上 下
123 / 132
エスタリス・ジェルマ疾走編

122.ジェルマエルフは想像通りだったよ

しおりを挟む
 とは言え、これだけ威圧感満載で話しかけられて、はいそうですかと頷くのも何だか癪ではあるな……

「同行するのは構わないんですがね。少し疲れているのでチェックインしてからでも構いませんか? 何せ今ムニスに着いたばかりで、このホテルもやっと探し当てたところですので」
「それに関しては心配無用、我々の管理するホテルで宿泊すれば――」
「それこそ申し訳ないんですが、俺たちはそれに頷けるほどあなた方を信用する事は出来ませんので」
「な……」

 いや、驚いてんじゃないよ。むしろこんだけやられたらこういう反応になるのが普通だろうよ。それか、怯えて訳も分からず頷くとか期待してたんじゃあるまいな。だとしたら考え直した方がいいぞ色々。
と――

「もういいリヒャルト、下がれ。お前が話していては埒が明かん」
「マルコ様!? しかし!」
「そもそもミズモト=サンタラご夫妻の印象を著しく低下させ、話をこじれさせたのは、お前の態度が原因であろうに。正直私でも警戒するぞ、あれだけ威圧的な気配を漂わせて近づかれればな」
「っ……、分かり、ました……!」
「失礼、ミズモト=サンタラ殿。うちの若いのが迷惑をかけた」
「……いえ」

 へえ……マルコといったこの男が上司みたいなものなのか。見た目はあまり変わらないけど、エルフというだけあってその辺りは表に出にくいのかね。そしてこっちの方が何となく話は通じやすそうだな……

「先程このリヒャルトが言った話なのだが、我々としては是非ともあなた方のお話を伺いたいと思っている。それさえ叶うのであれば、こちらとしては特に何も要求はない。ましてや宿泊先まで管理するなど……」

 言って、リヒャルトの方をひと睨みするマルコ。相変わらずの口調だけど、なるほど、そうしてくれるとこちらとしてもありがたい。だけど……

「こちらとしても伺いたいことがいくつかあるので、それを教えていただけるなら」
「感謝する。出来れば本日中に伺いたいので、チェックインが終わってしばらくしてからお願いしたいのだがよろしいだろうか?
 そうだな……6時半にこのロビーで待ち合わせでは? その間に我々で手頃な食事処を予約しておこう。無論、今晩の飲食費は我々持ちでだ」
「ありがとうございます、この国は初めてなものでして」

 我ながら現金だとは思うけど、ご馳走してくれると聞けば悪い気はしないもんだ。これである程度は落ち着いて話をすることも出来るだろうし。

「ではしばし失礼致します、今晩からの部屋を確保しないといけないので」
「こちらこそ失礼した。ではまた夜に」

 言って、引き下がるジェルマエルフふたり組。聞きたいことはいろいろある……というか謎がなかなかに多いけど、取り敢えずは荷物とか全部部屋に置いてこなくちゃな……



 その後無事ダブルが空いているという話で、さっそく取り敢えずの2泊分を確保した俺たちふたり。どうやらヴィアンで泊まったホテルの系列店だったようで、注意事項その他諸々は先日聞いたのとほとんど同じだった。
 ここまで同じだと面白みがないな……なんて思ったものの、それより俺たちふたりの興味は先程のジェルマエルフの方に向いていた。

「……トーゴさん、あの人たち動いてくれると思う?」
「どうだろうねえ、アルブランエルフとの関係性も分からないから何とも……ただ隣国がアルブランエルフのせいで不安定になりかけてるというんなら、彼らとしても阻止に動く可能性が非常に高いとは思うよ」

 何しろジェルマという国が、北は海を挟んでアルブラン、南はエスタリスと陸続きとシャレにならない挟まれ方をしているわけで、もしこの2か国が結託してジェルマに攻め入ろうなんてしてるとすれば、それはどうにかして防ごうと当事者なら思って当然だ。
 ……ジェルマエルフがジェルマにおいてどういう扱いを受けているのか、アルブランエルフとの関係性はどうなっているかというのにもよるだろうけど。

「まあその辺は実際彼らに話を聞いてみないと分からないかな……とはいえ大臣閣下からジェルマに行くよう指示されたってことは、それなりに理由はあるんだろう。あの人は割とあいまいな物言いをしてたけど――」
「ジェルマが脅威にならないって話でしょ? ……何か私、それ完全に正しいような気がしてるんだけど」
「何か根拠が?」
「ジェルマに入国する際のイミグレーションの態度よ。この世界においてマジェリア出身という以外の私たちの素性を知らないとはいえ、旅券を確認しないうちからあれだけ嬉しそうにするものかしら?」
「政府と民間は別って考えることも出来るけど?」
「トーゴさん、それ……分かってて言ってるでしょ」
「……ん、まあね」

 政府と民間は別――前世でもよく聞いた文言だけど、これほど空虚に聞こえる言葉もないと俺は当時から思っている。卵が先か鶏が先かは分からないものの、どういう訳かこのふたつは密接にリンクしていることがほとんどだったりする。
 そして決まってその文言を強調する国ほど、相手国を使い捨ててやろうという気が満々なので、ほとほと嫌になったのも俺ははっきり覚えている。
 元フィンランド人であるエリナさんは、その辺りのことについては俺以上に身にしみているのだろう。

 そう考えると、イミグレーションの態度というのも分かる気はする。普通の公務員ならともかく、国境を管理するような人間であればあまり表情を面に出さないのを徹底しているはずではあるから。
 エスタリスの鉄面皮というか威圧感はちょっと異常すぎだけど――それでも、国境を管理する者であれば何を考えているか分からないくらいでちょうどいいのだ。

「しかし、そうなると以前聞いたジェルマの評判は……」
「多分、トーゴさんの想像通りだと思う。そういうの、私は嫌というほど教わって来たから」

 その辺は、俺にはピンとこない点ではある。平和ボケと言われるかもしれないけど、その辺りはやっぱり圧倒的にエリナさんの方が危機感がある。いや、そういう風に教育されたのだろう。
 この世界に来て、色々な国を回って、各地でコミュニケーションを取って……もうだいぶ経つけど、やっぱり染みついた気質は一朝一夕には変わらないか。

「やっぱりエリナさんは頼りになるよねえ……」
「え、今の流れで何で!? それにやっぱりって!?」
「スキルに表れない正当な評価ってところかな……まあそれはともかく、あともう40分程度休憩したら待ち合わせ場所に行くよ。
 まさか、この世界に来てああいう誘われ方をするとは思わなかったけど……」

 それにしてもここに来るまでの道のりやこの街の風景が、エスタリスで見たそれとほとんど同じだとは思わなかった。流石に中身は2世代ほどジェルマの方が遅いが、外面だけで見るならほとんど変わらないと言っていい。
 流石大国は違うな……なんて思うと同時に、エスタリスが中部諸国連合を嫌がるそぶりを見せている理由もそれで何となく分かった気がした。彼らにしてみれば、言い方は悪いが田舎国家どもに足を引っ張られたくないんだろう。確かにあのシステムでは、加盟する全ての国が平等に貧しくあるべし……と言わんばかりではあるからな。

 ただそれと大国を巻き込んで迷惑をかけるのとは話が違う。

 正直今のエスタリスは、自らが名実ともに大国となろうとして手が付けられない状態になっているようにすら見える。技術が圧倒的強みなのだから、それをさらにセールスポイントとして磨いて活用する方向に思考が向けばいいのに。
 ……まあもっとも、今回の件はアルブランがエスタリスの後ろで糸を引いている可能性が高いわけで、そういう意味ではエスタリスも被害者なのかなあ……?



---
段々きつくなってくるう……
次回更新は09/07の予定です!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

世界神様、サービスしすぎじゃないですか?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,809pt お気に入り:2,201

全能で楽しく公爵家!!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:170pt お気に入り:1,786

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:952

異世界転生~チート魔法でスローライフ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:1,831

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:1,934

尾張名古屋の夢をみる

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:6

クラスまるごと異世界転移

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:309

灰色の人生は異世界(MMORPG仕様)への転移で、虹色の人生に

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:113

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,942pt お気に入り:2,237

処理中です...