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四章 山の神の娘
周囲の反応②
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「で? 泣き虫な神さまの娘は何を悩んでいるのかな?」
昼休み、お弁当を広げながら聞いてきた仁菜ちゃんにわたしはムスッとした表情で返す。
「それはもう言わないでよ。だいたい誰のせいで泣いたと思って……」
「はいはい、あたしのせいだよね。ごめんって、もう言わないから機嫌直してー」
「もう……」
あんまりにもからかって来るから、もう少し怒ったフリをしようとしたけれどやめた。
いつもの調子の仁菜ちゃんにやっぱり良かったって思っちゃったから。
「で? 何の悩み?」
コテン、と首を傾げてもう一度聞いて来る仁菜ちゃんに、数瞬悩んで結局話すことにした。
昨日からお母さんに告白しろとせっつかれていること。
それと、風雅先輩との今朝のやり取りのこと。
「やっぱりまだ怖いけど……期待しちゃっていいのかなぁ?」
最後にポツリとこぼす。
「……」
黙って聞いてくれていた仁菜ちゃんはすぐには何も言ってくれなくて……。
「仁菜ちゃん?」
名前を呼んでみると、「はあぁぁぁ」と深いため息をつかれた。
「いつも言ってるけどさ、ホンットじれったい! 滝柳先輩の気持ちなんてはたから見てても分かるのに!」
「で、でも。使命だから……わたしが山の神の娘だからってだけなのかもしれないし……」
ツキン
自分で言ってて胸が痛んだ。
でも、その痛みも吹き飛ばすような勢いで仁菜ちゃんが顔をズズイと近づけてくる。
「滝柳先輩がいつから知ってたかは分からないけど、はじめからってわけじゃないはずだよ?」
「え?」
「美沙都ちゃんの存在は秘密みたいだったし、滝柳先輩の使命っていうのも山の神の大切なものを守るってことしか聞かされてなかったみたいだもん」
仁菜ちゃんの話では、本当に山の神の娘――わたしの存在は秘密にされてて知られていなかったらしい。
それは風雅先輩も同じで、いくら聞いても「何も聞かされてない」っていう答えばかりだったって。
「あたしのお母さんは美沙都ちゃんのお母さんと親友みたいだし、ある程度は知ってたらしいけど……誰にも言っちゃいけない秘密だったって聞いたよ?」
「……そうなんだ」
秘密にされてたって聞いてはいたけれど、そこまで厳重だったんだ……。
軽く驚いていると、仁菜ちゃんが「だから!」と声に力を込める。
「滝柳先輩は使命とか関係なく、先に美沙都ちゃんのこと好きになったんだよ!」
「う……」
そこまでハッキリ言われると本当に希望がありそうで期待してしまう。
万が一を考えて期待しすぎないようにって思ってるのに……。
「というわけで、あたしも早く告白することには賛成だよ。……まあ、いきなり今日中にとは言わないけれど」
「そう、だよね……」
お母さんの意見を推奨する仁菜ちゃんに、わたしは少し困りながらも同意する。
砕けたくはないけれど、それくらいの気持ちで勇気を出していかないと答えは得られないだろうし。
そんな感じで話がひと段落したころ、「瀬里さん」と教室のドアの方からわたしを呼ぶ声が聞こえた。
見ると、いつものように山里先輩が来ている。
わたしは仁菜ちゃんに「ちょっと行ってくるね」と断ってから山里先輩の所へ行った。
「こんにちは、山里先輩。昨日は大丈夫でしたか?」
霊力切れで倒れていたことを思い出して聞くと、「それはこっちのセリフ」と苦笑される。
「僕は意識はあったからしばらく休んでいれば動けるようになったよ。それよりも瀬里さんは大丈夫なの? 色々とショックだっただろう?」
心配してくれたことに「ありがとうございます」と返して、少し考える。
「確かにショックですけど……お父さんが里にいるっぽいことは聞いていたし、昨日お母さんにちゃんと説明してもらったので……」
だから、お父さんの存在自体はそこまで衝撃を受けていなかった。
問題は、そのお父さんが山の神で、わたしがその娘だってこと。
お母さんの説明で山の神の娘だってことは理解したけれど、実感は全くなかった。
「なんて言うか、ピンとこないです」
「まあ、いきなり言われてもそうだよね」
優しく笑った山里先輩は、その後少し真面目な顔になる。
「実感は湧かないかもしれないけれど、君が穂高さまの娘だってことは確かなんだ。ほんの一部だけれど、母親がサトリってことを良く思っていないあやかしもいる。気を付けて」
「……それ、お母さんにも言われました。大丈夫なんでしょうか……」
そっちの不安もあったことを思い出してちょっと落ち込むと、山里先輩は元気付けるようにいつものホンワカ笑顔に戻る。
「まあ、よく思っていないとしても大したことは出来ないよ。穂高さまはもうすぐ目覚めるし、眠っている間も里の中のことはちゃんと見ているはずだから」
「そうなんですか?」
眠っているのに見ているって、どんな状況なんだろう?
神さま自体が良く分からないから想像も出来ない。
「だから、そいつらより今一番気をつけた方がいいのは日宮だろうね」
「日宮先輩、ですか?」
気を付けた方がいいだろうっていうのは分かるけれど、一番っていうほどなのはどうしてなんだろう?
わたしの疑問に、山里先輩はまた真面目な顔になる。
「もともと瀬里さんのことを狙ってたみたいだけど、昨日山の神の娘って知られただろう?」
「はい」
「神の娘なんて良質な高い霊力を持つ存在なんてなかなかいない。高い霊力の娘を嫁にって探してるあいつからしたら、これ以上ない上物ってことになる」
「……えっと、つまり?」
この時点で嫌な予感はしたけれど、聞かないわけにもいかなかった。
「つまり、昨日よりもっと強引な手段を取る可能性があるってことだよ。だから気をつけて」
「っ……はい」
山里先輩の真剣な様子に、わたしは少し緊張しながらうなずいた。
だからいつも煉先輩が現れる放課後は特に警戒していたんだけれど……。
風雅先輩が護衛としてついていてくれたからなのか、現れることすらなかった。
結局、その日は煉先輩の姿を見ることはなく無事に家に帰る。
むしろ家でお母さんに「告白はしたの?」と問い詰められた方が困った。
「してない」
って答えたら。
「じゃあ明日ね」
なんて言われて、もしかして告白するまで毎日言われるんだろうかと困り果てることになった。
「で? 泣き虫な神さまの娘は何を悩んでいるのかな?」
昼休み、お弁当を広げながら聞いてきた仁菜ちゃんにわたしはムスッとした表情で返す。
「それはもう言わないでよ。だいたい誰のせいで泣いたと思って……」
「はいはい、あたしのせいだよね。ごめんって、もう言わないから機嫌直してー」
「もう……」
あんまりにもからかって来るから、もう少し怒ったフリをしようとしたけれどやめた。
いつもの調子の仁菜ちゃんにやっぱり良かったって思っちゃったから。
「で? 何の悩み?」
コテン、と首を傾げてもう一度聞いて来る仁菜ちゃんに、数瞬悩んで結局話すことにした。
昨日からお母さんに告白しろとせっつかれていること。
それと、風雅先輩との今朝のやり取りのこと。
「やっぱりまだ怖いけど……期待しちゃっていいのかなぁ?」
最後にポツリとこぼす。
「……」
黙って聞いてくれていた仁菜ちゃんはすぐには何も言ってくれなくて……。
「仁菜ちゃん?」
名前を呼んでみると、「はあぁぁぁ」と深いため息をつかれた。
「いつも言ってるけどさ、ホンットじれったい! 滝柳先輩の気持ちなんてはたから見てても分かるのに!」
「で、でも。使命だから……わたしが山の神の娘だからってだけなのかもしれないし……」
ツキン
自分で言ってて胸が痛んだ。
でも、その痛みも吹き飛ばすような勢いで仁菜ちゃんが顔をズズイと近づけてくる。
「滝柳先輩がいつから知ってたかは分からないけど、はじめからってわけじゃないはずだよ?」
「え?」
「美沙都ちゃんの存在は秘密みたいだったし、滝柳先輩の使命っていうのも山の神の大切なものを守るってことしか聞かされてなかったみたいだもん」
仁菜ちゃんの話では、本当に山の神の娘――わたしの存在は秘密にされてて知られていなかったらしい。
それは風雅先輩も同じで、いくら聞いても「何も聞かされてない」っていう答えばかりだったって。
「あたしのお母さんは美沙都ちゃんのお母さんと親友みたいだし、ある程度は知ってたらしいけど……誰にも言っちゃいけない秘密だったって聞いたよ?」
「……そうなんだ」
秘密にされてたって聞いてはいたけれど、そこまで厳重だったんだ……。
軽く驚いていると、仁菜ちゃんが「だから!」と声に力を込める。
「滝柳先輩は使命とか関係なく、先に美沙都ちゃんのこと好きになったんだよ!」
「う……」
そこまでハッキリ言われると本当に希望がありそうで期待してしまう。
万が一を考えて期待しすぎないようにって思ってるのに……。
「というわけで、あたしも早く告白することには賛成だよ。……まあ、いきなり今日中にとは言わないけれど」
「そう、だよね……」
お母さんの意見を推奨する仁菜ちゃんに、わたしは少し困りながらも同意する。
砕けたくはないけれど、それくらいの気持ちで勇気を出していかないと答えは得られないだろうし。
そんな感じで話がひと段落したころ、「瀬里さん」と教室のドアの方からわたしを呼ぶ声が聞こえた。
見ると、いつものように山里先輩が来ている。
わたしは仁菜ちゃんに「ちょっと行ってくるね」と断ってから山里先輩の所へ行った。
「こんにちは、山里先輩。昨日は大丈夫でしたか?」
霊力切れで倒れていたことを思い出して聞くと、「それはこっちのセリフ」と苦笑される。
「僕は意識はあったからしばらく休んでいれば動けるようになったよ。それよりも瀬里さんは大丈夫なの? 色々とショックだっただろう?」
心配してくれたことに「ありがとうございます」と返して、少し考える。
「確かにショックですけど……お父さんが里にいるっぽいことは聞いていたし、昨日お母さんにちゃんと説明してもらったので……」
だから、お父さんの存在自体はそこまで衝撃を受けていなかった。
問題は、そのお父さんが山の神で、わたしがその娘だってこと。
お母さんの説明で山の神の娘だってことは理解したけれど、実感は全くなかった。
「なんて言うか、ピンとこないです」
「まあ、いきなり言われてもそうだよね」
優しく笑った山里先輩は、その後少し真面目な顔になる。
「実感は湧かないかもしれないけれど、君が穂高さまの娘だってことは確かなんだ。ほんの一部だけれど、母親がサトリってことを良く思っていないあやかしもいる。気を付けて」
「……それ、お母さんにも言われました。大丈夫なんでしょうか……」
そっちの不安もあったことを思い出してちょっと落ち込むと、山里先輩は元気付けるようにいつものホンワカ笑顔に戻る。
「まあ、よく思っていないとしても大したことは出来ないよ。穂高さまはもうすぐ目覚めるし、眠っている間も里の中のことはちゃんと見ているはずだから」
「そうなんですか?」
眠っているのに見ているって、どんな状況なんだろう?
神さま自体が良く分からないから想像も出来ない。
「だから、そいつらより今一番気をつけた方がいいのは日宮だろうね」
「日宮先輩、ですか?」
気を付けた方がいいだろうっていうのは分かるけれど、一番っていうほどなのはどうしてなんだろう?
わたしの疑問に、山里先輩はまた真面目な顔になる。
「もともと瀬里さんのことを狙ってたみたいだけど、昨日山の神の娘って知られただろう?」
「はい」
「神の娘なんて良質な高い霊力を持つ存在なんてなかなかいない。高い霊力の娘を嫁にって探してるあいつからしたら、これ以上ない上物ってことになる」
「……えっと、つまり?」
この時点で嫌な予感はしたけれど、聞かないわけにもいかなかった。
「つまり、昨日よりもっと強引な手段を取る可能性があるってことだよ。だから気をつけて」
「っ……はい」
山里先輩の真剣な様子に、わたしは少し緊張しながらうなずいた。
だからいつも煉先輩が現れる放課後は特に警戒していたんだけれど……。
風雅先輩が護衛としてついていてくれたからなのか、現れることすらなかった。
結局、その日は煉先輩の姿を見ることはなく無事に家に帰る。
むしろ家でお母さんに「告白はしたの?」と問い詰められた方が困った。
「してない」
って答えたら。
「じゃあ明日ね」
なんて言われて、もしかして告白するまで毎日言われるんだろうかと困り果てることになった。
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