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さらわれた少年たちの作戦
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無人島に漂流した人みたいに記録をつけようかな。壁に刻む。おれが誘拐されてから四日目。
食事の回数は一日目は一回。二日目も一回。そして三日目は二回。今日は三回貰えた。島崎くんはおとなしくできるのか試してるのかも知れないと言っていた。
「おかか、ツナマヨ、おかか、おかか、シャケ、おかか、おかか。俺のおかか率はなんやねん」
島崎くんがぼやく。コンビニおにぎりと水という組み合わせの食事が続く。おにぎりはいいけどたまにはジュースだって飲みたい。
「いいじゃないですか、おれなんか途中梅干しやったし。最悪」
「今度おかか来たらトレードせえへん? 俺梅平気やし」
おそらく鉄槌が下されるだろう。梅干しに文句をつけたら思い切り頭を踏まれた。おかげで自分の顔でつぶしたぺちゃんこおにぎりを食べることになった。容赦ない暴力は攫われた時にも経験していたが、どうやら殺すのはそう簡単ではないことをおれらは知ることになった。
「おい、お前。いけるか?」
島崎くんが壁際の大きい方に話しかける。大きい方も小さい方も相変わらず返事をしない。
おれが頭を踏まれた時、大きい方があの男の足に飛び掛かった。そして小さい方に「逃げろ」と叫んだ。でも、足止め失敗。次の瞬間、大きい方はあいつに投げられ、そのあとボコボコにされた。
その時に気づいたけど、あの大きい方は島崎くんよりも体が大きかった。それでも、歯が立たなかった。それを見て、おれたちは一旦作戦を中止せざるをえなかった。
「無視か。でもお前やるやん。一人ずつは無理やけど、俺とお前と江波、三人で一斉にやったらワンチャンあるかもやな」
大きい方はやはり答えない。でも、うまく武器さえ作ることができたのなら、たしかにワンチャンあるのかも知れない。
島崎くんはいつもの笑顔を崩さずにおれの隣にまできた。壁にもたれておれに顔を近づける。
「お前めっちゃおにぎりくさいな。おでこに米ついてんで」
「とってください」
笑ってぺしぺしとおでこをはたかれる。髪は乱れたけれど直す気にもならない。お風呂に入れない日がこんなに長く続いたのは初めてだ。べったりとした自分の肌が気持ち悪くて仕方なかった。
「にしても、真面目な話そろそろ動かなあかんな。ずっとここで飼い殺しにするってわけじゃあないやろうし。たぶんやけど、これ順番待ちかもしらんなあ」
「順番待ち?」
島崎くんの視線は斜め前を向いている。あの二人組の方だ。
「そ。殺すのが目的ならさっさとやればいい。ペド野郎ならなんもしやんとここに閉じ込めてるだけなんは意味不明。やけど、俺ら以外にもおったとしたら?」
この質問はおれではなくあいつらに向けられたものだ。小さい方はぴくりともしないが、大きい方が顔を上げてこっちを見た。
「お楽しみ目的にしろ、臓器目的にしろ、買い手待ちとか? まあ、当たってるんかどうかは別として、最初俺らがここに連れてこられた時、お前ら無反応やったやん? 普通自分ら以外のもんが来たら、なにかしら聞かんか? 別に拉致られたやつ増えても驚かんかったんは、前にもお前ら以外に誰かおったからちゃう?」
沈黙だ。おれは天使を探して宙を見る。島崎くんはやっぱりすごい。いろいろ考えてる。
「……変態野郎に、理由なんかあるかボケ」
ボソリと、大きい方がそう言った。まともに声を聞くのはこれで二度目。島崎くんは鼻で笑う。
「変態、か。なるほどな。ほんじゃやっぱお前はなんかの手違いなんやろうな。ちなみに、何人おった?」
大きい方は答えないが、島崎くんは笑みを絶やさない。
「全員男か?」
やはり答えない。だけど、一瞬空気がピリついたのが分かった。よく知っている気配。暴力の気配。大きい方から敵意がびしびしと伝わってくる。
「オッケー。もうええわ。でも、お前もそいつ守りたいんやろ? 逃がそうとしとったやん? 弟なんかダチなんか知らんけど、助けたいならいざって時は俺らに協力しろ。いいな?」
ここで話は終わりらしい。島崎くんはごろりと横になった。四日目が終わる。おれも隣に寝転んで目を閉じた。
しばらくすると、あいつらがトイレに行く音が聞こえた。薄く目を開ける。黒くでかい影が見張るようにトイレの前に立っている。小さい方が中にいるらしい。ここに来てからよく見る光景だ。いつもああやって二人で一緒に行動する。
二人が定位置に戻った。おれは目をこすって起き上がる。あの二人のせいで目が冴えてしまった。
おれもトイレに向かう。まだ便座はついたまま。武器にしたいけど、便座を破壊したのを奴に見られたら大変だ。せっかくの武器が奪われてしまうかもしれない。作戦決行日まで待つしか……ん?
おれはトイレから出てあいつらの方に向かった。膝を抱えたまま、あいつらはおれの気配に顔を上げる。二人と目が合う。
「なあ、お前って、もしかして」
「健斗!」
背後から鋭い声が飛んでくる。島崎くんが起き上がっている。名前を呼ばれたのは久しぶりだ。おれは犬のように駆け寄る。
「島崎くん、でも、あいつ……」
険しい顔がいつもの笑顔に戻る。手がおれの頭の上に置かれ引き寄せられる。島崎くんはそのまま小声で話しかける。
「しっ。分かってる。気づいてない振りしろ。もし俺の思ってる通りなら、あいつら使えるぞ」
「……囮?」
「江波、今すぐトイレ行って便座割ってこい」
食事の回数は一日目は一回。二日目も一回。そして三日目は二回。今日は三回貰えた。島崎くんはおとなしくできるのか試してるのかも知れないと言っていた。
「おかか、ツナマヨ、おかか、おかか、シャケ、おかか、おかか。俺のおかか率はなんやねん」
島崎くんがぼやく。コンビニおにぎりと水という組み合わせの食事が続く。おにぎりはいいけどたまにはジュースだって飲みたい。
「いいじゃないですか、おれなんか途中梅干しやったし。最悪」
「今度おかか来たらトレードせえへん? 俺梅平気やし」
おそらく鉄槌が下されるだろう。梅干しに文句をつけたら思い切り頭を踏まれた。おかげで自分の顔でつぶしたぺちゃんこおにぎりを食べることになった。容赦ない暴力は攫われた時にも経験していたが、どうやら殺すのはそう簡単ではないことをおれらは知ることになった。
「おい、お前。いけるか?」
島崎くんが壁際の大きい方に話しかける。大きい方も小さい方も相変わらず返事をしない。
おれが頭を踏まれた時、大きい方があの男の足に飛び掛かった。そして小さい方に「逃げろ」と叫んだ。でも、足止め失敗。次の瞬間、大きい方はあいつに投げられ、そのあとボコボコにされた。
その時に気づいたけど、あの大きい方は島崎くんよりも体が大きかった。それでも、歯が立たなかった。それを見て、おれたちは一旦作戦を中止せざるをえなかった。
「無視か。でもお前やるやん。一人ずつは無理やけど、俺とお前と江波、三人で一斉にやったらワンチャンあるかもやな」
大きい方はやはり答えない。でも、うまく武器さえ作ることができたのなら、たしかにワンチャンあるのかも知れない。
島崎くんはいつもの笑顔を崩さずにおれの隣にまできた。壁にもたれておれに顔を近づける。
「お前めっちゃおにぎりくさいな。おでこに米ついてんで」
「とってください」
笑ってぺしぺしとおでこをはたかれる。髪は乱れたけれど直す気にもならない。お風呂に入れない日がこんなに長く続いたのは初めてだ。べったりとした自分の肌が気持ち悪くて仕方なかった。
「にしても、真面目な話そろそろ動かなあかんな。ずっとここで飼い殺しにするってわけじゃあないやろうし。たぶんやけど、これ順番待ちかもしらんなあ」
「順番待ち?」
島崎くんの視線は斜め前を向いている。あの二人組の方だ。
「そ。殺すのが目的ならさっさとやればいい。ペド野郎ならなんもしやんとここに閉じ込めてるだけなんは意味不明。やけど、俺ら以外にもおったとしたら?」
この質問はおれではなくあいつらに向けられたものだ。小さい方はぴくりともしないが、大きい方が顔を上げてこっちを見た。
「お楽しみ目的にしろ、臓器目的にしろ、買い手待ちとか? まあ、当たってるんかどうかは別として、最初俺らがここに連れてこられた時、お前ら無反応やったやん? 普通自分ら以外のもんが来たら、なにかしら聞かんか? 別に拉致られたやつ増えても驚かんかったんは、前にもお前ら以外に誰かおったからちゃう?」
沈黙だ。おれは天使を探して宙を見る。島崎くんはやっぱりすごい。いろいろ考えてる。
「……変態野郎に、理由なんかあるかボケ」
ボソリと、大きい方がそう言った。まともに声を聞くのはこれで二度目。島崎くんは鼻で笑う。
「変態、か。なるほどな。ほんじゃやっぱお前はなんかの手違いなんやろうな。ちなみに、何人おった?」
大きい方は答えないが、島崎くんは笑みを絶やさない。
「全員男か?」
やはり答えない。だけど、一瞬空気がピリついたのが分かった。よく知っている気配。暴力の気配。大きい方から敵意がびしびしと伝わってくる。
「オッケー。もうええわ。でも、お前もそいつ守りたいんやろ? 逃がそうとしとったやん? 弟なんかダチなんか知らんけど、助けたいならいざって時は俺らに協力しろ。いいな?」
ここで話は終わりらしい。島崎くんはごろりと横になった。四日目が終わる。おれも隣に寝転んで目を閉じた。
しばらくすると、あいつらがトイレに行く音が聞こえた。薄く目を開ける。黒くでかい影が見張るようにトイレの前に立っている。小さい方が中にいるらしい。ここに来てからよく見る光景だ。いつもああやって二人で一緒に行動する。
二人が定位置に戻った。おれは目をこすって起き上がる。あの二人のせいで目が冴えてしまった。
おれもトイレに向かう。まだ便座はついたまま。武器にしたいけど、便座を破壊したのを奴に見られたら大変だ。せっかくの武器が奪われてしまうかもしれない。作戦決行日まで待つしか……ん?
おれはトイレから出てあいつらの方に向かった。膝を抱えたまま、あいつらはおれの気配に顔を上げる。二人と目が合う。
「なあ、お前って、もしかして」
「健斗!」
背後から鋭い声が飛んでくる。島崎くんが起き上がっている。名前を呼ばれたのは久しぶりだ。おれは犬のように駆け寄る。
「島崎くん、でも、あいつ……」
険しい顔がいつもの笑顔に戻る。手がおれの頭の上に置かれ引き寄せられる。島崎くんはそのまま小声で話しかける。
「しっ。分かってる。気づいてない振りしろ。もし俺の思ってる通りなら、あいつら使えるぞ」
「……囮?」
「江波、今すぐトイレ行って便座割ってこい」
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