614 / 698
2-プロローグ~EX夢部分
EX27 宿敵、目撃……
しおりを挟む「何を!? 武器をお放しをっ!!」
魔ローダーから飛び降りていたウィプヒュカーⅡがびくっとして大声で叫んだ。
目視で依世前女王が見えている兵士達も反応して魔銃を構え、それを合図に輪唱の様に周囲のあちこちでカチャチャッという音が鳴り響いた。しかし依世は構わず姉、雪乃フルエレ初代女王の魔銃を平然と構えるポーズまで持って行ってしまった。
カチャッ
「武器だ撃て!」
「撃つな! 撃つなっっ!!」
「お早くお放しをっ! 最後ですぞっ」
困惑したウィプヒュカーⅡや上官達が口々に異なる命令を下す。
どの命令に従えば良いか兵士達は混乱して引き金が引けない。それを無視して依世の構える魔銃は銃口をやや空に向けた。
「これで最後!」
カチッ
依世は無数の魔銃口に狙われているにも関わらず、あっさりと引き金を引いた。
PON!! パカッ
乾いた音と共に魔銃口から細い棒がにゅっと出て来て、使者と書かれた白い旗が出て来た……
「冗談が過ぎますぞ、これは預からせて頂く」
「姉の物、大切な国宝です。後で返してもらいますよ」
バッッ
ウィプヒュカーⅡが奪う様に依世の構える魔銃を預かった。
それを見て包囲している兵士達も構えを解いて行く。依世による、一連の敵兵に撃たれても仕方が無いと命を懸けた運を試す行為は終わった。もちろん遊び半分の単なる危険な運試しでは無く、敗戦で多くの仲間を殺した罰を受けようとしての想いから始めた事であった……
(私は生かされた……ありがとう皆、貴方達の犠牲は絶対に無駄にしないよ。こうなったら絶対に【海と山と国】だけはこの地に残すから)
じっとなにやら瞑想する様な依世を、不審の目で見ながらウィプヒュカーⅡは本陣の中に彼女を導いた。謁見の間に辿り着くまでも、元S級冒険者依世の周りをおびただしい数の兵士達が囲んでいた。
―タカラ山麓に急遽新設された出城謁見の間
無骨な砦の中をウィプヒュカーⅡは案内した。
「紅蓮陛下のお命じにより魔力封じの首輪などは使用しないが、くれぐれも妙な真似はせぬ様に」
「当たり前で御座います。私は両国の平和の為に降伏に来たのですから」
依世は毅然と言ってドアを見た。
ギギギ
兵士達により大きなドアが開かれ、多数の家臣や重臣達が出揃い紅蓮が玉座に座り姫乃がその横に立つ、ものものしい謁見の間に入って行く。足取りも重くなる緊張の瞬間であった……
(むっ仮の出城とは言え、なかなかに立派)
謁見の間は廊下と違い仮城とは思えない立派なしつらえで、表現はおかしいかもしれないが、外見は張りぼての中身は演劇のセットの玉座の間の様な雰囲気がした。それくらいに突然中は豪奢な装飾がなされていた。
「女王依世さん、よく来てくれましたね。平和の為に一刻も早く話したいと思っておりました」
神聖連邦帝国第二百十三代聖帝となった紅蓮アルフォードの座る玉座の横に立つ、煌びやかな黄金の兜や黄金の鎧を装着して勇ましい姿となった女摂政、姫乃ソラーレが優しい声で依世に語り掛けた。だがその時その言葉は上の空で、依世の目は紅蓮の目を見ていた……
(美柑……良く来てくれたね、嬉しく思うよ。これから二人でじっくり話し合おう)
(いいえ、私は姫乃様に外交使者として会いに来ただけです)
(分かってくれ、父聖帝が陣中崩御し、僕が聖帝になるしかなかったんだ。君も多くの仲間を失ったのなら気持ちは分かるはずだよ)
(……それは全ては神聖連邦帝国がやって来たから!)
(君たちだって同盟を大きくする過程でメドース・リガリァを滅ぼしたよ)
(それも、メドース・リガリァが攻めて来たから……)
(いいや、それもこれも小さな事を掛け違えただけ、これから二人で取り戻そう!)
(ううん、私は貴方に別れを告げに来たの。ごめんなさい、さようなら初恋の人……)
(美柑! 話しを聞いて……)
姫乃がありきたりな平和の言葉を説く間、依世と紅蓮は昔に戻り目だけで会話していた。
「どうしましたか?」
「はっいいえ、今までの戦いに思いを馳せてしまい、申し訳ありません」
依世は降伏文書を握りしめながら嘘を付いて下を向いた。
これを渡せば全てが終わる。命を差し出せと命じられればそうしようと決心していた。
「ハハハハハ、そんな【たぶらかし】の小娘の事など相手にしてはなりませんぞ、野蛮人の事ですどんな悪だくみや策略を練っている事か。今からでも会談など止めて【海と山と国】に攻め込めば良いのです!」
突然謁見の間に笑い声が響いて依世は顔を上げた。
多くの家臣達が居て気付かなかったが、同じ顔をした砂緒を倒した宿敵貴城乃シューネも当然この部屋に居て、歴史的瞬間を見守っていたのであった。依世は悔しさに唇を噛んだ。
「……フゥーちゃん?」
その時、だがふと依世は不思議な物を見てしまった。
宿敵貴城乃シューネの横に半ば隠れる様に立つ、美しく成長したフゥーらしき女性が居るのだが、そのフゥーが奇妙な姿をしていた。
少女の頃より大幅に伸びた長い髪をセレネそっくりな髪型と前髪にして、さらにセレネが好む様なシックな紺色のスーツを着て、おまけに……耳にはいつもセレネが大事に装着しているイヤリングとかなり似ている耳飾りまで付けていた。
(まるでセレネのコピーじゃない……)
パサッ
思わず依世は大切な降伏文書を落としてしまった……
0
あなたにおすすめの小説
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
転生?したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~
仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる