22 / 73
本編
21
しおりを挟む
「う、ん…」
目が覚める。いったい今は何時だろう。ぼけーっとしながら頭が働きだすのを待つ。10分ほどしてようやく動き出す。外を見ると、明るかった。もう朝は少し過ぎている様だ。机に座っていつも通り髪を整え今日も一日を始める。
「よし!」
朝食を取るためリビングへ行く。リビングではキルドとフォルトが地図を作っていた。昨日は2人も疲れて途中で投げ出していたといっていたので、その分だろう。
「おはよう2人とも。地図作り頑張ってね」
「おはようティア。こっちは任されたよ。朝ごはんはそこに置いてあるから」
「ありがとうキルド。エミリーとカークスは?」
「カークスは外で素振りしてるよ。エミリーはカリンと先に行ってるって」
「うそ?もうそんな時間なの!」
「違うぞ、まだそんなに早い時間じゃない。目が覚めたから来てみたって言ってたな。まあ、2人で話でもしてるんじゃないか?」
「そうなの?よかった、寝坊したかと思ったわ」
私は安堵して朝食を食べる。この簡易食も食べ飽きたなぁ。冒険に持っていける食事は結構限られる。基本的には干し肉のようなものと、短期間ならパンだ。正直それ以外のものはあんまり日持ちしない。缶詰の技術が判れば作るのにな。とはいっても加工精度の関係でバカ高くなるだろうけど。なまじ、夕飯がおいしいだけにこの朝食が残念に思えてくる。それもそろそろ少なくなってきているし、ちょっと考えものね。
「そういえばこの食事も少なくなってきたんじゃない?」
「そうだな。あと2,3日分ってところだな。干し肉も少なくなってきたしどうしようかと思っているんだ」
「たしかに、食事がなくなるのは困るよね。干し肉も簡単にできるわけじゃないし」
「要は乾燥させればいいのよね。味はともかくとして」
「何か考えがあるのか?」
「昨日、火と水の魔法で湯を作ったじゃない。それと同じで火と風で乾燥を促進できないかなって」
「それが出来れば確かに今後も楽になるな。ちょっと今干してる分使っていいから、あとで試してくれないか?」
「分かったわ。カリンの練習が終わった後にでも試してみる」
「でもあれだね。ティアが来てから、なんだか冒険が贅沢になったね。お風呂なんて意識もしなかったし、食料問題も解決できるかもなんて」
「キルド、期待してもらってるとこ悪いけど、今回のはうまくいくかわからないわよ」
「分かってるって、期待して待ってるよ」
「もう…」
その後、食事を終えた私はカリンたちの元へ向かうべく小屋を後にした。
「いったね~」
「ああ、行ったな」
「やっぱりあの調子じゃ、起こされたこと知らないだろうね」
「まあ、仕方ないな。昨日も戦った後、風呂を沸かすのに魔法を何度も使ったし、その間も気をつかって寝てないだろうからな」
「損な性格だよね」
「自覚がないところが一番な」
「全くだよね」
そんな会話を2人がしているとは知らず、私はカリンたちと合流した。
「遅れてごめんなさいカリン、エミリー」
「おはようティア、こっちこそ早くに来ちゃってごめんなさい」
「そうだね。カリンちゃんは覚えとくといいよ、ティアは結構朝弱いの」
「普通よ普通。あなたが早いのよ」
「でも、私が起きるときはみんなのうちだれか大体起きてるよ」
「そんなの個人の自由よ」
そう言われては目をそらして誤魔化すしかない。実際、私はエミリーに起こされない限り、一緒に起きたことはない。
「2人ともやっぱり仲いいね。うらやましいなあ」
「そう?ところで2人でなに話してたの?」
「学校でのこととかだよ。この村でも言葉を教えるのに似たようなのがあるんだって」
「そうなの?」
「そうだよ。それに本とかってわたしたちには使いづらいから、こうやって使うんだよって教えたりね」
「確かに爪じゃあ慣れないうちは破ったりしそうね」
「そうなんだよね。大切な本とかは直すのも難しいから結構大変なんだ」
「もし、写せるような時間があったらするわよ?」
「ありがたいけど遠慮しておくよ。ティアにはまだまだ教えてもらう事、いっぱいあるからね」
「そういわれると複雑ね。私もまだまだだし」
「ティアはいっつもそうなんだから。ちょっとは自信持たないと」
「でも、今回のことで自信を持てって言われてもね」
「また、そんなこと言って。それじゃあカリンちゃんがかわいそうだよ。ティアは先生なんだから」
「そうそう。わたしの先生なんだからしっかりしてねティア」
「…2人がそういうなら頑張ってみるわ。じゃあさっそく始めましょうか?」
「は~い」
「あ、そうそうカリンだけじゃなくて今日はエミリーもよ」
「ふえ?」
「この依頼を受ける時に行ったでしょう。あなたも魔法ちゃんと使えるようにならないとね。じゃあ2人とも行くわよ。まずカリンは復習ね」
そう言って一呼吸おいてから私は魔法を唱える。
「風よ、わが前に集いて解き放て」
昨日と同じように風が小岩を打つ。しかし、威力を抑えたそれは少しだけ表面を削り霧散した。
「大体あれぐらいの威力ね。威力の調整も教えたはずだからちゃんとやってね」
「は、はい。」
威力の調整をしてという事でちょっとカリンはちょっと緊張している様子だ。
「風よ、わが前に集いて解き放て」
カリンの放った風は小岩に当たり、ピンポン玉ぐらいの穴をあけた。
「う~ん。ちょっと強いわね。もうちょっと抑えて」
「はい!」
もう一度カリンは魔法を放つ。今度は抑えすぎたみたいで傷もつかない。
「今度は弱いわね。ちゃんと制御して」
「はい…」
もう一度放つと今度は小さく穴が開いた。ちょっと強い気もするけれどこんなものだろう。
「うん、まあまあね。じゃあ、この岩は今からエミリーが使うから、横の木を使って。今から私が開ける穴のサイズになるようにやってみて」
そういうと私は横の木に魔法で穴をあける。カリンはしばらくこの木で練習していてもらおう。
「次はエミリーね。私の言う通りに唱えてね。知ってると思うけど。水よ、わが前に現れ敵を撃て」
魔法を唱えると私の前に水が現れて岩へと一直線に向かう。水の初歩魔法だが、形や強さで結構応用の利く魔法だ。やがて岩にぶつかったそれはバシャっと岩を濡らした。
「大体こんな威力でね?さあやってみて」
「え~と、水よ、わが前に現れ敵を撃て」
エミリーの正面に水が現れ岩に届く少し前で、パァンと水がはじけ飛んだ。
「エミリー。別にそんな高度な方法はいらないのよ。ぶつけるだけでいいからもう一回やってみて?」
「う、うん」
もう一度エミリーが魔法を放つ。今度は弱弱しく何とか岩まで届いた。
「変ねぇ。私でも簡単にできるんだから、あなたならもっとうまくいくはずなんだけど」
「う~ん。なんかうまくいかないんだよねぇ。狙いをつけるのがうまくできないのかも」
「狙いねぇ…。見ててもダメなんだから目をつむってもダメよね」
「さすがにそんなのは無理だよ。位置が判んないんだから」
「ん~。位置ぐらいわかるよ。見なくても」
その時、1人で的当てをしていたカリンが声をかけてきた。
「本当カリン?」
「うん。この前エミリーに教えた風の流れをつかむ魔法あるでしょ。あれを使ったら風の流れで物の位置とかもかなり正確につかめるよ」
「でも、岩は動かないよ?」
「そう、だから弱い風なんかを送って、それで風の流れが邪魔されたとこに何かあるわけだからそれで位置をつかむんだよ」
「それなら私にもできるかしら。正直、流れをつかむのはあんまりできそうにないのよね。風の動きから予想した動きをしているって感じね」
頷きながら、風の魔法を簡単に放つ。目をつむっていても、吹き抜けない感触があるのがわかる。ここに物があるってことね。
「水よ、わが前に現れ敵を撃て」
軽く水魔法を放ってみると、確かに岩の中心に命中していた。
「こんな感じなのね。これなら私でもできるし、エミリーならもっと簡単だと思うわ」
「ホント?ちょっと私もやってみるね。え~と、風よ、流れとなりて押し出せ」
目を閉じたエミリーが風魔法を唱える。風が前へと運ばれ、岩にぶつかったところで気流が乱れる。
「この流れの乱れがカリンちゃんの言ってた位置の掴み方だね。確かに目を閉じてても形がわかるよ。」
私はおおまかな位置と大きさだけだけど、エミリーには形も明確にわかるみたいだ。何気にこの子すごいことしてるんじゃないかしら。
「じゃあ、当てるよティア。水よ、わが前に現れ敵を撃て!」
エミリーの前に現れた水が正確に岩を撃つ。私の当てたところと全く同じ場所に。魔法自体の威力が強かったみたいで、ちょっと穴がえぐれる。
「見事命中ね、エミリー。でもちょっと強いようだからもう少し調節して撃ってもらっていい?」
「お安い御用だよ。水よ、わが前に現れ敵を撃て」
再度放たれた魔法は寸分たがわず、先ほどと同じ場所へ命中した。それもちゃんと威力も調節できている。
「すごい…。すごいわエミリー!」
「へへっ。ホント、ティア?」
「ええ、威力の調節もばっちりだけど、同じところに当てるなんてすごいわ。何かコツでもあるの?」
「コツというか、魔法を飛ばして位置と形が見えたらそこを狙うだけだから。1回当たったところは少しの間、魔力反応が残るから次からはそこに向けて打ってるの」
「そんなやり方があったのね。簡単な魔力探知ぐらいなら私でもできるかしら。今度やってみるわ」
「やり方わかったら簡単だよ」
「簡単に言ってくれるわね…」
今の位置をつかむのでも結構集中してやったというのに、エミリーの中では簡単らしい。得意分野の差という事を考えても何とも言えない気分だ。
「あの~、2人ともわたしはもういいかな?」
ふと、カリンから話しかけられる。木を見ると私が開けた穴とほぼ同じサイズのものが10個ほど空いていた。
「あっ、もういいわよカリン。自分の魔法の強さが上がったりすると、威力も変わるから定期的にやってね。
じゃあ、今度はちょっと実践的な魔法を使うわね。ただし、威力も強くなっちゃうからちゃんと抑えて使うのよ」
「一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」
小さい竜巻を起こして岩に当たる。その風を受けてすこし岩が持ち上がった。
「これはカリンと出会った時に私が使った魔法よ。小さいけれど竜巻を起こせるの。縦にも横にも起こせるから便利なのよ。成体には効かなかったけど、幼体の飛竜なら動きを止めることも可能よ。小さい相手には有効だけど、大きいと足止めって感じね」
「昨日も良く使ってたやつだね。ちょっと試してみるね。…一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」
カリンの前でぐるぐると風が舞っていく。
「カリンちょっと抑えて!強すぎるわ」
「へっ?」
抑えようとしたカリンだったが、ちょっと間に合わなかったようだ。勢いよく放たれた竜巻は岩を簡単に飛ばして奥の木を倒す。
「注意、したわよね?」
「ご、ごめんなさい」
「こんな調子じゃ、簡単には魔法教えられないわよ。ここが平和ならともかく、今は危ないんだから。次からはちゃんと抑えることを意識して使う事」
「分かりました…」
「抑えて使うことも大切よ。何も毎回倒すわけじゃないし、普段の生活なんかで物を運んだりと役に立つんだから、あんまり戦うためのものって思わないでね」
「はい、心にとめておきます」
「よろしい、じゃあもう一回使ってみて」
「行きます!」
再度唱えたカリンはちゃんと威力を抑えることができた。軽く突風が吹いた程度できちんと押さえられている。
「上出来ね。残念だけどこの魔法に関してはあんまり抑えても目立つから、後は実戦で使うしかないわね」
「そうだよね~、木も倒れちゃうもんね」
「う~。」
「まあ、使えるって思えるなら十分よ。私は全体を包むように使ってたけど、バランスを崩させるだけなら片方の翼に放っても効果あると思うわ。カリンだって左右で全く違う強さの風が来たら飛べないでしょう?飛竜はあの大きさだし簡単には立て直せないはずよ」
「確かにわたしたちでも落ちちゃいそうだね」
「じゃあ、次に行きましょう」
「まだ、あるの?」
「今日はこれが最後よ。今まで教えた魔法じゃ飛竜には効かない可能性が高いからね。とはいっても最初に教えたものの発展系よ。っと、その前にカリンは私の剣とカークスの剣とフォルトの槍だったら、どれが一番切れ味がよさそうだと思う?」
「う~ん。カークスの剣かな?飛竜のしっぽに傷をつけてたし」
「じゃあその時のことは覚えてる?」
「実は私のところからはあんまり見えなかったんだよね」
「なら、この剣で我慢してね。今からやることを見てイメージをつかんで」
私は背中から剣を抜くと集中して剣を木に向かって投げつける。見事に投げた剣は木に突き刺さった。
「見ての通り、この剣の切れ味はこんな感じよ。この剣の形と切れ味を覚えておくの。もちろん切れ味はもっと切れる感じをイメージしてもいいわ」
「うん」
「それじゃ…大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
周囲の風が私の元に集まり剣を形成する。その剣を対象に向かって放つ。狙いは岩の中心より少し上!
ザクッ
放たれた剣は岩へと突き刺さり、少しして霧散する。
「今のが新しい魔法よ。注意して欲しいのは使用する魔力自体が大きいこと。竜巻の魔法よりも多くの魔力を使うわ。それとこの魔法の剣の部分は言葉を変えることで斧とか槍にも代えられるわ。ただし、この魔法で作り出すものの切れ味はイメージの強さよ」
「イメージの強さ?」
「例えば錆びてぼろぼろの剣しか見たことのない人なら、基本的にその剣と同じ切れ味のものしか作れないわ。あくまで自分の知っている武器を魔法で作り出したものだから」
「じゃあ、実際の剣より切れ味がいいのは作れないの?」
「多少ならできないこともないわ。ただし、この魔法自体が魔力消費が高めなのに、そこに魔力を加えて切れ味を上げるからあんまりお薦めはできないわね。でも、飛竜のうろこを貫通させるなら価値はあるかも。どれだけそれに追加の魔力がいるかはわからないけれど、とりあえず今のを参考にして使ってみて」
「はい、行きます。大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
カリンの前に風が集まって剣ができる。私の剣自体、あまり見ていないはずなのにかなりの精度だ。そして放たれた剣は岩の端に当たって倒れた木に突き刺さった。
「あれ?外れちゃった」
「そうね。この魔法は消費が激しいんだから外すと自分が不利になるわ。ちゃんと狙いを定めないとね」
「そういえば、魔力がふっと抜けていく感じがあったなぁ」
「でしょう?もう一回やってみて、ちゃんと魔法を使う前と後で狙いをつけるのよ」
「うん、大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
今度は岩のやや中央に飛んでいき突き刺さる。刺さり具合から見てイメージには問題ないようだけど…。
「う~ん。やっぱり、武器を使ったりしないカリンには難しいのかしら?」
「確かにわたし、武器を振り回したりするの苦手だからね~」
「私と同じやり方なのがダメなのかもね。ちょっとやり方を考えましょうか」
「そうだね。このままだとまぐれ当たりしかしなさそう」
「カリンちゃんって私と一緒だから、狙いをつけるのも同じやり方でできないかな?」
うんうん唸っている私たちに、エミリーが助け舟を出してくれる。確かにエミリーが的に当てられるようになったのも、風の動きを感じてだった。ひょっとするとカリンでも同様のことができるかもしれない。
「そうね。エミリーと同じやり方でやってみましょうか」
「じゃあやってみる」
カリンは目を閉じて集中し始める。そして魔法を唱えて放つ。すると、さっきまでが嘘のように、見事に岩の中心に命中した。
「やったぁ。ありがとうエミリー、ティア」
「いいえ、あなたの頑張りとエミリーのアドバイスのおかげよ。よく頑張ったわカリン。エミリーもありがとう」
「わたしは、自分のやり方がカリンに教えてもらった探知の応用だったから偶々だよ」
「それでもよ。私だけだったらもっと時間がかかってたわ」
「えへへ~」
褒められてエミリーが得意げににやけている。今日もだが、最近この子には助けられてばかりだ。王都に帰ったら何か美味しいものでも食べさせてあげよう。
「でも、この魔法疲れるね。ちょっと使っただけで息上がってきたし、命中させるのに集中しないといけないから大変だよ」
「まあ、単体に有効だから慣れるしかないわね。強い相手に出会ったら、そうも言ってられないもの」
「そうだよね~。わたしなんか攻撃する手段もないからどうしようもないしね」
「あなたも少しずつ覚えていけばいいのよ。幸い当てられるようにはなったんだし。でも、治癒自体はあなた以上はいないんだから無理して使わないようにね?」
「そう言ってくれると助かるよ。実際、わたしも的に当てるの結構集中力つかうんだ」
「だったら私とおんなじだね、エミリー」
「そうだね」
「何そんなところで分かりあってるのよ。まあ、同じ目標だから2人でやってみるのもいいかもね。私とはあなた達は使い方も違うみたいだし」
「そんな~、ティアも一緒だよ~」
「そうそう、ちゃんと先生がいないとわたしたちさぼっちゃうよ?」
「なら仕方ないけど、一緒にやるしかないわね」
笑いながら私は答えて和やかな時間が過ぎていく。今日は結構魔力を使う練習だったので、この後は少し復習してから今日は切り上げという事になった。カリンは毎日の成果や出来事を長老に報告するように言われているようで、午後からは長老の家に行くようだ。私はもちろん今日の練習の成果も含めて、現在執筆中の冊子の編集をする。冊子といってきたが、結構内容も詰め込んでいるので何か名前でも付けようかな。
「どしたのティア?」
帰り道をゆっくり歩いて考え事をしていると、エミリーから声をかけられた。
「今書いてる冊子なんだけど、当初は本当に基本的なことを書くつもりだったから、冊子って呼んでたんだけど、勢いづいちゃってかなり内容が濃くなってきたから、何か名前でも考えようかなって。」
冒険者に関わらず、この世界では魔法を使うものは自分専用の魔導書を持っているのが基本である。中身は千差万別だが大抵は初級・中級魔法をまとめたものだ。魔導書自体は高価だが、冒険者学校では貸し出しや閲覧も可能で、その間に大抵の者が自分の属性の分をまとめておくのである。それ以外にも自分で研究した魔法や、敵との相性などを書き記したものもある。
私も当初は呪文と効果範囲を書いて、空いた欄にこういう敵に有効などと書こうとしていた。魔法自体も今日教えたものは参考程度で後は他の属性の基本魔法を書くつもりだった。それが今やあの冊子は魔法の効果範囲はもちろん、生活に使えたり使用に際しての注意など結構細かく書き連ねている。私も魔法使いなのだからそろそろ1冊ぐらい持っておきたい。まあ、名前だけのことなので意識の問題なのだが。
「じゃあ、魔導書を作るの?」
エミリーも私の意図を読んだのだろう。実際、学校卒業前に魔法使いの子は半数ぐらいが魔導書と称して持ち歩いていた。私はそこまで当時は高位の魔法を使えなかったのと覚えている範囲で対応できるので作らなかった。しかし、今回この場所に来て、覚えきれないことや予想外の出来事に出くわした。何かあった時に誰かに知っておいて欲しいし、自分の為にも欲しいと思ったのだ。
「そうね。飛竜と戦ってカリンと出会って、魔法観も少し変わったし、今なら作ってみようって思うの」
「ふ~ん。…そうだ!なら、いい名前考えてあげるよ」
「本当?変な名前じゃ嫌よ」
「まっかせて。エミリーの粋を集めたのを考えるから」
そういうとエミリーはその場で固まってしまった。う~んとかあ~でもとか言いながらひたすら考えている様だ。
「そんなすぐに思いつかなくても大丈夫よ。この村にいる間で構わないんだから」
「ん、この村…この村かぁ。そうだ!ティア名前決まったよ!」
「本当、ちなみにどんな名前なの?」
「エリアの書!エリアの書ってどうかな?」
「う~ん。エリアの書ねぇ」
私はエミリーが考えてくれたエリアの書という名前をつぶやいて、頭の中で思い描く。まぁまぁしっくりくるかな。
「それにするわ、ありがとうエミリー。ちなみにどんな意味なの?」
「よかった~。えとね、わたしとカリンとティアの名前を一文字取ってエ・リ・アの書だよ」
「あなたが最初っていうのが気になるけど、今日からあの魔導書はエリアの書ね。3人の名前を取ってるんだから、それに恥じないようなものにしないといけないわね」
「そんな大げさだよ~」
「そんなことはないわよ。魔法使いにとって魔導書は生き抜くためのものだもの。その中身がダメならその魔導書の名前も地に落ちてしまうわ。3人の名前を取ってるんだから責任重大よ」
「じゃあ、今からでも違うの考えるよ」
「だ~め。決めたものは変えないわ。それに名前に恥じないように気合も入るし、そうと決まったらすぐにご飯食べて作らなきゃ」
私はいまだ名前を考えているエミリーをしり目に、小屋へと急ぎ帰るのだった。その後、みんなに変にやる気を出していると不審がられたのは言うまでもない。
目が覚める。いったい今は何時だろう。ぼけーっとしながら頭が働きだすのを待つ。10分ほどしてようやく動き出す。外を見ると、明るかった。もう朝は少し過ぎている様だ。机に座っていつも通り髪を整え今日も一日を始める。
「よし!」
朝食を取るためリビングへ行く。リビングではキルドとフォルトが地図を作っていた。昨日は2人も疲れて途中で投げ出していたといっていたので、その分だろう。
「おはよう2人とも。地図作り頑張ってね」
「おはようティア。こっちは任されたよ。朝ごはんはそこに置いてあるから」
「ありがとうキルド。エミリーとカークスは?」
「カークスは外で素振りしてるよ。エミリーはカリンと先に行ってるって」
「うそ?もうそんな時間なの!」
「違うぞ、まだそんなに早い時間じゃない。目が覚めたから来てみたって言ってたな。まあ、2人で話でもしてるんじゃないか?」
「そうなの?よかった、寝坊したかと思ったわ」
私は安堵して朝食を食べる。この簡易食も食べ飽きたなぁ。冒険に持っていける食事は結構限られる。基本的には干し肉のようなものと、短期間ならパンだ。正直それ以外のものはあんまり日持ちしない。缶詰の技術が判れば作るのにな。とはいっても加工精度の関係でバカ高くなるだろうけど。なまじ、夕飯がおいしいだけにこの朝食が残念に思えてくる。それもそろそろ少なくなってきているし、ちょっと考えものね。
「そういえばこの食事も少なくなってきたんじゃない?」
「そうだな。あと2,3日分ってところだな。干し肉も少なくなってきたしどうしようかと思っているんだ」
「たしかに、食事がなくなるのは困るよね。干し肉も簡単にできるわけじゃないし」
「要は乾燥させればいいのよね。味はともかくとして」
「何か考えがあるのか?」
「昨日、火と水の魔法で湯を作ったじゃない。それと同じで火と風で乾燥を促進できないかなって」
「それが出来れば確かに今後も楽になるな。ちょっと今干してる分使っていいから、あとで試してくれないか?」
「分かったわ。カリンの練習が終わった後にでも試してみる」
「でもあれだね。ティアが来てから、なんだか冒険が贅沢になったね。お風呂なんて意識もしなかったし、食料問題も解決できるかもなんて」
「キルド、期待してもらってるとこ悪いけど、今回のはうまくいくかわからないわよ」
「分かってるって、期待して待ってるよ」
「もう…」
その後、食事を終えた私はカリンたちの元へ向かうべく小屋を後にした。
「いったね~」
「ああ、行ったな」
「やっぱりあの調子じゃ、起こされたこと知らないだろうね」
「まあ、仕方ないな。昨日も戦った後、風呂を沸かすのに魔法を何度も使ったし、その間も気をつかって寝てないだろうからな」
「損な性格だよね」
「自覚がないところが一番な」
「全くだよね」
そんな会話を2人がしているとは知らず、私はカリンたちと合流した。
「遅れてごめんなさいカリン、エミリー」
「おはようティア、こっちこそ早くに来ちゃってごめんなさい」
「そうだね。カリンちゃんは覚えとくといいよ、ティアは結構朝弱いの」
「普通よ普通。あなたが早いのよ」
「でも、私が起きるときはみんなのうちだれか大体起きてるよ」
「そんなの個人の自由よ」
そう言われては目をそらして誤魔化すしかない。実際、私はエミリーに起こされない限り、一緒に起きたことはない。
「2人ともやっぱり仲いいね。うらやましいなあ」
「そう?ところで2人でなに話してたの?」
「学校でのこととかだよ。この村でも言葉を教えるのに似たようなのがあるんだって」
「そうなの?」
「そうだよ。それに本とかってわたしたちには使いづらいから、こうやって使うんだよって教えたりね」
「確かに爪じゃあ慣れないうちは破ったりしそうね」
「そうなんだよね。大切な本とかは直すのも難しいから結構大変なんだ」
「もし、写せるような時間があったらするわよ?」
「ありがたいけど遠慮しておくよ。ティアにはまだまだ教えてもらう事、いっぱいあるからね」
「そういわれると複雑ね。私もまだまだだし」
「ティアはいっつもそうなんだから。ちょっとは自信持たないと」
「でも、今回のことで自信を持てって言われてもね」
「また、そんなこと言って。それじゃあカリンちゃんがかわいそうだよ。ティアは先生なんだから」
「そうそう。わたしの先生なんだからしっかりしてねティア」
「…2人がそういうなら頑張ってみるわ。じゃあさっそく始めましょうか?」
「は~い」
「あ、そうそうカリンだけじゃなくて今日はエミリーもよ」
「ふえ?」
「この依頼を受ける時に行ったでしょう。あなたも魔法ちゃんと使えるようにならないとね。じゃあ2人とも行くわよ。まずカリンは復習ね」
そう言って一呼吸おいてから私は魔法を唱える。
「風よ、わが前に集いて解き放て」
昨日と同じように風が小岩を打つ。しかし、威力を抑えたそれは少しだけ表面を削り霧散した。
「大体あれぐらいの威力ね。威力の調整も教えたはずだからちゃんとやってね」
「は、はい。」
威力の調整をしてという事でちょっとカリンはちょっと緊張している様子だ。
「風よ、わが前に集いて解き放て」
カリンの放った風は小岩に当たり、ピンポン玉ぐらいの穴をあけた。
「う~ん。ちょっと強いわね。もうちょっと抑えて」
「はい!」
もう一度カリンは魔法を放つ。今度は抑えすぎたみたいで傷もつかない。
「今度は弱いわね。ちゃんと制御して」
「はい…」
もう一度放つと今度は小さく穴が開いた。ちょっと強い気もするけれどこんなものだろう。
「うん、まあまあね。じゃあ、この岩は今からエミリーが使うから、横の木を使って。今から私が開ける穴のサイズになるようにやってみて」
そういうと私は横の木に魔法で穴をあける。カリンはしばらくこの木で練習していてもらおう。
「次はエミリーね。私の言う通りに唱えてね。知ってると思うけど。水よ、わが前に現れ敵を撃て」
魔法を唱えると私の前に水が現れて岩へと一直線に向かう。水の初歩魔法だが、形や強さで結構応用の利く魔法だ。やがて岩にぶつかったそれはバシャっと岩を濡らした。
「大体こんな威力でね?さあやってみて」
「え~と、水よ、わが前に現れ敵を撃て」
エミリーの正面に水が現れ岩に届く少し前で、パァンと水がはじけ飛んだ。
「エミリー。別にそんな高度な方法はいらないのよ。ぶつけるだけでいいからもう一回やってみて?」
「う、うん」
もう一度エミリーが魔法を放つ。今度は弱弱しく何とか岩まで届いた。
「変ねぇ。私でも簡単にできるんだから、あなたならもっとうまくいくはずなんだけど」
「う~ん。なんかうまくいかないんだよねぇ。狙いをつけるのがうまくできないのかも」
「狙いねぇ…。見ててもダメなんだから目をつむってもダメよね」
「さすがにそんなのは無理だよ。位置が判んないんだから」
「ん~。位置ぐらいわかるよ。見なくても」
その時、1人で的当てをしていたカリンが声をかけてきた。
「本当カリン?」
「うん。この前エミリーに教えた風の流れをつかむ魔法あるでしょ。あれを使ったら風の流れで物の位置とかもかなり正確につかめるよ」
「でも、岩は動かないよ?」
「そう、だから弱い風なんかを送って、それで風の流れが邪魔されたとこに何かあるわけだからそれで位置をつかむんだよ」
「それなら私にもできるかしら。正直、流れをつかむのはあんまりできそうにないのよね。風の動きから予想した動きをしているって感じね」
頷きながら、風の魔法を簡単に放つ。目をつむっていても、吹き抜けない感触があるのがわかる。ここに物があるってことね。
「水よ、わが前に現れ敵を撃て」
軽く水魔法を放ってみると、確かに岩の中心に命中していた。
「こんな感じなのね。これなら私でもできるし、エミリーならもっと簡単だと思うわ」
「ホント?ちょっと私もやってみるね。え~と、風よ、流れとなりて押し出せ」
目を閉じたエミリーが風魔法を唱える。風が前へと運ばれ、岩にぶつかったところで気流が乱れる。
「この流れの乱れがカリンちゃんの言ってた位置の掴み方だね。確かに目を閉じてても形がわかるよ。」
私はおおまかな位置と大きさだけだけど、エミリーには形も明確にわかるみたいだ。何気にこの子すごいことしてるんじゃないかしら。
「じゃあ、当てるよティア。水よ、わが前に現れ敵を撃て!」
エミリーの前に現れた水が正確に岩を撃つ。私の当てたところと全く同じ場所に。魔法自体の威力が強かったみたいで、ちょっと穴がえぐれる。
「見事命中ね、エミリー。でもちょっと強いようだからもう少し調節して撃ってもらっていい?」
「お安い御用だよ。水よ、わが前に現れ敵を撃て」
再度放たれた魔法は寸分たがわず、先ほどと同じ場所へ命中した。それもちゃんと威力も調節できている。
「すごい…。すごいわエミリー!」
「へへっ。ホント、ティア?」
「ええ、威力の調節もばっちりだけど、同じところに当てるなんてすごいわ。何かコツでもあるの?」
「コツというか、魔法を飛ばして位置と形が見えたらそこを狙うだけだから。1回当たったところは少しの間、魔力反応が残るから次からはそこに向けて打ってるの」
「そんなやり方があったのね。簡単な魔力探知ぐらいなら私でもできるかしら。今度やってみるわ」
「やり方わかったら簡単だよ」
「簡単に言ってくれるわね…」
今の位置をつかむのでも結構集中してやったというのに、エミリーの中では簡単らしい。得意分野の差という事を考えても何とも言えない気分だ。
「あの~、2人ともわたしはもういいかな?」
ふと、カリンから話しかけられる。木を見ると私が開けた穴とほぼ同じサイズのものが10個ほど空いていた。
「あっ、もういいわよカリン。自分の魔法の強さが上がったりすると、威力も変わるから定期的にやってね。
じゃあ、今度はちょっと実践的な魔法を使うわね。ただし、威力も強くなっちゃうからちゃんと抑えて使うのよ」
「一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」
小さい竜巻を起こして岩に当たる。その風を受けてすこし岩が持ち上がった。
「これはカリンと出会った時に私が使った魔法よ。小さいけれど竜巻を起こせるの。縦にも横にも起こせるから便利なのよ。成体には効かなかったけど、幼体の飛竜なら動きを止めることも可能よ。小さい相手には有効だけど、大きいと足止めって感じね」
「昨日も良く使ってたやつだね。ちょっと試してみるね。…一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」
カリンの前でぐるぐると風が舞っていく。
「カリンちょっと抑えて!強すぎるわ」
「へっ?」
抑えようとしたカリンだったが、ちょっと間に合わなかったようだ。勢いよく放たれた竜巻は岩を簡単に飛ばして奥の木を倒す。
「注意、したわよね?」
「ご、ごめんなさい」
「こんな調子じゃ、簡単には魔法教えられないわよ。ここが平和ならともかく、今は危ないんだから。次からはちゃんと抑えることを意識して使う事」
「分かりました…」
「抑えて使うことも大切よ。何も毎回倒すわけじゃないし、普段の生活なんかで物を運んだりと役に立つんだから、あんまり戦うためのものって思わないでね」
「はい、心にとめておきます」
「よろしい、じゃあもう一回使ってみて」
「行きます!」
再度唱えたカリンはちゃんと威力を抑えることができた。軽く突風が吹いた程度できちんと押さえられている。
「上出来ね。残念だけどこの魔法に関してはあんまり抑えても目立つから、後は実戦で使うしかないわね」
「そうだよね~、木も倒れちゃうもんね」
「う~。」
「まあ、使えるって思えるなら十分よ。私は全体を包むように使ってたけど、バランスを崩させるだけなら片方の翼に放っても効果あると思うわ。カリンだって左右で全く違う強さの風が来たら飛べないでしょう?飛竜はあの大きさだし簡単には立て直せないはずよ」
「確かにわたしたちでも落ちちゃいそうだね」
「じゃあ、次に行きましょう」
「まだ、あるの?」
「今日はこれが最後よ。今まで教えた魔法じゃ飛竜には効かない可能性が高いからね。とはいっても最初に教えたものの発展系よ。っと、その前にカリンは私の剣とカークスの剣とフォルトの槍だったら、どれが一番切れ味がよさそうだと思う?」
「う~ん。カークスの剣かな?飛竜のしっぽに傷をつけてたし」
「じゃあその時のことは覚えてる?」
「実は私のところからはあんまり見えなかったんだよね」
「なら、この剣で我慢してね。今からやることを見てイメージをつかんで」
私は背中から剣を抜くと集中して剣を木に向かって投げつける。見事に投げた剣は木に突き刺さった。
「見ての通り、この剣の切れ味はこんな感じよ。この剣の形と切れ味を覚えておくの。もちろん切れ味はもっと切れる感じをイメージしてもいいわ」
「うん」
「それじゃ…大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
周囲の風が私の元に集まり剣を形成する。その剣を対象に向かって放つ。狙いは岩の中心より少し上!
ザクッ
放たれた剣は岩へと突き刺さり、少しして霧散する。
「今のが新しい魔法よ。注意して欲しいのは使用する魔力自体が大きいこと。竜巻の魔法よりも多くの魔力を使うわ。それとこの魔法の剣の部分は言葉を変えることで斧とか槍にも代えられるわ。ただし、この魔法で作り出すものの切れ味はイメージの強さよ」
「イメージの強さ?」
「例えば錆びてぼろぼろの剣しか見たことのない人なら、基本的にその剣と同じ切れ味のものしか作れないわ。あくまで自分の知っている武器を魔法で作り出したものだから」
「じゃあ、実際の剣より切れ味がいいのは作れないの?」
「多少ならできないこともないわ。ただし、この魔法自体が魔力消費が高めなのに、そこに魔力を加えて切れ味を上げるからあんまりお薦めはできないわね。でも、飛竜のうろこを貫通させるなら価値はあるかも。どれだけそれに追加の魔力がいるかはわからないけれど、とりあえず今のを参考にして使ってみて」
「はい、行きます。大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
カリンの前に風が集まって剣ができる。私の剣自体、あまり見ていないはずなのにかなりの精度だ。そして放たれた剣は岩の端に当たって倒れた木に突き刺さった。
「あれ?外れちゃった」
「そうね。この魔法は消費が激しいんだから外すと自分が不利になるわ。ちゃんと狙いを定めないとね」
「そういえば、魔力がふっと抜けていく感じがあったなぁ」
「でしょう?もう一回やってみて、ちゃんと魔法を使う前と後で狙いをつけるのよ」
「うん、大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」
今度は岩のやや中央に飛んでいき突き刺さる。刺さり具合から見てイメージには問題ないようだけど…。
「う~ん。やっぱり、武器を使ったりしないカリンには難しいのかしら?」
「確かにわたし、武器を振り回したりするの苦手だからね~」
「私と同じやり方なのがダメなのかもね。ちょっとやり方を考えましょうか」
「そうだね。このままだとまぐれ当たりしかしなさそう」
「カリンちゃんって私と一緒だから、狙いをつけるのも同じやり方でできないかな?」
うんうん唸っている私たちに、エミリーが助け舟を出してくれる。確かにエミリーが的に当てられるようになったのも、風の動きを感じてだった。ひょっとするとカリンでも同様のことができるかもしれない。
「そうね。エミリーと同じやり方でやってみましょうか」
「じゃあやってみる」
カリンは目を閉じて集中し始める。そして魔法を唱えて放つ。すると、さっきまでが嘘のように、見事に岩の中心に命中した。
「やったぁ。ありがとうエミリー、ティア」
「いいえ、あなたの頑張りとエミリーのアドバイスのおかげよ。よく頑張ったわカリン。エミリーもありがとう」
「わたしは、自分のやり方がカリンに教えてもらった探知の応用だったから偶々だよ」
「それでもよ。私だけだったらもっと時間がかかってたわ」
「えへへ~」
褒められてエミリーが得意げににやけている。今日もだが、最近この子には助けられてばかりだ。王都に帰ったら何か美味しいものでも食べさせてあげよう。
「でも、この魔法疲れるね。ちょっと使っただけで息上がってきたし、命中させるのに集中しないといけないから大変だよ」
「まあ、単体に有効だから慣れるしかないわね。強い相手に出会ったら、そうも言ってられないもの」
「そうだよね~。わたしなんか攻撃する手段もないからどうしようもないしね」
「あなたも少しずつ覚えていけばいいのよ。幸い当てられるようにはなったんだし。でも、治癒自体はあなた以上はいないんだから無理して使わないようにね?」
「そう言ってくれると助かるよ。実際、わたしも的に当てるの結構集中力つかうんだ」
「だったら私とおんなじだね、エミリー」
「そうだね」
「何そんなところで分かりあってるのよ。まあ、同じ目標だから2人でやってみるのもいいかもね。私とはあなた達は使い方も違うみたいだし」
「そんな~、ティアも一緒だよ~」
「そうそう、ちゃんと先生がいないとわたしたちさぼっちゃうよ?」
「なら仕方ないけど、一緒にやるしかないわね」
笑いながら私は答えて和やかな時間が過ぎていく。今日は結構魔力を使う練習だったので、この後は少し復習してから今日は切り上げという事になった。カリンは毎日の成果や出来事を長老に報告するように言われているようで、午後からは長老の家に行くようだ。私はもちろん今日の練習の成果も含めて、現在執筆中の冊子の編集をする。冊子といってきたが、結構内容も詰め込んでいるので何か名前でも付けようかな。
「どしたのティア?」
帰り道をゆっくり歩いて考え事をしていると、エミリーから声をかけられた。
「今書いてる冊子なんだけど、当初は本当に基本的なことを書くつもりだったから、冊子って呼んでたんだけど、勢いづいちゃってかなり内容が濃くなってきたから、何か名前でも考えようかなって。」
冒険者に関わらず、この世界では魔法を使うものは自分専用の魔導書を持っているのが基本である。中身は千差万別だが大抵は初級・中級魔法をまとめたものだ。魔導書自体は高価だが、冒険者学校では貸し出しや閲覧も可能で、その間に大抵の者が自分の属性の分をまとめておくのである。それ以外にも自分で研究した魔法や、敵との相性などを書き記したものもある。
私も当初は呪文と効果範囲を書いて、空いた欄にこういう敵に有効などと書こうとしていた。魔法自体も今日教えたものは参考程度で後は他の属性の基本魔法を書くつもりだった。それが今やあの冊子は魔法の効果範囲はもちろん、生活に使えたり使用に際しての注意など結構細かく書き連ねている。私も魔法使いなのだからそろそろ1冊ぐらい持っておきたい。まあ、名前だけのことなので意識の問題なのだが。
「じゃあ、魔導書を作るの?」
エミリーも私の意図を読んだのだろう。実際、学校卒業前に魔法使いの子は半数ぐらいが魔導書と称して持ち歩いていた。私はそこまで当時は高位の魔法を使えなかったのと覚えている範囲で対応できるので作らなかった。しかし、今回この場所に来て、覚えきれないことや予想外の出来事に出くわした。何かあった時に誰かに知っておいて欲しいし、自分の為にも欲しいと思ったのだ。
「そうね。飛竜と戦ってカリンと出会って、魔法観も少し変わったし、今なら作ってみようって思うの」
「ふ~ん。…そうだ!なら、いい名前考えてあげるよ」
「本当?変な名前じゃ嫌よ」
「まっかせて。エミリーの粋を集めたのを考えるから」
そういうとエミリーはその場で固まってしまった。う~んとかあ~でもとか言いながらひたすら考えている様だ。
「そんなすぐに思いつかなくても大丈夫よ。この村にいる間で構わないんだから」
「ん、この村…この村かぁ。そうだ!ティア名前決まったよ!」
「本当、ちなみにどんな名前なの?」
「エリアの書!エリアの書ってどうかな?」
「う~ん。エリアの書ねぇ」
私はエミリーが考えてくれたエリアの書という名前をつぶやいて、頭の中で思い描く。まぁまぁしっくりくるかな。
「それにするわ、ありがとうエミリー。ちなみにどんな意味なの?」
「よかった~。えとね、わたしとカリンとティアの名前を一文字取ってエ・リ・アの書だよ」
「あなたが最初っていうのが気になるけど、今日からあの魔導書はエリアの書ね。3人の名前を取ってるんだから、それに恥じないようなものにしないといけないわね」
「そんな大げさだよ~」
「そんなことはないわよ。魔法使いにとって魔導書は生き抜くためのものだもの。その中身がダメならその魔導書の名前も地に落ちてしまうわ。3人の名前を取ってるんだから責任重大よ」
「じゃあ、今からでも違うの考えるよ」
「だ~め。決めたものは変えないわ。それに名前に恥じないように気合も入るし、そうと決まったらすぐにご飯食べて作らなきゃ」
私はいまだ名前を考えているエミリーをしり目に、小屋へと急ぎ帰るのだった。その後、みんなに変にやる気を出していると不審がられたのは言うまでもない。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる