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千秋 琉星
陽向の異変
しおりを挟む校庭を囲むように生えている木の影を辿って、まずは体育館まで行った。
体育館倉庫は体育館内のステージの奥部分の空間になるけど、校庭側からも入れるようにドアが付いている。中にはバスケットボールがたくさん入った籠や、マットレス、跳び箱などの体育館内で使われる道具と、陸上部が使うライン引きや野球部が使うトンボなど、屋外で使われる道具が仕切られて配置されていた。
部室のある別棟は目と鼻の先にあるのに、何故ここなんだろう。
運動とは縁のない私は、授業以外ではほとんど入ったことがない場所だった。
雨風にさらされたドアはステンレス製で、若干錆びている。
そっとドアノブを掴んで手前に引くと、キイッと軋んだ音を立てた。
「陽向、いる?」
薄暗い倉庫の中に向かって声をかければ、石灰混じりの空気が震えた。
残響音が消えて静寂が広がる。
まだ誰も来ていない。
と思った瞬間、サッカーボールの籠の陰から誰かが突然飛び出してきた。
「わあっ!」
「きゃああああっ!!」
私はびっくりしてその場に尻餅をついてしまった。
「あっ、ごめん。脅かしすぎた?」
見上げるとそこにはちょっと慌てた顔の陽向がいた。
「もう! 子供みたいなことしないでよ!」
「ごめんごめん」
笑いながら手を差し伸べてくる陽向に、私は怒りながら「一人で立てるし!」と悪態をついた。
でも、いざ立ちあがろうとしてみると腰が抜けたみたいでなかなか立てない。
やだ、カッコ悪すぎ。
今さら手を貸してなんて言えない……。
どこかに掴まって立ち上がれないかと辺りを見回していたその時だった。陽向が私をひょいっと軽い荷物でも持ち上げるみたいにお姫様抱っこした。
「──!!」
地球の裏側まで聞こえるような声で悲鳴を上げたくなったけど、私は根性でそれを押し殺した。
こういうこと、陽向は平気でするから嫌だ。
こっちは激しく暴れる心音が漏れ聞こえてしまいそうで、いっそ心臓を止めたいくらいなのに。
どうせかっこ悪い私を笑っているんだろう。それとも、何とも思っていない?
おそるおそる目線を上げると、そのどちらでもない表情をした陽向がそこにいた。
なんだかやけに思い詰めた顔だ。
こんな陽向は初めて見る。
「……陽向?」
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