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第22話 邯鄲の夢
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パーティー『雷の矢』は、リケード王国の冒険者ギルドのエース的な存在となり、様々なミッションに挑戦して、クリアーしていく。
しかし、イズミとミナはレンヤと結婚して、ほどなく子供を生み冒険者を引退。レンヤは嫁と子供を養うためソロで活動していく。そして成長した第三夫人のユウナとの初夜を迎えた日、レンヤもまた冒険者から引退。先の人生と同じく治癒師の道に進んだレンヤ。どのように世の中が移り変わろうと必要とされるのが治癒師だ。かつてレンヤに命を助けられた王女ヒルダの強い希望により、リケード王国城下町を終の棲家と決めて、治癒師として全うした。
特に第三夫人のユウナはレンヤの一番弟子でもあり、かつ秘書的な役割も担う。レンヤの治癒魔法と薬草知識を後世に残すためレンヤの言行と治療内容すべてを記録し、後の世に救国の書と呼ばれる医療大辞典を書いた。
レンヤと三人の妻は仲睦まじく、老いても共に散歩する姿が見られたという。そして
「ユウナ、君も儂より先に逝くか…」
「ごめんね、あなた…。ううん…お兄ちゃん…」
ユウナは初夜までレンヤをこう呼んでいた。いや、呼ばされていた。レンヤは妹キャラが欲しかったらしい。久しぶりにそう呼んでくれた妹分の頬を撫でる。
「あの日…。お兄ちゃんに光を与えてもらって…私、こんな幸せな人生を送れたんだ…。ありがとう」
「礼を云うのは儂の方よ…。さあ、もう眠りなさい…」
「愛しているわ…。お兄ちゃん…」
ユウナが召された。先に召されたイズミ、ミナもレンヤの手を握って幸せそうな笑みを浮かべて逝った。
「父さん…」
イズミとの間に生まれた長男ケンヤ、リケード王国を代表する名医でもある。
「儂は旅に出る…。そしてその先で死んでいく。追うでないぞ」
「…父さん、私を厳しくも温かく育ててくれて本当に感謝しております」
「親子ではないか、水臭いことを言うでない」
次男、長女、次女、三男、子供たちがいる。孫たちも。
「最後に願うのは、儂の妻たちの墓に花を絶やすな、それだけだ。儂の墓はどこになるか分からないからのう」
「「はいっ」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レンヤは一人、旅に出た。行先はかつてカトレアと過ごした湖畔、あのフィオナ王国はカトレアに滅ぼされたため、いまだ荒野だが、かつてフィオナと呼ばれた湖は今も美しい。
夕暮れの湖に佇む老爺。涙が溢れている。これで愛する女たちの死を何度見ただろう。
カナ、ユイ、エレノア…。そしてカトレア、イズミ、ミナ、ユウナ、どんなに齢を重ねても人は孤独に耐性など出来るものではない。レンヤはもう生きるのに疲れだしていた。
立川廉也として四十八年、カナ、ユイ、エレノアと過ごした第二の人生は七十六年、そしてカトレア、イズミ、ミナ、ユウナと過ごした第三の人生は七十七年、二百一年、レンヤは生きている。かつて死神に言った言葉『ヒトの精神力は長命に向いていない』それを実感している。あと四百年以上生きるのかと思うと、もう耐えきれない。
ユウナを看取った当日、娘のオリヴィエから伝書鳩が届いた。まさかの知らせだった。
読み終えるなり肩を落とした。
「ラオコーン…」
かつて宿敵であった魔王ラオコーンがこの世を去ったという。いつまでも魔王の座を明け渡さず君臨する彼に対して、ついに反乱が起きたというのだ。玉座の間にて槍で突き殺されたという。
しかも、反乱の盟主はレンヤが魔族の娘を抱いて生まれた男児、レンヤは世代を越えて宿敵の魔王ラオコーンに勝ったということになるが、少しも喜べず、むしろ悲しくてならなかった。
「なんてことだ…」
ラオコーンの元に赴き、孤独に長く生きる者同士、心行くまで語り合いたいと思っていたレンヤ。愛妻と宿敵の死に打ちのめされた。
「もう限界だ…」
レンヤは自決することにした。
そして彼は死ぬ場所を以前から決めていた。それはゲオルグ火山といいマグマ噴き出す活火山。そこに飛び込めば一瞬で蒸気だ。前世、腐乱死体を散々見てきた彼は、少なくとも自分はそうなりたくないと思っていた。だからこの死に方を選んだ。
容貌は変化の魔法でそろそろ八十ともなろうという老爺のレンヤ、空を飛んでゲオルグ火山へと向かう。
「ふう、着いた…」
肉体的な疲れはほとんどあるはずがないのに疲れたと思う。もう生き飽きた、レンヤはそう言う。
それはカナを始め、妻たちにずっと先立たれた悲しさもあるだろう。
「カナ…イズミ…カトレア」
「どうしてその中に私の名前がないのでしょうか?」
目の前に突然現れたのは女神アフロディーテであった。
「女神様…」
「久しぶりですね、豚まん殿」
「ええ…」
「もうだめですか?もう疲れちゃいましたか?」
「はい、もう生き疲れました。死神さんにも言いましたが、人間の精神力は長命に向いていないと思います。あの世があるのなら、先立たれた妻たちに会いたい、それだけです」
「そうですか…。元々貴方は長命になると知らずに多くの人魚を抱いたわけですし…それは私と死神にも誤算でしたから仕方ありませんね」
「召して下さるのですか」
「はい、よくこの世界に尽くしてくれました。貴方が残した技術と知識の数々は、この世界に繁栄をもたらすでしょう」
「いや、人に恵まれただけですよ。よかった…。ようやく死ねるわけですね…」
「はい、苦痛も感じず…。私の胸の中に…豚まん殿」
レンヤは女神アフロディーテの胸の中へ。やわらかな乳房の間に顔を埋めて眠っていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピーポー、ピーポー
「…………」
サイレンの音だった。
「隊長、立川主査、意識が戻りました」
救急車の中だった。廉也は驚く。
「立川主査、鶯谷分署の飯塚です。ほら救急科で同期だった」
「…………」
「立川主査?」
酸素マスクを付けた廉也は軽くうなずく。覚えていると示した。
「驚きました。鶯谷駅改札で心不全を起こした患者が立川主査で。でも自発鼓動が再開されて良かったですよ」
「…………」
ようやく体が動いた。言葉も
「飯塚主査、鏡か何かあったら…」
「ええ、これどうぞ」
鏡を見てみる。仕事明けで、そのままソープランドに行き心不全で倒れた男、48歳の立川廉也がそこにいた。しかも、救急搬送されて病院に向かっているらしい。
「邯鄲の夢……か」
「立川主査?」
「あ、いや…何でもない。飯塚主査、搬送先は?」
「東都循環器病院です」
「いい病院を選定してくれたね…。俺の勤務先の江戸川署には?」
「連絡済みですよ。いま会話も可能になったことも伝えておきます」
「ああ、ありがとう…」
ピーポー、ピーポー
一度は心停止したが、意識を取り戻した廉也、しばらく検査入院となる。
「ったく、何で入院手続きを俺がしなくちゃなんないんだ?立川ァ、こういう時のために嫁さんと言うのは必要なんだよ」
「縁が無かったんだからしょうがないだろう」
同期の井上健司係長、上司であり親友でもある。
「吉原通いも程々にしておけ。あまり仮眠が取れなかった翌日の非番、もう若い女は毒だ」
「お見通しか…」
「飯塚主査から聞いたよ。石鹸のにおいプンプンだったそうじゃないか」
「まったく…守秘義務ってもんがあるだろう」
井上が立ち去り、ひと心地ついたところ、廉也は病院の窓から外を眺める。
(長い夢だったな…。本当に体験したかのようだ…。夢の中での伴侶たちの顔すべて覚えているし…。そうだ、試してみるか。ステータスオープン!)
シーン
(…ははは、出てくるわけがないわ。しかし、あっちの世界で身に付けたもの、少しは覚えて……)
あっちの世界とは何だ?本当に俺は異世界に行っていたのか?
「確か、この病院一階にコンビニあったよな…。金はいくらあるかな…。セイカのチャージはどのくらい残っているか」
罫線が敷かれていない真っ白なノート、色鉛筆を購入した。
あの世界で添い遂げた妻たちの絵姿を描く廉也。
カナ、ユイ、エレノア…。
カトレア…
イズミ、ミナ、ユウナ…
若い時も描けば、老いた彼女たちも描く。カトレアのみ老いた姿を描けないのは残念だが。能力によって技量が水増しされているわけではないからド素人の絵だ。だけど楽しかった。絵の中の妻たちが自分に語り掛けてくれるようで。
妻たちは老いても美しかった。若い女は美しい、老いた女はもっと美しいという言葉があるが、それは本当だと思う。自分にはもったいないくらいの伴侶たちだった。
そしてシレイアやジャンヌ、マーメイドや娘たち、孫娘たち、どんどん描いていく。
一日にノート一冊使ってしまう。
数日後、検査の結果、異状はなく今後も通院は続けて様子を見ることになり、廉也は無事に退院した。
荷物を整理して、最後入院中に描いた妻たちの絵を改めて見直す。
(カナ…。最初に出会った時は娼館で、娼婦のくせして裸になるの泣きながらだったよな…。当時の俺は本当にバカだよ、それを女将に文句言って…。あんなに可愛らしいカナを見られたのにな…)
少しページをめくるとユウナが
(初夜の時、恥ずかしさでわんわん泣いたよな。あそこを見せないで子作り出来ないの、と真顔で言われて参った…。ははは)
さて、と言いノートをしまい、廉也はロビーに行きタクシーを呼んだ。
廉也の自宅はJR尾久駅のすぐ近くだ。生まれは埼玉県の川口市だが、さいたまスーパーアリーナで『アイドル☆DREAM!!』のライブが開催される時に電車で通過するだけのものとなっている。
(自宅に帰るのも百五十年ぶりか…。しかし、今でもハッキリと分からない。あの世界セイラで過ごしたのが現実か夢なのか…)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次回、最終回です。
しかし、イズミとミナはレンヤと結婚して、ほどなく子供を生み冒険者を引退。レンヤは嫁と子供を養うためソロで活動していく。そして成長した第三夫人のユウナとの初夜を迎えた日、レンヤもまた冒険者から引退。先の人生と同じく治癒師の道に進んだレンヤ。どのように世の中が移り変わろうと必要とされるのが治癒師だ。かつてレンヤに命を助けられた王女ヒルダの強い希望により、リケード王国城下町を終の棲家と決めて、治癒師として全うした。
特に第三夫人のユウナはレンヤの一番弟子でもあり、かつ秘書的な役割も担う。レンヤの治癒魔法と薬草知識を後世に残すためレンヤの言行と治療内容すべてを記録し、後の世に救国の書と呼ばれる医療大辞典を書いた。
レンヤと三人の妻は仲睦まじく、老いても共に散歩する姿が見られたという。そして
「ユウナ、君も儂より先に逝くか…」
「ごめんね、あなた…。ううん…お兄ちゃん…」
ユウナは初夜までレンヤをこう呼んでいた。いや、呼ばされていた。レンヤは妹キャラが欲しかったらしい。久しぶりにそう呼んでくれた妹分の頬を撫でる。
「あの日…。お兄ちゃんに光を与えてもらって…私、こんな幸せな人生を送れたんだ…。ありがとう」
「礼を云うのは儂の方よ…。さあ、もう眠りなさい…」
「愛しているわ…。お兄ちゃん…」
ユウナが召された。先に召されたイズミ、ミナもレンヤの手を握って幸せそうな笑みを浮かべて逝った。
「父さん…」
イズミとの間に生まれた長男ケンヤ、リケード王国を代表する名医でもある。
「儂は旅に出る…。そしてその先で死んでいく。追うでないぞ」
「…父さん、私を厳しくも温かく育ててくれて本当に感謝しております」
「親子ではないか、水臭いことを言うでない」
次男、長女、次女、三男、子供たちがいる。孫たちも。
「最後に願うのは、儂の妻たちの墓に花を絶やすな、それだけだ。儂の墓はどこになるか分からないからのう」
「「はいっ」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レンヤは一人、旅に出た。行先はかつてカトレアと過ごした湖畔、あのフィオナ王国はカトレアに滅ぼされたため、いまだ荒野だが、かつてフィオナと呼ばれた湖は今も美しい。
夕暮れの湖に佇む老爺。涙が溢れている。これで愛する女たちの死を何度見ただろう。
カナ、ユイ、エレノア…。そしてカトレア、イズミ、ミナ、ユウナ、どんなに齢を重ねても人は孤独に耐性など出来るものではない。レンヤはもう生きるのに疲れだしていた。
立川廉也として四十八年、カナ、ユイ、エレノアと過ごした第二の人生は七十六年、そしてカトレア、イズミ、ミナ、ユウナと過ごした第三の人生は七十七年、二百一年、レンヤは生きている。かつて死神に言った言葉『ヒトの精神力は長命に向いていない』それを実感している。あと四百年以上生きるのかと思うと、もう耐えきれない。
ユウナを看取った当日、娘のオリヴィエから伝書鳩が届いた。まさかの知らせだった。
読み終えるなり肩を落とした。
「ラオコーン…」
かつて宿敵であった魔王ラオコーンがこの世を去ったという。いつまでも魔王の座を明け渡さず君臨する彼に対して、ついに反乱が起きたというのだ。玉座の間にて槍で突き殺されたという。
しかも、反乱の盟主はレンヤが魔族の娘を抱いて生まれた男児、レンヤは世代を越えて宿敵の魔王ラオコーンに勝ったということになるが、少しも喜べず、むしろ悲しくてならなかった。
「なんてことだ…」
ラオコーンの元に赴き、孤独に長く生きる者同士、心行くまで語り合いたいと思っていたレンヤ。愛妻と宿敵の死に打ちのめされた。
「もう限界だ…」
レンヤは自決することにした。
そして彼は死ぬ場所を以前から決めていた。それはゲオルグ火山といいマグマ噴き出す活火山。そこに飛び込めば一瞬で蒸気だ。前世、腐乱死体を散々見てきた彼は、少なくとも自分はそうなりたくないと思っていた。だからこの死に方を選んだ。
容貌は変化の魔法でそろそろ八十ともなろうという老爺のレンヤ、空を飛んでゲオルグ火山へと向かう。
「ふう、着いた…」
肉体的な疲れはほとんどあるはずがないのに疲れたと思う。もう生き飽きた、レンヤはそう言う。
それはカナを始め、妻たちにずっと先立たれた悲しさもあるだろう。
「カナ…イズミ…カトレア」
「どうしてその中に私の名前がないのでしょうか?」
目の前に突然現れたのは女神アフロディーテであった。
「女神様…」
「久しぶりですね、豚まん殿」
「ええ…」
「もうだめですか?もう疲れちゃいましたか?」
「はい、もう生き疲れました。死神さんにも言いましたが、人間の精神力は長命に向いていないと思います。あの世があるのなら、先立たれた妻たちに会いたい、それだけです」
「そうですか…。元々貴方は長命になると知らずに多くの人魚を抱いたわけですし…それは私と死神にも誤算でしたから仕方ありませんね」
「召して下さるのですか」
「はい、よくこの世界に尽くしてくれました。貴方が残した技術と知識の数々は、この世界に繁栄をもたらすでしょう」
「いや、人に恵まれただけですよ。よかった…。ようやく死ねるわけですね…」
「はい、苦痛も感じず…。私の胸の中に…豚まん殿」
レンヤは女神アフロディーテの胸の中へ。やわらかな乳房の間に顔を埋めて眠っていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ピーポー、ピーポー
「…………」
サイレンの音だった。
「隊長、立川主査、意識が戻りました」
救急車の中だった。廉也は驚く。
「立川主査、鶯谷分署の飯塚です。ほら救急科で同期だった」
「…………」
「立川主査?」
酸素マスクを付けた廉也は軽くうなずく。覚えていると示した。
「驚きました。鶯谷駅改札で心不全を起こした患者が立川主査で。でも自発鼓動が再開されて良かったですよ」
「…………」
ようやく体が動いた。言葉も
「飯塚主査、鏡か何かあったら…」
「ええ、これどうぞ」
鏡を見てみる。仕事明けで、そのままソープランドに行き心不全で倒れた男、48歳の立川廉也がそこにいた。しかも、救急搬送されて病院に向かっているらしい。
「邯鄲の夢……か」
「立川主査?」
「あ、いや…何でもない。飯塚主査、搬送先は?」
「東都循環器病院です」
「いい病院を選定してくれたね…。俺の勤務先の江戸川署には?」
「連絡済みですよ。いま会話も可能になったことも伝えておきます」
「ああ、ありがとう…」
ピーポー、ピーポー
一度は心停止したが、意識を取り戻した廉也、しばらく検査入院となる。
「ったく、何で入院手続きを俺がしなくちゃなんないんだ?立川ァ、こういう時のために嫁さんと言うのは必要なんだよ」
「縁が無かったんだからしょうがないだろう」
同期の井上健司係長、上司であり親友でもある。
「吉原通いも程々にしておけ。あまり仮眠が取れなかった翌日の非番、もう若い女は毒だ」
「お見通しか…」
「飯塚主査から聞いたよ。石鹸のにおいプンプンだったそうじゃないか」
「まったく…守秘義務ってもんがあるだろう」
井上が立ち去り、ひと心地ついたところ、廉也は病院の窓から外を眺める。
(長い夢だったな…。本当に体験したかのようだ…。夢の中での伴侶たちの顔すべて覚えているし…。そうだ、試してみるか。ステータスオープン!)
シーン
(…ははは、出てくるわけがないわ。しかし、あっちの世界で身に付けたもの、少しは覚えて……)
あっちの世界とは何だ?本当に俺は異世界に行っていたのか?
「確か、この病院一階にコンビニあったよな…。金はいくらあるかな…。セイカのチャージはどのくらい残っているか」
罫線が敷かれていない真っ白なノート、色鉛筆を購入した。
あの世界で添い遂げた妻たちの絵姿を描く廉也。
カナ、ユイ、エレノア…。
カトレア…
イズミ、ミナ、ユウナ…
若い時も描けば、老いた彼女たちも描く。カトレアのみ老いた姿を描けないのは残念だが。能力によって技量が水増しされているわけではないからド素人の絵だ。だけど楽しかった。絵の中の妻たちが自分に語り掛けてくれるようで。
妻たちは老いても美しかった。若い女は美しい、老いた女はもっと美しいという言葉があるが、それは本当だと思う。自分にはもったいないくらいの伴侶たちだった。
そしてシレイアやジャンヌ、マーメイドや娘たち、孫娘たち、どんどん描いていく。
一日にノート一冊使ってしまう。
数日後、検査の結果、異状はなく今後も通院は続けて様子を見ることになり、廉也は無事に退院した。
荷物を整理して、最後入院中に描いた妻たちの絵を改めて見直す。
(カナ…。最初に出会った時は娼館で、娼婦のくせして裸になるの泣きながらだったよな…。当時の俺は本当にバカだよ、それを女将に文句言って…。あんなに可愛らしいカナを見られたのにな…)
少しページをめくるとユウナが
(初夜の時、恥ずかしさでわんわん泣いたよな。あそこを見せないで子作り出来ないの、と真顔で言われて参った…。ははは)
さて、と言いノートをしまい、廉也はロビーに行きタクシーを呼んだ。
廉也の自宅はJR尾久駅のすぐ近くだ。生まれは埼玉県の川口市だが、さいたまスーパーアリーナで『アイドル☆DREAM!!』のライブが開催される時に電車で通過するだけのものとなっている。
(自宅に帰るのも百五十年ぶりか…。しかし、今でもハッキリと分からない。あの世界セイラで過ごしたのが現実か夢なのか…)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次回、最終回です。
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