地味男はイケメン元総長

緋村燐

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四章 校外学習そして

校外学習 仲直り②

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 でもこれ、完全に私と日高くんはとばっちり受けた感じだよね……?
 しかもちょっと押し付けられた様な感じもするし。
 そう思いながらも二人を仲直りさせるため、私は足を速めた。

 この動物園はそこまで有名な場所というわけでもない。
 それなりに広さはあるけれど、キリンやライオンなどの大型な動物は少なく小動物の触れ合いコーナーがメインの動物園だ。
 小学生が初めて来るにはピッタリ、といった感じの場所。
 そんな中でも唯一の大型動物が象で、園の目玉とも言える。
 さくらちゃんが行った方向にはその象舎ぞうしゃがあるので、取りあえずそこへ向かうことにした。

 特に何も話さず歩いていたけれど、私は思い切って口を開く。
「あのさ、花田くん。聞いてもいいかな?」
「え? 何を?」
「昨日どうしてさくらちゃんにあんなことを言ったの? さくらちゃんは理由を知ってるって言ってたけど、花田くんのプライベートのことだから言えないって」
 さくらちゃんは話せないと言ったけれどやっぱり気になるし、あんなことを言った理由を知らないと私が花田くんを許せない。
 だから、聞くことにした。

「どうしても無理なら言わなくていいけど、出来れば教えて欲しいなと思って」
「ああ……宮野さんは知ってるんだっけ……」
 そう言って視線を落とした花田くんは、しばらく無言で足を進めたあとポツリポツリと話し出す。
「そんな、大した話じゃないんだ。……ただ、俺がバカだっただけで」
 中学の頃の話だよ、と苦さを抑えるような微笑みで語りだした。

「中二のとき、俺のこと好きになってくれた女の子がいてさ。でも俺、その子はタイプじゃなかったし、友達以上には思えなかった。それでもずっと好意を向けられてたら気にもなってくるし、悪い子じゃなかったからね。多分、ほとんど好きになりかけてたんだ」
 恋愛話にはうとい私だけれど、何となくは分かる。
 友達以上には思えなくても、嫌いじゃない。
 多分、友達としては好きな方だったんだろう。
 そんな人にずっと好意を向けられていたら気になってくるのは自然なことだと思う。
 マンガとかでは関係を崩したくないから知らないふりをするってパターンもあるみたいだけれど……。

「それで、俺もその子が好きだよって言ってみようかと思ったんだ」
 花田くんは、行動を起こす方を選択したらしい。
「でもその矢先、彼女は他の男と付き合うことになった。その男も彼女の事ずっと好きでアプローチしてたみたいでね、彼女もそれにほだされちゃったらしい」
 俺と同じ理由だった、と自嘲じちょうする。
「でも俺、何だか裏切られた様な気分でさ。ちょっと荒れて……そのときたまたまいた宮野さんに愚痴ったんだよ……」
 だからさくらちゃんは知っているんだ、と。

「それで?」
 何となく、分かった気はするけれど続きを促して聞いてみる。
「それで……昨日の宮野さんがその彼女に重なって見えてさ、ついあんなことを言ってしまったんだ……」
 本当に申し訳ないと花田くんは項垂うなだれてしまった。
「……」
 どうしよう。
 理由を聞かないと許せないとか思ってたけれど、聞いたら聞いたでやっぱり腹立たしい。
 つまりは、その子とさくらちゃんは同じだと――花田くんからしたら、他に良い人がいれば心変わりしてしまうような相手だと思ったってことでしょう?

 同一視したことが悪い事だったってのは分かってるみたいだし、それを反省もしているみたい。
 でも、根っこの部分では花田くんはさくらちゃんが同じように他の誰かを好きになって離れて行くんだろうって思っていそうな感じがする。
 謝って、許してもらえれば元通りになるだろうって思っている感じがする。
 だって、花田くんからは必死さが伝わってこないから。
 泣いて怒って、感情をぶつけたさくらちゃん。
 今も怒りが伝わるようにと花田くんをあからさまに避けている。
 無視したり避けたりって、さくらちゃん苦手そうなのに無理してまでそんな事をしている。
 多分それは怒ってるってことを伝えるためでもあるんだろうけれど、自分はその子とは違うんだ、だから怒ってるんだ、と言いたいのかもしれない。

 さくらちゃんはそれだけ本気でぶつかってるのに……。

 腹が立ったけれど、グッと我慢する。
「分かった。話してくれてありがとう」
 そうお礼を言った私は、早くさくらちゃんたちを見つけようと歩き出した。
 こんな花田くんに文句を言うのは、さくらちゃんであるべきだと思ったから。


 二人は予想通り象舎の方にいた。
 ただ、象を見ているというわけではなく、少し離れたベンチで座って休憩していた様だ。
 楽しそうに話している二人を見て、一瞬足を止めてしまった。
 チクリと、ちょっとだけ胸が痛んだ気がして。
 ん? と疑問に思っているうちに、花田くんが先に二人の方へ小走りで向かう。
 それを見て私も慌てて追いかけた。

「宮野さん、昨日はごめん!」
 朝から避けられていたからだろうか。
 花田くんは真っ先に頭を下げて謝った。
「俺、昨日はつい中学の時の藤原さんと宮野さんを重ねちゃって……。二人は違うのに、本当にごめん!」
 目の前で頭を下げる花田くんをさくらちゃんは怖いくらいの無表情で見つめ、淡々と言葉を紡いだ。
「そうだよ。私と藤原さんは違うよ」
 それが当たり前の事なんだと、言い聞かせるようにゆっくり繰り返す。

「大体さ、昨日からイケメンがとか顔の良い方がとか言ってるけど、花田くんの顔も日高くんの顔も、私の好みじゃないからね?」
「え?」
 淡々と口にされた衝撃の事実に、花田くんは顔を上げる。
 私も内心ではええーーー⁉ と驚いていた。

「顔の好みだけで言ったら、もっと可愛い系の方が好きなんだから」
 それは初めて知った。
「花田くんなんてパッと見チャラ男だし、見た目だけならむしろ苦手なタイプだよ」
「え……じゃあ、何で」
 何で好きになってくれたのか。そんな言葉も最後まで言えないほどショックだったのか、花田くんの体が少しふらついた。
「何で好きになったかって? 藤原さんの事を愚痴られたときに、花田くんの事色々知ったからだよ」
 言葉には出てこなくても続きを察したさくらちゃんはそう答える。

「たまたまいた私に愚痴ったりとか女々しいところがあったり、意外と寂しがり屋で本当は誰かに甘えたいって気持ちがあるところとか」
「甘えたい?」
 つい呟く。
 いつもみんなのフォローをしているお兄さんみたいな花田くんがそんな風に思っているとは思えなかった。
 でも当の花田くんは目を見開いて驚くだけで否定はしない。
「それでほっとけないなって思って気にして見ていたら、見た目チャラ男な感じなのにお兄さんキャラやってるし。本当は甘えたいのに人の世話ばっかりしちゃってるところとか可愛いなって思って」
「か、可愛い……?」
 さくらちゃんの言葉にかなりダメージを受ける花田くん。
 男の人に可愛いは褒め言葉じゃないって本当なんだな。
「そうしているうちに、こんなにも花田くんのことが好きになっちゃったんだよ」
 最後にそう言って、さくらちゃんはふわりと笑った。

 可愛いな。
 そして強い。

 可愛くてふわふわした女の子だと思っていた。
 でも、以前見たときのように面倒見が良くてしっかりしてる面もある。
 とても強くて、カッコイイ女の子でもあったんだ。

 花田くんは、さくらちゃんの告白に息を呑んで言葉が出ない様だった。
「両想いになりたいと思ってるけれど、こればっかりは花田くんの気持ち次第だから強制は出来ない。でも、せめてちゃんと私を見て判断してほしい。私のことを知ったうえで決めて欲しい。それだけは、お願い」
「……」
 さくらちゃんも勇気を出して全部伝えたんだろう。
 こんなこと、面と向かってなんて恥ずかしいし中々言えない。
 私は花田くんが“分かった”と口にするのを期待して、ジッと見守る。
 けれど初めに出てきた言葉は「ごめん」だった。
「っ!」
 瞬時に息を呑んだ私は、花田くんがさくらちゃんの思いを突き放したのかと思ってしまう。
 でも、すぐに続いた言葉とその顔色に真逆だったことを知った。

「その……どうしよう。心臓バクバクいってて……ヤバイこれ」
 誰が見ても真っ赤な顔になって、手の甲で口元を隠すように呟く花田くん。
 そのままの顔で、さくらちゃんを見た。
「俺、宮野さんのこと……好き、かも」
『え?』
 いきなりすぎる好意の言葉に、さくらちゃんだけじゃなく私と日高くんの声も重なった。
「ごめん、今言うのはなんか違う気がするって分かってるんだけど……なんか、気持ちがあふれ出てきて」
 耳も顔も首も。全部赤くしたまま何とか説明しようと言葉を紡いでいる花田くんは……何だか可愛かった。
 さっき男の人に可愛いは褒め言葉じゃないと知ったばかりだけれど、今の花田くんはさくらちゃんの言う通り可愛かった。

「えっと、宮野さん自身のことをちゃんと知ったうえで決めてって言われたけど……ごめん、無理。ちゃんと知るまで待てない」
「え……ふぇぇぇ⁉」
 まるで今やっと言われたことを理解したように、一気に顔を赤くして驚きの声を上げるさくらちゃん。
「あ、そういう顔は可愛いよね? でもカッコ良くて綺麗で……あ、マジで好きだ」
「ちょっ、と、とりあえず待って!」
 お互いに真っ赤になりながら言葉を交わす二人に、こっちが貰いテレしてしまう。


「……とりあえず、仲直りってことか?」
 二人を見ながら、私の近くにいた日高くんがポツリとこぼす。
 私も目の前の二人を見つめながら、「そう、だね」と答えた。
 仲直りどころかもっと凄いことになっている気がするけれど……。
 という感想はあえて口にはしなかった。
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