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42話 修羅場
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「じゃ、俺は荻野の所に戻るから。看病よろしくな。」
「わかった、ありがとう。」
とりあえずびしょ濡れの浴衣を脱がせ、車に乗っていた毛布で包むと蓮のマンションまで走った。車内で本格的に眠ってしまった銀二郎をやや雑に担ぎ上げ蓮の部屋のソファまで運ぶと、悠馬はさっさと出ていってしまった。
とりあえず、自分の部屋着を着せてみるが銀次郎には小さい、長袖も長ズボンも七分丈になってしまう。仕方がないので毛布を何枚か被せた。それからすぐに氷枕を当て蒸しタオルを用意して、足先や手先を温めている間に湯船にお湯をため風呂の準備をする。
「銀二郎︙。」
熱で火照る頬に触れ、ポツリと名を呼ぶ。
あとのことは全て任せろと言ってくれた悠馬と悟には頭が上がらない。蓮は自分の家から何年も逃げ続けていた、それが今回愛しい人を失うかもしれない事態となってしまったのだ。自分のせいだ。頬に触れた蓮の手にすり寄るように銀二郎が動いて、うっすらと瞼を開く。
「︙︙ゆ、ぅま、くん?」
「︙雄馬じゃない、俺だよ。」
まだ定まらない意識の中で他の男の名を呼ぶ銀二郎に蓮は苦笑いをする。
「︙れん、く、ん。」
「そう、蓮くんですよ。」
蓮を認識した銀二郎が不思議そうに顔を見る、それからふわりと笑った。
どうせまたいい夢だとでも思っているのだろう、と蓮は何度も夢じゃないよと言った。蓮の予想は的中、銀二郎は確かに未だ夢だと思っている。もしくは天国。それでも、頬に触れる手や温かなぬくもり、布団の感触にようやっと覚醒しはじめた脳がこれを現実として受け入れようとしている。そんな銀二郎の耳にとんでもない言葉が入り込んできた。
「銀二郎、俺の恋人になって。」
▽
海で銀二郎と共に居た三本木由鶴という男を、ここまで着いてきていた荻野家の関係者だという車から出てきた数人の男にあっという間に連れ攫われたのまでは見た。が、銀二郎と蓮を送り届け悟の所へ戻ってきた悠馬は、まさかこんな事になっているだなんて思ってもみなかった。
周りに広がる剣呑な空気。
椅子に縛り付けられ未だ眠っている由鶴とその正面に座る悟。
由鶴の頬が腫れている。
そこはまさに修羅場のようだった。
荻野家の関係者・・・元い、悟の部下に案内されてきたのはまるで平安時代のような畳と襖の広がるドデカイ屋敷、背の高い塀で辺りは隠され、庭先には大きな池に高そうな鯉が泳いでいる。悠馬はここに招かれるため、蓮のマンションから別の(景色の見えない真っ黒な窓の)車に乗せられた。そこまでは、疑問を抱いてなど居なかったが︙、いよいよ流石におかしい。
「これはこれは荻野財閥のお坊っちゃん︙。いや、荻組の若様と呼ぶべきかな?」
瞼を持ち上げた由鶴がニヤニヤとしながら口を開いた。
「やっと起きたんですね。三本木組、初代組長さん。」
由鶴との会話、ギラギラと冷たく光る悟の眼光は見たことのない冷血さを含んでおり、悠馬は珍しく足がすくむような感覚を覚えた。
アイツ︙、いっつもヘラヘラしてるくせに。
此処まで来れば、流石の悠馬にも分かってくる。
『荻組』
『三本木組』
ニュースでよく耳にする暴力団。
いわゆるヤクザで、その中でもトップクラスの組。
荻野財閥とは名ばかりで実際では、悟はヤクザの跡取り息子だったって訳だ。そして、何よりも気になるのは『三本木』という名。
「アンタ、蓮と関係ある奴なんスか?」
ずっと黙って突っ立っていた悠馬がやっと声をだした。
この状況に幾分慣れたのだ。
なんといっても、ざっと周囲の人間を見て自分はこの屋敷の誰にも負けない気がしたから。
「三本木由鶴。コイツは、蓮の叔父だよ。」
「まぁ、そういうことだからあとの事は任せて。」
いつもの人懐っこい顔でにっこり笑った悟は「送らせるから今日は帰りなよ。」と俺にもコイツを殴らせろと文句をいう悠馬を屋敷から半ば無理矢理に追い出した。
「わかった、ありがとう。」
とりあえずびしょ濡れの浴衣を脱がせ、車に乗っていた毛布で包むと蓮のマンションまで走った。車内で本格的に眠ってしまった銀二郎をやや雑に担ぎ上げ蓮の部屋のソファまで運ぶと、悠馬はさっさと出ていってしまった。
とりあえず、自分の部屋着を着せてみるが銀次郎には小さい、長袖も長ズボンも七分丈になってしまう。仕方がないので毛布を何枚か被せた。それからすぐに氷枕を当て蒸しタオルを用意して、足先や手先を温めている間に湯船にお湯をため風呂の準備をする。
「銀二郎︙。」
熱で火照る頬に触れ、ポツリと名を呼ぶ。
あとのことは全て任せろと言ってくれた悠馬と悟には頭が上がらない。蓮は自分の家から何年も逃げ続けていた、それが今回愛しい人を失うかもしれない事態となってしまったのだ。自分のせいだ。頬に触れた蓮の手にすり寄るように銀二郎が動いて、うっすらと瞼を開く。
「︙︙ゆ、ぅま、くん?」
「︙雄馬じゃない、俺だよ。」
まだ定まらない意識の中で他の男の名を呼ぶ銀二郎に蓮は苦笑いをする。
「︙れん、く、ん。」
「そう、蓮くんですよ。」
蓮を認識した銀二郎が不思議そうに顔を見る、それからふわりと笑った。
どうせまたいい夢だとでも思っているのだろう、と蓮は何度も夢じゃないよと言った。蓮の予想は的中、銀二郎は確かに未だ夢だと思っている。もしくは天国。それでも、頬に触れる手や温かなぬくもり、布団の感触にようやっと覚醒しはじめた脳がこれを現実として受け入れようとしている。そんな銀二郎の耳にとんでもない言葉が入り込んできた。
「銀二郎、俺の恋人になって。」
▽
海で銀二郎と共に居た三本木由鶴という男を、ここまで着いてきていた荻野家の関係者だという車から出てきた数人の男にあっという間に連れ攫われたのまでは見た。が、銀二郎と蓮を送り届け悟の所へ戻ってきた悠馬は、まさかこんな事になっているだなんて思ってもみなかった。
周りに広がる剣呑な空気。
椅子に縛り付けられ未だ眠っている由鶴とその正面に座る悟。
由鶴の頬が腫れている。
そこはまさに修羅場のようだった。
荻野家の関係者・・・元い、悟の部下に案内されてきたのはまるで平安時代のような畳と襖の広がるドデカイ屋敷、背の高い塀で辺りは隠され、庭先には大きな池に高そうな鯉が泳いでいる。悠馬はここに招かれるため、蓮のマンションから別の(景色の見えない真っ黒な窓の)車に乗せられた。そこまでは、疑問を抱いてなど居なかったが︙、いよいよ流石におかしい。
「これはこれは荻野財閥のお坊っちゃん︙。いや、荻組の若様と呼ぶべきかな?」
瞼を持ち上げた由鶴がニヤニヤとしながら口を開いた。
「やっと起きたんですね。三本木組、初代組長さん。」
由鶴との会話、ギラギラと冷たく光る悟の眼光は見たことのない冷血さを含んでおり、悠馬は珍しく足がすくむような感覚を覚えた。
アイツ︙、いっつもヘラヘラしてるくせに。
此処まで来れば、流石の悠馬にも分かってくる。
『荻組』
『三本木組』
ニュースでよく耳にする暴力団。
いわゆるヤクザで、その中でもトップクラスの組。
荻野財閥とは名ばかりで実際では、悟はヤクザの跡取り息子だったって訳だ。そして、何よりも気になるのは『三本木』という名。
「アンタ、蓮と関係ある奴なんスか?」
ずっと黙って突っ立っていた悠馬がやっと声をだした。
この状況に幾分慣れたのだ。
なんといっても、ざっと周囲の人間を見て自分はこの屋敷の誰にも負けない気がしたから。
「三本木由鶴。コイツは、蓮の叔父だよ。」
「まぁ、そういうことだからあとの事は任せて。」
いつもの人懐っこい顔でにっこり笑った悟は「送らせるから今日は帰りなよ。」と俺にもコイツを殴らせろと文句をいう悠馬を屋敷から半ば無理矢理に追い出した。
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