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※告白

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「郁人、それどういう意味。」

 あたるの強い視線が、こちらを見据える。
 顔が一気に熱を持った。
 
 やばっ、つい口に出しちまった。

「郁人︙。」
「ち、ちがっ。」

 いつもより低く、腰に響くような声が静かに俺の名前を呼ぶ。手首が優しく捕らえられ、あたるの方に引き寄せられた。自分より少し背の低い男が不安げに、けれどもどこか期待するような眼差しを向けてくる。くっ︙。好きな奴の上目遣いは正直、なんというか、すごくキます。

 こんなふうに目を合わせるなんて久々で、見つめ合うなんて、恥ずかしくてできない。俺は、赤くなった顔ごと視線を逸した。すると、ゆったりと優しい手が頬に伸びてきて、逸した視線を強制的に戻される。

「好き、好きだ郁人。」
「︙へ、は?」

 甘ったるくて、泣きそうな震えた声が真っ直ぐそう俺に告げる。さっき耳に入り込んだ言葉は、自分に都合の良い幻聴ではなかったみたいだ。

「郁人、言って。お願い︙。」

 頬を包む掌の指先が唇を撫でる。
 優しい声が俺の言葉を急かす。
 良いのだろうか。
 このまま、言ってしまって良いのだろうか。
 もう長い間、何年も秘めてきた、この想いを。
 胸に迷いが広がる。

「悪い方向には、絶対行かないから︙っ。」

 コクリと乾いた喉を嚥下させる。穏やかだった呼吸が少し乱れていく。息を吸っては小さく吐くだけで、声が出ない。今、自分は許されているのだ。言葉にすることを許されている、求められている。あたるも言ってくれた、だから︙。

 震える唇では言葉を紡ぐことがでない。
 代わりに涙が頬を伝った。
 なんて、言えば良いんだろう。
 どう伝えたら良いんだろう。
 ただ、はくはくと口を動かしながら、必死に喉を震わせた。

あたる︙、おれ、ずっと︙。」
「うん。」
「ずっと︙︙、うぅっ、ずっ、ずっと。」
「うん、うん︙っ。」
「あ、あたるっ、おれ︙っ。」

 いつの間にか、あたるも俺と一緒に泣いている。ぐしゃぐしゃと腕で涙を拭い、えぐえぐ言っている俺をあたるがそっと抱きしめる。互いの肌が触れ合い、暖かな温もりが広がる。

「ずっと︙︙、高校の、ときから、お前に︙、恋っ、してた。」
「うん。」
「ずっと、好き︙、んぅっ! んっ︙んんっ、ぁ、ふ︙っ。」

 言葉にした途端、唇を塞がれた。ベッドへと押し倒され、やさしく組み敷かれる。柔らかな感触が触れ、段々と深くなっていった。舌が入り込み、唾液が流れ込んでくる。郁人は、入り込むなおの舌に舌を絡め、そのキスに必死に応えた。どちらとも分からない唾液が口端から溢れて顎を伝った。 

「はぁ︙︙はぁ︙︙。」

 荒くなった呼吸を整えていると、ぼんやりと滲んだ郁人の視界をあたるが拭ってくれる。

「騙してごめん。言えなくてごめん。俺も好きだ。出会った時からずっと、郁人のことが好きだ。」

 はっきりとした視界に入りこんできたのは、何年も見ていなかったあたるの笑った顔で、郁人の瞳には、また涙が溜まった。

「俺、あたるの笑った顔が好き。」
「へっ、あ、ほんと?」

 思ったことを素直に言葉にしてみる。すると、あたるの頬がじわじわと赤く染まった。それを可愛く思って、少しからかってやることにした。

「だいじょうぶ? 顔赤いよ。」
「み、見んなよ︙っ。」
「ははっ、かわいー。隠すなよ。」

 手で顔を隠すあたるをまたからかう。直も、なんだかんだ楽しいみたいで、クスクスと笑っている。

 ああ、楽しいな。
 俺たち今、昔みたいに笑えてる。

「ひっ! わっ、ちょっ︙あっ。」
「ふふっ、からかった仕返し。」

 どうやら、恥ずかしがるあたるをからかいすぎたみたいだ。直が郁人の身体を弄りはじめる。

「ばか、もうっ。」
「したい、郁人︙。恋人記念日、だめ?」
「こ、こい、びとっ⁉」

 直が抱きつきながら、小首を傾げる。
 『恋人』という甘い言葉がじんわりと耳に残った。

「そう、恋人。」
「恋人、なのか俺たち?」
「恋人じゃないの?」
「わ、かんない︙。」

 だって、お互い好きって言い合っただけで付き合うとか言ってない︙。
 あ、いや! 付き合いたくないとかじゃなくて!
 もちろん、恋人になれたら嬉しいです!

「郁人、俺と付き合って下さい。」

 あたるは、郁人の手の甲にキスを落として、そう言った。なんだか、簡単に言われてしまったような気もするが、嬉しい。だって、あたるの瞳がまだ不安そうだから。俺の返事を緊張を隠して待っている、可愛い幼馴染。さらっと言って手を取る姿は、本当に王子様みたいだ。

 郁人は戸惑いながら、はにかむと「はい。」と答えた。

「じゃあ、郁人、抱かせて? 恋人記念日、初えっち。」
「う︙っ、い、一回だけだぞ。」

 俺は、つくづくあたるに甘い。
 でも、良いんだ。
 これからは、『恋人』だからな。




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