誰かが彼にキスをした

ゆづ

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瀬戸 里依紗

いつかきっと

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 一瞬、静かな時間が訪れた。
 けれどもすぐに瀬戸さんが「あっ!」と沈黙を破る。

「どうしよう、陽向先輩、アタシが陽向先輩のことが好きだってもう気づいちゃいましたよね⁉︎」
「ああ、それなら大丈夫。絶対に気づいていないから。私からもうまくごまかしておくね」

 私の言葉に、瀬戸さんは立ち上がり、潤んだ瞳で深々と頭を下げた。

「ありがとうございます、昴先輩!」
「あ、いえ、どういたしまして」

 ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴った。
 私はそれじゃ、と立ち上がり、陽向が待つ廊下に駆け戻った。
 陽向は思った通り、難しい顔をして首を傾げていた。

「結局、瀬戸は昨日何してたんだ?」
「ああ、瀬戸さんは……陽向がインターハイのスタメンに決まったから、いっぱい活躍ができますようにって願掛けしてくれていたんだって。直接言うのが恥ずかしかったからさっきは逃げちゃったみたい。可愛い後輩を持って陽向は幸せ者だね」
「なんだ、そっか」

 自分達の校舎に早足で向かいながら言うと、陽向はますます不思議そうな顔をして言った。

「願掛けの何が恥ずかしいんだろ? 変なやつ」
「だよね」

 陽向が思った通りの反応をするから、私は笑ってしまった。

「なんか機嫌いいな。いいことあった?」
「ううん、別に」

 私はそっと視線を外して前を向く。
 
 別に、何でもない。
 陽向を好きで良かったと思っただけだ。
 これから先、どんな人を好きになったとしても、きっと私は陽向とその人を比べてしまうんだろう。
 そしてきっと後悔するんだ。
 この時、陽向に好きだって言わなかったことを、いつかきっと。


 
 
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