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【2】ざわめく森は何を知る。
45)情報収集、ジーク編。
しおりを挟む闇夜の森を駆け抜けるスピードは凄まじかった。力だけでなく機敏さも兼ね備えているのだろう、あちこちに生えている樹々をものともしない。更に地面だけでなく場合により樹木も蹴る。これが平原に出たらどうなるのだろう。実際に今もしがみつくのに必死だった。だからといって力を入れすぎてしまえば毛が抜けてしまいそうだし、ケルベロスにダメージを与えかねない。この微妙な力加減が難しい。騎乗スキルのおかげで何とか乗れてはいるが、安定感か安心して掴める所が欲しいと思う。
少し広くなったところでケルベロスが大きく跳躍した。力加減に気を取られていた為、突然の事で反応しきれずにフワッと身体が浮いた。
「あ。」
やってしまった。このままだとそこらの樹木に当たってどちらかが砕けるだろう。浮いた瞬間に手を伸ばそうとも考えたがこの勢いでは確実に毟る。この凛々しさ逞しさを台無しにさせてしまう、と色々考えてしまい結局伸ばせなかったのだ。
にょーーん!
ケルベロスの身体から細い何かが伸びてきてジークレストの身体に巻きついた。そのまま縮まり、何事も無かったかのように元の位置へと戻された。
このプルプルとした感触、間違いない。
「スラリー!」
手のひらサイズではあるが間違いなくザックのスラリーだ。そのままケルベロスから落ちないようにと鞍と手網のようになり、見事に固定された。
「ありがとう!助かった!」
安定感も得られ、これで振り落とされることはないだろう。ケルベロスも気づいた様で『ガウッ』『グルッ』と唸った後『ウオオオオオオン!!』と甲高く鳴きだした。
どうやら先程までのは本気のスピードではなかったらしい。更にスピードを増して森の中を蹂躙する。あまりの速さに見逃しかけたが、索敵で見つけたオークに通りがけの、しかもスピードの乗った一撃を喰らわせていた。
そのままの勢いで平原に出る。ここでも同じく魔物を見つけては襲撃、ほぼ一撃で仕留めていた。この周辺の生態系が崩れないかが心配だが、オークの軍団に脅かされている影響が強いので今回は目を瞑る。紆余曲折ではあったものの、とりあえず馬よりも早くトスリフに到着したのは間違いない。
さすがに街に近づいてしまっては騒ぎになるのは確実なのでトスリフの近くで降ろして貰う。ケルベロスに礼を述べると短く唸って満足したように消えていった。残されたのは手のひらサイズのスラリー。肩の上に乗ってプルプルと揺れている。
「さて、まずはギルドだな」
夜ではあるがそこまで遅い時間ではない。営業中のお店もあり、街の中が魔導灯で照らされてほのかに明るい。時間があればハルの店にも寄りたいところだ。
ギルドのドアをギィッと開ける。中には数人の冒険者達があれやこれやと情報交換中の様だ。真っ直ぐに受付カウンターに向かうとこちらに気づいた受付嬢のフューリがギルドマスターを呼ぶようにと別の子へ指示していた。
「こんばんは、お久しぶりですねジークさん!ジークさんのドラゴン、昨日も今日も大変だったんですよ!!」
「こんばんは。あれ?街に近づくなと言っといたんだけど、何かやらかしたのか?」
「あー、その辺はギルドマスターやザクセンさんが詳しいですよ」
フューリの視線が少しだけ反らされた。他にもギルド職員の顔は皆揃って疲労感を漂わせている。そんなに時間を開けていたわけでもないはずだが、何があったのだろうか。
例のドラゴンは現在ギルドの裏側のスペースで休んでいるらしい。ここにいるなら好都合だ。王都に向かう時に起こすとしよう。
「おいおいジークの兄ちゃん、帰ってくんの遅いんじゃねーの?」
受付カウンター奥の通路からギルドマスターのオーベルが出てきた。職員よりも更に疲労感が凄まじい。これはさすがに空気を読まざるを得ない。
「あー、なんかドラゴンがやらかしたとかなんとか??」
「ったく連日あの黒いのに連れ回されてんだよ俺!おかげでギルドの魔法収納箱がオークだらけだよ!!」
ジークレストにとって予想外の戦力だった。ということは、通常種以外のオークも仕留められているかもしれない。トスリフへの被害は出ていない状況を見るに、森から出た辺りで狩られているのだろう。
「……そいつは丁度良かった。森の件で話がある。先日のシルバーウルフも、その大量のオークも全て関わっているんだ」
「は?」
「更に巻き込んですまないが、最初の大将軍オークの解体結果と所持品、それと討伐されていたオークの種類と数が知りたい」
ギルド専用の魔法収納箱に納められているのであれば鮮度そのまま、劣化も無い。
「……しゃあねぇな、奥で聞こうか。その表情からすると状況は複雑らしいな」
「おかげであちこちに話をつけないとならなくてな。意外と大きい案件だったのさ」
「うわー、相当面倒事と見た。ザクセン、ジークの兄ちゃんの件だ。アル坊の分も合わせて資料とアレくれ」
「ん」と一言、パサリと出されたバインダー、そして厳重に幾重にも布で巻かれ、更に封印用の帯で締められた何か。
「魔法収納箱に入れられなかった。相当ヤバい」
ああ、コイツが例の……
封印の帯が巻かれているが、それでも禍々しいオーラが滲み出ている。手をかざし、光魔法で散らす。一時しのぎにしかならないだろうが少しでもマシだろう。
「大将軍が所持していた黒い短刀だろう」
「ん。聖属性、浄化必要だ。開けるなら誰か呼べ」
「……知ってたのかよ。その場にいた法術士と神官に浄化と封印の帯を巻くのを手伝ってもらったんだ。絶対にここでは開けるなよ」
ギロリと双方から睨まれる。形状や仕様を確認するのはもう少し後になりそうだ、と鋭い眼光から察した。
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