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剣の落ちた日
家族の人たちは何か悪いことしたの?
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今にも雨が降り出しそうな曇り空は、ただでさえ重い空気を一層重苦しく感じさせる。暗殺に協力したダズの処刑を悲しんでいるかのような空模様は、天までもがチェルの死を願っているかのようでもあった。
ダズの引き回しは昼を少し過ぎた時間から始まった。城門から始まって、急ごしらえで広場に作成した簡易的な処刑台まで。その道のりを民たちに囲ませて、裏切り者の末路を晒し上げる。凄惨な最期を遂げたくなければ決して国を裏切るなと、ダズの苦悶の声を通して民の耳元で恫喝するための行進である。
右手と左手、それぞれの手首に縄をかけ聖剣に吊るされたダズ。鍛え上げた筋肉を含む体重を両手首のみで支えているせいで、酷く鬱血しているのが見て取れる。あれでは処刑台まで辿り着く頃には手が壊死していてもおかしくない。
行進している最中も兵士たちはダズへの暴行は欠かさない。死なぬように、されど苦しむようにダズの横腹を殴り、背中に鞭を打つ。ダズの足先からは足跡を残すように血が垂れ続けていて、赤黒い流血と青黒い痣でもはや本来の肌色もわからない有様だ。
「おいそこのお前! 何を目を逸らしている。まさか、この男を憐れんでいるのではあるまいな?」
「めっ、滅相もありませぬ!」
惨たらしさに顔を覆うことも許されない。
「娘、お前も将来こんな男にだけは嫁ぐなよ?」
「は、はぃっ……」
男女も年齢も関係無い。
「しっかりと歩け! 本来であればお前たちもダズと同罪だ! チェル様の温情に感謝し、その誠意を行動で示せ!」
「はい……ありがとうございます……」
裏切り者の家族にはより辛辣に。
ダズを処刑台まで運ぶ行進のその先頭。聖剣に吊るされているダズの次に目立つ場所には、その伴侶と息子が居た。長い黒髪の女性はやつれた顔で子供の手を引いており、チェルよりも幼い子供は今にも泣き出しそうな顔で父親の前を歩いている。
いくら国賊であろうとも、その家族まで処刑に巻き込む必要は無い。カイナを含めた穏健派の意見も、裏切り者の存在が露見してしまったイクスガルドでは少数派だ。チェルを担ぎ上げて暴力と恐怖で民をまとめようと目論む過激派には数で劣り、ダズの家族を守ることはできなかった。
ダズだけではなく、共犯として一家をまとめて処する。過激派のその結論に異を唱えることができたのは、皮肉にもチェルだけであった。
『家族の人たちは何か悪いことしたの?』
過激派は口八丁にダズの家族の罪深さを説いたがチェルの心には響かず、ダズの家族は処刑を免れた。しかしながら結局は引き回しの先導などという役目を与えられてしまい、家族であるダズを処刑台へと導かされている。
悍ましい。よくもこのような非道を思いつくものだと、カイナはラノイを含む過激派に恐怖を覚えていた。早急に民をイクスガルドに縛り付けるための手段としては、これはあまりにも効果覿面だ。ストレスで押し潰された民の心が破裂する未来に目を瞑れば、何とも効率が良いやり方だ。
いっそのこと、この場で反旗を翻すことができればどれほど心が楽であろうか。民たちの目の前で、王子であるカイナが裏切り者の家族に肩を貸し、イクスガルド兵たちに刃を向ける。そうすればカイナの心に多少の晴れやかさを齎すと同時に、イクスガルドからは秩序が失われ混沌が支配するに違いない。
「……ねえ、カイナ兄?」
処刑台まであと半分という距離まで来た頃。引き回しの列の先頭の少し後ろ、吊るされるダズの左後にて。カイナが手綱を引く馬に乗るチェルが弱々しく兄の名前を呼んだ。
今日ばかりはいつもの薄着を許すわけにもいかず、チェルはカイナによって無理矢理に礼服を着せられていた。金髪も簡単にではあるが、後頭部で一つにまとめられている。
「どうした?」
「疲れた……もう帰りたい……」
息も絶え絶えな状態で吐き出されたその声は、大して吹いてもいない風にすらかき消されんばかりだった。その情けない弱音が自分以外の人間の耳には届かなかったことに、カイナは安堵のため息を漏らす。
「ただ馬に乗っているだけだろう。何を疲れることがある」
「揺れるせいでお尻痛い……揺れないように足に力込めると疲れるし……おんぶして……」
「ダメだ。我慢しろ」
心の内でどう思っていようとも、発案者が一人の兵士であろうとも、この公開処刑は国を統べる王の名の下に行われている。民の目には王子であるカイナとチェルこそが、この惨状の責任者として映っている。今も王城で元老院と共に会議を重ねている王の代行としても、情けない姿は見せられない。
どれだけ悪辣な行軍であろうとも、それを止めないのであれば堂々としていなければ余計に民の反感を買い信用を損ねる。緊張感もなくへたれるなど許されず、おんぶなど言語道断だ。
「我慢なんて言われても……無理なものは無理……ふっ……ふぅーっ……」
今にも気絶しかねない様子を見せるチェル。その虚弱さに嘆息し、どうしたものかと考えようとしたところで、カイナの耳は落下音を捉えた。
どさり、と。まるで、吊られていた成人男性が支えを失い落下したかのような音だった。
ダズの引き回しは昼を少し過ぎた時間から始まった。城門から始まって、急ごしらえで広場に作成した簡易的な処刑台まで。その道のりを民たちに囲ませて、裏切り者の末路を晒し上げる。凄惨な最期を遂げたくなければ決して国を裏切るなと、ダズの苦悶の声を通して民の耳元で恫喝するための行進である。
右手と左手、それぞれの手首に縄をかけ聖剣に吊るされたダズ。鍛え上げた筋肉を含む体重を両手首のみで支えているせいで、酷く鬱血しているのが見て取れる。あれでは処刑台まで辿り着く頃には手が壊死していてもおかしくない。
行進している最中も兵士たちはダズへの暴行は欠かさない。死なぬように、されど苦しむようにダズの横腹を殴り、背中に鞭を打つ。ダズの足先からは足跡を残すように血が垂れ続けていて、赤黒い流血と青黒い痣でもはや本来の肌色もわからない有様だ。
「おいそこのお前! 何を目を逸らしている。まさか、この男を憐れんでいるのではあるまいな?」
「めっ、滅相もありませぬ!」
惨たらしさに顔を覆うことも許されない。
「娘、お前も将来こんな男にだけは嫁ぐなよ?」
「は、はぃっ……」
男女も年齢も関係無い。
「しっかりと歩け! 本来であればお前たちもダズと同罪だ! チェル様の温情に感謝し、その誠意を行動で示せ!」
「はい……ありがとうございます……」
裏切り者の家族にはより辛辣に。
ダズを処刑台まで運ぶ行進のその先頭。聖剣に吊るされているダズの次に目立つ場所には、その伴侶と息子が居た。長い黒髪の女性はやつれた顔で子供の手を引いており、チェルよりも幼い子供は今にも泣き出しそうな顔で父親の前を歩いている。
いくら国賊であろうとも、その家族まで処刑に巻き込む必要は無い。カイナを含めた穏健派の意見も、裏切り者の存在が露見してしまったイクスガルドでは少数派だ。チェルを担ぎ上げて暴力と恐怖で民をまとめようと目論む過激派には数で劣り、ダズの家族を守ることはできなかった。
ダズだけではなく、共犯として一家をまとめて処する。過激派のその結論に異を唱えることができたのは、皮肉にもチェルだけであった。
『家族の人たちは何か悪いことしたの?』
過激派は口八丁にダズの家族の罪深さを説いたがチェルの心には響かず、ダズの家族は処刑を免れた。しかしながら結局は引き回しの先導などという役目を与えられてしまい、家族であるダズを処刑台へと導かされている。
悍ましい。よくもこのような非道を思いつくものだと、カイナはラノイを含む過激派に恐怖を覚えていた。早急に民をイクスガルドに縛り付けるための手段としては、これはあまりにも効果覿面だ。ストレスで押し潰された民の心が破裂する未来に目を瞑れば、何とも効率が良いやり方だ。
いっそのこと、この場で反旗を翻すことができればどれほど心が楽であろうか。民たちの目の前で、王子であるカイナが裏切り者の家族に肩を貸し、イクスガルド兵たちに刃を向ける。そうすればカイナの心に多少の晴れやかさを齎すと同時に、イクスガルドからは秩序が失われ混沌が支配するに違いない。
「……ねえ、カイナ兄?」
処刑台まであと半分という距離まで来た頃。引き回しの列の先頭の少し後ろ、吊るされるダズの左後にて。カイナが手綱を引く馬に乗るチェルが弱々しく兄の名前を呼んだ。
今日ばかりはいつもの薄着を許すわけにもいかず、チェルはカイナによって無理矢理に礼服を着せられていた。金髪も簡単にではあるが、後頭部で一つにまとめられている。
「どうした?」
「疲れた……もう帰りたい……」
息も絶え絶えな状態で吐き出されたその声は、大して吹いてもいない風にすらかき消されんばかりだった。その情けない弱音が自分以外の人間の耳には届かなかったことに、カイナは安堵のため息を漏らす。
「ただ馬に乗っているだけだろう。何を疲れることがある」
「揺れるせいでお尻痛い……揺れないように足に力込めると疲れるし……おんぶして……」
「ダメだ。我慢しろ」
心の内でどう思っていようとも、発案者が一人の兵士であろうとも、この公開処刑は国を統べる王の名の下に行われている。民の目には王子であるカイナとチェルこそが、この惨状の責任者として映っている。今も王城で元老院と共に会議を重ねている王の代行としても、情けない姿は見せられない。
どれだけ悪辣な行軍であろうとも、それを止めないのであれば堂々としていなければ余計に民の反感を買い信用を損ねる。緊張感もなくへたれるなど許されず、おんぶなど言語道断だ。
「我慢なんて言われても……無理なものは無理……ふっ……ふぅーっ……」
今にも気絶しかねない様子を見せるチェル。その虚弱さに嘆息し、どうしたものかと考えようとしたところで、カイナの耳は落下音を捉えた。
どさり、と。まるで、吊られていた成人男性が支えを失い落下したかのような音だった。
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