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第2章 大星祭編
第69話 取引 1
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「レディースアンドジェントルメェーンッ!!」
その大声でハッと目を覚ました。
気づけばいたのは、ライトアップされたステージの上。見上げれば、思わず目をつぶってしまうほど眩しいライト。正面には暗闇の観客席。かなりの数の人が目を光らせている。
何よ、これ………………。
そこにいる全ての観客が、身震いをしそうな気持ちの悪い視線を私に向けていた。中には体をなめまわすように見ている人もいる。
変態的な視線に、思わずゾッとした私は視線を正面から隣へと逸らす。その勢いのまま右隣を見ると、いたのはマイクを手にして意気揚々と話す赤髪の少年。赤と黒のひし形模様のマジシャンハットとスーツを身にまとっており、サーカス団のよう。
左は、と横に首を振ると、意識を失う直前に見た白髪の少女がいた。赤と黒のひし形の模様のワンピースで、手元は肘の長さまである手袋をはめ、メガネをかけている。黙って立っている姿は精巧に作られた人形のよう。
少年と同じようなマジシャンハットを深く被っているが、顔は確かにあの少女。彼女もマイクを持っているものの、少年とは異なり、黙って静かに前を向いていた。
この子………確かイシスって呼ばれていた、よね?
てっきり少年だと思っていたけど、少年の本当の姿はは少女。
この状況から仮定するに、少年セトは先生が作り出した仮想世界の人間ではなく、本物の人間だった。また、少年セトなど存在しなかった。
私ははめられたのね………………。
誰にはめられた?
…………いや、誰には分かっている。十中八九、この両隣にいるイシスと少年だろう。
――――――ではなぜ? なぜ私を攫った? 目的は何?
「皆様、ご覧ください! この白銀の美少女こそ、あのアーサー殿下の婚約者! エレシュキガル・レイルロード!」
そう少年が高らかな声を上げた瞬間、おぉと歓声が上がる。
「ど、どうやって捕まえてきたッ!? 大星祭が行われていたはずだろうッ!?」
「えー、それは教えられないなぁ~」
「うん、企業秘密、だよ………」
一番前にいた男の質問に、笑顔で答える少年とイシス。
どうやらオークション会場のようで、私はそのオークションの商品みたいだ。人身売買があるのは知っていたけど、まさか自分が売られることになるとは。
にしても、この服はなんなの………………。
着ていたのは大星祭のために作られた白の軍服ではなく、ビスチェのようなバニーガールの服。頭には長いウサギ耳のカチューシャが付けられ、足元は黒のハイヒール。随分と際どい格好をさせられていた。また、手には妙に太い手錠で拘束。接合部分に大きな赤の魔法石が輝いている。
何か何だか分からないけど、とにかくここを離れた方がいい。嫌な予感がする。近くに杖はないけど、杖なしでもこのくらいの手錠と敵なら何とかなる。
そう思い、手に魔力を手中させるが……………。
――――――え? うそ?
魔力を感じない………魔法を封印されているのだろうか。
ならばと、物理で手錠を壊そうとしたが、うんともすんとも言わない。というか、全身に力が入らない。正直、椅子に座っておくのがやっとだ。
交渉しようと、2人に声をかけようとした。しかし、声が出せない。口は開けるが、声が音にならない。口はぱくぱくとするだけ。
「エレシュキガル、無駄な抵抗はやめたほうがいいよ」
私の抵抗に気づいたのだろう、少年に耳元で囁かれた。
どうしようもできない私は、仕方なく彼の忠告を聞きいれると、少年はニコッと笑い、また正面へと向く。
「文字通り、捕まえたてほやほやの王子殿下の婚約者! もちろん、彼女は今日の大目玉!」
「この先二度と手に入らない、と思うよ………?」
「彼女の言う通り! 誰かが手に入れちゃったら、手放さないだろうからね! じゃあ、最初はいくらから行こうか?」
「うーん………10億リィル、からかな………」
イシスの返答に思わず、目を見開く私。
10億って、世界で一番高額な杖と同じ金額じゃない…………平民なら働かなくても、一生暮らしていけるお金だわ。それを払える人間がここにいるというの?
高額にも関わらず次々に手が挙がり、声が上がる度、跳ね上がっていく金額。その度に両隣から聞こえる嘲笑の声。イシスと少年は目を怪しく光らせていた。
「もういない!? ………ああ、そこの人! 迷ってるなら、金額言っちゃって! 70億リィル!? いいじゃんっ!! 他は!? 他はまだいるっ!?」
少年の声が興奮で上がっていくのと反対に、私は顔を俯けていた。
私、このまま売られるの………………?
そんなの嫌だ。売られて、何されるのか分かったものじゃない。
だが、魔力も物理も封じられた私は、どうすることもできず、オークションが終わるのをただただ黙って待っていた。
★★★★★★★★
オークションが終われば、2人と話ができると思っていた。落札されても、闇のオークションと言っても、手続きがそれなりにあるはず。買い手にそのまま私に手渡されるなんてことはないと思っていた。
「エレシュキガル、おやすみ」
だが、オークション終了後。
少年に肩に触れられると、途端に視界が歪み、また意識を奪われた。
「起きて、エレシュキガル」
その掛け声とともに肩を叩かれ意識を戻すと、目の前に広がっていたのはオークション会場ではなく、別の部屋。
貴族が所有する屋敷のように、豪勢な装飾とシャンデリア。下に敷かれている絨毯の模様は思わず見とれてしまうほど美しい。座らされていたソファは雲の上にいるかのようにフカフカ。ずっと座って痛いほど心地が良かった。
もちろん、色々気になることはあった。
1つは窓が1つもないこと。だるい体を動かして頑張って見える範囲は確認したが、ドアはあっても窓はどこにも見当たらなかった。地下なのだろうか。
2つは私の服はまた変えられていたこと。先ほどはバニースーツだったが、今はシンプルなワンピース。靴までハイヒールから白のブーツに履き替えられていた。神まで三つ編みに結われている。
でも、それよりも気になることが………。
「へぇ………これ、本物なん?」
私たちの対面に座っていた彼女――――魔王軍幹部シュレイン。
私の宿敵がティーカップを片手に、1人静かに座っていた。
――――――――
来週もよろしくお願いします<(_ _)>
その大声でハッと目を覚ました。
気づけばいたのは、ライトアップされたステージの上。見上げれば、思わず目をつぶってしまうほど眩しいライト。正面には暗闇の観客席。かなりの数の人が目を光らせている。
何よ、これ………………。
そこにいる全ての観客が、身震いをしそうな気持ちの悪い視線を私に向けていた。中には体をなめまわすように見ている人もいる。
変態的な視線に、思わずゾッとした私は視線を正面から隣へと逸らす。その勢いのまま右隣を見ると、いたのはマイクを手にして意気揚々と話す赤髪の少年。赤と黒のひし形模様のマジシャンハットとスーツを身にまとっており、サーカス団のよう。
左は、と横に首を振ると、意識を失う直前に見た白髪の少女がいた。赤と黒のひし形の模様のワンピースで、手元は肘の長さまである手袋をはめ、メガネをかけている。黙って立っている姿は精巧に作られた人形のよう。
少年と同じようなマジシャンハットを深く被っているが、顔は確かにあの少女。彼女もマイクを持っているものの、少年とは異なり、黙って静かに前を向いていた。
この子………確かイシスって呼ばれていた、よね?
てっきり少年だと思っていたけど、少年の本当の姿はは少女。
この状況から仮定するに、少年セトは先生が作り出した仮想世界の人間ではなく、本物の人間だった。また、少年セトなど存在しなかった。
私ははめられたのね………………。
誰にはめられた?
…………いや、誰には分かっている。十中八九、この両隣にいるイシスと少年だろう。
――――――ではなぜ? なぜ私を攫った? 目的は何?
「皆様、ご覧ください! この白銀の美少女こそ、あのアーサー殿下の婚約者! エレシュキガル・レイルロード!」
そう少年が高らかな声を上げた瞬間、おぉと歓声が上がる。
「ど、どうやって捕まえてきたッ!? 大星祭が行われていたはずだろうッ!?」
「えー、それは教えられないなぁ~」
「うん、企業秘密、だよ………」
一番前にいた男の質問に、笑顔で答える少年とイシス。
どうやらオークション会場のようで、私はそのオークションの商品みたいだ。人身売買があるのは知っていたけど、まさか自分が売られることになるとは。
にしても、この服はなんなの………………。
着ていたのは大星祭のために作られた白の軍服ではなく、ビスチェのようなバニーガールの服。頭には長いウサギ耳のカチューシャが付けられ、足元は黒のハイヒール。随分と際どい格好をさせられていた。また、手には妙に太い手錠で拘束。接合部分に大きな赤の魔法石が輝いている。
何か何だか分からないけど、とにかくここを離れた方がいい。嫌な予感がする。近くに杖はないけど、杖なしでもこのくらいの手錠と敵なら何とかなる。
そう思い、手に魔力を手中させるが……………。
――――――え? うそ?
魔力を感じない………魔法を封印されているのだろうか。
ならばと、物理で手錠を壊そうとしたが、うんともすんとも言わない。というか、全身に力が入らない。正直、椅子に座っておくのがやっとだ。
交渉しようと、2人に声をかけようとした。しかし、声が出せない。口は開けるが、声が音にならない。口はぱくぱくとするだけ。
「エレシュキガル、無駄な抵抗はやめたほうがいいよ」
私の抵抗に気づいたのだろう、少年に耳元で囁かれた。
どうしようもできない私は、仕方なく彼の忠告を聞きいれると、少年はニコッと笑い、また正面へと向く。
「文字通り、捕まえたてほやほやの王子殿下の婚約者! もちろん、彼女は今日の大目玉!」
「この先二度と手に入らない、と思うよ………?」
「彼女の言う通り! 誰かが手に入れちゃったら、手放さないだろうからね! じゃあ、最初はいくらから行こうか?」
「うーん………10億リィル、からかな………」
イシスの返答に思わず、目を見開く私。
10億って、世界で一番高額な杖と同じ金額じゃない…………平民なら働かなくても、一生暮らしていけるお金だわ。それを払える人間がここにいるというの?
高額にも関わらず次々に手が挙がり、声が上がる度、跳ね上がっていく金額。その度に両隣から聞こえる嘲笑の声。イシスと少年は目を怪しく光らせていた。
「もういない!? ………ああ、そこの人! 迷ってるなら、金額言っちゃって! 70億リィル!? いいじゃんっ!! 他は!? 他はまだいるっ!?」
少年の声が興奮で上がっていくのと反対に、私は顔を俯けていた。
私、このまま売られるの………………?
そんなの嫌だ。売られて、何されるのか分かったものじゃない。
だが、魔力も物理も封じられた私は、どうすることもできず、オークションが終わるのをただただ黙って待っていた。
★★★★★★★★
オークションが終われば、2人と話ができると思っていた。落札されても、闇のオークションと言っても、手続きがそれなりにあるはず。買い手にそのまま私に手渡されるなんてことはないと思っていた。
「エレシュキガル、おやすみ」
だが、オークション終了後。
少年に肩に触れられると、途端に視界が歪み、また意識を奪われた。
「起きて、エレシュキガル」
その掛け声とともに肩を叩かれ意識を戻すと、目の前に広がっていたのはオークション会場ではなく、別の部屋。
貴族が所有する屋敷のように、豪勢な装飾とシャンデリア。下に敷かれている絨毯の模様は思わず見とれてしまうほど美しい。座らされていたソファは雲の上にいるかのようにフカフカ。ずっと座って痛いほど心地が良かった。
もちろん、色々気になることはあった。
1つは窓が1つもないこと。だるい体を動かして頑張って見える範囲は確認したが、ドアはあっても窓はどこにも見当たらなかった。地下なのだろうか。
2つは私の服はまた変えられていたこと。先ほどはバニースーツだったが、今はシンプルなワンピース。靴までハイヒールから白のブーツに履き替えられていた。神まで三つ編みに結われている。
でも、それよりも気になることが………。
「へぇ………これ、本物なん?」
私たちの対面に座っていた彼女――――魔王軍幹部シュレイン。
私の宿敵がティーカップを片手に、1人静かに座っていた。
――――――――
来週もよろしくお願いします<(_ _)>
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