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サヴァン少年期
盗賊の子②
しおりを挟む「どうして、首領はサヴァンにあの様な仕打ちを?」
「驚いたな。 まさか、気付いていたのか? ヴェルよ」
「ええ、サヴァンに持たせている長剣の……木剣の柄の部分が太過ぎます。 いくら、サヴァンの指が細く短いからとは言え、実際に長剣を握るのに大きな支障はないはず。 何故そうにまでしてサヴァンに長剣を使わせたくないのですか?」
「……サヴァンに長剣は合わない。 得意不得意という理由ではなくて、それとは別の理由でだが……な。 この理由が何なのか分かるか、ヴェルよ?」
ヴェルはゴランドの問いに対して、首を横に振った。
いくら長考してもその問いに対して、納得するような回答は思い浮かばなかったらしい。
「その、良ければその理由を教えては貰えないでしょうか?」
「うむ……よかろう。 息子に稽古付けてくれているし、その御礼ということで」
そう言うと、ゴランドはふと自らの過去を振り返った。
「……6年前のことだ―――」
*********
『金品、身につけているもの全てを地面に置け。 そして地面には腰を付けて、腕は後ろで組め。 もし、我らグロフィン盗賊団を前に反撃でもした際には、首が空を舞うぞ』
『か、かしこまりました。 だから……ど、どうか命だけは……』
森の奥地にひっそりと存在した村の家々の外壁には、赤黒い新鮮な血が塗りたくられている。
そしてそこには身体を剣で引き裂かれた死骸や、咽び泣き命乞いをする者達の姿があった。
そんな村人らを取り囲む人間族の男達は、鉄の兜と狼奇人の紋様が胴の中央に刻まれた鎧を着込んでおり皆、長剣を握りしめていた。
『おい、耳長共。 貴重品はこれっぽっちか? 金の欠片すらねぇじゃねぇかよ。 おいおい、舐めてんのかァ! グロフィン盗賊団の首領、ゴランド様の目を誤魔化せると……思うなよ』
『い、いえいえ、まさか! もう、この村にはこれだけの貴重品しか残ってはおりませぬ。 ほんの僅かな食料に、銀貨数百枚、あと財産となるものといえば……女か子だけでございます』
村長らしき森人の老人はゴランドを目の前にし、腰のみならず全身を震わせている。
それも当然だ。 森の奥地、戦渦に巻き込まれないであろうこの村で普段通りの生活を営んでいた最中、武装した盗賊らが突然来たかと思えば家を焼かれ、若い男に至っては降参する猶予すら与えられずに惨殺されたのだから。
今この時、心中穏やかな者はこの村の住民の中に誰一人としていない。
皆、等しく “殺されるかもしれないという恐怖” が頭の中を駆け巡っていた。
『おい、オメェら手枷は持ってんな? 女子供、全員拘束しとけ。 奴隷市場で高く売るからな僅かな傷も付けんなよ。 あと、この爺は殺して構わん。 長く生きるとはいえ、こんな老いぼれ銀貨1枚の価値もないだろ』
『お、お待ちくだされ!』
『射て』
ゴランドのその一言を合図に、仲間の盗賊らは森人の老人に向けて一斉に矢を放つ。
放たれたその複数の矢はその老人の全身に鋭く深く突き刺さった。
『……悪魔め。 人殺しが……そんなに……楽しい……か……?』
『楽しくはねぇ、あくまで仕事の一環だ。 勘違いするな』
『か、変わらぬ……わ。 お主は……いつか……必ず地獄に……落ち……』
薄れゆく意識の中、森人の老人は真っ赤になった口を必死に開けてゴランドにそう言った。
ゴランドは聞く耳を持たないまま、その老人の前から姿を消し、仲間の元へと向かう。
次第に閉じていく瞼を必死にこじ開けながら老人は消えゆくゴランドの後ろ姿を目で追い、そのまま力尽きたのだった。
『首領。 生き残りを集計したところ……成人の女は18人、ガキは12人います。 全員、奴隷にしちまって本当によろしいんですか?』
仲間のもとへ戻ったゴランドは、羊皮紙と羽ペンを持って自分の元へと駆けつけてきた部下の1人からそう問われる。
『なら、女とガキの半分は俺らが頂戴しよう。 残りの半分は奴隷市場行きだ』
『頂戴する女とガキはどうするんすか? 女はいつもみたいに妾にでもするんですか』
『ああ……俺が選んだ奴以外はおまえ等が好きに使っていいぞ。 あとガキは全員、魔術で洗脳しておいてとりあえず雑務でもさせとけ』
『了解です。 では、不届き者が手ェ付ける前に早々に妾を選んでくだせぇ首領』
『急かすなよ。 そんなに欲求不満か?』
ゴランドは、手枷に繋がれた森人の女性達の菅谷をまじまじと見つめた。
そのエルフの女性らは頬を赤くし大粒の涙を流している。
亭主を殺された者や、奴隷として売られて子供と生き別れする者もいるだろう。
しかしそんな彼女らを救う者は誰一人として居ない。
ここに居るのは泣き喚く同朋と下衆な盗賊のみ。 救いを願うだけ無駄なのだ。
弱者からは全てを奪い、強者には己の命をも差し出す。
それが、“グロフィン盗賊団”の掟であり国中から恐れられる所以なのだ。
『……エルフってのは、どいつもこいつも華奢な奴ばかりだな。 顔に関しちゃ、申し分ねぇんだが。 どうしたもんか……ん?』
ふとゴランドの目に留まったのは、金色の髪をしたエルフの少女であった。
成人ばかりが並ぶ中で、最も華奢な身体でまだ顔に幼さが残っている。
ただ、成人が並ぶこの列の中で一番若く幼いのにも関わらず、涙の一粒も流してはいなかった。 綺麗な翠色の真っ直ぐとした目で、ゴランドを見つめていた。
『なんだお前。 この俺に媚びてるつもりか?』
『……いいえ。 私は、誇り高き 父クラネスの一人娘。 あなたのような者に 決して媚びなんて売るつもりはありません。 例え、私の命が奪われようとも』
『なるほど、あの村長の娘か。 まったく、小さい身なりの割にいい度胸をしているなオマエ。 羞恥心で頬を赤らめ、尻でも振っていればいいものを。……名はなんだ?』
『サーヴェ・エルフェンノ……』
ゴランドはエルフの少女 サーヴェのその態度に、思わず感心した。
強者を前に、これほど度胸のある女が今までこの世に居たのだろうかと。
『おい、サーヴェと言ったな。 後で俺の寝床に来い。 汚れが気になるなら湖で自分の身体でも洗っておけ。 そして、部下にはお前に手を出さないと約束させておく。 気にせず存分に身体を清めるといい』
『……っ』
*********
蝋燭の火が僅かに灯る、薄暗い部屋の中。
そこには、大男2人は容易に並べられる程の大きなベッドが1つと、芳醇な花のお香の匂いがあった。 そして、しばらく経ってその部屋に入ってきたのは、あのエルフの少女サーヴェであった。
その後、僅かに遅れる形でゴランドが入室。
先に部屋に入っていたサーヴェの姿を見るなり、ゴランドは驚きの表情を浮かべた。
『まさか、本当に来るとはな。 手枷を解き、さらには部下にも手を出すなと俺直々に言っておいたのだ、逃げ出すことだってできただろうよ?』
『私はただ……アナタに考えを改めて欲しいと、そう思って……ここに来ました。 それに私1人が逃げたところで、飢え死にするか別の盗賊に身柄を捕縛されるだけですし』
『で、なんだ? まさか、抱かれてやるから仲間を逃がせっていうんじゃないよな?』
『……だ、駄目ですか』
ゴランドは呆れ顔だった。
なぜなら、自分の身体よりも他人の心配をするサーヴェに同情しかねたからである。
いつだって、ゴランドは我が身が一番に大事だった。
こうして略奪を続けているのも、自分が生きるため。
そして部下は、あくまでも道具であり手段でしかない。 万が一の事があれば切り離すだけの存在にしか過ぎなかった。
自分の身を守るために剣の腕を磨いて強くなり、飯を食っていくために略奪し、自分に少しでも損害のある存在は、老若男女構わず殺してきた。
そうして、グロフィン盗賊団はいつしか自国に恐れられる存在にまでなったのである。
それもこれも結局は、すべてゴランドの我が身可愛さが招いたことであった。
『ア、アナタにはっ……自身の名誉や命を賭してまで、守りたいモノがおありですか?』
『自分が大事に決まっている。 その他に守りたいものなど……あるというのか?』
『あります。 アナタが殺したであろう人々の全員が、その守りたいモノを守れず死んでいったんですよ。 アナタの……手によって』
――――今思えば、この時からだろうか。
自分の今までしてきたこと、自分の存在意義に対して違和感を覚え始めたのは。
まさか、こんな年端もいかないような少女にこんなにも、二重の意味で心を揺さぶられたのは今までになかったかもしれない。
それと後から聞いてみたところ、あの言葉はどうやら祖父の請け売りだったようだが……とは言え、よくもまあ強面の俺に対して、説教まがいな事が言えたものだ。
今までの女達は俺に寝床に誘われては皆、ほんの少しの羞恥心と恐怖が混じったような表情で抱かれていった。 そして俺はそんな彼女らを見るたびになんとも言えぬ感情を抱いていた。
結局皆、自分の身が大事で仲間の身はもちろん自らの誇りすらも躊躇なく捨てる。
滑稽だ。 そんな奴らを抱いたところで心の何処かがスッポリと抜けたままで、なにも埋まりはしない。 そこにあるのはただの快楽だけだ。
だが、俺はサーヴェのその姿を見るなり、不思議と今までにない感情が湧いた。
その時の自分にはよく分からない感情だったが、今となっては何とも当たり前でありふれた感情だったらしい。 とにかく、こんな感情は生まれて初めてだった。
(美しい……)
その日、俺に初めて自分以外に守りたいと思えるものができた。
今まで自分の行ってきたことがどれほど愚かなものかと実感した。
*********
そして、その日から2年が経ったある日、ゴランド・グロフィンとサーヴェ・エルフェンノの間に1人の男の子が誕生した。
その男の子の名前は “サヴァン” 。 両親の髪色が混ざったからか髪は黄土色で、指は母譲りの短くて細い指、それ以外はゴランドの遺伝が多くみられた。
よく人間とエルフの間にできた者をハーフエルフと呼ぶが、サヴァンに至ってはほぼ人間と変わらないようだった。
『これが、俺の子かよ? 随分とちっこいなぁ』
『そうですね。 でも、まさしく私とアナタの子であるのは事実ですよ。 ちょっと強面なところがアナタに似てますし、髪色は若干私寄りです』
『……たしかに、言われてみりゃ何となく……』
初めてこの子が産声を上げた時、俺は心に誓った。
『命を賭してでも2人を絶対に守り抜く』。
そして、『盗賊などからは足を洗い、我が子を真っ当な人間として育てて見せよう』と。
そう誓ったこの日から、俺は殺しを嫌悪し自重するようになった。
しかし残念なことに略奪からは抜け出すのは困難だった。
だが、いつか必ず償いはしてみせる。
例え、同朋に蔑まれ名誉を傷付けられたとしても……。
*********
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