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少女の怒り
しおりを挟む「成る程な、そうしてあやつを始末すると言うのか... 」
扉の向こう、私の重たい未来を何でもないように告げた男の名は、ゴルバド・メチ・ティネンテ... このティネンテ王国の第三十四代国王だった。
幼い頃より私の容姿は多くの人間に忌み嫌われてきた。
黄緑色の髪と金色の瞳。外に出してもらえなかったため、青白く精気がない肌。満足な食事を与えられなかったために骨と皮でできたような体つき。
侍女達ですら世話役を押し付け合い、たまに善良な人がその現状に対し上に反発しては権力者たちに様々な方法で辞めさせられていく。
私を庇うものもまた、差別され弾圧が行われる。
いくら優しくとも、雇われている立場で上官に、ひいては率先して私を疎ましく思う王族に楯突けば当人のみならず親族すら国内で安全に暮らせなくなる。
───私のせいで。
たまたま王が落とした万年筆を拾い、侍女に渡そうにもこちらと距離を取り忙しなく動く彼女たちでは頼み事も出来ない。だから自分の足で届けに来たのだ。
道すがらすれ違うものたちはそそくさと早足で避けるか厄介な虫を見る目を向けてくる。
小さくため息をついて、敢えて堂々と背を伸ばし歩く。
決して負けてはいけないのだ、曲がりなりにも王族に生まれたのだから。
実際、王から直接コンタクトを取られたことは一度もなく、半幽閉中の身では王に取り次ぎなど出来るはずもない。
けれど、お母様は「王は決して冷酷な方ではなく、統治者として確かに正しいのよ」と教えてくれた。
そのお母様も、既に他界しているのだけれど。
お母様の言葉を信じるならば、王だけは確証もない謂れで私を陥れることはないかもしれない。そう、僅かな期待はあった。
その期待、いや唯一の希望といってもいい。それがこうもあっけなく散ってしまうなんてと、流石の私も震え出す程の衝撃だった。
言葉にすると軽いダメージにも聞こえるが、ドクドクと全身が脈打ち、燃えるような熱が体を駆け巡るような感覚…
両手を組み指が赤くなるのも構わず力を込め、節々の軋む音すら今の私にはありがたかった。
こうでもしなければ正気でいられないかもしれないと、寧ろそちらの方が恐ろしかったのだ。
多少痛みで頭が冷えたので、再び向こうの気配を探る。目下の課題は、この万年筆をあの男に届けることだ。
因みに、ここは特殊部屋であり、王族のみに知らされる隠し通路の一つだ。かつて私の味方となってくれた男から教わったことの一つであり、何故一介の教師にすぎない者が知っていたのかはわからない──というか、表に出せない事情とやらなのだとか。
私がこうして今も生きていられるのは、彼のような大勢の勇敢な人の血と汗と涙のお陰で、それがなければとっくの昔に潰れていたのだ。
「それでは、民にこの事を公表するのは三日後にいたしましょう。それまでにはアリス姫を送り出す準備も終わるでしょうから」
「うむ、姫には儂からじきじきに名誉ある婚姻として話しておこう。変に探られても困るのだ、先に厳かなものとするために公表を遅らせたとでも言えば民も納得するだろう」
「名誉ある婚姻としてですか」
「あれは容姿では失敗だったが、都合のいい駒としては十分役に立つ。何しろ大陸で初の妖精王の妃なのだからな」
カランカラン
ビクッ
手にあったはずの万年筆が落ちたのだ。幸いこちらからの音はあちらに聞こえない作りのため、彼らの動じる様子はない。
しかしまさか、妖精王か…
予想すらしていなかったが、実在するかも怪しい存在に厄介払いされるとは。いやいや、つまりは排除されるということ。これまで別のファータの顛末を聞かされていたので、考えられる可能性は暗殺である。王とて裏取引の話は知っているだろうから、嫁いだはずの姫が商品として出回るのはバレたときに外聞が悪いと商人に捕まる前に殺しに来るはずだ。
つまりは最長に見積もってあと三日の命。
「フッ…フフッ」
今どんな顔をしているのか自分ではわからないが、人を憎いと思うのに笑いが込み上げてくる。何とも不思議な心地だ。
そっとその場から離れ自室へと戻る。
このとき既に万年筆のことは頭になかった。あったのはただ、未来への絶望感と仄かな喜び。
(お母様、私ももうじきそちらへ参ります。だからどうか、最後の足掻きは許してくださいな)
──死ぬのなら、望む死に様でと言うでしょう?
お母様は今頃お母様の言葉を都合良く解釈してしまった私を呆れているのかしら?
涙はとっくに枯れ果てた。悪意も善意も結局は私を追い詰める。
私自身を害するのも、私の恩人たちを害するのも、恩を仇で返すことへの恨み、自己嫌悪、完全に孤独ではないという言い訳…それによる満たされない幸福感。
お母様、私のようなものに王族の血など過ぎ足るものでした。何故なら、私は国を守りたいなどとは思わないからです。人を愛することができない私に、どうして他者を守り育むことができましょう?
何故、私は王族なのでしょう?
「誰も答えはくれないのね」
その時、漏れた言葉を拾うものはいなかった。
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