僕たちの日常

かんだ

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9.誕生日パーティーに行こう

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 エドアルド皇子殿下の誕生日パーティー当日。一日目は子どもだけのパーティーだ。
 会場にはすでに多くの同年代の子がいる。
 母さまと一緒に、プレゼントを抱き締めて僕は会場の中へ向かった。
「リアム、会場の中では子どもたちだけで、僕はテオと一緒に皇宮の部屋で休ませてもらっているから」
「はい」
「お手紙も持ったんだよね?」
「はい、持っています。父さまがくるまで一緒にいてくださいね」
 父さまは皇宮の人に呼ばれてどこかへ行ってしまった。その時、父さまから「リアム、俺が戻るまでリュシーのそばにいなさい」と言われている。きっと母さまを一人にしたくないからだろう。普段から母さまには必ず護衛を付けているけど、皇宮内では連れ歩けないから。
 父さまは母さまのことが本当に大好きだ。前まではあまりそう思っていなかったけど、数ヶ月前に母さまが僕たちと自由に会えるようになってから色々と変わった。
 父さまは近付くだけで怖かったのに、たくさん話してくれるようになったし、母さまをどれだけ愛しているか見て分かるようになった。よく見るといつも母さまを目で追っていることが分かって、僕は父さまを怖く思うことはなくなった。
 レオニーとリュカはお人形さんみたいに大人しかったのが嘘みたいに、元気で明るくてやんちゃになった。
 僕も、毎日が楽しくなった。今までは言われたことを熟すだけで一日を終わらせていたけど、最近は自分から色々なことに挑戦させてもらっている。レオニーやリュカが好きなお絵描きも始めた。
 母さまがみんなといてくれるようになったおかげで、家族みんなが毎日幸せな顔をしている。
 僕も、母さまが笑っているとすごく嬉しくなる。
 だから、父さまが戻って来るまでは僕が母さまを守るのだ。
「リアム様」
「ん? あ、フィリップくん」
 声を掛けてきたのはフィリップだった。彼はエドとのお茶会で一緒になることが多い。仲が良いのかと聞かれれば、まぁ、そんなに、という感じの距離感である。
「今日の世話人はとても美しいわね」
 フィリップの母である公爵夫人が母さまに話し掛ける。
 母さまは今日、「子どもたちが主役だからね」と言って装飾も最低限にしている。そのせいで、公爵夫人は母さまを使用人と間違えたのかもしれない。僕はいつも屋敷の誰かと来ていたし、そもそも、母さまは公式な場にも社交界にも顔を出していないから誰も母さまの顔は知らない。
 僕はすぐに母さまだと伝えようとしたけど、フィリップと公爵夫人がプレゼントに話題を変えてしまってタイミングを逃す。
 母さまも困っていたが、まぁいいかと思っていそうだ。母さまは小さいことを気にしないタイプだと、一緒に過ごすようになってから知った。
「リアム様はプレゼント、なににしましたか?」
「僕はぬいぐるみにしました」
「ぬいぐるみ?」
「はい。母さまと一緒に作りました」
 初めて作ったがすごく良く出来たと思う。母さまの教え方は分かりやすかったし、実際に見せてくれながらだったのでイメージがすぐに湧いた。
 ぬいぐるみを包装してある箱を抱き締めながら、「フィリップくんは?」と聞いたが、なぜかフィリップは笑っていた。
「えー? リアム様、手作りしたんですか? ぜんぶ?」
「はい。図案から完成まで」
「皇子殿下に素人が作ったものなんて、あげちゃダメですよ。心のこもった手作りのプレゼントって、自分がするって勘違いしたんですか?」
「勘違いじゃないですよ。言葉通りに、エドが望んでいるものを贈りたかったから作ってきたんです」
 フィリップが馬鹿にするように笑う。しかも、フィリップの母さまもくすくすと笑っていた。それに腹が立って、言葉がキツくなってしまう。
「みんなもちゃんと有名な工房に手作りをお願いしていますよ。自分で作ってくるなんて、リアム様以外いません」
「……みんな、工房にお願いしたんですか?」
「もちろん。皇子に素人の手作りなんて渡せません」
 得意気なフィリップに、僕は意味が分からないと思った。
 エドは心のこもった手作りが欲しいと言ったのに、工房にお願いしたらそれはもういつもと同じプレゼントじゃないか。わざわざエドがそう書いた意味がなくなる。
「僕はオリジナルの万年筆を作ってもらいましたよ。宝石も散りばめて。ぬいぐるみなんて、子どもじゃないんだから」
「そうね。閣下ももう少し気を使ってくださればよかったのにね。恥をかくのはリアム様なのに」
 僕はエドと一番仲良くしていると思っている。エドは絶対に喜んでくれる。
 僕はその自信があったから、プレゼントを贈る相手でもないフィリップや周りに何を言われても別に何も思わない。
 ……だけど、母さまは違ったみたい。見上げた母さまの耳はすごく赤くなっていた。綺麗な紫色の瞳がいつもよりも潤む。これは、羞恥を感じている時の表情だ。
「ぁ、リアム」
 僕と目が合うと、母さまは「ご」と発して、僕は反射的に口を塞ごうとした。だけど、それより先に母さまの背後から現れた父さまが手のひらで目を覆い隠した。
「リュシー、何をしている?」
「父さま!」
「リアム、リュシーに人を近付けてはダメだろう? 俺が嫉妬をする」
 父さまの登場に、周りがシンとする。誰もが目を伏せ、息を潜めていることが分かる。
 勉強で知ったけど、父さまは複雑な立場だ。
 帝国を支え導き象徴となるのは皇家だが、皇家に対する司法権のみ大公家が有している。ここで言う司法権とは、与えられた光と闇の力にもとづいて皇家を監視し、帝国や国民の害と、不利益をもたらすと判断した際に、皇位を変える、光の力を奪うなどして正すことが出来る権利だ。
 それは、闇の力を持っているからこそ可能となるようで、闇の力の一部分さえ分からない多くの人は、得体の知れない力を持つ父さまに怯えているのだ。
「それより、リアム、何があった?」
「……あの、プレゼント、皆は工房に頼んで作ってもらったみたいです。素人が作ったプレゼントを渡すなんて、ありえないって」
「そうか。心ない皆の態度に、俺のリュシーは傷付けられたということか」
 父さまの言葉に、周りがビクッと肩を跳ねさせる。多分、皆が母さまの身分を正しく理解したと思う。
「そもそも、皇子のくせに手作りが欲しいなんて言うから悪いんだ。そのせいで無駄に頭を悩まされて。なぁ、リュシー」
 父さまは母さまを抱き寄せたままこめかみにキスをする。
 母さまはようやく自分の現状に気付いたらしく、ハッとして父さまの腕から逃れようとする。もちろん、そんなことは出来ていなかったけど。
「テオ、人前でやめてください。……それより、殿下が喜んでくださればいいんだけど」
「大丈夫です。エドはよろこびます」
「少しでも嫌がったら渡さなければいい。後日最高級品のプレゼントを贈ろう」
「エドは絶対よろこびます!」
 僕がそう言ったところで、「リアム?」とエドがやって来た。
「どうしたの? なんでまだ席にいないの?」
「エド!」
「ん?」
 エドは同い年の皇子様。僕の黒髪と違って、母さまみたいにキラキラ輝く淡い金髪。二重の両目は少し吊り上がっているから真顔だと怒っているように思うけど、笑うと目が細まってすごく可愛い。
 同じ目線のエドに、僕は挨拶もせずにプレゼントの説明をした。
「僕、エドのためにぬいぐるみを作ったんです」
「え?」
「これ」
 箱の中から二体のぬいぐるみを取り出し、エドの手に無理やり乗せる。
「エドのことを考えて、エドと僕をイメージして僕が作ったんです。手はつなげるようになっています。……僕の手作り、いらない?」
「まさか! すごくうれしい! ありがとう!!」
 エドはぬいぐるみごと僕を抱き締めて喜んでくれた。至近距離から見つめ「本当にありがとう、リアム」と嬉しそうに笑っている。
 ほら、エドはやっぱり喜んだ。
「フィリップくんに素人の手作りは喜ばないって言われて、もしちょっとでも嫌な顔されたら二度とエドとは会わないようにしよって思ってました」
「……そうなんだ。僕が心のこもった手作りって言ったのに、手作りが嫌なわけないのに。嫌な思いしたね、ごめんねリアム」
「どうしてエドがあやまるんですか?」
「だって、僕が望んだせいで、嫌な思いさせちゃったから」
 僕は嫌な思いはしていない。フィリップに対しては何言ってるんだと思っただけだし。ただ、母さまに嫌な思いをさせたことが一番腹立たしい。
 エドは僕の耳に唇を寄せて、小さな声を出した。
「本当は、リアムの手作りがほしかっただけ。父さまが手作りって書いてみろって言ったんだよ。どうせリアムしか手作りしてこないだろうからって」
「そうだったんですか?」
 エドは嬉しそうに笑う。
「手作りってだけでも嬉しいのに、リアムと僕が一緒なのがもっと嬉しい。僕は、世界一リアムが大好きだから」
 エドに手を取られて、パーティーへ行こうと言う。振り返れば、父さまは手を振っていた。
「俺たちは一度帰る。終わる頃に迎えに来る」
「わかりました。母さま、ありがとうございます。母さまのおかげでエドによろこんでもらえました」
「……ううん、リアムが頑張ったおかげだよ。楽しんできてね」
 その後のパーティーはとても楽しかった。
 帰り際、エドには「手作りは、家族と僕以外にはしないでね」と言われた。
 僕は「じゃあ、家族と僕以外からは手作りもらわないでね」と返した。
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