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瀬戸 里依紗
おまじない
しおりを挟む「あの時アタシ、張り切りすぎちゃって……。腕が上がらないくらい何本もシュートして、足も攣りそうになりながら練習したんです。そうしたら、先輩が『瀬戸は根性あるな』って言ってくれて。教えがいがあるって、すごく真剣にひとつひとつのことを教えてくれたんです。バスケのことが本当に大好きなんだなって、先輩のボールを大切にする仕草から全部分かって、それからずっと……先輩のことが瞼の裏にちらついてしまうんです」
想いの乗ったため息をひとつこぼして、瀬戸さんは顔を覆った。
「でも、先輩の邪魔になりたくないから想いを打ち明けるつもりはありません。今は特に大事な時期なので……」
「偉いね、瀬戸さん」
犯人は彼女じゃない。話を聞きながら、私はそう思っていた。
こんなに純粋な子が、睡眠薬を使って陽向を眠らそうと考えていたはずがない。
陽向を見ただけで真っ赤になってしまうような子なのだ。きっと初恋なんだろう。
「でも──それじゃあ、ペットボトルの蓋を開けて何をしていたの?」
「ああああ、それはですねえ……」
瀬戸さんはますます恥ずかしそうに長い足をモジモジと動かした。
「……矢野執事って知ってます?」
「ヤノシツジ? え、何それ?」
「今、アタシの友達の間でバズってる人気のVtuberなんですけど……」
Vtuberとは、CGで描画されたアニメのキャラを使って動画投稿などをする配信者のことだ。私はあまり興味がなくて見たことはない。
「矢野執事は執事の格好をしたイケメンキャラなんですけど、すごくかっこいいのに毒舌で、女子中高生から受けたお悩みをバッサバッサと切り捨てるみたいなノリが受けてるんです」
「へえ~」
お悩みを切り捨てるのに人気があるんだ。
どこか理解しがたいけど、とりあえず受け流す。
「その、矢野執事のお悩み相談コーナーで、恋に効くおまじないの情報を紹介していまして……矢野執事は『こんなもんマジでやるヤツ、超ヤバくね? m9(^Д^) プギャー』って言ってましたけど、アタシの友達にそれでうまく告白できたっていう子がいて、里依紗もやってみなよって言われて」
やっと話が見えてきた。
「それが例の、ペットボトルの蓋を開けるおまじないなんだ?」
「はい。蓋を開けて、5分間ペットボトルを両手で包み込みながら好きって念じるんです。その想いが詰まった飲み物を飲んでもらうと、恋が叶うんです」
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