32 / 46
第二部 ライバル登場?
一難去った後に……
しおりを挟む俺は久住家の家政夫に戻ることになったので、正式に幸嶋先輩の有難い再就職の申し出を断った。
しかし、もう一度話がしたいと言われ、俺は特に警戒することもなくノコノコとまたS商事に足を向けた。
「綾人、待っていたよ」
「先輩……いいお話本当に有難いのですが、俺も仕事が決まってまして……」
「ああ、知っているよ。T商事の久住愁一に仕えているんだろう。よくお前がベンツに乗せられてあの会社に入る姿を見るようになったからな」
なんだ、先輩も俺が愁一さんのところで働いているって知って──
「って、えええ!?」
どうしてそんな話になっているのだろうか。いや、確かに名目上、俺は久住家の家政夫です! なんて名乗るよりも、年商ウン億円のT商事で働いていますと言った方が格好いいし男として最高の称号だ。
でも嘘をついていることに胸が痛い。俺はT商事で働いているわけではなく、あそこに呼び出されるのは愁一さんが仕事で煮詰まって缶詰になっている時だけ。
最近俺が躰が持たないと嘆いているから愁一さんが気を利かせて職場に呼ぶようにしてくれているだけだ。家にいると誰かしら俺の躰を狙ってくるから……。
「なんだ、違うのか?」
「い、いえ、滅相も……」
ここでT商事で働いてませんと言ったら幸嶋先輩は俺をまた引き抜こうとするだろう。今度俺が久住家から出ますと言ったら監禁されるかも知れない。
─ それに、あの可愛い弟のような人達を置いてどこかに行くのはもう考えられない。手はかかるけど。逆に。手がかかるから可愛いのか?
「えっと、今の俺はT商事の臨時社員みたいな立ち位置で、先輩の仰るとおり、久住愁一さんに仕えてます」
「ふぅん、あいつは恋人の滝川がいるのにまだ男を仕えさせんのか」
──
──はい?
一瞬、俺の思考回路がフリーズした。
「え、え!? た、滝川さんが……こ、恋人!?」
「なんだ、綾人知らなかったのか。久住愁一はゲイで有名な男だ。常に秘書としてあいつのスケジュールを担っている滝川荵は恋人だぞ」
うわ、あの切れ長の眸インテリ秘書さんが愁一さんと……?
『しゅ、愁一様……』
『荵、もうこんなになって……いやらしい躰だ。お前にはお仕置きが必要だな』
『はい。貴方様にでしたら、いくらでも……』
『可愛い事を。足を開きなさい──』
うわーーーーー
全然、考えたくない光景だ!!
途中まで妄想してしまった俺はざあっと顔色をなくした。これからどうやって滝川さんと接したらいいのか分からなくなる。
「あいつにはもう恋人がいるんだから、綾人まで愛人になる必要ないよ。俺がしっかり綾人だけ愛すから、俺の下で働いてくれないか?」
先輩が俺に好意を持っているなんて知らなかった。掴まれた手首が痛い。一緒に切磋琢磨してきた関係なので、先輩のことは嫌いではないけど、俺は久住家の人間だ。
「すいません先輩、俺はもう愁一さんの下で仕事をしているので……」
「何だよ……どいつもこいつも久住、久住久住久住!」
あ、やばいキレさせた。そういえば、幸嶋先輩はキレると手がつけられないんだった。
嫌な予感を察して俺はもう一つの携帯の電源を入れた。これは通話はしないのだが、GPS機能がついており、これを起動すると異変があったと愁一さんが察してくれることになっている。
「なあ、綾人。お前……もう久住に抱かれたのか?」
「え、いや……あの……」
目つきが変わった先輩に俺は恐怖を感じてじりじりと後退した。
「綾人、可愛いからな。この白い肌に可愛い顔立ち──ゲイの久住じゃなくてもお前に手を出す気持ちは……」
「そこまでです、幸嶋さん」
突然バン、と応接室のドアが開けられた。内鍵をかけていたので、社内の偉い人間でない限り外から開けることは出来ない。
俺を助けにきてくれたのは滝川さんだった。この場所に辿り着くために幸嶋先輩の部下を締め上げたらしい。
「くっ……滝川、何でここに!」
「愁一様の手を煩わせないでください。今、目の前にいる綾人様は愁一様にとってかけがえのない方なのです。もしも彼に貴方が手を出すのであれば──」
こ、怖い。
本気の滝川さんは黙って立っているだけで人を殺しそうな気迫があった。これが、愁一さんの側に仕える秘書でありボディガードの力なのか。
「綾人様に手を出すのでしたら、S商事を潰します」
「なっ──!!」
「それくらいの気持ちで彼に手を出すのですね。では、私は彼を連れて仕事に戻ります」
ぽかんとしている俺はそのまま滝川さんに手首を掴まれて車に乗せられた。
行き先は勿論T商事だ。呆れたようにため息をつく滝川さんは運転席に座り、バックミラー越しに俺を睨みつけた。
「軽率な行動、ごめんなさい……」
「貴方は真面目な方ですから、あの男に何でいい案件を断るんだと言い寄られたのでしょう」
うっ、当たっている。まさかこんなことになるなら、最初から愁一さんに相談すべきだった。
「ごめんなさい……」
「まあ、これであの男も懲りたでしょう。では愁一様の所に参りますよ」
「あの、滝川さん」
「何ですか?」
「愁一さんと、お付き合いされているんですか?」
先輩が言った言葉がどうしても気になってしまい、俺は本人に尋ねてみた。だって、もしも滝川さんが愁一さんに対して恋愛感情を抱いているならば、俺は愁一さんに執着しない方がいい。
それに、久住家には愁一さん以外の三人も手がかかるので、はっきり言うと愁一さんの夜の営みを滝川さんがしてくれるならば──
「その質問は残念ながら……私も愁一様も同じ属性なので合わないのです」
ふぅん、そうか、属性──
「ぞ、属性って、その……」
「ふふっ。ご想像にお任せ致しますよ」
つまり、彼もドSのインテリということなのか。
やはり愁一さんが煮詰まった時は俺が頑張るしかないらしい。躰、持つかな……?
ふわっと久住家に戻る決断をしたものの、また新たな貞操の危機を感じる綾人なのであった。
22
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 1000 Thank_You!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる