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瀬戸 里依紗
引き寄せの法則
しおりを挟むおまじないなんて馬鹿馬鹿しい。
世間一般の人は多分そんなふうに思っているんじゃないだろうか。
そんなものにすがるのは恥ずかしいことだと思っているんじゃないだろうか。
もしかしたら、陽向も。
瀬戸さんはさっきの一瞬にそれを思ったに違いない。
だから走ったんだ。
陽向に軽蔑されるのを恐れたんだ。
「あんなおまじないで本当に恋が叶うなんて、アタシだって思っていません。だけど……告白することはできないから、せめて祈りだけでも届けたかったんです。馬鹿みたいですよね。恥ずかしい」
「……いいこと教えてあげようか」
顔を覆っている瀬戸さんに、私は言った。
「陽向がどうしてバスケを上手くなれたかっていうとね、本人曰く、毎日祈っていたからなんだって」
瀬戸さんの手が、顔から離れた。
「これは引き寄せの法則って言って、スピリチュアルなこととは関係がないんだって。成功している自分を具体的に強くイメージすることで、なりたい自分になっていくことができるそうなの。たとえば、シュートを百本打てるようになるってイメージしてから行動に移すと、実現しやすくなるらしいよ。陽向は今も、全国大会優勝っていう目標を紙に書いてよく見えるところに貼っておいてるんだって。そうやって毎日、陽向は自分におまじないをかけて、本当に強くなったんだよ」
瀬戸さんがゆっくり私の顔を見る。
「そんな陽向が、瀬戸さんを馬鹿にしたりすると思う? 多分、しないよ。強く願えば夢が叶うって、本気で信じている人だから」
「……はい」
瀬戸さんの顔に笑みが戻っていくのを見て、私も頬の筋肉を緩めた。
「行動に移さなければもちろん叶わないだろうけど……私は行動できない瀬戸さんの苦しみも分かるつもり。だから私も馬鹿にしないよ」
「先輩ももしかして、陽向先輩のこと……?」
私はどう答えたらいいのか迷った挙句、自虐的な笑みを浮かべた。
「向こうは私がどう思っているかなんて、考えたこともないだろうけどね。だから私は瀬戸さんが羨ましい。今頃きっと瀬戸さんのことを考えまくってるよ、あの馬鹿」
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