僕と精霊のトラブルライフと様々な出会いの物語。

ソラガミ

文字の大きさ
49 / 89
【2】ざわめく森は何を知る。

45)情報収集、ジーク編。

しおりを挟む


 闇夜の森を駆け抜けるスピードは凄まじかった。力だけでなく機敏さも兼ね備えているのだろう、あちこちに生えている樹々をものともしない。更に地面だけでなく場合により樹木も蹴る。これが平原に出たらどうなるのだろう。実際に今もしがみつくのに必死だった。だからといって力を入れすぎてしまえば毛が抜けてしまいそうだし、ケルベロスにダメージを与えかねない。この微妙な力加減が難しい。騎乗スキルのおかげで何とか乗れてはいるが、安定感か安心して掴める所が欲しいと思う。

 少し広くなったところでケルベロスが大きく跳躍した。力加減に気を取られていた為、突然の事で反応しきれずにフワッと身体が浮いた。



「あ。」



 やってしまった。このままだとそこらの樹木に当たってどちらかが砕けるだろう。浮いた瞬間に手を伸ばそうとも考えたがこの勢いでは確実に毟る。この凛々しさ逞しさを台無しにさせてしまう、と色々考えてしまい結局伸ばせなかったのだ。


 にょーーん!


 ケルベロスの身体から細い何かが伸びてきてジークレストの身体に巻きついた。そのまま縮まり、何事も無かったかのように元の位置へと戻された。
 このプルプルとした感触、間違いない。


「スラリー!」


 手のひらサイズではあるが間違いなくザックのスラリーだ。そのままケルベロスから落ちないようにと鞍と手網のようになり、見事に固定された。


「ありがとう!助かった!」


 安定感も得られ、これで振り落とされることはないだろう。ケルベロスも気づいた様で『ガウッ』『グルッ』と唸った後『ウオオオオオオン!!』と甲高く鳴きだした。
 どうやら先程までのは本気のスピードではなかったらしい。更にスピードを増して森の中を蹂躙する。あまりの速さに見逃しかけたが、索敵で見つけたオークに通りがけの、しかもスピードの乗った一撃を喰らわせていた。
 そのままの勢いで平原に出る。ここでも同じく魔物モンスターを見つけては襲撃、ほぼ一撃で仕留めていた。この周辺の生態系が崩れないかが心配だが、オークの軍団に脅かされている影響が強いので今回は目を瞑る。紆余曲折ではあったものの、とりあえず馬よりも早くトスリフに到着したのは間違いない。

 さすがに街に近づいてしまっては騒ぎになるのは確実なのでトスリフの近くで降ろして貰う。ケルベロスに礼を述べると短く唸って満足したように消えていった。残されたのは手のひらサイズのスラリー。肩の上に乗ってプルプルと揺れている。



「さて、まずはギルドだな」



 夜ではあるがそこまで遅い時間ではない。営業中のお店もあり、街の中が魔導灯で照らされてほのかに明るい。時間があればハルの店にも寄りたいところだ。
 ギルドのドアをギィッと開ける。中には数人の冒険者達があれやこれやと情報交換中の様だ。真っ直ぐに受付カウンターに向かうとこちらに気づいた受付嬢のフューリがギルドマスターを呼ぶようにと別の子へ指示していた。



「こんばんは、お久しぶりですねジークさん!ジークさんのドラゴン、昨日も今日も大変だったんですよ!!」
「こんばんは。あれ?街に近づくなと言っといたんだけど、何かやらかしたのか?」
「あー、その辺はギルドマスターやザクセンさんが詳しいですよ」

 フューリの視線が少しだけ反らされた。他にもギルド職員の顔は皆揃って疲労感を漂わせている。そんなに時間を開けていたわけでもないはずだが、何があったのだろうか。
 例のドラゴンは現在ギルドの裏側のスペースで休んでいるらしい。ここにいるなら好都合だ。王都に向かう時に起こすとしよう。




「おいおいジークのあんちゃん、帰ってくんの遅いんじゃねーの?」


 受付カウンター奥の通路からギルドマスターのオーベルが出てきた。職員よりも更に疲労感が凄まじい。これはさすがに空気を読まざるを得ない。


「あー、なんかドラゴンがやらかしたとかなんとか??」
「ったく連日あの黒いのに連れ回されてんだよ俺!おかげでギルドの魔法収納箱インベントリがオークだらけだよ!!」


 ジークレストにとって予想外の戦力だった。ということは、通常種以外のオークも仕留められているかもしれない。トスリフへの被害は出ていない状況を見るに、森から出た辺りで狩られているのだろう。



「……そいつは丁度良かった。森の件で話がある。先日のシルバーウルフも、その大量のオークも全て関わっているんだ」
「は?」
「更に巻き込んですまないが、最初の大将軍ハイジェネラルオークの解体結果と所持品、それと討伐されていたオークの種類と数が知りたい」



 ギルド専用の魔法収納箱インベントリに納められているのであれば鮮度そのまま、劣化も無い。



「……しゃあねぇな、奥で聞こうか。その表情からすると状況は複雑らしいな」
「おかげであちこちに話をつけないとならなくてな。意外と大きい案件だったのさ」
「うわー、相当面倒事と見た。ザクセン、ジークのあんちゃんの件だ。アル坊の分も合わせて資料とくれ」



 「ん」と一言、パサリと出されたバインダー、そして厳重に幾重にも布で巻かれ、更に封印用の帯で締められた


魔法収納箱インベントリに入れられなかった。相当ヤバい」




 ああ、が例の……



 封印の帯が巻かれているが、それでも禍々しいオーラが滲み出ている。手をかざし、光魔法で散らす。一時しのぎにしかならないだろうが少しでもマシだろう。


大将軍ハイジェネラルが所持していた黒い短刀だろう」
「ん。聖属性、浄化必要だ。開けるなら誰か呼べ」
「……知ってたのかよ。その場にいた法術士と神官に浄化と封印の帯を巻くのを手伝ってもらったんだ。絶対にここでは開けるなよ」



 ギロリと双方から睨まれる。形状や仕様を確認するのはもう少し後になりそうだ、と鋭い眼光から察した。



しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【短編】子猫をもふもふしませんか?〜転生したら、子猫でした。私が国を救う!

碧井 汐桜香
ファンタジー
子猫の私は、おかあさんと兄弟たちと“かいぬし”に怯えながら、過ごしている。ところが、「柄が悪い」という理由で捨てられ、絶体絶命の大ピンチ。そんなときに、陛下と呼ばれる人間たちに助けられた。連れていかれた先は、王城だった!? 「伝わって! よく見てこれ! 後ろから攻められたら終わるでしょ!?」前世の知識を使って、私は国を救う。 そんなとき、“かいぬし”が猫グッズを売りにきた。絶対に許さないにゃ! 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...