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氷崎 玲奈
黒に近いグレー
しおりを挟む「えっ?」
先輩の眉がちょっと動いた。明らかな動揺の表情だった。
「陽向くんのタオルが私のロッカーに……?」
「俺も見ました。色がそっくりだなっと思って」
陽向の援護射撃に、先輩は目を丸くした。
「ああ、あれは、その……」
心なしか頬を赤くそめて、先輩が陽向から目を逸らす。
その仕草は、図星を突かれて焦っているようにも、ただ単に恥ずかしがっているようにも見えた。
「あのタオルは、私のよ。陽向くんが使っているのを見て、いいなと思って……ネットで探して買ったの。でも、部活中に使ったりしたらみんなに陽向くんとおそろいだってからかわれるかもしれないと思って、恥ずかしくて。結局ロッカーに入れっぱなしで一度も使ってないの」
わざわざネットで調べて購入したものを使わずにロッカーに置いてあるだけだなんて、そんな話をまともに信じる人間がどこにいるだろうか。
「なるほど! そういうことだったんですね」
隣にいたけど。
陽向は逆に何で秒で信じられるの?
今のは結構苦しい言い訳だと思ったんだけど?
っていうか、同じアイテムを欲しがる時点で陽向のことは憎からず想っているよね?
私が陽向の彼女じゃないかってすぐに疑ったところも怪しいし。
氷崎先輩、やっぱり陽向のことが好きですよね?
突っ込んで聞きたかったけど、「あなたはどうなの?」って聞き返されてしまいそうで、怖くて聞けなかった。私はとことん卑怯な人間だ。
そのうちに時間切れのチャイムが鳴った。
「それじゃあ、また部活で」
「うん」
氷崎先輩はにっこり笑って陽向に手を振った。
結局、アリバイはなし。証拠もなし。黒に近いグレーのままだけど、私たちは退散するしかなかった。
「陽向のタオルって、お取り寄せしないと買えないの?」
歩きながら尋ねる。
「さあ? 母ちゃんが買ってくるから分かんないけど、多分スーパーとかで買える安物じゃないかな?」
「そんなの、逆にネットで売っているかどうか怪しいよね」
「でも、先輩が嘘をつく理由もないしな」
どうしよう。
こいつ、殴りたい。
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