地味男はイケメン元総長

緋村燐

文字の大きさ
18 / 44
二章 互いの秘密

お出かけ

しおりを挟む
「あ、そうだ。ついでだからさ、お昼食べた後日高くんのクレンジングとか化粧水買おうか?」
「は?」
 歩きながら提案すると、ものすごく嫌そうな顔をされた。
「だって、今のメイク落とすならクレンジングは必要だし、そのあとちゃんとケアしないとまた乾燥しちゃうし」
「化粧落とすのは一回だけなんだろ? 買うのもったいねぇ。ケアにしたって、今までやってなかったしらねぇよ」
 その発言に、私は彼の袖を掴み軽く睨みつけるように見上げる。

「今までしなかったけど、これからは必要なの。いつまでも若いと思って油断してると後が酷くなるんだよ⁉」
「わーかった! 分かったからそんなに顔を近付けるな!」
 ちょっと迫り過ぎたみたいだ。
 でもケアが要らないなんて言葉は許容出来なかったんだもん。
「ったく、タチの悪りぃ強迫だな……」
 離れるとそんな言葉が漏れ聞こえた。

 強迫なんて大袈裟な。
 ……いや、まあ。ちょっとは強迫っぽいかも知れないけれど。
 昼食は何にしようかとなって、日高くんが「ハンバーガーで良くねぇ?」なんて言うから、また迫りそうになった。
 ハンバーガーが悪い訳じゃ無いけれど、チェーン店のメニューでは野菜が少な過ぎる。
 しかもセットメニューで頼んで付けるのはサラダじゃなくポテト。
 気持ちは分かる。
 私もどうしても食べたくなるときはあるから。
 でもそういう時は夜などに多めの生野菜を取ることにしてる。
 日高くんがちゃんと夜に生野菜を食べてくれるなら良いけれど、ちょっと疑わしい。
 そんな話をすると、「ちゃんと食うから」と力なく言われた。

 勢いのなくなった日高くんに、ちょっと色々言い過ぎちゃったかなと反省する。
 なので、彼の言葉を信じてお昼はハンバーガーにする事にした。
 でもこんな事なら家で私が何か作った方が良かったかも知れない。
 家を出て結構歩いちゃったから、もう無理だけれど。
 店の中で注文した品を食べながら、話題はやっぱりメイクの事。
 とは言え楽しいのは私だけで日高くんはもう相槌を打つことしかしてくれなくなった。
 「ああ」とか「そうか」とか。

 流石に私ばっかり楽しく話しても仕方ないので、共通の話題を振ってみる。
「そういえばゴールデンウィーク明けたらすぐに中間テスト始まるね」
 でも、その話題でも日高くんは嫌な顔をした。
「ゴールデンウィーク始まったばかりだってのにテストの話すんなよ……」
 まあ、確かにそういう反応になるよね。
「そんなに嫌そうな顔するってことは、日高くんって勉強苦手?」
 授業の様子を見ているとそれほど勉強が出来ない様には見えないけれど、いつも眠そうな感じだし、授業に集中出来ているのか怪しいところ。
 苦手くらいならともかく、赤点取りまくったりしたら大変そうだ。

「テストが好きな学生なんてほんの一部の変態だけだろ」
 変態とまで言い切るか。
「勉強は……好きでもねぇけど嫌いってわけでもねぇかな? 中学でも学年の半分より下の順位なったことねぇし、まあ赤点取ることはねぇだろ」
「へぇ……ん? でも総長とかやってたんだよね? 学校ちゃんと行ってたんだ?」
「まあ義務教育だしな。行ける日はちゃんと行ってたぜ?」
「そっかぁ」

 それなら問題なさそうだね。
 なんて思いながらハンバーガーをパクリと食べる。
 咀嚼していると、日高くんはポテトに手を伸ばしていた手を止めて言った。
「おい、ソースついてるぞ?」
「ん?」
 どこについているのか教えてくれると思って次の言葉を待っていたら、言葉ではなくて手が伸びて来る。
 そうしてサッと彼の親指が唇に触れた。
「ほら、とれた」
 そう言って親指についたソースをペロリと舐める。
 数秒固まった私は、一気に顔に熱が集まった。

 な、何? 今のは何⁉

 自分のものではない指が唇に触れた。
 しかも硬そうな男らしい指が。
 他人の指が唇に触れるのって、こんなに恥ずかしいんだ……。
 触られる機会なんてなかったから今まで気付かなかった。
 でもそう言えば日高くんは私が唇に触れるの嫌がってたっけ。
 これは確かに恥ずかしいし、嫌だよね。
 納得しながら顔の熱を下げるためドリンクを飲んだ。

 そうしていると、少し離れた席から会話が聞こえる。
「あそこのカップル美男美女じゃない?」
「え? どこ? あ、ホントだー。目の保養だね」
 それを聞いて私はキョロキョロと周りを見渡した。
「……お前何してんの?」
 不思議そうな声で真正面の日高くんに問われてしまう。
「あ、いや。なんか美男美女のカップルがいるらしいから見たいと思って」
 そう口にすると「ああ」と納得の声を出して、チラリとさっき会話が聞こえた方を見た日高くん。
 彼にも聞こえていたんだろう。

「綺麗な顔の人を見るのは勉強になるから、見ておきたいと思って。……でも見当たらないね。ここから死角になってるところの席なのかな?」
 綺麗な人の顔立ちは、パーツをよく見るとどうすればこんな風に見えるのかと勉強になる。
 だから見たかったんだけれど、残念だ。
 そう思っていると、日高くんは呆れたように「お前それ本気で言ってんの?」と言う。
「本気だよ。本当に勉強になるんだよ?」
 と返すと。
「そういう意味じゃねぇんだけど……まあいいか」
 と、何かを諦めつつどうでもよさそうに言われた。

 よく分からないけれど、大したことじゃないってことだよね?

 昼食を食べ終わったら、私達は百円均一のショップに行く。
 日高くんのコスメを買うためだ。
 ちゃんと買うならコスメショップに行くところだけれど、今は必要なものだけを少量欲しい状態。
 まずは日高くんにスキンケアを慣れて貰わないといけないし、何より学生である私達にはお金がない。
 少量とはいえ百十円でコスメが買える百均はもはや救世主だ。
 しかもクオリティも年々上がっていて百均様々って感じ。

 取りあえず化粧を落とすクレンジングは必須。
 そして化粧水はテスターを試してもらいつつ選ぶ。
 あとはメンズ用に保湿美白ジェルがあったので、それを選んだ。
 本当はパッチテストをして問題が無いか確かめてから使うんだけれど、日高くんはスキンケア用品を持っていないし、何より丸二日様子を見なければならないことを伝えたら「面倒くせぇ」という言葉が返ってきたため今日から使ってもらうことにした。
 肌に湿疹が出たり、かゆみが出て赤くなってきたりして来たらすぐに使うのをやめるように念を押してから買ってもらう。
 コスメを買うことに抵抗があったみたいだけれど、「まあ、三百円くらいなら」と買ってくれた。

 その後は特に予定もなかったので、各々おのおの必要な買い物に付き合いながら歩き回る。
 そうして四時半くらいに駅で解散という事になった。

「クレンジングと保湿は絶対にしてね。あと約束通り夜は生野菜も食べて。それと、寝不足が肌荒れの主な原因だろうから、十時には寝ること」
 別れ際、念を押すようにつらつらと並べ立てる。
 日高くんはウンザリして「お前は俺のおふくろか⁉」と叫んでいた。
 確かに、まるで母親が言いそうな言葉だな、と言われてから思う。
 でも絶対にやって欲しいことしか言ってないし……。
 そんな風に思っていると、「はぁ」とため息をつかれた。

「このスキンケアとか? 毎日やんなきゃないんだよな? 十時に寝ろっていうのも」
 本当はやりたくないというのがありありと態度に出ている。
 今日だけなら約束もしたしちゃんとやってくれるだろう。
 でも、明日以降は日高くん次第になる。
「そうだけど……。私に強制力はないからね。母親じゃないし」
「でもお前は俺にスキンケアをちゃんとやって欲しいんだろ?」
「それは勿論」
 そう言って大きく頷く。

 すると日高くんはニヤリと笑って、かがんで私と目線を合わせた。
「お前がご褒美でもくれるってんならやってやらねぇこともねぇけど?」
 その言葉に少し悩む。
 日高くんの表情を見るとろくなことを考えていない感じがする。
 でもスキンケアはちゃんとやって欲しい。

「別に大したことじゃねぇよ。定期的にそれをくれるなら、俺もちゃんとスキンケアしてやるよ」
「定期的にって、お金かかる事だったら無理だよ? ただでさえ今月はすでにピンチなのに」
 それを伝えると、「金はかかんねぇよ」と言われた。
「今すぐにでも出来ることだから、大したことじゃねぇ」
「今すぐに出来るのに、ご褒美になるの?」
「ああ」
 何をするのか分からないし、疑問は残る。
 けれどお金はかからないし大したことじゃないと言うなら、私でも簡単に出来ることなんだろう。
 それでちゃんとスキンケアをしてくれると約束してくれるなら、良いかもしれないと思った。

 日高くんは元総長だし、未だに不良っぽさはあるけれど約束は守ってくれる人だしね。

「じゃあ、良いよ」
 それで何をすればいいの? と聞こうとする前に、日高くんは笑みを深めて言う。
「じゃあ、貰うぜ?」

「え?」
 と口にした次の瞬間にはうばわれていた。

 何が起こったのか分からない。

 どうしてこんなことをしているのかも。

 でも、近すぎる日高くんの顔と唇の感触に何をされたのか理解する。


 触れるだけの口づけは、数秒後に離れて行った。


 固まる私の目の前で、日高くんは「ごちそうさま」と妖艶に笑う。
 何の反応も返せない私に、彼は続けた。
「約束はちゃんと守るから、心配すんなよ。じゃあまたな、灯里」
 そう言って日高くんはきびすを返し去って行く。
 そのまま姿が見えなくなるまで固まっていた私は、下の名前を呼び捨てにされたことにもしばらく気付けず突っ立っていた。
 少しずつ回復してきた思考でも、どうしてあんなことをされたのか分からない。
 でも、取りあえずこれだけは言いたかった。

 大したこと、あるじゃない。

 私のファーストキスを返せーーーーー!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

皆に優しい幸崎さんは、今日も「じゃない方」の私に優しい

99
ライト文芸
奥手で引っ込み思案な新入社員 × 教育係のエリート社員 佐倉美和(23)は、新入社員研修時に元読者モデルの同期・橘さくらと比較され、「じゃない方の佐倉」という不名誉なあだ名をつけられてしまい、以来人付き合いが消極的になってしまっている。 そんな彼女の教育係で営業部のエリート・幸崎優吾(28)は「皆に平等に優しい人格者」としてもっぱらな評判。 美和にも当然優しく接してくれているのだが、「それが逆に申し訳なくて辛い」と思ってしまう。 ある日、美和は学生時代からの友人で同期の城山雪の誘いでデパートのコスメ売り場に出かけ、美容部員の手によって別人のように変身する。 少しだけ自分に自信を持てたことで、美和と幸崎との間で、新しい関係が始まろうとしていた・・・ 素敵な表紙はミカスケ様のフリーイラストをお借りしています。 http://misoko.net/ 他サイト様でも投稿しています。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

処理中です...