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10.訳
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「やっと会いに来てくれたか、テオ」
「どうせつまらない用事だろ。リュシーと離れたくないんだ」
「あぁ、そう言えば、夫夫間の距離が縮まったみたいだね?」
現皇帝の第二皇子――グランツは、酒を煽りながらニコニコと無害そうな笑顔を向けてくる。
疑問符を付けているが、その顔も声も確信していた。
「あぁ、今やゼロ距離だよ」
「ゼロ距離! 肉体的な話だけじゃなくて?」
「下品だな」
「いいじゃないか。ここには私と君しかいないんだから。刺客も暗部も誰も近くにいないことは君が一番分かるだろ?」
テオは肩を竦めて無言で肯定する。
テオには人のオーラが感じられる。オーラがない人間はいない。それは死しても同じだ。
ここでの会話が聞こえる範囲にはテオとグランツのみ。ちなみにグランツは鬱陶しいほどキラキラしたオーラをしている。それは光の力を濃く受け継いでいる証拠だ。
「お前は相変わらず国内を好き勝手回っているのか?」
「もちろん。私は執務室であーだこーだと議論して決めるタイプではない。自分の目で見て聞いて感じて、当事者となって皇族に出来ることを考えたい」
「殊勝な心掛けだな」
だからこそ、光の力が強いのだろう。
闇の力は初代の魂に最も近い者にしか受け継がれないが、光の力は皇族の直系であれば必ず受け継がれる。ただし、強さは人それぞれだし、正しい使い方をしなければ失われることもある。
現存の皇族ではグランツが一番強い。だが、グランツは皇太子でもない。
「それに、私よりも兄上の方が政に長けている。適材適所だよ」
「そうだな」
グランツの長兄が皇太子であり、エドアルドの父親だ。光の力の強さは平均的だが、抜群に政が上手い。国の運営や人の使い方、他国との連携と牽制、前時代には囚われない革新的な政策、何を取っても『皇帝』の地位が一番似合う人物だ。
だからこそ、譲位して欲しいと思う層が多いが、そこは皇族に考えがあるのだろう。
テオとしてはリュシーが安心して暮らせる国を運営してくれるなら誰が皇帝になろうと興味はない。
「で? 何の話があって呼んだ?」
テオは前置きの話題を早々に放り出し、用件を求める。本当ならこの時間、リュシーを膝に乗せてキスをしながら一日の報告をし合っているはずだった。
最近のリュシーはテオへの萎縮がなくなり、自由に過ごせていることでより美しくなった。生き生きとして輝いている。オメガということもあり元々整い過ぎた容貌をしていたが、そこに幸福が合わさってより輝きを増すようになった。
柔らかくサラサラな銀髪、大きなアーモンドアイ、白く細い体、豊かな表情、当たり前のように他者を気遣える心根、全てに『美しい』が付く人間だ。子どもたちも使用人も皆がリュシーを愛している。
最近はその美しさに比例するように、オーラも澄み切っている。不純物など何一つなく、そばにいるだけで浄化されるような心地になる。なのに、あの体は快楽に弱く、少し弄るだけで澄み切ったオーラがいやらしくなる。甘く艶が出て、全身を震わせながら快楽に沈む。快楽に慣らし男に抱かれる体にしたのは自分だが、あまりにも快楽に弱過ぎて心配になるくらいだ。
……リュシーのことを考えていれば、リュシーに会いたくて堪らなくなってきた。
テオはさっさと用件を終わらせて屋敷に帰ろうと決める。
「面白い話を聞いてもらいたくてね。四ヶ月くらい前かな? 可愛い甥っ子が悩んでいたんだ。母さまにもっと幸せになってほしい、と、大好きな子が悩んでいると」
「ふーん?」
「で、私は甥っ子に相談されたが、他所の家族の間に入ることは出来ないから、甥っ子の悩みが解消されたら良いなと祈るだけにした。で、甥っ子も、同じように大好きな子の悩みが解消されるように祈った」
グランツの甥っ子はエドアルド、そして、甥っ子の大好きな子はリアムのことだろう。となると、母さまはリュシーだ。
二人は同い年で、性格は違うのに相性が良い。リアムは殆どのことが無関心だった時期でさえ、エドアルドのことは気に入っていたし、エドアルドも幼いながらも皇族らしく必ず一線を引いて他人と接しているのに、リアムだけは恋人のような距離感を持っている。
「そうしたら、程なくして甥っ子の悩みは解消された。で、同時期にデュラン家の中が変わり、良き方向へ向かったらしい。全ては伴侶殿が元のようにとても明るく潑剌とし始めたからだと」
何が言いたいか分かった。と同時に、何があったのか分かった。
テオは肘置きに頬杖をつき、「なるほど」と短く反応を返す。
「面白いよね。何があったと思う?」
「回りくどいな。お前だって想像はついているだろ」
「まあね。ただ、祈っただけで、作用するものなのかと怖くなった」
確かになと思った。
光の力には、『導き』がある。進むべき道の一つを夢に見せてもらうようなイメージだ。より豊かに、より強く、より幸福になるための道だ。だが、その『導き』は滅多に起こらない。今の皇族の持つ光の力としては、人々への癒しや浄化、国土の守りが主だ。そのおかげで大地は肥沃で疫病が蔓延することもない。常に人々も国土も元気がある。そもそも、『導き』が起こる際はそれだけ国に大きな問題が起きた時だ。故に『導き』が起こらないイコール国が安定しているということなので、皇族内では『導き』が起きないことが理想とされている。
なのに、最も光の力が強いグランツと、その次に強いエドアルドが『リアムの悩みが解消されますように』と祈っただけで、解消された。それは、おそらくリュシーに作用――『導き』があったはずだ。
なぜなら四ヶ月前に、リュシーが一番先に変わったから。いや、変わったというよりは元気で活発さを取り戻したと言って良い。
萎縮していたリュシーが、何かをキッカケにそれをなくした。そのおかげテオに対して物怖じすることがなくなった。
何かがあったことは確実だが、リュシーは言い淀んだため追及することはやめたが……
「テオはどう思う? もしも今後もそのようなことがあるなら、色々と対策をしなければならない」
「問題はない」
「どうして?」
「すべての条件が偶然整っただけだ。最も光の力が強い二人が祈り、その先は僅かだが皇族――光の力の血と、闇の力の血を引いたリアムだった。そして、リアムの願いは闇の力を濃く受け継ぐ俺がこの世で最も愛している人間のことだった。闇の力と光の力は同じ神だからな。リュシーが強く導かれても不思議ではない」
「……なるほど」
恐らく、リアムの願う相手が子どもたちだったら導きはなかっただろう。テオはリュシーとの子どもを大切にしているし幸福を願っているが愛してはいない。全ての愛はリュシーにしか向かっていないからだ。また、その相手が自分だったとしても導きがあるのはリュシーだろう。テオは自身の幸福に興味がなく、とにかくリュシーが幸福であれば良い。故に、リアムがテオの幸福を祈ったとしても、幸福になるべきリュシーに導きがあった方が効率的だ。
「他の人間を祈ったとしても導きはないから安心しろ。まぁ、同じように願う相手がリュシーだったら、また同じことは起こるかもしれないが」
「…………はぁ~、そっか」
グランツは息を吐いて深くソファーに沈む。心底力が抜けたようだ。
「良かった。もし今後も他者に導きがあったらと思ったら、私もエドも考えなければならなかったよ。でも、彼なら、うん、問題はないかな?」
「このことは誰が知っている?」
「私だけだよ。エドは祈りが通じたと思っていない。ただリアムが幸せそうで嬉しいってことしか考えていないよ」
「あいつは本当にリアムが大好きだな」
他にこのことを知っている人間がいないなら、テオが気にすることはない。
「そうだね。多分リアムと結婚したいって言い出すんじゃないかな」
「婚姻関係が認められるのはどちらかが孕める場合だけだろ」
気が早い話だが、一途な人間は本当に一途だ。テオ自身、初めて会った時からリュシーしか目に入らない。
リアムとエドは男同士。結婚するならどちらかがオメガでかければならないため、場合によっては結婚は許されない。
「第二の性は大体十四、五歳で発現するだろ? もしどちらかがオメガだったら絶対エドはリアムにプロポーズするね」
「かもな」
「嘘嘘。オメガじゃなかったとしてもプロポーズすると思う。リアムと一緒になる方を取るよ。どうする?」
「別にどうもしない。リュシーが悲しまなければ何でも許す」
「相変わらず伴侶至上主義だなぁ。何で最初からもっと優しくしなかったの」
「……」
それはひとえに、自分が意気地なしだったからだ。
様々な要因から、幸せにしたいと思っていても正直分からなかったせいでリュシーは恐縮しっぱなしで、テオには恐怖心と罪悪感を抱いていた。
それを改善しなかったのは、心のどこかで、今が最良だと思っていたからだ。
リュシーの恐怖は、周りがテオの闇の力に恐怖を持っていたこととは違い、単純に体格差や力の差に怯えていた。一度、リュシーの目の前で不埒な輩に制裁をしたことがあるため、そこから暴力に怯えるようになったのだ。その時、リュシーにはその制裁の理由を伝えなかったし気付いていなかったから、リュシーの目には『理由もなく暴力を振るう人間』に映っていたはずだ。だから自分がその拳の餌食になったら死ぬと思っている。
だが、もしもリュシーとの距離を縮め、得体の知れない闇の力に怯えるようになったら……と思うと意気地が出なかったのだ。闇の力は自分の一部だ。少しでも否定されたら、絶望してしまう。心根の美しいリュシーに限ってそんなことはないと思う反面、他者と同じ目を向けられたら怖くて堪らなかった。
だから、改善もせず、見せてしまった暴力に怯える状態でいさせてしまった。
……まぁ、全てはテオの妄想でしかなかったが。
――リュシーは、俺の力が怖くないか?
リュシーが乗り込んできて数日経った頃、思わず聞いてしまった。
――知りもしないことを怖がりません。その力で無体なことを強いられたら分かりませんが。
さも当たり前のように答えられた。
見えない、得体の知れない力だからこそ周りは恐怖するのに、リュシーは分からないからこそ恐怖しないと言う。やはりリュシーは普通ではない。リュシーの両親も、貴族にしては謀や政治、権力からは程遠く、正しく身の丈と幸せを知っている人間だった。だからこそ、伯爵領は他領に比べて領民の幸福度が高かったのだろう。
改めてリュシーを育ててくれた両親には感謝しかない。屋敷に戻ったら改めて何かを贈ろうと決めた。
「俺たちのことはいいんだよ。で? 用件は終わったか?」
「あぁ、うん。終わったよ」
「じゃあ帰る」
「はいはい。あ、ちなみに、伴侶殿に導きがあったってテオは知っていたかい?」
「いや? 何かあったとは思っていたが、まさか導きまであったとは思わなかった」
「だよね。彼にはきっと不思議体験だったろうから易々と口外するとは思えないけど、一応口止めはしておいてくれ」
テオは適当に頷き、皇都にある屋敷へと戻った。
「どうせつまらない用事だろ。リュシーと離れたくないんだ」
「あぁ、そう言えば、夫夫間の距離が縮まったみたいだね?」
現皇帝の第二皇子――グランツは、酒を煽りながらニコニコと無害そうな笑顔を向けてくる。
疑問符を付けているが、その顔も声も確信していた。
「あぁ、今やゼロ距離だよ」
「ゼロ距離! 肉体的な話だけじゃなくて?」
「下品だな」
「いいじゃないか。ここには私と君しかいないんだから。刺客も暗部も誰も近くにいないことは君が一番分かるだろ?」
テオは肩を竦めて無言で肯定する。
テオには人のオーラが感じられる。オーラがない人間はいない。それは死しても同じだ。
ここでの会話が聞こえる範囲にはテオとグランツのみ。ちなみにグランツは鬱陶しいほどキラキラしたオーラをしている。それは光の力を濃く受け継いでいる証拠だ。
「お前は相変わらず国内を好き勝手回っているのか?」
「もちろん。私は執務室であーだこーだと議論して決めるタイプではない。自分の目で見て聞いて感じて、当事者となって皇族に出来ることを考えたい」
「殊勝な心掛けだな」
だからこそ、光の力が強いのだろう。
闇の力は初代の魂に最も近い者にしか受け継がれないが、光の力は皇族の直系であれば必ず受け継がれる。ただし、強さは人それぞれだし、正しい使い方をしなければ失われることもある。
現存の皇族ではグランツが一番強い。だが、グランツは皇太子でもない。
「それに、私よりも兄上の方が政に長けている。適材適所だよ」
「そうだな」
グランツの長兄が皇太子であり、エドアルドの父親だ。光の力の強さは平均的だが、抜群に政が上手い。国の運営や人の使い方、他国との連携と牽制、前時代には囚われない革新的な政策、何を取っても『皇帝』の地位が一番似合う人物だ。
だからこそ、譲位して欲しいと思う層が多いが、そこは皇族に考えがあるのだろう。
テオとしてはリュシーが安心して暮らせる国を運営してくれるなら誰が皇帝になろうと興味はない。
「で? 何の話があって呼んだ?」
テオは前置きの話題を早々に放り出し、用件を求める。本当ならこの時間、リュシーを膝に乗せてキスをしながら一日の報告をし合っているはずだった。
最近のリュシーはテオへの萎縮がなくなり、自由に過ごせていることでより美しくなった。生き生きとして輝いている。オメガということもあり元々整い過ぎた容貌をしていたが、そこに幸福が合わさってより輝きを増すようになった。
柔らかくサラサラな銀髪、大きなアーモンドアイ、白く細い体、豊かな表情、当たり前のように他者を気遣える心根、全てに『美しい』が付く人間だ。子どもたちも使用人も皆がリュシーを愛している。
最近はその美しさに比例するように、オーラも澄み切っている。不純物など何一つなく、そばにいるだけで浄化されるような心地になる。なのに、あの体は快楽に弱く、少し弄るだけで澄み切ったオーラがいやらしくなる。甘く艶が出て、全身を震わせながら快楽に沈む。快楽に慣らし男に抱かれる体にしたのは自分だが、あまりにも快楽に弱過ぎて心配になるくらいだ。
……リュシーのことを考えていれば、リュシーに会いたくて堪らなくなってきた。
テオはさっさと用件を終わらせて屋敷に帰ろうと決める。
「面白い話を聞いてもらいたくてね。四ヶ月くらい前かな? 可愛い甥っ子が悩んでいたんだ。母さまにもっと幸せになってほしい、と、大好きな子が悩んでいると」
「ふーん?」
「で、私は甥っ子に相談されたが、他所の家族の間に入ることは出来ないから、甥っ子の悩みが解消されたら良いなと祈るだけにした。で、甥っ子も、同じように大好きな子の悩みが解消されるように祈った」
グランツの甥っ子はエドアルド、そして、甥っ子の大好きな子はリアムのことだろう。となると、母さまはリュシーだ。
二人は同い年で、性格は違うのに相性が良い。リアムは殆どのことが無関心だった時期でさえ、エドアルドのことは気に入っていたし、エドアルドも幼いながらも皇族らしく必ず一線を引いて他人と接しているのに、リアムだけは恋人のような距離感を持っている。
「そうしたら、程なくして甥っ子の悩みは解消された。で、同時期にデュラン家の中が変わり、良き方向へ向かったらしい。全ては伴侶殿が元のようにとても明るく潑剌とし始めたからだと」
何が言いたいか分かった。と同時に、何があったのか分かった。
テオは肘置きに頬杖をつき、「なるほど」と短く反応を返す。
「面白いよね。何があったと思う?」
「回りくどいな。お前だって想像はついているだろ」
「まあね。ただ、祈っただけで、作用するものなのかと怖くなった」
確かになと思った。
光の力には、『導き』がある。進むべき道の一つを夢に見せてもらうようなイメージだ。より豊かに、より強く、より幸福になるための道だ。だが、その『導き』は滅多に起こらない。今の皇族の持つ光の力としては、人々への癒しや浄化、国土の守りが主だ。そのおかげで大地は肥沃で疫病が蔓延することもない。常に人々も国土も元気がある。そもそも、『導き』が起こる際はそれだけ国に大きな問題が起きた時だ。故に『導き』が起こらないイコール国が安定しているということなので、皇族内では『導き』が起きないことが理想とされている。
なのに、最も光の力が強いグランツと、その次に強いエドアルドが『リアムの悩みが解消されますように』と祈っただけで、解消された。それは、おそらくリュシーに作用――『導き』があったはずだ。
なぜなら四ヶ月前に、リュシーが一番先に変わったから。いや、変わったというよりは元気で活発さを取り戻したと言って良い。
萎縮していたリュシーが、何かをキッカケにそれをなくした。そのおかげテオに対して物怖じすることがなくなった。
何かがあったことは確実だが、リュシーは言い淀んだため追及することはやめたが……
「テオはどう思う? もしも今後もそのようなことがあるなら、色々と対策をしなければならない」
「問題はない」
「どうして?」
「すべての条件が偶然整っただけだ。最も光の力が強い二人が祈り、その先は僅かだが皇族――光の力の血と、闇の力の血を引いたリアムだった。そして、リアムの願いは闇の力を濃く受け継ぐ俺がこの世で最も愛している人間のことだった。闇の力と光の力は同じ神だからな。リュシーが強く導かれても不思議ではない」
「……なるほど」
恐らく、リアムの願う相手が子どもたちだったら導きはなかっただろう。テオはリュシーとの子どもを大切にしているし幸福を願っているが愛してはいない。全ての愛はリュシーにしか向かっていないからだ。また、その相手が自分だったとしても導きがあるのはリュシーだろう。テオは自身の幸福に興味がなく、とにかくリュシーが幸福であれば良い。故に、リアムがテオの幸福を祈ったとしても、幸福になるべきリュシーに導きがあった方が効率的だ。
「他の人間を祈ったとしても導きはないから安心しろ。まぁ、同じように願う相手がリュシーだったら、また同じことは起こるかもしれないが」
「…………はぁ~、そっか」
グランツは息を吐いて深くソファーに沈む。心底力が抜けたようだ。
「良かった。もし今後も他者に導きがあったらと思ったら、私もエドも考えなければならなかったよ。でも、彼なら、うん、問題はないかな?」
「このことは誰が知っている?」
「私だけだよ。エドは祈りが通じたと思っていない。ただリアムが幸せそうで嬉しいってことしか考えていないよ」
「あいつは本当にリアムが大好きだな」
他にこのことを知っている人間がいないなら、テオが気にすることはない。
「そうだね。多分リアムと結婚したいって言い出すんじゃないかな」
「婚姻関係が認められるのはどちらかが孕める場合だけだろ」
気が早い話だが、一途な人間は本当に一途だ。テオ自身、初めて会った時からリュシーしか目に入らない。
リアムとエドは男同士。結婚するならどちらかがオメガでかければならないため、場合によっては結婚は許されない。
「第二の性は大体十四、五歳で発現するだろ? もしどちらかがオメガだったら絶対エドはリアムにプロポーズするね」
「かもな」
「嘘嘘。オメガじゃなかったとしてもプロポーズすると思う。リアムと一緒になる方を取るよ。どうする?」
「別にどうもしない。リュシーが悲しまなければ何でも許す」
「相変わらず伴侶至上主義だなぁ。何で最初からもっと優しくしなかったの」
「……」
それはひとえに、自分が意気地なしだったからだ。
様々な要因から、幸せにしたいと思っていても正直分からなかったせいでリュシーは恐縮しっぱなしで、テオには恐怖心と罪悪感を抱いていた。
それを改善しなかったのは、心のどこかで、今が最良だと思っていたからだ。
リュシーの恐怖は、周りがテオの闇の力に恐怖を持っていたこととは違い、単純に体格差や力の差に怯えていた。一度、リュシーの目の前で不埒な輩に制裁をしたことがあるため、そこから暴力に怯えるようになったのだ。その時、リュシーにはその制裁の理由を伝えなかったし気付いていなかったから、リュシーの目には『理由もなく暴力を振るう人間』に映っていたはずだ。だから自分がその拳の餌食になったら死ぬと思っている。
だが、もしもリュシーとの距離を縮め、得体の知れない闇の力に怯えるようになったら……と思うと意気地が出なかったのだ。闇の力は自分の一部だ。少しでも否定されたら、絶望してしまう。心根の美しいリュシーに限ってそんなことはないと思う反面、他者と同じ目を向けられたら怖くて堪らなかった。
だから、改善もせず、見せてしまった暴力に怯える状態でいさせてしまった。
……まぁ、全てはテオの妄想でしかなかったが。
――リュシーは、俺の力が怖くないか?
リュシーが乗り込んできて数日経った頃、思わず聞いてしまった。
――知りもしないことを怖がりません。その力で無体なことを強いられたら分かりませんが。
さも当たり前のように答えられた。
見えない、得体の知れない力だからこそ周りは恐怖するのに、リュシーは分からないからこそ恐怖しないと言う。やはりリュシーは普通ではない。リュシーの両親も、貴族にしては謀や政治、権力からは程遠く、正しく身の丈と幸せを知っている人間だった。だからこそ、伯爵領は他領に比べて領民の幸福度が高かったのだろう。
改めてリュシーを育ててくれた両親には感謝しかない。屋敷に戻ったら改めて何かを贈ろうと決めた。
「俺たちのことはいいんだよ。で? 用件は終わったか?」
「あぁ、うん。終わったよ」
「じゃあ帰る」
「はいはい。あ、ちなみに、伴侶殿に導きがあったってテオは知っていたかい?」
「いや? 何かあったとは思っていたが、まさか導きまであったとは思わなかった」
「だよね。彼にはきっと不思議体験だったろうから易々と口外するとは思えないけど、一応口止めはしておいてくれ」
テオは適当に頷き、皇都にある屋敷へと戻った。
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