11 / 89
【1】きっかけは最初の街から。
09)キミの名前。
しおりを挟む「話はまとまったかな?そしたら私はギルドに戻るよ」
「わぁああ!ツェリさんすみません!!熱中しすぎてつい……!」
「ツェリちゃんありがとね。これいつものやつよ」
一部始終を見守っていたツェリディアはお茶を飲み終え、ハルから報酬の瓶を3つ受け取る。ポーションとは別の飲み薬のようだ。
「キミとはまた会いそうなんだよね。その時はよろしくね」
「こちらこそ!最初から最後までありがとうございました!」
名残惜しいがお互いに都合がある。もしかしたら彼女が待っていた指令が届いているかもしれない。ツェリディアは「またね!」と手を振って去って行った。
「よし、じゃあ早速始めるとするよ!まずは薬草の選定と洗浄さ!」
腕まくりをしたハルがカゴから薬草を取り出す。テーブルの上に山盛りに積まれた薬草からは土の匂いがする。
「虫食いや変色した葉は残念ながらポーションには使えない。綺麗な葉はこっちに、それ以外は黒いカゴに入れておくれ」
「わかりました!」
木精霊も話を聞くや否や、次から次へと指を指す。その後に「ダメ」と言うかのように腕をバツに交差させたり、逆にとても綺麗な葉には丸印を出している。丸印の葉はちょっとキラキラしているように見える。
「これなんかキラキラしている……」
「ああ!その葉は上級作るのに使えそうだわ!こっちのカゴに避けておいて!」
少し小さめのカゴが出される。中には同じくキラキラしている葉がまとまっていた。
「偶に上質な薬草があるのよ。効力が高いから貴重なの。よく見つけたわねぇ」
「木精霊が教えてくれたんです!」
ありがとう、と頭を撫でると更にやる気を出したようだ。なんだかとても癒される。この量だから時間が掛かりそうだと思ったが、この子のおかげで意外と早く終わるかもしれない。
「そういえば、精霊に名前つけてないのかい?」
「え?名前、ですか?」
精霊と契約なんて突然の事だったから知識は無く、何をしたらいいのか全く理解しきれていなかった。確かに木精霊は全ての呼称であり、この子一人を示すものではない。それを考えると名前って重要だなぁと思う。
ふと何か視線を感じるなと思って目を向けたら木精霊がキラキラした目でこちらを見つめていた。あ、名前つけてほしかったんだね。
「うーん、どうしよう……」
ホントに何も考えてなかったので、どうしようかと思考を巡らす。緑、若葉、花、癒し、この子をイメージする名前。
「セラフィ」
ポツリと出た言葉に木精霊が瞬時に反応した。セラフィナイトという緑色の石がある。白い筋は羽のようだと言われ、癒しの力があるという。イメージ的にピッタリだと思って思わず出た名前だった。
それと同時に何か吸い込まれるような、フワッと浮くような感覚が身を襲った。
*****
樹木が生い茂る空間、一際大きい樹の下、清らかな空気と根元を流れる清流のせせらぎ。見た事のない大輪の花、色とりどりの小さな花。とても静かな、心が洗われるような場所。
ここは何処だろう。
さっきまで道具屋の工房で作業をしていた筈なのに。
眩い光と共に頭の中へ声が響く。
(ここはあの子が生まれた場所。緑の聖地)
そうか、聖地だから空気が清らかなのか、と納得する。いやいや、そうじゃない。何故すんなり納得してるんだ。
(あの子は貴方の事が大好きみたいなの)
僕も木精霊もといセラフィが好きだ。まだ出会って短いけれど、表情は豊かだし、色々手伝ってくれるし、何よりも可愛い。喜んでいる姿なんて見ているだけで癒される。
(生まれたばかりで色々と失敗しちゃうこともあるだろうけど、懸命に力になろうとしているの)
確かに驚く事は多い。さっきもそうだったけど、感謝の意を述べた時に何故か近くにあった滅多に咲かないとされていた植物が満開になった。あれはセラフィの失敗の一つだったのだろうか。もしかしたら感情の昂りでやりすぎちゃうのかもしれない。
(どうか、あの子をよろしくね……)
急に光が失われていく。身体も急に落ちる感覚に襲われ、樹木の生い茂った空間はいつの間にか黒く黒く……
*****
(……!…………!!)
遠くで声が聞こえる。
あ、名前を呼ばれてるんだ。誰の?
僕はどうなっている?あの不思議な空間から落ちて、それから……
ふと目を開ける。
薄暗い部屋に灯されたランプの明かり。心配そうに様子を伺うハルの姿。
「ああ、よかった!気づいたんだね!」
「ハル……さん……?」
気づけばまた知らない部屋にいる。ハルが居るからさっきみたいな不思議空間ではなさそうだ。
「精霊に名付けした直後に意識を失ったんだよ。恐らく魔力を持って行かれたのかもね。とりあえずもう夜だし、このままここで休みな。ここは客間だから気にする必要ないからね」
ふかふかのベッドの中だった。程よい太陽の香り、とても暖かくて心地よい。
「親御さんにはギルドを通して連絡しておくよ。魔力の回復はとにかく寝る事さ。続きはまた明日ね」
「はい、おやすみ……な……さ……」
木精霊の……セラフィはどうなったんだろう……名前、気に入ってくれてるといいんだけどなぁ。
ほんの数分の覚醒時間。思考は上手く働かず、再び夢の中へと落ちていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,945
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる