まさか俺が異世界転生ものの主人公になるなんて!

越路遼介

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第15話 カトレア覚醒

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「カトレア!」

 そこにいたのはフィオナ王国王子オレンストだった。
「……オレンスト」
 心底侮蔑するようにオレンストを見つめるカトレア。
「カトレア、彼が?」
「はい、私を公開刑にした男です」

「教えろ、お前にパーフェクトヒールを使った者は誰だ?それを教えれば側妃に迎えんことも無い」
 あまりに傲岸不遜な言いように唖然とするカトレア、レンヤは一周周って逆に滑稽に見えたか思わず吹き出しそうになってしまった。
 オレンストは実のところ、さっきからカトレアに見惚れていた。
 元々美女だったのに悪疾で顔が崩れたカトレア、それが消えれば、誰もが美女と称える女である。

「お前、こんなに美しかったのか…」
「吐き気がする」
「よっ、よし!俺の愛が欲しくて努力したのだな。よくやった。側妃として迎えよう」
「はあ?」
「今宵の伽を命ずる!ありがたいと思え!」
 カトレアはもちろん、レンヤも唖然とするが、彼自身前世で読んだライトノベルの影響か王子と云うものは、だいたいこんなものだと思ってはいた。親友のカールが特別であったのかもしれない。

「オベントウ殿下、彼女にパーフェクトヒールを施したのは私ですが」
「なに?」
「術者が私として何か用ですかな?」
「ふんっ、私の婚約者イライザを殺そうとした女を治したということは貴様も国家反逆罪だ。だが、今後パーフェクトヒールの行使権を私に一任すれば何もかも許してやる」
 …こいつは本物だとレンヤは思った。こんな馬鹿本当にいたのかと。

「…感心しませんね。女の顔など病や加齢でいかようにも変化するもの。変わらぬのは心の美しさ、それにも気づかず、顔が崩れたのを理由に婚約破棄したあげく、冤罪をなすりつけて公開刑。それが後に王となる者のやりようか?」
「あ?」
「顔が崩れても婚約を解消せず、そのまま娶り愛し続ければ、女はおろか、男からも称賛される。つまり民衆は貴方を支持する。後世に語られるほどの王となったでしょう。貴方は間違えた」
「無礼者!」
 王子は剣を抜いてレンヤを斬った。左肩から入ったがめり込みもしなかった。身体強化をあらかじめ施してあった。

「ちっ、お前ら、こいつを殺してカトレアを奪え」
 取り巻きに指示するオレンスト。
「もはや盗賊だな『睡眠』」
 オレンストと取り巻きはそのまま眠りに落ちた。

「カトレア、明日、自宅とアトリエ工房を売却し、孤児院を周って寄付をする」
「はい」
「明後日の朝にこの国を出ていく。準備をしておいてくれ」
「承知しました、ご主人様」
「長くないな、この国は…。いや、王室は」

 いつもの散歩道である湖畔、そこでスケッチをする若き絵師がいなくなった。
 老爺は、かつて若者が立っていた場所に立ち、彼が描いていた風景をそのまま悲しそうに見つめた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ガタゴトガタゴト

 馬車に乗って湖の対岸にある町へと移動していたレンヤとカトレア。
 そこにはフェインゼの町という王族貴族が存在しない農業の町があるらしい。湖から用水路をひき、果樹や野菜、麦なども育てている。牧畜も盛んだそうだ。レンヤとカトレアはその町に拠点を移すことにした。
 馭者台に並んで座り、湖畔からの景色を楽しんでいる。

「ご主人様、私はフィオナを出たことが無かったのですが…角度を変えてみるとフィオナ湖とは、こんなに美しいものだったのですね」
「そうだなぁ…。この付近に村でもあれば宿泊して、このあたりの風景も描いたのに」

 飛行魔法を使えばすぐなのに、あえて馬車を購入しての旅としたのは、ずばりカトレアとエッチするため。
 幌がついた立派な馬車内はフカフカの布団が敷かれているだけ。あとの荷物は収納魔法内だ。カトレアも初めてのセックス以来、レンヤとの閨房に蕩けている。夜まで待ちきれず迫ってくることも。

「ご主人様ぁ…。昼食のあと…したいです」
「男の事情からすると、食事前にしたいよ。空腹が満たされると性欲が後退するらしい」
 的外れの話ではないが、この男には論外の話だろう。
「それはいけませんね。では今すぐに」
 湖畔に馬車を繋いで、幌をくぐり馬車内に。無振動、遮音、そして周囲警戒などの魔法を施して、いざプレイ。正常位でカトレアを貫くレンヤ。
「ああっ、ご主人様ぁっ!」
「カトレアのここ、本当に気持ちいいよ…」
「私もご主人様のご立派様大好きですっ!気持ちいい!気持ちいいですっ!」


 双方、艶々となりランチタイムになった。湖畔から釣竿を垂らして、ポンポンと魚を釣りあげていくレンヤ、カトレアは獲った魚を木の枝に刺して塩を塗って焼く。
「ご主人様は骨も残さず食べるのですね。すごい顎です」
「生き物を食べるわけだから残すわけにもいかないよ。ああカトレアは真似しちゃダメだぞ。骨が喉に刺さる」
「真似できませんよ。ふふっ」


ガタゴトガタゴト


 馬車は揺れる。さすがはレンヤ自身がバイカル湖くらいデカいと言っただけあって、目的地の町まで、まだまだだ。朝昼晩とセックス三昧の乱れ旅は続く。馭者台でイチャつく二人。

「ところでご主人様、目的地のフェインゼの町に着いたら、どうするんですか?」
「芸術ギルドが無かったら、本当に絵と陶芸は趣味範囲だな。診療所を開設しようと思う」
「診療所ですか…。私もご主人様のような治癒魔法が使えたらと思うのですが…」
「カトレア、君は使えるぞ、治癒魔法」
「え?」
「君が知らないだけだ。さすがにパーフェクトヒールは無理だがハイヒールまでは出来る」
「わ、私がですか?」
「今夜のセックス、合体した時にその潜在能力を引き出してみようか?」
 本当は手を繋ぐ程度で魔力の誘発、そして解放は出来るが、この男はよほどカトレアのミミズ千匹に蕩けているらしい。ぐわしとレンヤの腕を掴んで馬を止めたカトレア。
「ご主人様、いますぐです」
「いいよーん♪」

 そして合体
「君の中に眠る魔力を解放す…」
「そんなこといいですから腰を使ってください!焦らされるのイヤア!」
「おっ、おう…」
 普通のセックスになってしまった。前戯を濃密にしすぎたらしい。

 し終わって
「実を言うと手を握るだけで出来るんだな、これが…。カトレアとしたくてさ」
「そんなことじゃないかと思いました。私の胸を見ながら言うのですもの」
 レンヤ特製のメイド服は胸を強調するよう作られている。この世界にはないブラジャーで整っているバストラインは男を夢中にさせるに十分だ。
「手じゃなくて、君のオッパイに触れて魔力誘発したいな」
「もう、ご主人様のエッチ」

 そう言いつつ、あらわになっている乳房をレンヤの前に。
 レンヤは舌なめずりしながら両の手でカトレアの乳房に触れて
「『魔力解放』」
「ん…ああ……。何か体が温かいです……」
 そしてカトレアは感じた。体の内部から今まで経験したことのない何かが湧きあがってくることを。
「これが魔力…!」
「そう、君は治癒と水の魔法が使えるよ」
「水魔法!?」
「そう、清水を魔力で出せるようになる。戦いでは氷の礫や矢を敵にぶつけることが出来るし、熱湯を浴びせることも可能だ」
「すっ、すごい!私、ご主人様の戦闘にも役立てるのですね!」
「いや、戦闘の機会なんてないよ。俺は冒険者にならないし……」
 目をキラキラさせているカトレア、聞いていない。
「じゃ、じゃあ、一応身を守るため水魔法の戦い方を教えるよ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「そりゃあ!ウォーターソード!」
「「ぎゃあああああ!」」
「行けえ!ウォーターキャノン!」
「「ぎょええええ!」」
「ふんっ!」
「…………」
 数日後の夜、野営中を襲ってきた山賊を一人で瞬殺してしまったカトレア。
 死体はグロい。PTSDになるかもと思ったが、どこかの女ムエタイ使いの決め台詞。
「ふんっ、情けない!」
 をドヤ顔で発していた。PTSD?何それ美味しいの状態だ。
 ウォーターソードは消防の高圧放水銃『ウォーターカッター』を基にしてレンヤが発想したものだ。凄まじい水圧は岩をも切り裂く。ウォーターキャノンは水球を弾丸のように飛ばす。水魔法では一般的なものだ。20名以上いた山賊が手籠めにしようとしていた美人メイドに皆殺しにされた。
「…出番なし」
「ああっ、ごめんなさい、ご主人様!私ったらご主人様の見せ場を!」
「あ、いや、いいよ、あははははは!」


 しかし、レンヤはカトレアの魔力を解放したことを後々まで後悔することになる。
 レンヤの根幹的な仕事と言えば武人でも芸術家でもなく治癒師だ。だから次の町でもその仕事に就くつもりだ。すでに伴侶とも言えるカトレアが治癒魔法を使えるに越したことはなく、ヒトが生きるに欠かせない水、しかも飲料に適した清水を自在に出せるとなれば治癒師レンヤにとって最適のパートナーだ。そう思ってレンヤも奴隷商から買ったのだ。

 カトレアは美女だ。当然悪しき心を持った男に狙われる。いつもレンヤが守ってやれるとは限らない。そう思って水魔法を武器とする戦い方を教えたのだが、それがとんでもない事態を引き起こすことになるとは思わなかった。
 レンヤは気づかなかった。見落とした。虐げられ、裏切られた者の悔しさ、怒りを甘く見た。いつもと変わらない笑顔であったから。


 魔力が体内に解放されて間もなく、カトレアは気づいてしまった。レンヤの精を胎内に受けると魔力量が上がり、経口摂取すると武力が上がる。カトレアはレンヤの欲望に応える従順なメイドとして、口と秘所から、どん欲にレンヤの精を搾り取っていく。
 レンヤは気づかない。当然だろう、レンヤの精を体内に入れてチカラが上がるという現象を体験したのは、このカトレアが初めてで、そしてそれをレンヤに言わなかったカトレア。

 しばらくして魔力と武力の上昇の頭打ちが訪れたが、この時のカトレアには主人レンヤと同等の魔力と戦闘力を持つに至る。

 頭打ちが訪れた日の夜、激しい情事のあと、レンヤが寝静まったのを見てカトレアは馬車から出た。地に立った時、カトレアは青白い魔力を体中に帯び、目は鋭く光り、口元はニィと笑っていた。

「ごめんなさい、ご主人様…。これにてお別れです。この身を美しい体に戻していただけたこと、たくさん私を愛して下されたこと忘れません。お元気で…」

 レンヤの眠る馬車に深々と頭を垂れたあと、カトレアは走った。故郷フィオナ王国に。
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