君が女の子

papporopueeee

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1日目

女の子になろうね

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「結論が出たみたいだね、それでは北条睦美くんは中央へどうぞ」

 今までずっと黙っていたえるが再び仕切り出し、睦美は机に囲まれてできた空間の中央へと歩いていく。注目を気にしているのか、その顔は少し恥ずかしそうだった。

「では皆、拍手を睦美くんに送ろう! その勇気ある告白に! これからの睦美くんの新たな人生に! 賛辞と祝福の拍手で、たっくさん褒めてあげてね!」

 えるは一瞬でパレード隊に扮すると、太鼓を叩きながら宙に浮くラッパを吹いてファンファーレを奏で始めた。
 睦美を囲う生徒たちは戸惑いながらも、まばらに睦美へと拍手を送る。小陽には睦美を直視できなかったが、せめてもの償いの気持ちで手を叩いた。
 拍手を送られる睦美は頬をかきながら苦笑いを浮かべていて、それが余計に見ていられなくて、小陽は視線を背けた。その先には榎戸が座っており、こんな状況でも変わらずスマホを眺めていた。

「今日から女の子になる睦美くんには、えると榎戸先生から2つプレゼントがあるの。まずは一つ目、女子生徒用の制服だよ! とっても可愛いから、是非来てみてね!」
「えっと……いらない、かな……?」
「そんな遠慮なんてしなくていいから! ほら、榎戸先生働いてください!」

 榎戸は頭をかきながら立ち上がって睦美の方へと歩き出した……その脇に3つの袋を抱えながら。

「選びや。セーラーか、ブレザーか」
「え? え?」
「だから、うちは制服は2つあるやろ? 男子用の学ランとブレザー。今回の為に女子用としてセーラー服とブレザーの2つを学校も用意してん。だから、選び」
「え、あの……どっちでもいいです……」
「いいわけないやろ。それじゃあこっちが押し付けることになるやん。LGBTQにはそういうのが一番怒られんねん。だから、さっさと選び」
「で、でも……。じゃ、じゃあ、セーラー服で……学ラン着てるから……」
「うんうん、睦美くんはセーラー服の方が好きなんだね! えるも良いと思うよ! きっと睦美くんにとっても似合うと思う!」

 えるからの心無い言葉を受けて、睦美の顔が耳まで赤く染まってしまった。榎戸から受け取った袋をぎゅぅっと抱きしめる様子からも、その屈辱と羞恥心が感じ取れた。
 そんな睦美を無視して、榎戸は残った袋の一つを開封すると、中の物を取り出して何やら組み立て始めた。

「な、何してるんですか……? これ、テント……というより、カーテンかな?」
「更衣室や。思春期やし、衆人環視の中で着替えさせるわけにもいかんやろ。ほれ、入り」
「え……ま、まさか、今ここで着替えるんですか? こ、このセーラー服に?」
「そういう決まりやねん。先生もくだらん思うけどな、くだらんことで叱られるのもしょうもないやん? 諦めや」
「榎戸先生! くだらないことじゃないよ! 睦美くんのセーラー服姿を皆で認めて上げるのは、とっっっても重要なんだよ!! 睦美くんは女の子なんだよ、何もおかしいことじゃないんだよって少しずつ身体と心に教えてあげるの!」
「らしいで。まあ、そう言われても恥ずかしいもんは恥ずかしいやろ? せやからちゃちゃっとやって、ちゃちゃっと終わらせよや」
「そ、そんな……せ、せめて此処じゃなくて、教室の外とかは?」
「いや、目離したら逃げるかもしれんやん。そんなん止めてや、監督者の責任問題とかいっちゃん不味いんやから。あんまり先生を困らせんといてや」
「安心していいよ、睦美くん。その更衣室はちゃんと市販されているもので、屋外でも人の目を気にせずに済むようにデザインされているの! だから、何にも恥ずかしくないよ!」

 大人である榎戸と、大人によって作り出されたAIのえるに丸め込まれてしまう睦美。子供である小陽たちは、それを見ていることしかできなかった。

 組み立てられた薄っぺらい布一枚の更衣室を前にして、一歩踏み出そうとしては逡巡してを繰り返す睦美。やがて意を決したかのようにきゅっと目を瞑った後、潤んだ瞳で周囲を見渡してから言った。

「あ、あの……笑わないで欲しい……かな……」
「睦美っ……」

 小陽の唇から漏れた声は睦美の背を掠めもせずに弱々しく床へと落ちて、睦美の姿は狭い更衣室の中へと隠れてしまった。

 布製のカーテン越しにぼんやりと映る睦美のシルエット。確かにそれは睦美の姿を覆い隠してはいたものの、その様子はある程度外に曝されてしまっていた。
 睦美の指が学ランのボタンを一つずつ外す動きも。睦美の腕が学ランの袖から抜かれる様子も。シャツを脱ぐ所作も。そして、腰に手を当ててベルト外す仕草も。

 声をかけて教えるべきだろうか。しかし、それではただ睦美の羞恥心を煽るだけではないか。何も知らないふりをするべきではないか。悩む小陽の視界の隅では、既にイヨが動き出していた。
 イヨは颯爽と教室の入口に向かうと、スイッチを押して教室の灯りを落とした。

「わわっ!? な、何かな?」
「お気になさらず、ムツミさん。少しは恥ずかしさが和らぐかと思い、電気を落とさせていただきました。お手元は見えていますか?」
「あっ、い、伊予ちゃんか……うん、大丈夫かな……。ありがとう」
 小陽には思いつきもしなかったさりげない気遣いを事も無げに実行して席に戻ったイヨ。丁寧で穏やかな物腰とは裏腹に久野絵をよく煽っている印象であったが、性根はやはり善人なのだろう。人には誰しも相性の悪い人間が居て、イヨにとってはそれが久野絵なだけに違いない。

 ただ誤算だったのは、えるの姿が投射されているディスプレイがわずかに光源として残っていることだった。睦美の影は消えていないどころか、明るかった時よりも鮮明になってしまっていた。
 イヨの方に視線を向けてみれば、ディスプレイの光に照らされて気まずそうに佇んでいる姿が見えた。

(まあ、僕たちが見なければいいだけの話か……)

 薄暗い教室の中で、8人の生徒たちはそれぞれ視線を逸らしながら睦美の着替えが終わるのを待った。誰も何も喋らない静寂の教室の中では、睦美の着替えによって生じる衣擦れの音だけが聴こえてくる。
 ズボンを下ろす音。靴下を脱ぐ音。小さな金具の音に、布地と肌が擦れる音。目から入ってくる情報が制限されているからか、音はいやに鮮明に聴こえてきた。
 しゅるしゅると布製の何かを結ぶ音を最後に、衣擦れの音は消えた。そして細い指がカーテンの幕から覗くと同時に、榎戸によって再び灯りのスイッチが押された。

「わっ……あっ、えと……着替え終わった、かな……」

 当たり前だが、そこには睦美が立っていた。更衣室に入ったのは睦美だけなのだから、そこから出てくるのは睦美しかありえない。違いなんて学ランがセーラー服に変わっているだけ。暗い色合いは大きく変わっていないし、睦美自身の顔も髪型も変わっていないのに、その印象は大分違って見えた。

 垂直に下りるズボンとは異なる、広がっていくスカートのシルエット。膝上のスカート丈から伸びる睦美の脚は余計に細く見えた。膝下丈の白ソックスとローファーまでもが女の子用になっており、若干内股なのは恥ずかしさか違和感からだろう。
 飾り気が無くスッキリとしていた学ランの詰襟とは異なり、今の睦美の首元は大きく広がるセーラーカラーとスカーフで彩られている。女の子らしい装いなのは間違い無いが、それ故に喉の突起が目立っているようにも思えた。

 いつもの睦美と同じなのは首から上だけ。右目だけは、今この時も隠れていた。

「あっ……あはは……想像よりもずっと、恥ずかしい、かな……」

 絞り出すように笑った後、睦美は両手でスカートをぎゅっと抑えた。足回りの違和感が特に気になるらしい。

 睦美になんて声をかけたらいいのか、小陽にはわからなかった。
 似合ってる? しかし睦美は着たくて着てるわけじゃない。それに睦美の性自認は男であり、今はただ人柱として女の子の振りをしているに過ぎない。安易な誉め言葉は逆に傷つけるのではないか。
 似合っていない? 褒められないからと言って貶すのは安直すぎる。それに例え嘘だとしても、気遣った結果だとしても、今の睦美に酷い言葉をかけたくはない。
 かける言葉が見つからないのは小陽だけではないようで、場には沈黙が漂っていた。直視することも、目を逸らすことも睦美を傷つけるようで、ただ気まずそうに縮こまる睦美を囲んでいることしかできなかった。

 そんな中でも、平常運転なのがふたりだけ居た。ただ無関心に更衣室を片づけていると榎戸と、嬉しそうに盛り上がっているえるだ。

「わぁっ! とっても良く似合ってるよ、睦美くん! どこからどう見ても立派な女の子にしか見えないね! 皆も、睦美くんの新たな門出を拍手でお祝いしてあげよう!」

 またもや大袈裟に囃し立てるえる。とてもではないが祝えるような雰囲気ではなく、何より睦美自身が祝われたいなどと思っていない。先ほどよりも拍手はまばらで、していない人物も多く、小陽も手を動かせなかった。
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