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第18話 ドラゴン襲来

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 アルスはドラゴンの背に乗って、ドラゴニア山脈に辿り着いていた。だが何やら様子がおかしかった。

 空から地面を見てみるに、明らかに百人を超えた人間が集まっていたのだ。そしてよく見ると、黒色の鎧を着ているようだった。

 アルスが状況をよく確認すると、その兵士達は何故か自国の鎧を着た兵士......カーマ王国の兵士と戦っていた。

 アルスはこの状況に疑問しか抱かなかったが、彼の脳裏にある悪魔的な発想が浮かび上がる。
 どうしてルフ達と戦っているのかは知らないが、それはこれからすることに好都合だった。


「ド、ドラゴン聞こえるか?」

《聞こえておる。そういえば、お主に儂の名前を言っていなかったな。儂のことはこれからゼオニクスと呼ぶがいい》

「わ、分かった。ゼオニクス、実はな我は其方の住処に兵士を派遣したのは、そなたの住処を荒らしている、不届き者を討伐するためなのだ。そ、それで誤って其方を......」

《分かっておる。みなまで言わなくてもいい》

「へ?」

《儂の住処を荒らす者を討伐と同時に、ある目的があって儂を目覚めさせたのだろう》


 アルスは途中喋っている中で、流石に無理があるだろうと思っていたが、ゼオニクスは勝手に変な方向へと解釈した。

 ゼオニクスはある事を勘違いしていた。それは、アルスはゼオニクスを目覚めさせるつもりがなかったということだ。それを理解して貰いたかったが、ここで、どういう解答をするかアルスは迷う。

 重要なのはゼオニクスにとって、目覚めさせるのがどういう意味を持つかだった。確か城の時に話した時は、目覚めさせたことを許してくれていたはず。そこまでアルスは考えて、どう答えるか決めた。


「......そ、そうだ。......そしてその黒い鎧を着た兵士が敵で、逆にそうじゃない少数の方の兵士は我々の味方になる」

《ふむ......分かった。黒い鎧を着たものが儂の住処を荒らすものだな。理解した。......儂を襲うものは別に反撃しても構わないのだろう?》


 アルスはゼオニクスの言葉に、少し考え込む。仮にルフがゼオニクスを攻撃すれば、敵判定されるということだ。
 そして、アルス自身がドラゴン退治を依頼してしまっているのもあり、ルフがドラゴンを攻撃する可能性が高かった。
 そこまで考えて、アルスは何と答えるか決めた。


「別に構わない」


 アルスにとって重要だったのは、一人の命よりも、ドラゴンから怒りを買わないことだった。
 それに、背に乗るアルスの姿に気づいて、ルフ達が攻撃をしない可能性もあった。
 アルスは住処を荒らすものは黒の鎧を着た者達だということを、取り敢えず理解して貰えたので、良しとすることにした。


《では久しぶりに暴れるか》


 ゼオニクスがそう言うと、聴いたものを震え上がらせるような叫び声を上げた。




「俺相手にここまでもつとは敬意を抱こう。ベルルとやら」 


 ベルルは全身から血を流しながら、今にも倒れそうな身体を魔力で無理やり強化することでその場に立っていた。

 ガイアの言葉に返事をする労力さえ既になかった。


「もう意識もほとんどないようだな。苦しまずに一撃で殺してやろう」


 ガイアの言葉に、ベルルは死を覚悟して目を閉じた。彼女自身、ガイア程の化け物をここでそれなりの時間、釘付けにしたのは及第点と思っていた。
 ルフが敵の首領の首を取るには十分だと思っていたのである。


 ガイアがベルルに止めを刺そうとした瞬間、低く重い叫び声がガイアの耳に聞こえてくる。


「何だ今のは?」


 ガイアは声が聞こえてきた方向を見ると、ルシウスがいる場所の上に、見たこともない程の大きさのドラゴンが浮かんでいるのが見えた。


「っ!あれはドラゴン......小娘、命拾いしたな」


 ガイアは一秒でも惜しいとでもいうように、地面を蹴って瞬時にその場から去った。

 それを見たベルルは、生き残ったことに安堵して、気絶するようにその場に倒れ込んだ。




 ドラゴンはザーマイン軍の兵士達まで約十メートル程まで近づくと、大きな口を開く。喉の奥から赤い光が溢れた瞬間、真っ赤な炎が吹き放たれた。

 炎のブレスはルフ達のすぐ傍を通り過ぎて、近くにいたザーマイン軍の兵士達に浴びせられた。

 ルフはあまりの熱量に思わず手で顔を覆った。そしてブレスが収まって、兵士達が存在した場所に目を向けると、そこに人影は存在せず、溶けた金属が地面に流れていた。


「逃げろぉぉ!」



 あまりの凄惨さに言葉を失っていたルフの耳に兵士の悲鳴が聞こえてくる。

 兵士の一人が叫んだ瞬間、その場にいた兵士達は剣や鎧を投げ捨て我先に逃げ出す。


「ルシウス様をお守りするぞ。リリア、ラドクリフ、ピアス、時間稼ぎを頼む」


 シドは瞬時にルシウスの命を最優先として、行動に移す。彼が時間稼ぎと言ったのは、ドラゴンという存在は、英雄が束になっても勝てるかどうか分からない存在だからだ。


「ええ、言われなくても」

「時間稼ぎどころか、俺がドラゴンを殺してやるよ」

「ドラゴン相手か、腕がなる」


 三人はドラゴンを迎え撃つ準備をした。シドはルシウスを連れてその場から離れようとする。

 ルフはその様子を見て、どうするか迷う。ルフが取れる択は三つだった。

 一つ目はこの場から逃げ出すことだ。この状況では、恐らくザーマインはカーマ王国に侵攻することは不可能だろう。それなら当初の目的を果たせているため、ルフ達が逃げ出しても問題ない。

 二つ目はザーマインとともにドラゴンと戦うことだ。仮にこのドラゴンが、縄張りを犯した我々に対して、とてつもない怒りを抱いている場合、カーマ王国にまで被害が及ぶ可能性がある。その場合、ここで仕留めなければいけないだろう。

 三つ目はドラゴンを無視して、ルシウス達を狙うことだ。これは復讐心を持つ、ルフの感情を優先することになるが、ここでルシウスを仕留めれば、後の憂いがなくなる。

 ルフはそこまで考えて、ドラゴンをじっと見つめる。すると何か違和感を感じた。人影のようなものが、ドラゴンの背に見えたのだ。

 ルフは注意深く見つめると、その人影は見覚えがある存在だった。


「まさか......」
 

 その姿をルフが見間違うはずがなかった。一瞬だけ見えた顔は、彼の主君であるアルス王その人だった。


「フフフッ......ハハハハハ!」


 ルフは奇声のような声を上げた。そして迷いなく、シドとルシウスの後を追うのだった。
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