誰かが彼にキスをした

ゆづ

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氷崎 玲奈

高嶺の花

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 三時間目が終了した。
 私たちはまた例の秘密基地に集まっている。

 こんなにずっと陽向と顔を見合わせているのは本当に久しぶりだ。
 中学一年生頃までだったかな。一緒に帰ったりしていたのは。
 陽向が部活でバスケ部に入り、私は仕方なく入った美術部でそれぞれの時間を過ごすうちに、いつの間にか離れているのが自然になった。
 それから、もう戻れないんだなって漠然と思っていたけど。

「昴と休み時間ごとにしゃべってるの、不思議な感じ」
 階段の手すりに寄りかかった陽向が、やわらかい笑顔で呟く。
「なんか、嬉しいな。これからも話そうよ。昔みたいにさ」

 私は答えられずに、汚れた窓から注ぐ光を見ていた。
 明日が来るのが怖くなるから、未来の話はしたくなかった。
 楽しそうに笑わないで。つまらなそうにしていてよ。
 陽向の眩しい笑顔が私を感光させてしまう。
 やっと闇の中で息をする方法を身につけたところだったのに、また息継ぎができなくなってしまう。
 
「そういえば、覚えてる? 昔、タコ公園の秘密基地で──」
「そんなことより、次の容疑者のところに行こう。さっさと行かないと、休み時間が終わっちゃう」
「……あ、うん」

 ちょっと残念そうな陽向の顔が視界の端で揺れた。
 誰とでも仲のいい陽向くん。
 私ひとりくらい、いなくなっても大丈夫だよね。
 子供みたいな考えが、私をどんどん孤独にしていく。
 
「次は、氷崎先輩?」

 私は無理やり思考を切り替える。
 残るのは氷崎先輩と、陽向の友達と、最後に行くと決めている人だ。
 友達もできれば疑いたくないと陽向が言うから、必然的に次は氷崎先輩のところに行くと決まった。

 氷崎先輩は長い黒髪に透明感のある白い肌という容姿の上、偏差値の高い英語科でトップを争う成績を誇っているという、まさに才色兼備のとんでもない人だ。
 瀬戸さんが大地に咲くひまわりだったら、氷崎先輩は高嶺に咲いている百合の花という表現が似合うだろう。
 そんな人がいくら人気があるとはいえ、陽向なんかに惚れるだろうか。
 

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