誰かが彼にキスをした

ゆづ

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瀬戸 里依紗

キタキツネ?

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 瀬戸さんは大きな体を半分に縮めるようにして頭を下げた。
 私と陽向は驚いて顔を見合わせた。

「本当にお前がやったのか?」

 陽向に睡眠薬を盛った犯人を、聞き込み二人目にしていきなり発見かと思われたその時だった。

「里依紗は悪くありません!」
 思わぬ援軍が背後の教室からやってきた。
 さっき瀬戸さんに「がんばれ」と声援を送っていた女の子たちだ。

「みんな……」
 瀬戸さんがすぐに顔を上げる。
「里依紗は変なことなんて何もしていません! 里依紗はただ、おまじないしていただけです!」 
「おまじない?」
「は、恥ずかしいからやめて!」

 瀬戸さんは顔を覆って、廊下を駆け出した。
「えっ、えっ? どうした? えっ?」
 陽向は急に起こった出来事に狼狽えるばかりだ。
 この鈍感! 私は瀬戸さんを追いかけながら一瞬振り向き、叫んだ。

「陽向はそこで待ってて! 私が話を聞いてくる!」

 多分その方が真実を見つけやすい。
 ただ、問題があるとすれば、瀬戸さんの本気のダッシュに私の足が追いつくはずがないということくらいだ。

 朝からどんだけ走らされてるんだ、私は。
 腕時計を見たら、休み時間の終了まであと5分しかない。

 すると、前を走っていた瀬戸さんが右方向に曲がった。
 そこにあるのは階段だ。
 階段ダッシュは地獄への入り口。下手すりゃももが死ぬ。
 もう勘弁して、と泣きそうになりながら階段の方へ曲がると、瀬戸さんが半階降りたところの踊り場の壁に顔を伏せて張りついているのが見えた。

 良かった、すぐに見つかった。


「瀬戸さん……」
 私が声をかけると、彼女の背中がビクッと震えた。

「私、一人だから大丈夫だよ。誰もいないから。そっちに行ってもいい?」
 壁にくっついていた顔がゆっくりと振り向く。

 人に慣れていないキタキツネにルールルルーと呼びかけるような気持ちで、私はそろそろと階段を降りていった。


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