誰かが彼にキスをした

ゆづ

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瀬戸 里依紗

憧れの人

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 ◇

「バカみたいですよね、アタシ」

 立っている時の身長差は20センチあったけど、座ってしまえばそれほどの差はない。
 階段に腰をかけて並んだ私たちは、通行人に変な目で見られながらもそれを意識することはなかった。

「こんなにデカい図体して、ほとんど男みたいな頭してるくせに、あんなにキラキラした陽向先輩に恋なんかして……」
「バカみたいだなんて、そんなことないよ」

 瀬戸さんの気持ちは、痛いほど良く分かる。
 肩を抱いてあげたいくらいだ。

 陽向のことが好きなんでしょ? と尋ねたのはついさっきのことだ。
 キタキツネ作戦で近づいて、「大丈夫、誰にも言わない」を10回以上くり返したらようやく彼女は頷いてくれた。

「最初は本当にシュートの上手い先輩だなって、憧れて見ていただけなんです。仲良くしてもらえるなんてちっとも思っていなくて。だって、先輩に憧れているファンの子の数、えげつないですから。一年のバスケ部の女子なんて半分くらいは陽向先輩狙いで入って来たようなものです。でもアタシはそういう浮ついた気持ちではなく……純粋にバスケがしたくてバスケ部に入ったので、後から先輩の存在を知りました。こんなすごい人がいたんだなって」
「そうなんだ」

 陽向のバスケは中学時代からちょっと有名になるくらいのものだった。
 陽向を追いかけてこの高校を受験した古株のようなファンも、今の一年生たちの中にはいるのだろう。

「陽向先輩はずっと雲の上の存在だと思っていました。同じバスケ部とは言っても、男子と比べると女子はチームとしても弱くて、地区予選の2回戦突破が目標だったんですよ。インターハイ出場選手とそう簡単に話せるものでもありません。でも、女子の予選大会が始まる前に一度だけ交流会が開かれて、先輩に直接教われる機会ができたんです。私はセンターだったので、先輩にゴール下でどう動いたらいいかを徹底的に指導してもらいました」

 その時のことを思い出したのか、瀬戸さんは初めて会った時のような可愛らしい笑顔を見せた。
 

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