妹を想いながら転生したら

弓立歩

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本編

21

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「う、ん…」

目が覚める。いったい今は何時だろう。ぼけーっとしながら頭が働きだすのを待つ。10分ほどしてようやく動き出す。外を見ると、明るかった。もう朝は少し過ぎている様だ。机に座っていつも通り髪を整え今日も一日を始める。

「よし!」

朝食を取るためリビングへ行く。リビングではキルドとフォルトが地図を作っていた。昨日は2人も疲れて途中で投げ出していたといっていたので、その分だろう。

「おはよう2人とも。地図作り頑張ってね」

「おはようティア。こっちは任されたよ。朝ごはんはそこに置いてあるから」

「ありがとうキルド。エミリーとカークスは?」

「カークスは外で素振りしてるよ。エミリーはカリンと先に行ってるって」

「うそ?もうそんな時間なの!」

「違うぞ、まだそんなに早い時間じゃない。目が覚めたから来てみたって言ってたな。まあ、2人で話でもしてるんじゃないか?」

「そうなの?よかった、寝坊したかと思ったわ」

私は安堵して朝食を食べる。この簡易食も食べ飽きたなぁ。冒険に持っていける食事は結構限られる。基本的には干し肉のようなものと、短期間ならパンだ。正直それ以外のものはあんまり日持ちしない。缶詰の技術が判れば作るのにな。とはいっても加工精度の関係でバカ高くなるだろうけど。なまじ、夕飯がおいしいだけにこの朝食が残念に思えてくる。それもそろそろ少なくなってきているし、ちょっと考えものね。

「そういえばこの食事も少なくなってきたんじゃない?」

「そうだな。あと2,3日分ってところだな。干し肉も少なくなってきたしどうしようかと思っているんだ」

「たしかに、食事がなくなるのは困るよね。干し肉も簡単にできるわけじゃないし」

「要は乾燥させればいいのよね。味はともかくとして」

「何か考えがあるのか?」

「昨日、火と水の魔法で湯を作ったじゃない。それと同じで火と風で乾燥を促進できないかなって」

「それが出来れば確かに今後も楽になるな。ちょっと今干してる分使っていいから、あとで試してくれないか?」

「分かったわ。カリンの練習が終わった後にでも試してみる」

「でもあれだね。ティアが来てから、なんだか冒険が贅沢になったね。お風呂なんて意識もしなかったし、食料問題も解決できるかもなんて」

「キルド、期待してもらってるとこ悪いけど、今回のはうまくいくかわからないわよ」

「分かってるって、期待して待ってるよ」

「もう…」

その後、食事を終えた私はカリンたちの元へ向かうべく小屋を後にした。

「いったね~」

「ああ、行ったな」

「やっぱりあの調子じゃ、起こされたこと知らないだろうね」

「まあ、仕方ないな。昨日も戦った後、風呂を沸かすのに魔法を何度も使ったし、その間も気をつかって寝てないだろうからな」

「損な性格だよね」

「自覚がないところが一番な」

「全くだよね」

そんな会話を2人がしているとは知らず、私はカリンたちと合流した。

「遅れてごめんなさいカリン、エミリー」

「おはようティア、こっちこそ早くに来ちゃってごめんなさい」

「そうだね。カリンちゃんは覚えとくといいよ、ティアは結構朝弱いの」

「普通よ普通。あなたが早いのよ」

「でも、私が起きるときはみんなのうちだれか大体起きてるよ」

「そんなの個人の自由よ」

そう言われては目をそらして誤魔化すしかない。実際、私はエミリーに起こされない限り、一緒に起きたことはない。

「2人ともやっぱり仲いいね。うらやましいなあ」

「そう?ところで2人でなに話してたの?」

「学校でのこととかだよ。この村でも言葉を教えるのに似たようなのがあるんだって」

「そうなの?」

「そうだよ。それに本とかってわたしたちには使いづらいから、こうやって使うんだよって教えたりね」

「確かに爪じゃあ慣れないうちは破ったりしそうね」

「そうなんだよね。大切な本とかは直すのも難しいから結構大変なんだ」

「もし、写せるような時間があったらするわよ?」

「ありがたいけど遠慮しておくよ。ティアにはまだまだ教えてもらう事、いっぱいあるからね」

「そういわれると複雑ね。私もまだまだだし」

「ティアはいっつもそうなんだから。ちょっとは自信持たないと」

「でも、今回のことで自信を持てって言われてもね」

「また、そんなこと言って。それじゃあカリンちゃんがかわいそうだよ。ティアは先生なんだから」

「そうそう。わたしの先生なんだからしっかりしてねティア」

「…2人がそういうなら頑張ってみるわ。じゃあさっそく始めましょうか?」

「は~い」

「あ、そうそうカリンだけじゃなくて今日はエミリーもよ」

「ふえ?」

「この依頼を受ける時に行ったでしょう。あなたも魔法ちゃんと使えるようにならないとね。じゃあ2人とも行くわよ。まずカリンは復習ね」

そう言って一呼吸おいてから私は魔法を唱える。

「風よ、わが前に集いて解き放て」

昨日と同じように風が小岩を打つ。しかし、威力を抑えたそれは少しだけ表面を削り霧散した。

「大体あれぐらいの威力ね。威力の調整も教えたはずだからちゃんとやってね」

「は、はい。」

威力の調整をしてという事でちょっとカリンはちょっと緊張している様子だ。

「風よ、わが前に集いて解き放て」

カリンの放った風は小岩に当たり、ピンポン玉ぐらいの穴をあけた。

「う~ん。ちょっと強いわね。もうちょっと抑えて」

「はい!」

もう一度カリンは魔法を放つ。今度は抑えすぎたみたいで傷もつかない。

「今度は弱いわね。ちゃんと制御して」

「はい…」

もう一度放つと今度は小さく穴が開いた。ちょっと強い気もするけれどこんなものだろう。

「うん、まあまあね。じゃあ、この岩は今からエミリーが使うから、横の木を使って。今から私が開ける穴のサイズになるようにやってみて」

そういうと私は横の木に魔法で穴をあける。カリンはしばらくこの木で練習していてもらおう。

「次はエミリーね。私の言う通りに唱えてね。知ってると思うけど。水よ、わが前に現れ敵を撃て」

魔法を唱えると私の前に水が現れて岩へと一直線に向かう。水の初歩魔法だが、形や強さで結構応用の利く魔法だ。やがて岩にぶつかったそれはバシャっと岩を濡らした。

「大体こんな威力でね?さあやってみて」

「え~と、水よ、わが前に現れ敵を撃て」

エミリーの正面に水が現れ岩に届く少し前で、パァンと水がはじけ飛んだ。

「エミリー。別にそんな高度な方法はいらないのよ。ぶつけるだけでいいからもう一回やってみて?」

「う、うん」

もう一度エミリーが魔法を放つ。今度は弱弱しく何とか岩まで届いた。

「変ねぇ。私でも簡単にできるんだから、あなたならもっとうまくいくはずなんだけど」

「う~ん。なんかうまくいかないんだよねぇ。狙いをつけるのがうまくできないのかも」

「狙いねぇ…。見ててもダメなんだから目をつむってもダメよね」

「さすがにそんなのは無理だよ。位置が判んないんだから」

「ん~。位置ぐらいわかるよ。見なくても」

その時、1人で的当てをしていたカリンが声をかけてきた。

「本当カリン?」

「うん。この前エミリーに教えた風の流れをつかむ魔法あるでしょ。あれを使ったら風の流れで物の位置とかもかなり正確につかめるよ」

「でも、岩は動かないよ?」

「そう、だから弱い風なんかを送って、それで風の流れが邪魔されたとこに何かあるわけだからそれで位置をつかむんだよ」

「それなら私にもできるかしら。正直、流れをつかむのはあんまりできそうにないのよね。風の動きから予想した動きをしているって感じね」

頷きながら、風の魔法を簡単に放つ。目をつむっていても、吹き抜けない感触があるのがわかる。ここに物があるってことね。

「水よ、わが前に現れ敵を撃て」

軽く水魔法を放ってみると、確かに岩の中心に命中していた。

「こんな感じなのね。これなら私でもできるし、エミリーならもっと簡単だと思うわ」

「ホント?ちょっと私もやってみるね。え~と、風よ、流れとなりて押し出せ」

目を閉じたエミリーが風魔法を唱える。風が前へと運ばれ、岩にぶつかったところで気流が乱れる。

「この流れの乱れがカリンちゃんの言ってた位置の掴み方だね。確かに目を閉じてても形がわかるよ。」

私はおおまかな位置と大きさだけだけど、エミリーには形も明確にわかるみたいだ。何気にこの子すごいことしてるんじゃないかしら。

「じゃあ、当てるよティア。水よ、わが前に現れ敵を撃て!」

エミリーの前に現れた水が正確に岩を撃つ。私の当てたところと全く同じ場所に。魔法自体の威力が強かったみたいで、ちょっと穴がえぐれる。

「見事命中ね、エミリー。でもちょっと強いようだからもう少し調節して撃ってもらっていい?」

「お安い御用だよ。水よ、わが前に現れ敵を撃て」

再度放たれた魔法は寸分たがわず、先ほどと同じ場所へ命中した。それもちゃんと威力も調節できている。

「すごい…。すごいわエミリー!」

「へへっ。ホント、ティア?」

「ええ、威力の調節もばっちりだけど、同じところに当てるなんてすごいわ。何かコツでもあるの?」

「コツというか、魔法を飛ばして位置と形が見えたらそこを狙うだけだから。1回当たったところは少しの間、魔力反応が残るから次からはそこに向けて打ってるの」

「そんなやり方があったのね。簡単な魔力探知ぐらいなら私でもできるかしら。今度やってみるわ」

「やり方わかったら簡単だよ」

「簡単に言ってくれるわね…」

今の位置をつかむのでも結構集中してやったというのに、エミリーの中では簡単らしい。得意分野の差という事を考えても何とも言えない気分だ。

「あの~、2人ともわたしはもういいかな?」

ふと、カリンから話しかけられる。木を見ると私が開けた穴とほぼ同じサイズのものが10個ほど空いていた。

「あっ、もういいわよカリン。自分の魔法の強さが上がったりすると、威力も変わるから定期的にやってね。
じゃあ、今度はちょっと実践的な魔法を使うわね。ただし、威力も強くなっちゃうからちゃんと抑えて使うのよ」

「一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」

小さい竜巻を起こして岩に当たる。その風を受けてすこし岩が持ち上がった。

「これはカリンと出会った時に私が使った魔法よ。小さいけれど竜巻を起こせるの。縦にも横にも起こせるから便利なのよ。成体には効かなかったけど、幼体の飛竜なら動きを止めることも可能よ。小さい相手には有効だけど、大きいと足止めって感じね」

「昨日も良く使ってたやつだね。ちょっと試してみるね。…一条の風よ、竜巻となりて敵を包め」

カリンの前でぐるぐると風が舞っていく。

「カリンちょっと抑えて!強すぎるわ」

「へっ?」

抑えようとしたカリンだったが、ちょっと間に合わなかったようだ。勢いよく放たれた竜巻は岩を簡単に飛ばして奥の木を倒す。

「注意、したわよね?」

「ご、ごめんなさい」

「こんな調子じゃ、簡単には魔法教えられないわよ。ここが平和ならともかく、今は危ないんだから。次からはちゃんと抑えることを意識して使う事」

「分かりました…」

「抑えて使うことも大切よ。何も毎回倒すわけじゃないし、普段の生活なんかで物を運んだりと役に立つんだから、あんまり戦うためのものって思わないでね」

「はい、心にとめておきます」

「よろしい、じゃあもう一回使ってみて」

「行きます!」

再度唱えたカリンはちゃんと威力を抑えることができた。軽く突風が吹いた程度できちんと押さえられている。

「上出来ね。残念だけどこの魔法に関してはあんまり抑えても目立つから、後は実戦で使うしかないわね」

「そうだよね~、木も倒れちゃうもんね」

「う~。」

「まあ、使えるって思えるなら十分よ。私は全体を包むように使ってたけど、バランスを崩させるだけなら片方の翼に放っても効果あると思うわ。カリンだって左右で全く違う強さの風が来たら飛べないでしょう?飛竜はあの大きさだし簡単には立て直せないはずよ」

「確かにわたしたちでも落ちちゃいそうだね」

「じゃあ、次に行きましょう」

「まだ、あるの?」

「今日はこれが最後よ。今まで教えた魔法じゃ飛竜には効かない可能性が高いからね。とはいっても最初に教えたものの発展系よ。っと、その前にカリンは私の剣とカークスの剣とフォルトの槍だったら、どれが一番切れ味がよさそうだと思う?」

「う~ん。カークスの剣かな?飛竜のしっぽに傷をつけてたし」

「じゃあその時のことは覚えてる?」

「実は私のところからはあんまり見えなかったんだよね」

「なら、この剣で我慢してね。今からやることを見てイメージをつかんで」

私は背中から剣を抜くと集中して剣を木に向かって投げつける。見事に投げた剣は木に突き刺さった。

「見ての通り、この剣の切れ味はこんな感じよ。この剣の形と切れ味を覚えておくの。もちろん切れ味はもっと切れる感じをイメージしてもいいわ」

「うん」

「それじゃ…大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」

周囲の風が私の元に集まり剣を形成する。その剣を対象に向かって放つ。狙いは岩の中心より少し上!

ザクッ

放たれた剣は岩へと突き刺さり、少しして霧散する。

「今のが新しい魔法よ。注意して欲しいのは使用する魔力自体が大きいこと。竜巻の魔法よりも多くの魔力を使うわ。それとこの魔法の剣の部分は言葉を変えることで斧とか槍にも代えられるわ。ただし、この魔法で作り出すものの切れ味はイメージの強さよ」

「イメージの強さ?」

「例えば錆びてぼろぼろの剣しか見たことのない人なら、基本的にその剣と同じ切れ味のものしか作れないわ。あくまで自分の知っている武器を魔法で作り出したものだから」

「じゃあ、実際の剣より切れ味がいいのは作れないの?」

「多少ならできないこともないわ。ただし、この魔法自体が魔力消費が高めなのに、そこに魔力を加えて切れ味を上げるからあんまりお薦めはできないわね。でも、飛竜のうろこを貫通させるなら価値はあるかも。どれだけそれに追加の魔力がいるかはわからないけれど、とりあえず今のを参考にして使ってみて」

「はい、行きます。大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」

カリンの前に風が集まって剣ができる。私の剣自体、あまり見ていないはずなのにかなりの精度だ。そして放たれた剣は岩の端に当たって倒れた木に突き刺さった。

「あれ?外れちゃった」

「そうね。この魔法は消費が激しいんだから外すと自分が不利になるわ。ちゃんと狙いを定めないとね」

「そういえば、魔力がふっと抜けていく感じがあったなぁ」

「でしょう?もう一回やってみて、ちゃんと魔法を使う前と後で狙いをつけるのよ」

「うん、大いなる風よ、剣となりてわが前の敵を撃て!」

今度は岩のやや中央に飛んでいき突き刺さる。刺さり具合から見てイメージには問題ないようだけど…。

「う~ん。やっぱり、武器を使ったりしないカリンには難しいのかしら?」

「確かにわたし、武器を振り回したりするの苦手だからね~」

「私と同じやり方なのがダメなのかもね。ちょっとやり方を考えましょうか」

「そうだね。このままだとまぐれ当たりしかしなさそう」

「カリンちゃんって私と一緒だから、狙いをつけるのも同じやり方でできないかな?」

うんうん唸っている私たちに、エミリーが助け舟を出してくれる。確かにエミリーが的に当てられるようになったのも、風の動きを感じてだった。ひょっとするとカリンでも同様のことができるかもしれない。

「そうね。エミリーと同じやり方でやってみましょうか」

「じゃあやってみる」

カリンは目を閉じて集中し始める。そして魔法を唱えて放つ。すると、さっきまでが嘘のように、見事に岩の中心に命中した。

「やったぁ。ありがとうエミリー、ティア」

「いいえ、あなたの頑張りとエミリーのアドバイスのおかげよ。よく頑張ったわカリン。エミリーもありがとう」

「わたしは、自分のやり方がカリンに教えてもらった探知の応用だったから偶々だよ」

「それでもよ。私だけだったらもっと時間がかかってたわ」

「えへへ~」

褒められてエミリーが得意げににやけている。今日もだが、最近この子には助けられてばかりだ。王都に帰ったら何か美味しいものでも食べさせてあげよう。

「でも、この魔法疲れるね。ちょっと使っただけで息上がってきたし、命中させるのに集中しないといけないから大変だよ」

「まあ、単体に有効だから慣れるしかないわね。強い相手に出会ったら、そうも言ってられないもの」

「そうだよね~。わたしなんか攻撃する手段もないからどうしようもないしね」

「あなたも少しずつ覚えていけばいいのよ。幸い当てられるようにはなったんだし。でも、治癒自体はあなた以上はいないんだから無理して使わないようにね?」

「そう言ってくれると助かるよ。実際、わたしも的に当てるの結構集中力つかうんだ」

「だったら私とおんなじだね、エミリー」

「そうだね」

「何そんなところで分かりあってるのよ。まあ、同じ目標だから2人でやってみるのもいいかもね。私とはあなた達は使い方も違うみたいだし」

「そんな~、ティアも一緒だよ~」

「そうそう、ちゃんと先生がいないとわたしたちさぼっちゃうよ?」

「なら仕方ないけど、一緒にやるしかないわね」

笑いながら私は答えて和やかな時間が過ぎていく。今日は結構魔力を使う練習だったので、この後は少し復習してから今日は切り上げという事になった。カリンは毎日の成果や出来事を長老に報告するように言われているようで、午後からは長老の家に行くようだ。私はもちろん今日の練習の成果も含めて、現在執筆中の冊子の編集をする。冊子といってきたが、結構内容も詰め込んでいるので何か名前でも付けようかな。

「どしたのティア?」

帰り道をゆっくり歩いて考え事をしていると、エミリーから声をかけられた。

「今書いてる冊子なんだけど、当初は本当に基本的なことを書くつもりだったから、冊子って呼んでたんだけど、勢いづいちゃってかなり内容が濃くなってきたから、何か名前でも考えようかなって。」

冒険者に関わらず、この世界では魔法を使うものは自分専用の魔導書を持っているのが基本である。中身は千差万別だが大抵は初級・中級魔法をまとめたものだ。魔導書自体は高価だが、冒険者学校では貸し出しや閲覧も可能で、その間に大抵の者が自分の属性の分をまとめておくのである。それ以外にも自分で研究した魔法や、敵との相性などを書き記したものもある。

私も当初は呪文と効果範囲を書いて、空いた欄にこういう敵に有効などと書こうとしていた。魔法自体も今日教えたものは参考程度で後は他の属性の基本魔法を書くつもりだった。それが今やあの冊子は魔法の効果範囲はもちろん、生活に使えたり使用に際しての注意など結構細かく書き連ねている。私も魔法使いなのだからそろそろ1冊ぐらい持っておきたい。まあ、名前だけのことなので意識の問題なのだが。

「じゃあ、魔導書を作るの?」

エミリーも私の意図を読んだのだろう。実際、学校卒業前に魔法使いの子は半数ぐらいが魔導書と称して持ち歩いていた。私はそこまで当時は高位の魔法を使えなかったのと覚えている範囲で対応できるので作らなかった。しかし、今回この場所に来て、覚えきれないことや予想外の出来事に出くわした。何かあった時に誰かに知っておいて欲しいし、自分の為にも欲しいと思ったのだ。

「そうね。飛竜と戦ってカリンと出会って、魔法観も少し変わったし、今なら作ってみようって思うの」

「ふ~ん。…そうだ!なら、いい名前考えてあげるよ」

「本当?変な名前じゃ嫌よ」

「まっかせて。エミリーの粋を集めたのを考えるから」

そういうとエミリーはその場で固まってしまった。う~んとかあ~でもとか言いながらひたすら考えている様だ。

「そんなすぐに思いつかなくても大丈夫よ。この村にいる間で構わないんだから」

「ん、この村…この村かぁ。そうだ!ティア名前決まったよ!」

「本当、ちなみにどんな名前なの?」

「エリアの書!エリアの書ってどうかな?」

「う~ん。エリアの書ねぇ」

私はエミリーが考えてくれたエリアの書という名前をつぶやいて、頭の中で思い描く。まぁまぁしっくりくるかな。

「それにするわ、ありがとうエミリー。ちなみにどんな意味なの?」

「よかった~。えとね、わたしとカリンとティアの名前を一文字取ってエ・リ・アの書だよ」

「あなたが最初っていうのが気になるけど、今日からあの魔導書はエリアの書ね。3人の名前を取ってるんだから、それに恥じないようなものにしないといけないわね」

「そんな大げさだよ~」

「そんなことはないわよ。魔法使いにとって魔導書は生き抜くためのものだもの。その中身がダメならその魔導書の名前も地に落ちてしまうわ。3人の名前を取ってるんだから責任重大よ」

「じゃあ、今からでも違うの考えるよ」

「だ~め。決めたものは変えないわ。それに名前に恥じないように気合も入るし、そうと決まったらすぐにご飯食べて作らなきゃ」

私はいまだ名前を考えているエミリーをしり目に、小屋へと急ぎ帰るのだった。その後、みんなに変にやる気を出していると不審がられたのは言うまでもない。
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