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氷崎 玲奈
嫌な感じ
しおりを挟む一瞬、子猫を取られそうになった親猫が獣の本性を見せた時のような、鋭い視線が陽向の眉間に突き刺さった。
けれども氷崎先輩の顔にはすぐに『笑顔』の膜が貼り直される。
陽向は気づいただろうか。そのとぼけた顔には変化がない。
「えーと、実は……昨日の練習が終わった後、俺、爆睡しちゃってあんまりよく覚えてないんですよ。何があったか、先輩ならいろいろ知っているかなあと思って……」
「部活中のことだったら分かるけど、終わった後のことは分かんないな。男子の部室には入ったことないし」
部室に入ったことがないという言葉が私にはちょっと引っかかった。
さっきの青いタオルが陽向のものだったとしたら、彼女はそれを手に入れるため、絶対に部室に入ったはずだからだ。
「本当に入ったことがないんですか?」
私が尋ねると、氷崎先輩はキョトンとした表情になって私を見た。
「どちら様?」
「あっ、すみません。陽向の古い友人です」
私は慌ててペコッと頭を下げた。氷崎先輩にとっては私という闖入者こそが不審な人物に見えていることだろう。
途端に警戒するかと思ったけれど、「そうなんだ」と彼女は薄笑いを見せた。
「なーんだ、陽向くんの新しい彼女かと思った」
「はっ⁉︎」
陽向が本気で驚いたような声を出した。
「そんなんじゃないです」
私も慌てて否定した。
先輩は私たちの顔を見つめてクスクス笑う。
なんだろう。
なんか、嫌だな、この人。
「本当に彼女じゃないの?」
「幼なじみっす」
「そっか。陽向くんがそう言うなら信じるね」
私の言うことは信じられないけど?
いちいち言葉尻が気になってしまうのは私が過剰になっているだけなのだろうか。
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