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3.聖霊神殿へ
危険な森の、更なる危殆
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途中立ち寄った村を後にし、俺たちは更に先へと進んでいた。
目的地までは、多少は距離がある。
大人の足でも数日掛かるんだ。メニーナとパルネが加われば、もっと時間を食うのは仕方がない事だった。
更に……。
「ねぇねぇ、ゆうしゃさまぁ! あれは!?」
「……ゆうしゃさま。……この花についてですが」
といった具合に、2人は事ある毎に気付いた疑問を俺にぶつけて来ていた。
それに丁寧に対処していては、時間がいくらあっても足りないってのが実情だった。
かと言って、あまりここで時間を浪費している訳にはいかない。
人界ではクリークたちが旅を続けており、何かしら問題が起こっているかも知れないしな。……まぁ何かあればイルマから「通信石」で連絡が入るだろうけど。
それに、魔王リリアの事も放っては置けない。
彼女と今後の事に関する話し合いを持たないといけないし、もし問題が発生していたなら2人で取り組む必要があるだろうしな。……もっとも、大抵の事は彼女1人で何とかなっちまうんだろうけど。
とにかく、余りゆっくりと進んでいる訳にもいかないからな。
俺は彼女達の質問になるだけ懇切丁寧な返答を心掛けながらも、先へ進む足を速めたんだ。
そして俺たちは、何とかテムブルム地方に存在する大森林までやって来ていた。
既に俺たちの眼前には森が裾野を広げて存在している訳だが、何処から入っても良い……って訳にはいかない。
いや、入るだけならば何処でも良いんだろうけど、その場合は道なき道を切り開いて……って事になる。
そうなるとやたら時間は掛かるし、とにかく危険度が増す。子供2人を連れてそんな強行軍は、ちょっと選択出来なかったんだ。
だから俺は街道を北上し、森の中へと続く古い道のある場所まで来ていたんだ。
「……よし、ここから入るぞ」
俺が振り返り2人にそう告げるも、彼女達は怯えたような表情で森を見て声も出せずにいるだけだった。
……どうやら、教えた甲斐があったってやつか?
メニーナもパルネも、目の前の森の中から感じられる「気配」に恐れているんだ。
この「聖霊神殿」に続く森は、確かに「スフェラ神山」に比べれば弱い魔物しか出て来ないし、それを考えれば遥かに安全だと言える。
でもそれは、比べる対象のレベルが高過ぎるって話でもあるんだ。
普通に鍛えていない……弱い魔族がこの森を訪れれば、気味が悪く近付きたくないと思うだろう。
ましてや少しでも「気」を感じ取れるならば、今の彼女達みたいな反応を示すだろうなぁ。
「……行くぞ」
「あ……まってよぅ、ゆうしゃさまぁ!」
でも、そんな2人に気を使ってここへは入らない……なんて選択肢はない。
強い気配を感じ取り、何が有害でどれが無害なのかを知る為には多く経験を積む以外に方法は無いからな。
俺は先をゆっくりと進み、その後ろからは身を寄せ合ったメニーナとパルネが俺に遅れないよう付いて来ていた。
ここで魔物でも襲って来れば、それもまた経験になっただろう。
でも残念ながら、今の彼女達ではここの魔物に2人だけで太刀打ちは出来ない。
そして、俺にとってはここの魔物は雑魚程度でしか無いんだ。
「ゆ……ゆうしゃさま……」
「す……すごい……」
だから俺は、あえて気配を発散させながら歩く事にした。
こうする事で、少しでも理性を備えた魔物ならば俺たちに近付こうなんて考えないだろう。
まぁ空腹で目が回っている様な魔物は別だけどな。
そしてそんな俺の「気」を感じ取って、メニーナとパルネは心底感心しているみたいだった。
これまでは何となく俺から「強者の気」を受けそれに威圧される事はあっただろうけど、多分それも「俺が勇者だから」って理由で完結しちまっていたかも知れない。
でも「気」について教えた今ならば、俺から感じ取れる「気」の質も少しは違いを覚えたかもな。
強めているのか、威嚇しているのか、もしくは抑えているのか隠しているのかなど……。
そして今の俺からは「敵を寄せ付けない」と言う強い「気」を感じ取っている筈だ。
とにかくそのお陰で、道中で俺たちを襲おうってトチ狂った魔物には出くわす事が無かったんだ。
―――まぁその結果……奴には気付かれたかも知れないけどな。
森の最奥から感じ取れるやたらと攻撃的な気配に溜息を吐きながら、俺たちはその「気」の発信源へ向けて歩を進めた。
幸い……と言って良いのか、周囲の魔物から感じ取れる気配に怯えている今の2人には、俺の察知した気配の質は分からなかったみたいだった。
それから数刻歩を進めると、前方の樹々が開け何やら建造物が見えて来た。
「……わぁ」
「……すごい」
そこには、真っ赤な沼地の中州に白亜の宮殿が佇んでいたんだ。
こんな人も寄り付かない場所に、随分とまぁ立派な建物を建造したもんだ。
本当だったならさぞかし美しい光景なんだろう。
いや、この白と赤、緑と青と言った美しい配色は、美しいと言って申し分ないんだけどな。
「……2人とも、この沼には絶対に手足を入れるなよ」
俺は湖畔を見つめて、メニーナとパルネにそう注意したんだ。
それを聞いた2人は、ビクッと身を震わせて一歩後退った。
彼女達も、何となく感じたんだろうなぁ。……この沼の水の危うさに。
ドロッとして毒々しい赤……じゃない。
透明感のある綺麗な、澄んだ赤い水ってのがこの沼地を見た第一印象だ。
ここを何も知らず訪れた者ならば、思わずこの水に手を浸し足を付けていたかも知れないな。
もっともこの沼は、単に赤い水を湛えている訳じゃあ無い。間違いなくここは「毒の沼」だ。
それが、恐らく中央に立つ宮殿……いや、神殿か。そこへ魔物を寄せ付けない効果を発揮しているんだ。
ただし、多分最初から毒の沼じゃあ無かったかも知れないな。
なんせ間違いがなければ中央の神殿は、この世界でも信奉されている聖霊ヴィス様を祀ったもののはずだ。
そんな聖霊神殿が、こんな毒の沼地の中央に建てられる訳がない。
―――多分、この「気」を発している奴の差し金か……。
この森で俺が「気」を発散しだした直後から、やたらと挑発的な「気」がここから発せられていた。
それはまるで、ここに来るな……とでも言っているみたいだったしな。
「迂回路を探そう。多分、あの神殿に続く道がある筈だ」
「え……ええっ!? あの建物に行くのぉっ!?」
「……いやだ。……怖いよ」
でも流石にここまで近付けば、メニーナとパルネもあの神殿内から伝わる気配の凶悪性を分かったんだろう。俺の声を聴いても、その足取りはどうにも重かった。
「大丈夫だ。俺がついているだろ?」
彼女達も、今は俺と言う「勇者」が同行しているなんて百も承知だろう。
それでも「気」による威圧は、本能に訴えかける効果がある。
俺の台詞を聞いて力なく頷く2人だが、それでもその動きは緩慢で本当にあの建物には行きたくないみたいだった。
それでも俺が歩き出すと、慌ててその後を付いて来た。
今の彼女達にはあの神殿内だけじゃあなく、外にも安心出来る場所なんて無いんだからな。
俺の傍にいる事。
俺の言う通りに動く事。
今はその2つが、ここで生き延びる最善だと直感していたんだ。
丁度反対側に、こちらの岸辺から中州へ続く道が繋がっていた。
「……何者だ?」
そしてそこには、武装した2人の男が立っていたんだ。
どうにも気が立っているのか、とても歓迎されている様な雰囲気じゃあない。
それどころか、今にも襲い掛かってきそうだ。
「俺たちは、この神殿の聖霊像に用があるんだ。そこを通してくれないか?」
凄んで来る男たちへ向けて、俺はわざと飄々とした態度で答えた。
見ようによってそれは、明らかに舐めている……挑発しているみたいにしか見えないし、実際そのつもりで俺は対応したんだ。
「ここはすでに、神殿ではない。ここはもうずっと以前から『デジール族』の居城となっているのだ。勝手に踏み入る事は、ゆる……」
多分「許さない」とでも言いたかったんだろうけど、俺はそれを言わせなかった。
と言っても、手を出した訳じゃあ無い。少し「気」を攻撃的に高めただけだ。
でもそれだけで効果は覿面だったみたいだなぁ。
警護の2人は、まるで蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れなくなり、俺はそのまま彼らの横を素通りした。
「……メニーナ、パルネ。行くぞ?」
同じように惚けていた2人に向けそう告げると、彼女達は我に返り慌てて俺の後を追ってきたんだ。
目的地までは、多少は距離がある。
大人の足でも数日掛かるんだ。メニーナとパルネが加われば、もっと時間を食うのは仕方がない事だった。
更に……。
「ねぇねぇ、ゆうしゃさまぁ! あれは!?」
「……ゆうしゃさま。……この花についてですが」
といった具合に、2人は事ある毎に気付いた疑問を俺にぶつけて来ていた。
それに丁寧に対処していては、時間がいくらあっても足りないってのが実情だった。
かと言って、あまりここで時間を浪費している訳にはいかない。
人界ではクリークたちが旅を続けており、何かしら問題が起こっているかも知れないしな。……まぁ何かあればイルマから「通信石」で連絡が入るだろうけど。
それに、魔王リリアの事も放っては置けない。
彼女と今後の事に関する話し合いを持たないといけないし、もし問題が発生していたなら2人で取り組む必要があるだろうしな。……もっとも、大抵の事は彼女1人で何とかなっちまうんだろうけど。
とにかく、余りゆっくりと進んでいる訳にもいかないからな。
俺は彼女達の質問になるだけ懇切丁寧な返答を心掛けながらも、先へ進む足を速めたんだ。
そして俺たちは、何とかテムブルム地方に存在する大森林までやって来ていた。
既に俺たちの眼前には森が裾野を広げて存在している訳だが、何処から入っても良い……って訳にはいかない。
いや、入るだけならば何処でも良いんだろうけど、その場合は道なき道を切り開いて……って事になる。
そうなるとやたら時間は掛かるし、とにかく危険度が増す。子供2人を連れてそんな強行軍は、ちょっと選択出来なかったんだ。
だから俺は街道を北上し、森の中へと続く古い道のある場所まで来ていたんだ。
「……よし、ここから入るぞ」
俺が振り返り2人にそう告げるも、彼女達は怯えたような表情で森を見て声も出せずにいるだけだった。
……どうやら、教えた甲斐があったってやつか?
メニーナもパルネも、目の前の森の中から感じられる「気配」に恐れているんだ。
この「聖霊神殿」に続く森は、確かに「スフェラ神山」に比べれば弱い魔物しか出て来ないし、それを考えれば遥かに安全だと言える。
でもそれは、比べる対象のレベルが高過ぎるって話でもあるんだ。
普通に鍛えていない……弱い魔族がこの森を訪れれば、気味が悪く近付きたくないと思うだろう。
ましてや少しでも「気」を感じ取れるならば、今の彼女達みたいな反応を示すだろうなぁ。
「……行くぞ」
「あ……まってよぅ、ゆうしゃさまぁ!」
でも、そんな2人に気を使ってここへは入らない……なんて選択肢はない。
強い気配を感じ取り、何が有害でどれが無害なのかを知る為には多く経験を積む以外に方法は無いからな。
俺は先をゆっくりと進み、その後ろからは身を寄せ合ったメニーナとパルネが俺に遅れないよう付いて来ていた。
ここで魔物でも襲って来れば、それもまた経験になっただろう。
でも残念ながら、今の彼女達ではここの魔物に2人だけで太刀打ちは出来ない。
そして、俺にとってはここの魔物は雑魚程度でしか無いんだ。
「ゆ……ゆうしゃさま……」
「す……すごい……」
だから俺は、あえて気配を発散させながら歩く事にした。
こうする事で、少しでも理性を備えた魔物ならば俺たちに近付こうなんて考えないだろう。
まぁ空腹で目が回っている様な魔物は別だけどな。
そしてそんな俺の「気」を感じ取って、メニーナとパルネは心底感心しているみたいだった。
これまでは何となく俺から「強者の気」を受けそれに威圧される事はあっただろうけど、多分それも「俺が勇者だから」って理由で完結しちまっていたかも知れない。
でも「気」について教えた今ならば、俺から感じ取れる「気」の質も少しは違いを覚えたかもな。
強めているのか、威嚇しているのか、もしくは抑えているのか隠しているのかなど……。
そして今の俺からは「敵を寄せ付けない」と言う強い「気」を感じ取っている筈だ。
とにかくそのお陰で、道中で俺たちを襲おうってトチ狂った魔物には出くわす事が無かったんだ。
―――まぁその結果……奴には気付かれたかも知れないけどな。
森の最奥から感じ取れるやたらと攻撃的な気配に溜息を吐きながら、俺たちはその「気」の発信源へ向けて歩を進めた。
幸い……と言って良いのか、周囲の魔物から感じ取れる気配に怯えている今の2人には、俺の察知した気配の質は分からなかったみたいだった。
それから数刻歩を進めると、前方の樹々が開け何やら建造物が見えて来た。
「……わぁ」
「……すごい」
そこには、真っ赤な沼地の中州に白亜の宮殿が佇んでいたんだ。
こんな人も寄り付かない場所に、随分とまぁ立派な建物を建造したもんだ。
本当だったならさぞかし美しい光景なんだろう。
いや、この白と赤、緑と青と言った美しい配色は、美しいと言って申し分ないんだけどな。
「……2人とも、この沼には絶対に手足を入れるなよ」
俺は湖畔を見つめて、メニーナとパルネにそう注意したんだ。
それを聞いた2人は、ビクッと身を震わせて一歩後退った。
彼女達も、何となく感じたんだろうなぁ。……この沼の水の危うさに。
ドロッとして毒々しい赤……じゃない。
透明感のある綺麗な、澄んだ赤い水ってのがこの沼地を見た第一印象だ。
ここを何も知らず訪れた者ならば、思わずこの水に手を浸し足を付けていたかも知れないな。
もっともこの沼は、単に赤い水を湛えている訳じゃあ無い。間違いなくここは「毒の沼」だ。
それが、恐らく中央に立つ宮殿……いや、神殿か。そこへ魔物を寄せ付けない効果を発揮しているんだ。
ただし、多分最初から毒の沼じゃあ無かったかも知れないな。
なんせ間違いがなければ中央の神殿は、この世界でも信奉されている聖霊ヴィス様を祀ったもののはずだ。
そんな聖霊神殿が、こんな毒の沼地の中央に建てられる訳がない。
―――多分、この「気」を発している奴の差し金か……。
この森で俺が「気」を発散しだした直後から、やたらと挑発的な「気」がここから発せられていた。
それはまるで、ここに来るな……とでも言っているみたいだったしな。
「迂回路を探そう。多分、あの神殿に続く道がある筈だ」
「え……ええっ!? あの建物に行くのぉっ!?」
「……いやだ。……怖いよ」
でも流石にここまで近付けば、メニーナとパルネもあの神殿内から伝わる気配の凶悪性を分かったんだろう。俺の声を聴いても、その足取りはどうにも重かった。
「大丈夫だ。俺がついているだろ?」
彼女達も、今は俺と言う「勇者」が同行しているなんて百も承知だろう。
それでも「気」による威圧は、本能に訴えかける効果がある。
俺の台詞を聞いて力なく頷く2人だが、それでもその動きは緩慢で本当にあの建物には行きたくないみたいだった。
それでも俺が歩き出すと、慌ててその後を付いて来た。
今の彼女達にはあの神殿内だけじゃあなく、外にも安心出来る場所なんて無いんだからな。
俺の傍にいる事。
俺の言う通りに動く事。
今はその2つが、ここで生き延びる最善だと直感していたんだ。
丁度反対側に、こちらの岸辺から中州へ続く道が繋がっていた。
「……何者だ?」
そしてそこには、武装した2人の男が立っていたんだ。
どうにも気が立っているのか、とても歓迎されている様な雰囲気じゃあない。
それどころか、今にも襲い掛かってきそうだ。
「俺たちは、この神殿の聖霊像に用があるんだ。そこを通してくれないか?」
凄んで来る男たちへ向けて、俺はわざと飄々とした態度で答えた。
見ようによってそれは、明らかに舐めている……挑発しているみたいにしか見えないし、実際そのつもりで俺は対応したんだ。
「ここはすでに、神殿ではない。ここはもうずっと以前から『デジール族』の居城となっているのだ。勝手に踏み入る事は、ゆる……」
多分「許さない」とでも言いたかったんだろうけど、俺はそれを言わせなかった。
と言っても、手を出した訳じゃあ無い。少し「気」を攻撃的に高めただけだ。
でもそれだけで効果は覿面だったみたいだなぁ。
警護の2人は、まるで蛇に睨まれた蛙の如く身動きが取れなくなり、俺はそのまま彼らの横を素通りした。
「……メニーナ、パルネ。行くぞ?」
同じように惚けていた2人に向けそう告げると、彼女達は我に返り慌てて俺の後を追ってきたんだ。
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