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【1】きっかけは最初の街から。
16)期待の眼差し。
しおりを挟むカランカランカラン。扉のベルは相変わらずいい音色を奏でる。
「ハルさん、お客様です」
「いらっしゃい、って誰かと思ったらリュシオン殿下と副団長さんじゃないの」
カウンターに出てくるとハルは即座にわかったようだ。それもそのはず。騎士団はお得意様だし、殿下は魔道具作成の件で何かと贔屓にしてくださるからだ。
「おはようございます、ハルさん。ご無沙汰してます」
「うん、相変わらずここの空気はいい。何か新しい魔道具とか作りました?」
ぺこりと会釈をするジークレストと店内の魔道具を物色し始めるリュシオン。
「残念ながら最近は薬師の方が忙しくてね、魔道具はあんまり作れてないのさ」
「ああ、シルバーウルフの群れが森に出現したとかでギルド総出であたってるんですよね」
例の緊急クエストの件だろうか。掻い摘んで事情を聞くと、どこからかわからないがシルバーウルフの群れが森の奥に現れ、森の分布が大きく崩れてしまった。おかげで森を追われた他の魔物や獣が近隣の作物・家畜を荒らしたり、人に襲いかかったりと被害が玉突きのように拡大していった為にギルドが緊急クエストとして要請したとのことだった。
「そろそろ収束する頃だと思うんだけどね。そのうち賑やかな冒険者で溢れるさ。さて、ご注文はあるかい?ポーションなら明日出来のいいのがたくさん完成する筈よ。何せその子、アルくんが集めた素材だからね」
殿下ならわかるでしょう?とハルは意味あり気な笑顔を作り、リュシオンは「ほほう」と興味津々でアリオットを見る。
「もしかして、キミも作るのか!?」
今度は目をキラリと輝かせたジークレストに肩を掴まれる。ただしガシッというよりドシッに近い衝撃が足元まで走ったが。これで背が縮んだらどうしてくれるの!
「い、今作り方を教わっている最中でして」
「よし!ハルさん、この子が作った物なら出来が悪くても騎士団が買い取ろう。効果は保証できる!」
ますますテンションが上がったのかバシバシと肩を叩かれる。さっきよりも衝撃が凄いし、ズドンズドンと内蔵にまで響いてるし、これダメージ喰らってない??あ、背が縮んだ気がする。
視点と意識が遠のくよりも早く、腕の中のセラフィがはわはわと回復魔法をかけてくれた。やはりダメージ判定を受けてた様だ。こんなところで危うく戦闘不能とか笑えない。そんな火力の張本人はハルと納品数の話し合いになっていた。
「そう複雑そうな顔をするな。リディアもだが、ジーク兄の鑑識眼はそこらの奴より更に精度が高くてな。人や物を見る目は誰よりも鋭い。そんな人が認めているんだ、胸を張るといい」
生きていて何よりだ、と付け加えられる。そう思うなら笑っていないで早いうちから止めてください殿下。
「アルくん、とりあえず今回のノルマはポーション20本!」
どうやら数が決まった様だ。ちょっと多い気もするけど、100本とか言われなくて良かった。このくらいなら頑張れる気がする。
「ポーションは明後日に取りに伺おう。気を張らず、多少失敗しても構わない。まずは作る事を楽しむといい。ハルさん、空き瓶は明日騎士団員に届けさせます。よろしくお願いします」
「あいよ、んじゃ早速作成にとりかからないとねぇ」
話がまとまったところで2人は帰っていった。思わぬところで話が大きくなってしまったような……
「アルくん、とんでもない方々と知り合っちゃったねぇ……ささ、張り切って作ろうじゃないか!」
「は、はい!やります!頑張ります!」
本来なら王族とか遠い遠い存在だと思っていたのに、あんなに近くで話して良かったのだろうかとか、王都騎士団だってエリート揃いだというのに、その中の副団長に顔を拭われたり砂を払われたり(ダメージも受けたけど)、短いけれどまるで嵐のような時間だった。今になって疲労感がドッと襲ってきた気がする。疲労回復のアイテムってないのかなぁ……
****
さてさて、待ちに待ったポーション作成の再開だ。
裏庭のガラス小屋から干していた薬草類をかき集め、作業場へ運び込む。水分が無くなった分、同じ量でもとても軽い。フワリと風に飛ばされそうになったが、セラフィと風の妖精が拾ってくれて事なきを得た。
次に、大きな鍋に干した薬草と水を1:2の割合で入れる。あとは強火で火に掛け、沸騰したら弱火にして灰汁を取りつつグツグツと煮込み、5分後に火を止める。その後1~2時間そのままにして粗熱を取る。その頃には薬草からも成分が滲み出ているそうなので、ザルを使って葉と液と分け、更に濾し器で細かなカスを取り除き、瓶に移して通常のポーションが完成となる。
ただ、このままだと苦味が強く、飲みにくいので、沸騰した時にハーブを薬草の1/5の量で混ぜるのがハル魔道具・雑貨店の作り方!と伝授された。そうすることで香りがつき、苦味も緩和され、ハーブティーのようにとまではいかないが通常のよりも飲みやすくなるそうだ。
そして更にまろやかにするならポーション瓶に対して小さじ1杯のハチミツを混ぜるという。すると「ポーション+」という疲労回復効果も備わるアイテムになるそうだ。ハチミツって凄い。
確かに回復したくても美味しくない物を口に入れるのは気が進まない。効果だけでなく、飲み手の事を考えるのも薬師には大事なことだよ、と教わった。
残念ながらシルバーウルフの問題で今は森に入れず、ハチミツが手に入りにくい。落ち着いたら取りに行って自分の手で作ってみたい。
完成したてのポーションが目の前に並ぶ。飲み比べてごらん、と沸騰した時に取り分けておいた通常のポーションとハーブを入れたハル流のポーション。見た目は変わらないが香りが違う。
通常のポーションはなんというかとてもとても渋いお茶のような苦味が最後まで口に残る。ハル流ポーションは軽い渋みはあれど後味がサッパリとしていて、あっという間にごくごくと飲み干してしまった。
ハーブを一つ入れるだけでこんなに変わるなんて……!そりゃ騎士団の人達も買い付けにくるわけだ、と納得した。
応援ありがとうございます!
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