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地獄の番犬リジー

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「んっ……んふっ、んんんっ、んあっ、あっ……ああっ、それ、だめぇ……」

 あれから毎晩、リジーはエルシーのベッドの上で、エルシーの身体中を舐めまわして絶頂に追い込む。もちろん、エルシーだって初めは拒絶した。でもどんなに部屋から追い払っても追い払っても、リジーはいつの間にかベッドの上でエルシーを組み敷いていたし、上に乗られてしまうと、エルシーの力では、大型犬のリジーに敵わない。そして、人に苦情を告げることもできなかった。――毎晩、口にするのも恥ずかしい場所を舐めてくるから、なんて言えるわけがない。

 それに、他の点においてはリジーは非常に利口で、一人暮らしのエルシーの安全を守る番犬として極めて優秀だった。家では一緒に寛いだり、リードを繋いで買い物に行ったり。エルシーが読んでやる書物を、わかったような顔で聞いて、面白い場所では理解して笑ったりする。エルシーもリジーのことは嫌いではない。……嫌いではないし、何より気持ちいいので、エルシーもつい、流されてしまうのだ。

 しかし、毎晩、犬に舐められて感じて喘いで何度も絶頂して、これでは正真正銘の、変態ではないか。淑女としてよくない、神様の罰が当たるのでは、とエルシーは密かに怯えている。こんなことがおばあ様に知られたら、と考えるだけで恐ろしい。だから毎晩、口では「今夜はダメ」とリジーを叱るけれど、結局、気づけばリジーに翻弄されている。

 今夜も、リジーは器用にエルシーの寝間着ネグリジェを口でめくって秘所を露出させると、長くぬるついた舌で秘裂を割り、すでに湿り気を帯びた花弁を舐める。

「ひあっ……」

 ハフハフと荒い鼻息を吐き、リジーは尖った鼻をエルシーの秘所に擦り付け、ベロベロと舐めまくっている。すでに赤く腫れて立ち上がったクリトリスの裏筋をベロンと舐められて、エルシーは甲高い悲鳴をあげる。

「ひゃあっ、だめ、それ、だめ、また、イっちゃ、ああっ、りじー、だめ、あっ、あっ、あああっ……」

 ついに古いベッドの上で体を反らし、エルシーは絶頂する。犬はエルシーがイっても容赦せず、ぶわりと溢れる蜜をじゅるじゅると吸い上げ、いっそう奥まで舌を這わせてくる。

「ああ―――――っ、あっア――――っ」

 エルシーを失神するまで追い詰めてから、リジーはようやく満足したように顔をあげ、長い舌で自身の口の周りを拭う。部屋にはエルシーの甘い香りが漂い、リジーはその香りで酩酊しそうになる。そうしてぐったりとベッドに汗ばんだ身体を投げ出し、目を閉じて荒い呼吸をするエルシーの肩口に顔を寄せ、スンスンと香を吸い込み、べろりと頬に舌を這わせ、そのまま唇も舐めてくる。

「う……ん……り、じい……?」
「くう~ん」

 エルシーはゆっくりと顔を向け、リジーの温かい、長い鼻を撫でてやる。

「ねえ、もう、ダメって言っているのに、どうしてするの?……お前は別にいいことないでしょうに……」
「きゅ~ん」

 エルシーの頬から耳元をベロベロと舐め、リジーがエルシーの隣に大きな体を横たえる。

「もう、寝ないと……明日も早いわ……お休み……」

 エルシーが長い睫毛を伏せ、すうっと眠りに入るのを見届け、リジ―はそっと、ベッドから抜け出す。エルシーが寝冷えしないよう毛布を口で引っ張って体を覆ってから、リジーは足音を立てないようにドアを開け、真っ暗な階段を下りていく。キッチンに近い、裏庭へのドアに近づき、ふんふんと匂いを嗅いで、暗がりに身を顰める。耳をピンと立て、外の音に耳を澄ませる。

 ……キイ……ガサ、ガサ……草と砂利を踏みしめる音がして、扉の向こうに人の気配がする。リジーはゆっくりと立ち上がり、金色の瞳を爛々と煌めかせ、態勢を低くした。

「……兄貴、この家かよ? その、別嬪が一人暮らしってのは」
「シッ……声を出すな。そうさ、貴族出の、飛び切りの美女シャンだ。売り飛ばして金にする前に、俺たちも楽しもうぜ……」

 裏木戸にはもちろん鍵もかかっているが、空き巣に慣れた男たちの手にかかれば簡単に破られる。カチャリ、と男たちは手慣れたしぐさで鍵を開け、そっと木戸を開く――。

 その瞬間。
 
「グルルルルルル……ガウッ!」
 
 真っ暗な室内から、何か飛び出してきて、踏み込もうと思った男の喉笛にとびかかる。

「うわっ、兄貴、なに!」
「ガウ!」
「うわあ、なんだこれ!」
「グルルルルル!」

 闇の中に光る二つの金色の瞳、真っ黒な身体で凛と立つ姿が月明りに浮かび上がる。

「フウー―――ッ! ガウッ!」
「い、いぬ? 犬なんて飼って……」
「畜生が、ただの犬じゃねぇか! 邪魔しやがって!」

 とびかかられた男は、咄嗟に喉を庇った腕を噛まれて痛みにヒイヒイ言っているが、もう一人が手にしたこん棒を振り下ろす。犬はその右手に軽々と飛びつき、手首に噛みつき、そのまま体重をかけて押し倒す。大きな太い前脚で肩を押さえられ、身動きも取れない。下から見上げれば真っ黒な巨大な犬の両目が金色に輝き、大きく開いた口から尖った牙が月光に光る。

「ひいい! 喰われる! 放せ! 兄貴ぃ、助けてくれぇ!」

 その頃には、異変を察知した近所の犬があちこちで「ワン!」「ワオン!」と鳴き始め、中にはガラリと窓を開けて犬を叱る者も出た。

「ジョン、うるせーぞ、何事だ!」
「ワン!ワン!ワン!」

 腕を噛まれた男がそろそろと立ち上がり、後ろも振り返らず逃げていく。

「あ、兄貴い、助けてくれよぉ!」

 リジーは男の顔の至近でわざとくわっと口を開いて「グルルルルル」と威嚇すると、すっと体重をずらし、男はその隙に転がるように逃げていく。
 
「ヒイイ、地獄の番犬だあああ!」 
「グルルルルル……」

 しばらく裏口で、牙を剥きだしにして仁王立ちし、暴漢が去るのを見届けて、黒いリジーは鼻先を天に向け、遠吠えした。

「ウォー――――――ッ」

 近所の犬が「オォー」「ウォー」と数頭、呼応するのを確かめ、犬は器用に扉を閉めて家の中に戻る。

『……ったく、何人目だ。王都の治安、悪すぎるぞ。市警ヤードは何やってんだ! こんな家に大事なエルシーを一人で置いておけん!』

 リジーはぶつぶつと呟き。鼻先で器用に鍵をかけてから、今度は表側の玄関の見回りに出掛けた。


 

 
 
 翌朝、エルシーが起きた時には、リジーは裏庭を元気に駆け回っていた。エルシーは何も知らず身支度を整え、キッチンでお湯を沸かし、朝食を準備する。リジーの好物はバターたっぷりのトーストと卵、ベーコン、そしてニシンの燻製キッパード・ヘリング。ニシンは塩辛過ぎるのではと思うが、出さないと怒るので仕方がない。そして熱い紅茶。コーヒーはブラックで飲む。本当に犬なのかしら、と疑うレベルだ。――エルシーのいないところでは、煙草も酒も飲んでいるが、もちろん、エルシーは知らない。

 朝食の準備が整ってリジーを呼び入れると、今朝もリジーはたくさん食べ、一緒に出勤する。

 出勤途中にやっぱり、ハートネル中尉が声をかけてきて、そしてリジーにグルグルとすごまれて退散する。司令部に到着すると、リジーを司令室に預け、エルシーは事務室へと向かう。

 リジーは指令室に駆け込むと、どさっと偉そうに椅子に寝そべり、ふわーっと大口をあけて欠伸する。尖った牙がむき出しになり、見慣れた側近たちも恐怖で身が竦む。

 リーン大尉が煙草に火を点けて咥えさせると、美味そうに吸ってから、言った。

『昨日もまた、出たぞ。いい加減、あの家、引っ越しさせないと』
「またっすか! 今までどうしてたんすかね?」
『今まではばあさんもいたし、男の執事も、メイドもいたからな。忍び込むほどの金目のものがあるわけじゃない。でも、エルシーが一人なら話は別ってわけだ』
「物騒っすね。……市警ヤードの見回りも強化してもらってますが……」

 リジーは煙草を吸い終わるとぺっと灰皿に吐き出し、椅子に座り直す。

『バージェス街のアパートメントはどうなっている?』
「契約も済んで、家具の搬入もあらかた終わりました。でも、ジュリアンは事情を知ってますが、メイドや料理人にどこまで話します?」

 リジーはリーン大尉の差し出す新聞を机の上に広げ、覗き込む。

『それなんだよなあ……アルバート王子不在で、犬とエルシーだけ引っ越しは、不自然過ぎるなあ……』
「まだ呪いは解けそうにないんですか?」

 リジーは顔をしかめるが、もちろん、人間には表情の違いはわからない。

『エルシーがキスしてくれないからなあ……』
「あのタイプは手ごわいですよ。ニコラス・ハートネルなんか、一向に振り向いてもらえてないし。人間でも無理なんですから、ましてドーベルマンじゃね」

 リジーは、顔を上げ、リーン大尉に命じた。

『あのハートネル、まじでしつこい。ちょっと見張っておけよ。嫌な予感がする』
 
 リジーはそう言って、リーン大尉にもう一本、煙草を要求した。

「エルシーたんとの生活はどんな感じなんです? 彼女、お嬢様でしょ、食事とかどうしてるんです?」
『エルシーたんとか、馴れ馴れしいぞ。……俺も驚いたが、意外と料理が美味い。昨日はカレーを作ってもらった』 
「カレー?」

 リーン大尉が目を剥く。

「まじで?」
『ああ、チキンカレーだ。スパイスが効いて美味かった』
「いや、あり得なくないっすか?」
『そりゃあ、あんな美人で料理上手なんて、めったいない――』
「そうじゃなくて、犬にチキンカレー食わせるなんて、どうかしてるでしょ。動物愛護団体にバレたら非難囂々だよ」
『俺は犬だけど犬じゃないからな。デザートまであって、美味かった。羨ましいだろう』
「犬に飼い主の料理上手を自慢されても微妙っす。犬の生活楽しー、エルシーたんかわいいー、このままでいっかー、とか思ってないですよね?」 

 部下に内心を言い当てられ、犬は紫煙をぷかりと吐き出した。

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