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黒き王
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怒れる猫はその狭い肩をそびやかせて白い檻へと向かっていた。王国にそぐわない者の排除の為、傷つけられた自尊心を取り返すため。
白衣の天使の仮面を被った悪魔は、今朝方猫を足蹴にした。そんな仕打ちを受けたことのなかった猫はこれに激怒した。
恨みを買ったことなど露知らず、白き悪魔の上原看護師はアッシュヘアーの王子を目で追っていた。
出口へと向かう後ろ姿に熱い視線を送る。
そんな彼の足元には黒き王、今は復讐に燃える毛玉がさらに熱の高い視線を上原看護師に向ける。
上原看護師はまだ気づかない。
押しのけるようにして事務員からパソコンの画面を奪う。怪訝な表情で彼女を見つめる事務員だが、次から次へと鳴り続ける電話の対応に追われすぐにそのことを忘れる。上原看護師の目には、たった今会計を済ませて帰って行った王子の名前が映る。
以前からずっと気になっていた患者だった。
その美しさに目も心も奪われ、彼が喫煙所を去るや否や未知のウイルスへの恐怖も関係あるものかとばかりに吸い殻を漁った。その行動に目を丸くさせる患者にマスクの下で牙を向き、小躍りしながらその場を去る。
ウイルスすらも忌避するイカレる看護師は、ようやく彼のカルテを盗み見る機会を得たのだがその名前に首を傾げる。そして、まあ最近ではそんなに珍しいことでもないかと納得し、彼女の所属する形成外科には訪れない彼の受診科を見てやや正気を取り戻す。
その目にはかすかな哀れみの色が。彼女は思わず彼の後を追う。しかし、そこにもう王子の姿はない。
そこにいるのは復讐の機会に恵まれほくそ笑む毛玉だけだ。
肩を落とす彼女に、黒き王の爪が襲い掛かる。
戦いの幕が上がった。
その戦いは彼女の奇行に頭を悩ませる看護師長と、もふもふを愛し彼と長き攻防を繰り広げてきた警備員によって終止符を打たれた。
白衣の天使の仮面を被った悪魔は、今朝方猫を足蹴にした。そんな仕打ちを受けたことのなかった猫はこれに激怒した。
恨みを買ったことなど露知らず、白き悪魔の上原看護師はアッシュヘアーの王子を目で追っていた。
出口へと向かう後ろ姿に熱い視線を送る。
そんな彼の足元には黒き王、今は復讐に燃える毛玉がさらに熱の高い視線を上原看護師に向ける。
上原看護師はまだ気づかない。
押しのけるようにして事務員からパソコンの画面を奪う。怪訝な表情で彼女を見つめる事務員だが、次から次へと鳴り続ける電話の対応に追われすぐにそのことを忘れる。上原看護師の目には、たった今会計を済ませて帰って行った王子の名前が映る。
以前からずっと気になっていた患者だった。
その美しさに目も心も奪われ、彼が喫煙所を去るや否や未知のウイルスへの恐怖も関係あるものかとばかりに吸い殻を漁った。その行動に目を丸くさせる患者にマスクの下で牙を向き、小躍りしながらその場を去る。
ウイルスすらも忌避するイカレる看護師は、ようやく彼のカルテを盗み見る機会を得たのだがその名前に首を傾げる。そして、まあ最近ではそんなに珍しいことでもないかと納得し、彼女の所属する形成外科には訪れない彼の受診科を見てやや正気を取り戻す。
その目にはかすかな哀れみの色が。彼女は思わず彼の後を追う。しかし、そこにもう王子の姿はない。
そこにいるのは復讐の機会に恵まれほくそ笑む毛玉だけだ。
肩を落とす彼女に、黒き王の爪が襲い掛かる。
戦いの幕が上がった。
その戦いは彼女の奇行に頭を悩ませる看護師長と、もふもふを愛し彼と長き攻防を繰り広げてきた警備員によって終止符を打たれた。
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