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【2】ざわめく森は何を知る。
44)情報収集開始。
しおりを挟むジークレストは浄化のお香を受取ると世界樹の外へと出た。辺りは既に暗くなってはいるが、抉れた地面や樹木に爪痕などあちこちに戦闘の痕跡が見受けられる。とりあえず、世界樹を広く囲むようにお香を配置する。火を点ければフワッと白い煙が辺りを包み込む。爽やかな花の香りが風に舞い、先程まで澱んでいた空気が何事もなかったかのように清々しい。心做しか樹々の緑も生き返ったように若々しい。
ザックを探しつつ、辺りで負傷している兵士蜂や槍兵蜂に上回復魔法を掛けていく。残念ながら拳で語っていない上に騎乗不可の魔物の為言葉はわからないが、怪我が治ると皆揃って礼をしていた。なんとも礼儀正しい魔物達である。
しばらくするとスタタッスタタッと足音が聞こえてきた。闇夜以上に黒い体躯と揺らめく紫紺の炎、ザックのケルベロスだ。
「副団長!とりあえず周囲のオークは掃討完了っす!何体か隊長級や変異体もいたっすけど、司令官級を倒した後からかなり大人しくなったので掃討しやすかったっすね」
やはり役職付きはオーク達の戦力や士気に大きく影響がある様だ。隊長級はもちろん、司令官級を討ち取れたのは非常に大きい。
「単騎でよくここまで……!助力できなくてすまなかった、ありがとう」
「いえいえ、役に立てて何よりっすよ。兵士蜂達もも協力してくれましたし。アル君も無事っすか?」
「ああ、今は世界樹の中で休んでるはず。とりあえずザックにも今後の方針を伝えとく」
世界樹の裏側の穴の存在、女帝蜂に謁見した事、成すべき3つの課題と今後の方針を掻い摘んで説明する。役職付きの討伐が進んだのは思わぬ吉報であった。
「俺はひとまずトスリフと王都へ戻る。大将軍オークの黒い短剣の件、更にはギルドか騎士団に協力要請を。明後日には戻れるはず。それまでにオーク本陣の情報と戦闘蜂達の治療や戦力を整えるのを手伝ってやってほしい」
「了解っす。お香の効果でこの辺りはしばらく問題ないでしょうし、戻られるまで回復と偵察に力を入れるっすよ」
「最後にすまんが、トスリフまで早馬になりそうな子はいないか?森の出口まででも構わないんだが」
ただでさえ闇夜だ。身体強化して走るのには障害物が多すぎる。森を出ればドラゴンを呼べるだろうが、それまでに襲撃されても敵わない。
「ケルベロス、戦闘後疲れてるとこ悪いんすけど、副団長をトスリフまで送って欲しいっす。お願いできるっすか?」
『グルッ』
『ガウッ』
『バウッ』
キラリと6つの金色の瞳が光った気がした。さすがに冥府の門番、番犬たる威厳と凛々しさが感じられる。
「良いみたいっすよ。トスリフ着いたらケルベロス達は戻るそうっす」
「お、おう。良かった、助かる」
ケルベロスの背中に乗る。張りのある毛並みかと思ったが、わりとフワフワだ。なかなか触り心地が良い。
『ガウウッ』
『グル』
『バウワウッ』
「ああ!副団長、力加減だけは気をつけてくださいっすね!」
翻訳するとそれぞれ『コイツ握力強い!?』『ガシッと掴んだな』『毛を毟るなよ』である。
契約者のザックははっきりと言葉が通じるのだが、ジークレストにはさっぱりだ。ザックとの会話も傍から見ればケルベロスそれぞれが低く唸っていたり、吠えていたりとしか見えない。内容が平和的・ほのぼのした会話であろうと、他の人から見ると恐怖心しか抱かないと言う。
「おお!すまん!気をつけるのでトスリフまでお願いする!ザック、しばらく任せた!」
「了解っす!副団長もよろしくっす!」
挨拶もそこそこに済ませる。ケルベロスがその逞しい四肢で大地を蹴ると瞬時に加速。瞬く間に闇夜に消えていった。
「スラリーも一緒の方が良かったっすかね??ん?」
ぽよぽよと揺れるスラリーの身体が気持ち小さい。ムフー!と胸を張るような自信満々の動き。意訳をつけるなら『ボクを誰だと思ってるのサ!』だろうか。
「まさか分身付けたっすか!んもうスラリー最高!抜け目ないっ!さすがオレの相棒っす!!」
感激のあまりぎゅっと飛びつこうとするとヒラリと躱され、両手は虚しく空を切った。フッ、泣いてなど無い。
とにかくジークレストが分身のスラリーに気がつけば一方的ではあるが簡単な情報のやりとりは可能だ。あちらの状況が知れるだけでも大きく捗るだろう。
「っし、んじゃ俺らも行きますか!」
こうしてオーク殲滅戦と世界樹の復活に向けて各々動き出した。
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