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少女の世界
しおりを挟む私の世界はひどく狭い。
だがそれは、ファータとして、かつ王女として生まれたのだから仕方がないとも言えるだろう。
大陸全てを直接見聞きしたわけではない──先生たちが外のことを話してくれることもあった──から、もしかするとここと違ってファータを虐げることのない世界があるかもしれない。
そんな理想郷があるのなら、こんな自分を縛り蝕むもの全てを捨てて飛び込んでいきたい。ここに残して惜しいものなど何一つないのだから…
(お母様の墓も壊されてしまったのだし)
けれど、今の私にその自由はない。
王族という立場とファータの容姿、私を何がなんでも救い出すなど馬鹿を見るやつも居ないのだ。
逃げ出すにも王宮は警備が多いし、仮に私を逃がせたとしても一国の王女が誘拐となれば犯人は処刑、もしくはそれに準ずるものが下されるだろう。
例えそれがファータという異端でも。
勿論一人で抜け出すのは不可能だ。厳重な警備を潜り抜け、逃亡生活を送るなどろくに働いたことのない私には無理だ。
隔離されて生きてきたからだろうか、社交界など出ることは叶わず、出会いの場がなければ友人はその立場ゆえに出来るはずがない。
いたとしても随分と年の離れた大人たちばかり。
侍女は身分が高くないものが選ばれ、ファータに関する知識が足りないため怪物のように怯えられる。さもなくば首を切られるので下手に動けないのか、元々動く気がなく見捨てているのか。
かといって物好きはいるものだ。
彼らは私のために行動しては追放される。
その殆どが善良であったのだが、それ故に相手にも…上位の者たちにも当たり前の事のように等しく善良さを求めてしまったのだ。
勿論、上の人間が個人的感情で一般的な認識──すなわちファータが人とは異質なものであるという考え──を否定するわけにはいかなかったことも知ってはいたのだろう。が、それと納得するしないは別問題だ、と考えたのか。
その風潮を促した一因が私にもある。
「何故反抗なさらないのです、このような場所に閉じ込められ、一生をここで終えるとでも仰るつもりですか!?」
「かわいそすぎるよ、未だこんなに小さいのに一度もお城の外に出してもらえないなんて」
「ごめんなさい、一緒にはいられなくなりました」
「酷いよ皆して!こんなちっちゃな子苛めるなんて!良心はどこに行ったの!?」
反抗は出来なかった。
私はわからなかったのだ、自分の為すべきことも、自分の望みも。大切な人は次々と何らかの理由で離れていく。母は病で、侍女や先生たちは辞めさせられ、一部の貴族たちは汚職や襲撃... 暗殺で。
真実かどうかではなく、それが事実と噂されるのが問題なのだ。この噂で私の味方になれば結果的に死ぬ、という認識になった。
そして現在、例え死んでも貴方のためならば構わないと言っているのが一人、面白そうだからと協力者が一人、利用価値があるからと私を駒と思っているのが数人いる。因みに最後のは、反王勢力、というかこの世界そのものの破滅と再構築を祈る邪神教の奴らだ。
割と有名な話だが、この世界の破滅と再生は繰り返され、その実行者が”サイ“──災であり祭を司るもの──という神らしい。
災は言うまでもなく破滅を引き起こす災厄のことだ。
祭は汚れきった世界を浄化する、救いの儀式という解釈をする。
どちらにせよ世界を破滅するとかほざく連中だから、世界に絶望し疲弊した者が集まる。私のようなファータはその格好の獲物で、かつ側室の子とはいえ曲がりなりにも王女、もしも本格的な活動をするなら私の権威を回復させ、その影響力で邪神サイ召還の儀式を行うための都合のいい人柱か象徴にするかもしれない。
そんな危険物も使いようによっては便利な道具だ。今回の案件を垂れ流しもし私を救えるなら後に協力してもいい、と訴えたら?
王の決定に逆らうという彼らの快感のツボを的確に押せるのでは?
また、連中中々目の付け所が良く我が国の中枢にまで食い込んでいるらしい。表向き私の立場が無くなっても、匿い悲劇の王女として彼らの士気を上げたり大義名分を掲げるのに利用してくることも考えられる。
そして、と考えを巡らせながら自室に戻り、誰も居ないことを確認したあとカーペットを足でトントンッと二度踏み込む。二度目にガチャリと小さな音を立てて足元が沈み始め、いつものように素早く避けて真四角の穴ができるのを待つ。穴の側面にある取手をつまみ力一杯引き出す。
所謂仕掛け扉で、小柄な人間しか入れない仕様になっている。一見ただの引き出しだが、足を入れると透明な階段が現れるのだ。
普通の貴族女性、ましてや一国の王女がその穴に体をねじ込むなど考えもつかないだろう、まずドレスが邪魔で足を入れることすら叶わないかもしれない。が、一体どういうわけかしゃがみこむと何の遮りもなく穴を通れる。カモフラージュのためクモの巣を穴周辺に仕掛けているのでバレることは早々ない。
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