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Ⅳ セブンリーフ新北中同盟女王選定会議
指輪と喪服 上
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―喫茶猫呼。
北部中部新同盟女王選定会議まであと二日となった。今日も喫茶猫呼は準備中の札を掛け、仲間内だけでわいわいと選定会議の準備をしていた。
「こんなにしょっちゅう休んでいて客商売として成り立つのか?」
イェラが麺料理の研究を小休止し、腕を組みながら皆を見ている。
「大丈夫よ、此処に来たい客共なんて掃いて捨てる程いるのよ」
「フルエレ、お客さまを客ども等と言ってはダメ」
二人の会話を聞いて猫呼が肩をすぼめ両手を広げた。と、そこへ可愛いドレスを着た奴隷のフゥーが更衣室代わりの個室から出て来た。
「ほ、本当にこの様な衣服を頂いて良いのでしょうか……」
少し赤面しながらフゥーがはにかんで聞いた。
「何を言っているの? 貴方は喫茶猫呼の大切な従業員よ、これくらい当然だわ。それと、はいこれクラウディア人の印の付けネコミミよ私のスペア分を上げるわ」
カシャッ
カチューシャ状になっている留め具をフゥーの頭に被せ、髪の毛で隠した。フゥーはその様子を上目遣いにちらちら見る。
「おおっさすがクラウディア人の血が流れるというフゥー殿、なかなかに似合いますぞっ!!」
する事が無い砂緒はフゥーに接近して大袈裟に褒めた。
「ど、どうでしょうかフルエレさま」
フゥーは砂緒を完全に無視して雪乃フルエレに照れながら聞いた。
「シャルはどう思う?」
「まあ可愛いっちゃあ可愛いんじゃねーの?」
「まあっ素直に凄く可愛いって言いなさい!」
「私も凄く似合っていると思うぞ」
「イェラが言うなら確かね!」
砂緒はなごやかに笑い合う仲間達の間に強引に割り込む。
「それでフゥーも選定会議に出席するんですか」
「猫呼さま、敵だった私などが本当に選定会議に出ても良いのでしょうか?」
「何を言っているの、私の従者として一緒に行くのよ! ご不満かしら?」
「い、いいえ! 凄く光栄です……私がその様な日の当たる場所に……」
「安心なさい、同じ場所にカレンとジェンナさんもいるから寂しくないわよ」
「は、はい!」
「おお、シャクシュカ隊の生き残りが再び結集ですなあ」
しかし砂緒の言葉を最後に、皆の会話はぶっつりと切れた。
「あの……私の気のせいだとは思うのですが先程から皆、私の事を無視しておりませんか?」
イェラがそっと砂緒の肩に手を置いた。
「皆気付いてしまったのだ。貴様はセレネの付属物であり、セレネが所用で此処に居ない今、貴様に存在価値は無いと……」
「なん……ですとっ」
砂緒はわなわなと震えた。セレネは会議の最終準備や学校の単位解消などで此処には居ない。
「そうねえ、私もセレネが居ないと張り合いを感じないわ……」
「そんなフルエレまで!?」
確かにセレネがいる時はやたら邪魔してくるフルエレが、彼女がいないとそうでも無い気がしていた。
「そんな事よりフルエレ、新女王就任までの最後の重臣会議があるんだろ? 遅れるゼ」
シャルがいつもの様に腕を組んで壁にもたれながら言った。
「あ、そうだわっ! 次の人にちゃんとバトンを渡さないと」
「白々しいわよ。どうせアンタがなるんでしょ」
「分からないよ、スナコちゃんが当選するかもよ~~」
「え、こんな時にだけ私の名前?」
等と言いながら砂緒はフルエレの荷物を両手に持って魔車に運んだ。
―女王仮宮殿。
「はぁ此処に来るのも最後かああ」
「白々しいって」
フルエレはいつもの様にぞろぞろと仲間達とゲートを潜りおじさんに挨拶して宮殿に入った。アルベルトが死亡した今は、便宜的には影武者女王猫呼の従者という事になっていた。フルエレは身分を隠し猫呼は影武者という事を公表するという本末転倒な状態であった。
「あっほら、またあの子が見てるわよ……」
猫呼が目立たない様に指をさした先には、いつぞやアルベルトと親し気に話していて、アルベルトが死亡後は何故かフルエレを時々見ている可愛い若い女性職員がいた。
「もしやあの子、フルエレの命を狙ってるのやもしれませんな」
シーン……
「セレネが居たら、んな訳あるかい! って言ってくれる場面だな」
何故かシャルが助け舟を出す。
「……もうなんだか私腹が立ってきたわ。何か言いたい事があるのかもしれない、今日の会議終了後に話し掛けてみるわっ!」
フルエレがその子を見ない様にしつつ、猫呼に宣言した。
「大丈夫かしら? 取っ組み合いの喧嘩にならないかしら?」
「どうしてよ、そんな訳ないでしょ」
「ご安心を、何かあれば私が全力雷で消し去ってやりましょう」
「バカか女性職員攻撃したら警備員沙汰だろが、ふざけんな」
「なんだと!?」
睨み合う砂緒とシャルの間にフルエレが割って入る。
「お願いやめて……はぁなんだかこんな場面も懐かしいわ」
等と言いながら重臣会議開始の時間となった。
―大会議室。
「皆も知っているとは思うが便宜上、北部海峡列国同盟はあと二日でセブンリーフ北部中部新同盟に衣替えというかアップデートする。今回最後の女王ご臨席会議となるが、俺は雪乃フルエレ女王が引き続き女王に当選されると願っているし、実際俺もライス氏もフルエレ様に投票する」
有未レナードの言葉にどよめきが起こった。しかしレナードが言わずとも、皆がフルエレが当選して継続すると考えている。
「で、北部中部新同盟だとめんどくさいんで、何か良い新呼称とかって無いものだろうか?」
今回のフルエレは何も言う事も無く静かに話を聞いている。そこへすくっとライス氏が立ち上がった。
「北部中部新同盟では如何にも硬い。しかしユティトレッドやニナルティナの名前を入れると中部小国群の国々から反発もあろう、という事で新たな同盟の結束を図り、今後もさらなる飛躍の願いを込め、中部小国群の中でもいち早く同盟への参加を表明し、周辺からの信望も厚い海と山とに挟まれた小さき王国からお名前を取り、"海と山と国連合"と呼ぶのは如何でしょうか!?」
「却下」
雪乃フルエレがはっきりと拒否し、ライス氏はしょぼんとして席に着いた。
北部中部新同盟女王選定会議まであと二日となった。今日も喫茶猫呼は準備中の札を掛け、仲間内だけでわいわいと選定会議の準備をしていた。
「こんなにしょっちゅう休んでいて客商売として成り立つのか?」
イェラが麺料理の研究を小休止し、腕を組みながら皆を見ている。
「大丈夫よ、此処に来たい客共なんて掃いて捨てる程いるのよ」
「フルエレ、お客さまを客ども等と言ってはダメ」
二人の会話を聞いて猫呼が肩をすぼめ両手を広げた。と、そこへ可愛いドレスを着た奴隷のフゥーが更衣室代わりの個室から出て来た。
「ほ、本当にこの様な衣服を頂いて良いのでしょうか……」
少し赤面しながらフゥーがはにかんで聞いた。
「何を言っているの? 貴方は喫茶猫呼の大切な従業員よ、これくらい当然だわ。それと、はいこれクラウディア人の印の付けネコミミよ私のスペア分を上げるわ」
カシャッ
カチューシャ状になっている留め具をフゥーの頭に被せ、髪の毛で隠した。フゥーはその様子を上目遣いにちらちら見る。
「おおっさすがクラウディア人の血が流れるというフゥー殿、なかなかに似合いますぞっ!!」
する事が無い砂緒はフゥーに接近して大袈裟に褒めた。
「ど、どうでしょうかフルエレさま」
フゥーは砂緒を完全に無視して雪乃フルエレに照れながら聞いた。
「シャルはどう思う?」
「まあ可愛いっちゃあ可愛いんじゃねーの?」
「まあっ素直に凄く可愛いって言いなさい!」
「私も凄く似合っていると思うぞ」
「イェラが言うなら確かね!」
砂緒はなごやかに笑い合う仲間達の間に強引に割り込む。
「それでフゥーも選定会議に出席するんですか」
「猫呼さま、敵だった私などが本当に選定会議に出ても良いのでしょうか?」
「何を言っているの、私の従者として一緒に行くのよ! ご不満かしら?」
「い、いいえ! 凄く光栄です……私がその様な日の当たる場所に……」
「安心なさい、同じ場所にカレンとジェンナさんもいるから寂しくないわよ」
「は、はい!」
「おお、シャクシュカ隊の生き残りが再び結集ですなあ」
しかし砂緒の言葉を最後に、皆の会話はぶっつりと切れた。
「あの……私の気のせいだとは思うのですが先程から皆、私の事を無視しておりませんか?」
イェラがそっと砂緒の肩に手を置いた。
「皆気付いてしまったのだ。貴様はセレネの付属物であり、セレネが所用で此処に居ない今、貴様に存在価値は無いと……」
「なん……ですとっ」
砂緒はわなわなと震えた。セレネは会議の最終準備や学校の単位解消などで此処には居ない。
「そうねえ、私もセレネが居ないと張り合いを感じないわ……」
「そんなフルエレまで!?」
確かにセレネがいる時はやたら邪魔してくるフルエレが、彼女がいないとそうでも無い気がしていた。
「そんな事よりフルエレ、新女王就任までの最後の重臣会議があるんだろ? 遅れるゼ」
シャルがいつもの様に腕を組んで壁にもたれながら言った。
「あ、そうだわっ! 次の人にちゃんとバトンを渡さないと」
「白々しいわよ。どうせアンタがなるんでしょ」
「分からないよ、スナコちゃんが当選するかもよ~~」
「え、こんな時にだけ私の名前?」
等と言いながら砂緒はフルエレの荷物を両手に持って魔車に運んだ。
―女王仮宮殿。
「はぁ此処に来るのも最後かああ」
「白々しいって」
フルエレはいつもの様にぞろぞろと仲間達とゲートを潜りおじさんに挨拶して宮殿に入った。アルベルトが死亡した今は、便宜的には影武者女王猫呼の従者という事になっていた。フルエレは身分を隠し猫呼は影武者という事を公表するという本末転倒な状態であった。
「あっほら、またあの子が見てるわよ……」
猫呼が目立たない様に指をさした先には、いつぞやアルベルトと親し気に話していて、アルベルトが死亡後は何故かフルエレを時々見ている可愛い若い女性職員がいた。
「もしやあの子、フルエレの命を狙ってるのやもしれませんな」
シーン……
「セレネが居たら、んな訳あるかい! って言ってくれる場面だな」
何故かシャルが助け舟を出す。
「……もうなんだか私腹が立ってきたわ。何か言いたい事があるのかもしれない、今日の会議終了後に話し掛けてみるわっ!」
フルエレがその子を見ない様にしつつ、猫呼に宣言した。
「大丈夫かしら? 取っ組み合いの喧嘩にならないかしら?」
「どうしてよ、そんな訳ないでしょ」
「ご安心を、何かあれば私が全力雷で消し去ってやりましょう」
「バカか女性職員攻撃したら警備員沙汰だろが、ふざけんな」
「なんだと!?」
睨み合う砂緒とシャルの間にフルエレが割って入る。
「お願いやめて……はぁなんだかこんな場面も懐かしいわ」
等と言いながら重臣会議開始の時間となった。
―大会議室。
「皆も知っているとは思うが便宜上、北部海峡列国同盟はあと二日でセブンリーフ北部中部新同盟に衣替えというかアップデートする。今回最後の女王ご臨席会議となるが、俺は雪乃フルエレ女王が引き続き女王に当選されると願っているし、実際俺もライス氏もフルエレ様に投票する」
有未レナードの言葉にどよめきが起こった。しかしレナードが言わずとも、皆がフルエレが当選して継続すると考えている。
「で、北部中部新同盟だとめんどくさいんで、何か良い新呼称とかって無いものだろうか?」
今回のフルエレは何も言う事も無く静かに話を聞いている。そこへすくっとライス氏が立ち上がった。
「北部中部新同盟では如何にも硬い。しかしユティトレッドやニナルティナの名前を入れると中部小国群の国々から反発もあろう、という事で新たな同盟の結束を図り、今後もさらなる飛躍の願いを込め、中部小国群の中でもいち早く同盟への参加を表明し、周辺からの信望も厚い海と山とに挟まれた小さき王国からお名前を取り、"海と山と国連合"と呼ぶのは如何でしょうか!?」
「却下」
雪乃フルエレがはっきりと拒否し、ライス氏はしょぼんとして席に着いた。
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