当選確率0.01%だって? 上等だ。26歳の元外資系コンサルタント。老害たちを黙らせていたら、いつの間にか島根が日本の首都になっていた件〜

namisan

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第6話 15秒の革命とダンス

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1月21日、日曜日。
世間は休日だが、選挙事務所に休みはない。
朝9時。俺、湊は、事務所の白い壁の前に立たされていた。
「はい、カットー! 全然ダメ! 表情が硬い! 能面かよ!」
スマホをジンバル(手ブレ防止の棒)に取り付けた田中が、監督気取りでダメ出しをしてくる。
今日は、SNSに投稿するためのショート動画の撮影だ。
「硬いって言われてもな……。政策を語るのに、へらへら笑えるか」
俺はスーツの襟を直しながら反論する。
手元の原稿には、『財政健全化とインバウンド戦略の融合について』という、俺が徹夜で考えた完璧なロジックが書かれている。
「だから、その『ザイセイ』とか『インバウンド』って言葉がもうダメ! 誰も聞かねーよそんなの。スマホの画面なんて、みんなトイレか寝る前にボケーっと見てんだぞ?」
田中は呆れ顔で、隣にいる美咲に振った。
「美咲ちゃんからも言ってやってくれよ」
美咲はパイプ椅子に座り、タブレットのデータを読み上げた。
「田中の言う通りです。リール動画において、ユーザーが『興味ない』と判断してスワイプするまでの平均時間は0.8秒。最初の1秒で心を掴まなければ、先輩の高尚な演説はデジタルの藻屑となります」
「0.8秒……? 挨拶もできないじゃないか」
「挨拶なんていりません。必要なのはインパクトです」
田中がニカっと笑い、俺の手から原稿を取り上げた。
「湊、お前の武器は二つだ。『顔』と『若さ』。それを最大限に使う。……これに着替えて」
田中が投げて寄越したのは、ユニ・クロージングで買ったばかりのパーカーと、少し汚れた軍手だった。
「スーツは脱げ。今から街に出るぞ」
          ***
連れてこられたのは、事務所のすぐそばにある「中央通り商店街」だ。
日曜の昼だというのに、歩いているのは野良猫くらい。閉まったシャッターの前を、冷たい風が吹き抜けていく。
「いいか、湊。何も喋らなくていい。ただ、この誰もいない商店街を、悔しそうな顔で歩いてくれ。BGMは俺がつける」
「……それだけでいいのか?」
「それがいいんだよ。用意、アクション!」
田中の合図で、俺は歩き出した。
演技をする必要はなかった。生まれ育った街が、ここまで活気を失っている現実。
シャッターに貼られた『テナント募集中』の古びた張り紙。子供の頃にプラモデルを買った店も、もうない。
自然と、拳に力が入った。
(これが、俺が変えなきゃいけない景色だ)
カメラの向こうではなく、その先にある「現実」を睨みつける。
「はい、オッケー!」
撮影時間はわずか10分。
事務所に戻ると、田中は驚異的なスピードで動画編集アプリを操作し始めた。
テロップを入れ、流行りの音楽を乗せ、エフェクトをかける。
「できた。アップロード完了」
『出雲の未来を語る会』の公式アカウント。
フォロワー数、現在3人(俺、田中、美咲)。
記念すべき最初の投稿が、世界に放たれた。
          ***
その日の夜。
事務所でコンビニ弁当(今日は唐揚げ弁当だ)を食べていると、田中のスマホが震え始めた。
通知音が鳴り止まない。
「お、お、おい! 湊! 見ろこれ!」
田中が画面を突きつけてきた。
動画の再生回数が、ぐんぐんと伸びている。
100回、500回、1000回……。
画面の中では、パーカー姿の俺が、寂れた商店街を無言で歩いている。
ただそれだけの映像なのに、スローモーションと切ないBGMが重なり、最後に一言だけテロップが出る。
『この景色を、終わらせる。』
コメント欄には、地元の若者と思しき書き込みが溢れていた。
『ここ、中央通りじゃん。マジで人いないよな』
『市長選に出る人? なんかイケメンじゃね?』
『若っ! 26歳とかマジか』
『ガチで変えてくれんの?』
「すげぇ……。拡散(バズ)り始めてる」
美咲が冷静に分析する。
「インプレッション数、初動で1万到達。出雲市内の10代~20代のアクティブユーザーに的確にリーチしています。動画の保存率も高い。……田中さん、悔しいですがグッジョブです」
「だろー!? 俺のセンス、間違ってなかったろ!」
田中が勝ち誇ったようにガッツポーズをする。
俺はスマホの画面を見つめ、小さく震えた。
数字の向こう側に、確かに「人」がいる。
選挙になんて興味のなかった奴らが、今、俺を見ている。
「……悪くないな」
「だろ? 明日はもっと攻めるぞ。次は『湊が激辛ラーメン食べてみた』でいこう」
「それは断る」
「なんでだよ! 絶対バズるって!」
1月21日。
SNS動画、再生数1.5万回突破。
空気を震わせる最初の「風」が、デジタル空間から吹き始めた。
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