家政夫は大変です

蒼龍葵

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第一部 久住家にようこそ

プログラマーとのひととき

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 今回俺に与えられた仕事は、新しいプログラムの作成で煮詰まっている匠真さんへの差し入れ提供だ。
 仕事しながら食べるだろうから、お茶と簡単に食べやすいものにしよう。
 食パンの耳を切り落とし、卵とアボガド、ハムとチーズ、夕食の時に残っていたエビカツをはさんで即席のサンドイッチを作る。

「いいなー、綾人の手料理食べたいな」
「これはただ挟めているだけですよ。何なら渉さんが持っていきますか?」

 彼と毎晩抱き合っている関係なのに、煮詰まる匠真さんとは距離を置きたいらしい。

「煮詰まってる時の匠真は機嫌悪いから、そっとしておく。おやすみ綾人」
「おやすみなさい、渉さん」



 匠真の部屋をノックして入ると彼はテーブルに突っ伏していた。

「匠真さん、夕食お持ちしました。眠られるのでしたらベッドに」
「ん……綾人……?」

 デスクの灯りに照らされた匠真の顔は疲れていた。彼が仕事に夢中になっている時は生活の殆どが欠落するらしい。
 他の兄弟は互いの生活に干渉することが無いので、食事や健康管理も立派な家政夫の仕事だ。
 えっち抜きでこういう仕事であれば幾らでも引き受けるのに。

「あ、食べやすいもの持ってきてくれたんだ。ありがとう」
「お仕事中お邪魔しました。これなら片手で食べれると思いまして。足りないものがありましたらベルで呼んでください」

 退席しようと背中を向けると手首を強い力で掴まれた。

「トレーとお皿すぐ空けるから、ここで待っててくれる?」
「はい……でも、ゆっくり召し上がってください」

 後で取りに来ますと声をかけるが、側に居て欲しいと懇願されると、黙って側にいるしかない。
 黒いレザーチェアーに長い脚を組み、小難しいプログラムを作る匠真の姿は様になっていた。自分より若いのに格好いいなぁと思う。
 ……俺だってちょっと前まではデスクワークと外勤していたから、出来ないことも無いだろうけど。

「俺の仕事、見てみる? おいで」

 膝の上をぽんぽん叩かれても、俺は男なんですって。もはやここまで女性扱いされると苦笑しかない。大人しく匠真の膝上に座ると背後からぎゅっと抱きしめられた。

「そこのプログラムを平行移動させて同じもの作ってみて」
「カラーは一緒ですか?」

 元々資料作成は得意なので、説明はすんなりと頭に入った。
 匠真はパンを食べながら指先で画面をタッチして指示を出してくれる。具体的な仕事内容は不明だが、ファイリングの整理は匠真が行っているようで、グラフや細かいデータは見やすく整理されていた。

「……綾人、もしかしてS商事に戻りたい?」
「えっ? だって解雇されましたし、もう今更ですよ」

 やや自嘲的に聞こえたかもしれない呟きは、匠真の表情を少しだけ曇らせた。

「綾人、デスクに両手ついて立って」
「え? あ、ハイ……」

 低い声でそう言われ、何事かと思いデスクに手をつく。
 アンティーク風に作られたそのデスクは、仕事をするにはお洒落で引き出しには重厚感あふれる金色の取手がつけられている。これが金持ちの机かなんてぼんやりと思う。

「……わざわざ俺の為にアボガド持ってきてくれたんだね。ビタミンEは男性ホルモンの分泌を高める効果があるって知ってた?」

 いや。知らない。大体、アボガドなんて女性が美容のために食べてるようなもんじゃないか?
 精がつくとかそういうのって、にんにくとかうなぎとかそういうもんじゃなかったっけ?
 やばい、背後からかかる声が怖い。けど手を離して後ろを振り返る勇気もない。失敗した……卵だけのサンドイッチにしておけばこんなことには──ー

「滋養強壮効果による性欲アップも期待出来るみたいだよ。そんなに俺としたかったの?」
「ち、違いますっ。ただ、お仕事が忙しい匠真さんに」
「……黙れ」

 低い声でそう命令され、背筋が凍り付いた。

「綾人はいけない子だね。こんなえっちな躰で、前の仕事でも性欲持て余していたの?」
「んなわけ無い……! 大体俺は」

 勝手に色欲魔扱いされるのはたまらない。思わずデスクから手を離して抗議すると、目の前の匠真が暗闇でもハッキリわかるくらいにっこりと微笑んでいた。

「手……放したね? お仕置きだよ綾人」

 思わずごくりと生唾を飲んでしまう。そういえば、匠真さんは見た目に反して力が強い。

「そんなに怯えないで」

 ぎゅっと閉じられた震える眦に優しいキスが落とされる。そして匠真の不埒な右手は下着の中に無遠慮に侵入してきた。

「た、匠真さん……?」
「俺の仕事中に、こんな無防備な姿でやってきて」
「はっ……あ」

 ぴったりと密着する躰が熱い。一度手を放したデスクに両手をついて躰を支える。

「仕事場を穢すなんて、本当に悪い子だよ、綾人」
「ち、ちが……俺は、夕食を!」

 ダメだ、確かにこうなった匠真さんを止める方法が見つからない。そりゃあ渉さんも逃げるわけだ。

「お前は、俺の縄張りに自分からやってきたんだから、逃げるなんて赦さないよ」
「あぁっ……」

 カリッと耳朶を噛まれ、耳の中はぺろりと舐められる。同時に下半身の疼いた熱をきつく根元から握られ変な声が漏れた。

「デスクに腰下ろして」

 促されるままデスクの上に座ると足が浮いてしまい益々変な気持ちになった。

「こんな淫らな姿で、本当に悪い子だよ綾人は」
「あ、あの、匠真さ……んんっ」

 唇を塞がれ、匠真が火照る綾人の躰を左右に開いて、その間に自分の躰を捻じ込ませてきた。
 ずっと疼いた熱が開放したくて先端からひっきりなしに滴を零しているのだが、根元がきっちりと抑え込まれ勝手に吐精できない。

「た、くま…さ……」
「なぁに?」

 ぐちゅぐちゅと淫猥な音を立てる蕾はヒクヒクして限界だった。密着する素肌も熱いので匠真も感じているらしい。

「匠真さん、の……が……欲しい、で…す……」
「ふふっ。俺の職場を穢した罪は重いよ?」

 舌を絡め、深いキスをしながら匠真も猛った自分の雄を十分に潤んだ蕾へと押し入れた。

「全部入ったよ、どうする……?」
「あっ、ああ……!」

 縋るものがなくて綾人は匠真の首筋に手を回してしがみつくのがやっとだった。

「匠真……動いて……俺の、中で……」
「ははっ。おねだり上手になってきたね?いいよ、いっぱいしてあげる。後でプログラム一緒に組み直ししような?」

 狂ったように匠真さんの名前を呼んで、彼の仕事を邪魔した挙句、何度イってしまったかよく覚えていない。
 果てる寸前で、匠真さんが「綾人、最高」と言って微笑んでくれた姿だけは朧げな意識の中で残っていた。
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