして、メイクをしているせいもあるんだろうが……。
 ハッキリ言って、美人だった。
 しかも今日の装いは俺に合わせたとか言って……。
 嬉しいと思ったのは何でだろうな、ってその時は思ってた。

 それにしてもこんな美人状態の倉木の家に行って俺理性保てるか? と少し不安に思う。
 だからもう一度家でやるって本気なのか? と聞いたが、やっぱり見当違いの答えしか返って来ない。
 仕方なく家に入ったが、俺の心配は杞憂きゆうだった。
 どんなに見た目が美人になろうが、中身は倉木だ。
 しょっぱなからメイクオタク全開だったため、理性を意識しなくても問題なかった。

 ……メイクを施されるまでは。

 いざメイクをするとなって、目を閉じて浅めの長い深呼吸をした倉木。
 次に目を開けると、別人のように真剣な目で俺を見た。
 真っ直ぐ見て来る焦げ茶の瞳。
 射貫いぬかれるような感覚に数瞬息をするのも忘れる。
 そのままされるがままになっていたが、流石に筆を使われたときにはくすぐってぇと文句を言った。
 でも「黙ってて」と短く静かに言われただけ。
 その目は静かな熱を持って俺の顔だけを見ていた。

 倉木のメイクを施す姿は、まるで神聖な儀式でもしているかのようで……。
 真剣に見つめる目。
 筆を取る、その指先まで神経を使った仕草。
 すべてに魅せられる。

 唇に直接触れられそうになって正気に戻ったけど、その真っ直ぐ射貫いてくる目に動きが止まる。
 あとはされるがまま。
 この神聖な儀式は、邪魔してはならないものなんだと思った。
 ……思ってしまった。

 真剣にメイクをする倉木。
 こんな美人で、カッコイイ女が俺を見ている。
 俺だけを見ている。
 その事実にゾクゾクしてきたと思った頃、メイクを終えたようで倉木はゆっくり息を吐き出した。

 そして口端が上がり、目元がゆるめられる。
 ふわりと笑ったその口から「うん、完成」と満足気な声が発せられた。

 ハッキリ分かった。
 その瞬間、俺は落とされたんだって。
 恋とか言う落とし穴に。

 その後感想を聞かれたので思ったことを言うと、良かったと言ってニコニコと笑った倉木。
 そんな彼女の姿を自然に可愛いと思ってしまった。
 思ってしまったことに自分でも驚いて、つい避けるような真似をしてしまったけど……。
 誤魔化すためにも話題をらして、家から出るようにした。
 このまま二人きりだと何かヤバイ気がしたから。

 先に落とされてしまったのは仕方ねぇ。
 それなら確実に倉木をモノにするだけだ。
 でもどうやってこのメイクオタクを落とすべきか……。
 昼食中も思案しあんしながら会話をする。

 途中メイクされていたときの仕返しも兼ねて唇に触れてやったけれど、何だか俺を意識したってのとは違う感じだった。
 しかも他の客の「美男美女」って言葉に反応したと思ったらキョロキョロするし。
 あれで良く分かった。
 あいつは鈍感だってことが。
 メイクをした自分が周囲からどう見えるのか分かってねぇ。
 普段より綺麗になっているってくらいの認識はあるだろうが、美人だとまで思われてるとは思ってなさそうだ。

 恋愛方面もうとそうだってのに、こっち方面まで鈍感とは……。
 前途多難な気がした。
 だから、少し早い気もしたが一歩進んでみることにしたんだ。
 俺に早寝とスキンケアをやらせたいあいつ。
 出来ればやりたくない俺。
 交換条件にご褒美をくれるならやってやると告げた。
 まあ、不審には思っていたみてぇだけど結局あいつは了承する。

 その言葉を撤回されないうちに、俺はあいつのふっくらした食べ応えのありそうな唇に吸い付いた。
 触れるだけにとどめたけど、好きな女の唇に触れた喜びに俺の中の獣が身じろぎする。
 そいつが暴れ出さないうちに離れた。
 それは、まだ早い。

 倉木には予想外の“ご褒美”だったろうから、当然固まっていた。
 そんなあいつに別れの挨拶をする。
 名前を呼び捨てにして。

 さて、これで少しは意識するだろうか?

 そう楽し気に思いながら帰って来た。


 回想を終えて、俺は起き上がる。
 ちゃんとメイクを落としてスキンケアもしねぇとな。
 早寝もしなきゃならないから、さっさと夜メシも食わねぇと。
 またあの唇を味わうために、健気に頑張ってやるとするか。

 俺は灯里の唇の柔らかさと驚いた表情を思い出し、ニヤリと笑った。
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