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2-プロローグ~EX夢部分
最終exエピローグ Ⅱ セレネ泪
しおりを挟む―海と山とに挟まれた小さき王国、お后様と王様の玉座の間
セレネ出立の別れの挨拶の申し出を受け、お后様と王様は揃って正装して玉座に座っていた。
「本当に行ってしまうのですか? それもとても急……もう少し居てもいいんじゃないかしら?」
「そうだねえ、寂しいねえ」
お后様が頬に手を当て目を細め、いつもながらに王様が同意した。
(お后様の仕草はフルエレさんとそっくりだな)
「はい、むしろこれ以上いたら出るのが辛くなります。王様お后様今まで本当にお世話になりました。また今までのご無礼もお許し下さい」
セレネは爽やかな顔で言いながら跪いた。その後ろではミラとジーノがずっと頭を下げ続けている。
「……貴方はただの家臣じゃ無いのよ、砂緒さんと一緒に此処に新婚旅行に来て以来、依世も夜宵もセレネも砂緒さんも全員私達の子供同然なのです、だからとても寂しい」
「そうだよ」
お后様の認識ではセレネと砂緒が此処に初めて来た時は、新婚旅行で来たという事になっていた。
「……夜宵王女の事はなんとお詫びしても、取り返しのつかない事をしてしまいました……平に謝罪致します」
セレネは深々と頭を下げる。
「そういう意味で言った訳では無いのですよ、頭を上げて頂戴」
「そうだよ、頭を上げなさい」
「はい」
セレネは頭を上げたが、その表情は曇っていた。
「……そうだわ、貴方に餞別があります。今から魔ローダー格納庫に行きましょう」
「は? はい」
「行こう、行こうぞふふ」
お后様と王様が立ち上がると、困惑するセレネの手を引いて格納庫に急いだ。もちろんその後をミラとジーノと護衛の兵士達が付いて行く。
―格納庫
「さ、さ、下向いて入ってごらん」
「は、はぁ?」
途中からお后様と王様が二人してセレネの手を引いて、上を見ない様に連れて来た。
「はいは~いセレネもういいわよ~~上を見て頂戴な」
「バブ~~~」
ヤケに明るいメランの合図でセレネは上を向いた。
「あっサクラ……」
セレネの見上げた頭上には、数多く壊れて転がる魔ローダー達の背景の中で、XS-V1サクラだけがぴかぴかの修理された状態で、すくっと一機だけ立っていた。
「お后様、メランさんこれはどうやって??」
「いや苦労したわ~~講和なったばかりだとしても、猫呼さんに頼んだり帝国の役人に賄賂渡したりして、ようやく両手のパーツを手に入れたのよ!」
流用品となっているが、サクラの壊れた両手はしっかりと修理されていた。
「どうして?」
「貴方程の偉丈夫……女の子だけど……が、旅立つという時に魔ローダーひとつ無くてどうしますか? これさえあれば貴方なら帝国四旗機や白鳥號にでも当たらない限り、誰にも負ける事は無いでしょう」
「そうだねえ」
「バブー」
お后様の心遣いにセレネは震えて涙が出そうに成る程感激したが、出て行く決心が揺らぎそうで必死に堪えた。
「感謝の言葉も御座いません」
「いいのよ……だけど一言だけ聞いて欲しいの」
お后様が改まって言い出したので、何か拝命があるかと畏まった。
「ははっ何なりと」
「必ず何よりも命だけは大事にしなさい。それと……どうか【海と山とに挟まれた小さき王国】にだけは迷惑を掛けないでネ?」
「そうじゃ、もう楽隠居したいんじゃ」
「バブー」
「私からも頼むわ」
改めて皆から強く念押しされてセレネはコケた。
「は、はぃ……ご安心下さい、私が何をするにしても全て私個人の責任で果たします」
「何を……するつもりなの?」
「下手な事しないでよ」
メランとお后様が心配したがセレネは言葉を濁した。
まさか舌の根も乾かぬ内に貴城乃シューネを討つ等とは絶対言えない……帝国に潜入したらサクラも偽装したり隠さなければいけないだろう。
「申し訳ありません、この国には絶対にご迷惑はお掛けしません、では……私はこれで」
最後はやや堅苦しい感じとなったが、セレネはメランやお后様達と手を取り合うと、やっぱり少し泣いてお別れした。
そして最後は後ろ髪引かれる思いでミラ・ジーノと三人でサクラに乗り込むと、格納庫から振り返らずに一気に【海と山と国】のかつて結界ドームのあった範囲から飛び出た。
ガシャンガシャンッミョイン~
―姫乃を討つ為、最後に出撃した出城跡
ここはもう回復した領地だが出城は廃止されていた。
「部長、一体こっからどうするんでやすか?」
「この魔呂って海泳げるんですかい?」
「一体これからどうやって暮らすんです?」
「わいわい」
操縦席の後ろに立つミラとジーノが次々に聞いて来る。
「ゴチャゴチャうるさいね~取り敢えず【神聖連邦帝国】に潜入して実力隠して【交通警備兵】にでもなるかねえ?」
「ポリって簡単になれるもんなんですかねえ?」
「ポリになってどうするんでやすか? スピード違反取り締まり??」
「成り上がって貴城乃シューネに近づくのさ」
セレネは指を立てて言った。
「そう簡単に行きますかねえ」
「でも……その前に行く所がある……」
急にセレネは暗い顔になった。
「まだどっか行く所なんてあったんですかい?」
「こ、こらジーノ!」
「……今まで怖くて行けなかった所さ……怖くて近付く事も出来なかった……でもこの地を離れる前に、絶対にちゃんとお別れしなくちゃならないんだ……」
セレネの顔がさらに暗く沈み込んで行く。
「やっぱり」
「ああ、あの……フルエレさんの立派なお墓さ……怖くても行かなくちゃならないんだ……」
震える声でセレネは両手を祈る様に握り合わせると、椅子の上で前のめりでしゃがみ込んだ。ミラとジーノはセレネが起き上がるまで声を掛ける事が出来なかった……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ー現代日本
カーーンカーーンカーーーン コーーン
コンビニ袋の少女が見上げる先には、ショッピングモールの建設を行うクレーン車が鉄骨をぶら下げている。かつての百貨店の跡地には高い塀が立てられ、もはや中には入れなくなってしまった。
「もうこれじゃあ入れないね」
何かデパートが崩壊したのは自分の責任では無いかと思う事があり、墓参りの様に跡地に来る事が習慣となっていた少女は、最初こそ寂しい気持ちがあったのだが、やがて徐々にそうした気持ちも忘れ初めていた。
「…………」
コンビニ袋の少女は一瞬だけ振り返ると、再び家路に向かって歩き出した。もうその時、崩壊したデパートの事は忘れて違う事を考えていた。
おわり
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