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四章 山の神の娘
かどわかし
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煉先輩はその次の日も、そのまた次の日も姿を見なかった。
山里先輩の話では学校には来ているみたいだけれど、わたしの前には現れない。
「どうしたんだろう? もしかして諦めてくれたのかな?」
なんて期待を口にすると、それを聞いていた仁菜ちゃんに「あり得ないでしょ」と否定されてしまう。
「分かってるよ。ただちょっと希望を言ってみただけだもん」
「まあ、警戒しておくに越したことはないでしょ? 日宮先輩って強引だから……あとちょっと怖いし」
と最後は小声で付け加える仁菜ちゃん。
「ちょっとどころじゃないと思うよ……」
と苦笑いをしていると、彼女は話題を変えた。
「それより告白の方はどうなってるの? 毎日登下校一緒に行ってるんだからチャンスはあるでしよ?」
「うっ……」
前まで登下校は基本仁菜ちゃんと行っていたんだけれど、ここ最近は「告白のチャンス邪魔しちゃ悪いからね」とか言われて別で行っている。
「その反応はしてないってことだよね?」
「……」
風雅先輩の気持ちを確かめないとずっと思い悩んじゃう。
《感情の球》を見るのも1つの手かも知れないけれど、むやみに見るものではないし読み間違える可能性もある。
だからやっぱり告白しかないっていうのは分かっているんだけど……。
「だって、風雅先輩にドキドキしすぎて言うチャンスが無いんだもん!」
「どういうこと?」
聞かれて、ポツリポツリと話した。
ある登校時には少し遅くなったからと自然と手をつながれて引かれ。
またある帰り道では近くを自転車が通って、危ないからって肩を抱かれた状態でそのまましばらく歩いたり。
「そういうちょっとした風雅先輩の行動にドキドキされっぱなしで告白どころじゃなくなるんだもん!」
「……」
一通り話したら仁菜ちゃんは何故か無表情。
「仁菜ちゃん? 何か言ってよ」
「あー、うん。……何だろう、この砂糖口に突っ込まれたような感じ」
「はい?」
「なんか、告白どころかすでに付き合っててのろけ話聞かせられた気分」
「つ、付き合ってないよ!?」
「うん、だから早く告白して付き合って。じれったい通り越して何で付き合ってないの? って思っちゃうから」
ジトッと湿り気を帯びたような目で言われて、わたしは「う、うん……」としか返せなかった。
そんな風に仁菜ちゃんからもせっつかれて、何とか告白のチャンスを掴もうと決意した日の放課後。
今まで会いにすら来なかった煉先輩が、教室にやってきたんだ。
***
帰りの会が終わると、最近のわたしはそのまま教室で待機。
護衛だと言って風雅先輩が教室まで迎えに来てくれるから。
護衛ってところにやっぱり胸に小さな痛みが走るけれど、一緒に帰れること自体は嬉しくて……。
こんなんだからお母さんや仁菜ちゃんに早く告白しろって言われるんだよね。
うん、今日こそは告白しよう。
好きだと伝えて、風雅先輩がわたしをどう思ってくれているのかちゃんと聞こう。
少なくとも、嫌われてはいないはずだから。
それに、これ以上期待ばかりが膨らむと砕けたときが辛いからっていう理由もある。
仁菜ちゃんは大丈夫だって言うけれど、わたしはやっぱり不安になっちゃうから……。
そんな仁菜ちゃんは先生に用事を頼まれて教室にはもういない。
クラスメートもどんどん帰っていく中、わたしは自分の席に座って風雅先輩を待っていた。
そこへ――。
「美沙都、いるな?」
突然最近聞いていなかった声がして驚いた。
見ると、声の主である煉先輩がツカツカと教室内に入りわたしのところまで来るところだった。
「煉先輩!?」
驚いて立ち上がると、怖いくらい真剣な目と合う。
「っ!」
今まで来なかったのに、どうしてこんな突然現れたのか。
疑問はあるけれど、彼の真剣さに言葉が詰まった。
「今日こそはデートするからな」
わたしの意見なんか聞かずにそう断言する。
でも、だからといって黙っているわけにもいかない。
「い、行きません!」
「キー!」
ハッキリ断ると、コタちゃんがわたしを守ろうと跳び上がった。
そのまま人型になろうと光り出したんだけれど……。
バクン、とコタちゃんは煉先輩が持っていた黒い箱のようなものに閉じ込められてしまう。
「コタちゃん!? 煉先輩、コタちゃんを出してください!」
「ダメだ。コイツキーキーうるせぇし、放っておくと邪魔者呼んできそうだからな。デートが終わるまではこのままにしとく」
「ですから、デートはしませんって――」
「いいえ、行ってもらいます」
「え?」
意識していなかった第三者の声に驚く。
声に視線を向けると、煉先輩の少し後ろに付き従うように眼鏡をかけた一人の男子生徒がいた。
どこかで見たことがある様な気がする。
もしかしたら、前に煉先輩に里を出て行けと言っていた中の一人じゃないかな?
でもどうしてそんな人が煉先輩と一緒に? って疑問を浮かべている間に、彼は手のひらに青白い炎を灯す。
その炎は煉先輩のような攻撃的なものというより、山里先輩の熱のこもらない白い炎に似ている気がした。
「ちょっと眠っててくださいね」
「え……? あ――」
山里先輩の炎と似ているなら幻術の類かもしれない、と思ったときには遅かった。
青白い炎が霧散したのを見た途端、意識が遠のく。
倒れる体を力強い腕が受け止めてくれたことだけが分かった。
山里先輩の話では学校には来ているみたいだけれど、わたしの前には現れない。
「どうしたんだろう? もしかして諦めてくれたのかな?」
なんて期待を口にすると、それを聞いていた仁菜ちゃんに「あり得ないでしょ」と否定されてしまう。
「分かってるよ。ただちょっと希望を言ってみただけだもん」
「まあ、警戒しておくに越したことはないでしょ? 日宮先輩って強引だから……あとちょっと怖いし」
と最後は小声で付け加える仁菜ちゃん。
「ちょっとどころじゃないと思うよ……」
と苦笑いをしていると、彼女は話題を変えた。
「それより告白の方はどうなってるの? 毎日登下校一緒に行ってるんだからチャンスはあるでしよ?」
「うっ……」
前まで登下校は基本仁菜ちゃんと行っていたんだけれど、ここ最近は「告白のチャンス邪魔しちゃ悪いからね」とか言われて別で行っている。
「その反応はしてないってことだよね?」
「……」
風雅先輩の気持ちを確かめないとずっと思い悩んじゃう。
《感情の球》を見るのも1つの手かも知れないけれど、むやみに見るものではないし読み間違える可能性もある。
だからやっぱり告白しかないっていうのは分かっているんだけど……。
「だって、風雅先輩にドキドキしすぎて言うチャンスが無いんだもん!」
「どういうこと?」
聞かれて、ポツリポツリと話した。
ある登校時には少し遅くなったからと自然と手をつながれて引かれ。
またある帰り道では近くを自転車が通って、危ないからって肩を抱かれた状態でそのまましばらく歩いたり。
「そういうちょっとした風雅先輩の行動にドキドキされっぱなしで告白どころじゃなくなるんだもん!」
「……」
一通り話したら仁菜ちゃんは何故か無表情。
「仁菜ちゃん? 何か言ってよ」
「あー、うん。……何だろう、この砂糖口に突っ込まれたような感じ」
「はい?」
「なんか、告白どころかすでに付き合っててのろけ話聞かせられた気分」
「つ、付き合ってないよ!?」
「うん、だから早く告白して付き合って。じれったい通り越して何で付き合ってないの? って思っちゃうから」
ジトッと湿り気を帯びたような目で言われて、わたしは「う、うん……」としか返せなかった。
そんな風に仁菜ちゃんからもせっつかれて、何とか告白のチャンスを掴もうと決意した日の放課後。
今まで会いにすら来なかった煉先輩が、教室にやってきたんだ。
***
帰りの会が終わると、最近のわたしはそのまま教室で待機。
護衛だと言って風雅先輩が教室まで迎えに来てくれるから。
護衛ってところにやっぱり胸に小さな痛みが走るけれど、一緒に帰れること自体は嬉しくて……。
こんなんだからお母さんや仁菜ちゃんに早く告白しろって言われるんだよね。
うん、今日こそは告白しよう。
好きだと伝えて、風雅先輩がわたしをどう思ってくれているのかちゃんと聞こう。
少なくとも、嫌われてはいないはずだから。
それに、これ以上期待ばかりが膨らむと砕けたときが辛いからっていう理由もある。
仁菜ちゃんは大丈夫だって言うけれど、わたしはやっぱり不安になっちゃうから……。
そんな仁菜ちゃんは先生に用事を頼まれて教室にはもういない。
クラスメートもどんどん帰っていく中、わたしは自分の席に座って風雅先輩を待っていた。
そこへ――。
「美沙都、いるな?」
突然最近聞いていなかった声がして驚いた。
見ると、声の主である煉先輩がツカツカと教室内に入りわたしのところまで来るところだった。
「煉先輩!?」
驚いて立ち上がると、怖いくらい真剣な目と合う。
「っ!」
今まで来なかったのに、どうしてこんな突然現れたのか。
疑問はあるけれど、彼の真剣さに言葉が詰まった。
「今日こそはデートするからな」
わたしの意見なんか聞かずにそう断言する。
でも、だからといって黙っているわけにもいかない。
「い、行きません!」
「キー!」
ハッキリ断ると、コタちゃんがわたしを守ろうと跳び上がった。
そのまま人型になろうと光り出したんだけれど……。
バクン、とコタちゃんは煉先輩が持っていた黒い箱のようなものに閉じ込められてしまう。
「コタちゃん!? 煉先輩、コタちゃんを出してください!」
「ダメだ。コイツキーキーうるせぇし、放っておくと邪魔者呼んできそうだからな。デートが終わるまではこのままにしとく」
「ですから、デートはしませんって――」
「いいえ、行ってもらいます」
「え?」
意識していなかった第三者の声に驚く。
声に視線を向けると、煉先輩の少し後ろに付き従うように眼鏡をかけた一人の男子生徒がいた。
どこかで見たことがある様な気がする。
もしかしたら、前に煉先輩に里を出て行けと言っていた中の一人じゃないかな?
でもどうしてそんな人が煉先輩と一緒に? って疑問を浮かべている間に、彼は手のひらに青白い炎を灯す。
その炎は煉先輩のような攻撃的なものというより、山里先輩の熱のこもらない白い炎に似ている気がした。
「ちょっと眠っててくださいね」
「え……? あ――」
山里先輩の炎と似ているなら幻術の類かもしれない、と思ったときには遅かった。
青白い炎が霧散したのを見た途端、意識が遠のく。
倒れる体を力強い腕が受け止めてくれたことだけが分かった。
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