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本編
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しおりを挟む翌日、目が覚めるとすでにエミリーは起きているようで、ベッドにはいなかった。
「私も起きましょうか」
今日もいつも通り、鏡の前でセットをして食堂に降りる。食堂ではエミリーとフォルトがすでに席についていた。
食事の方は運ばれていないので、先に注文だけしているのだろう。
「おはよう2人とも、みんなの分はもう頼んであるの?」
「うん、あと10分ほどで来るんだって」
「おはようティア」
私は2人と一緒に時間までおしゃべりをする。内容はというとこの2日間の王都での過ごし方だ。
私は結構、駆けまわっていた印象があるがみんなはどうなんだろうと気になっていた。
「わたしはねぇ~、半々かな。調べものとかもしたけど、結構面白かったしね。もうちょっと寝たかったけど」
「私の方は元々次の依頼ありきで動いていたから、予備日のような感じだな。そんなにゆっくりとはできないが、出発前に準備する時間はあるし、忙しくはない」
「結構、フォルトたちって強行軍に慣れてるわよね。私たちが来る前はそんな感じだったの?」
「男3人である意味気を遣うところはまるでなかったから。依頼だって朝見て、昼になってからやっぱり受けようとか方針だってばらばらだった」
「今だと準備がいるかどうかを判断して、当日か翌日かを決めて受けるからなんだか新鮮ね」
「だらしないだけで絶対にやめた方がいい。おかげで門が閉まって野宿になったこともある」
「それは嫌かも。王都の近くで依頼受けて、外で止まるのはしたくないな」
「そうね。依頼内容見れば大体分かるんだからさすがにちょっとね」
「そういう意味ではティアたちが来てよかったかもな。さすがにそのままの勢いで続けて結局出て行かれでもしたら悪評が付くからな」
「別にパーティーの人数ぐらいちょっと変わっても目立たないでしょ?」
「これまで言ってなかったが、あの頃は結構噂だったんだ冒険者学校を優秀な成績で出たにもかかわらず、よくわからないやつと2人でパーティーを組んでるっていうことでな。しかも女性2人だけで、パーティー名も適当。どこかに所属する気はあるのに、話しかけてもそぶりを見せない美少女2人組」
「なんだかその言い方だとわたしがおまけみたい」
「仕方ないさ。治癒能力のことは噂になってなかったし、戦闘力としては全くないって卒業生からも話は来てたからな。最もそれも今や過去の話だけどな」
「本当に失礼な話ね。実力も何もなくて冒険者として一緒に行動してたと思われたなんて」
「おかげで、臨時で組んだ時には結構聞かれたものだ。どうやったら一緒に依頼を受けられるのかと」
「でも、あれって偶々なのよね」
「依頼の最低同行人数が4人以上だったからな。ちょうどでも体裁が悪いし5人ぐらいなら問題ないだろうと」
ちょっと前のことのはずなのに、もっと前のように感じる。それだけこのパーティーが気に入っているという事なのだろう。
ティアにはさすがに言えないが、実際に偶々ではない。ギルドからも依頼達成はするけれど2人だけでやっているのも不安だし、将来性もあるからきっかけを作るという依頼なのだ。
ギルドは中立・公正を謳っているが、例外がないわけではない。より所属ギルドのパーティーの質が良くなるように、または冒険者たちの安全が担保されるように動くこともある。そういう事例があるときはギルドマスターの権限で依頼を特定パーティーに回したりもする。そのパーティーに依頼が必要ではなく、恣意的にそのパーティーに回すのだ。さすがに、こういう場合外部に漏らさないように秘密にされる。契約の形をとる場合には明確な罰則もあるぐらいだ。
あくまでギルドは冒険者のための組織であり、最終的に冒険者の利益につながるのであれば多少の過程には目を瞑るという事らしい。私たちのようにうまくはまることもあれば、せっかくの機会をふいにしてしまう場合もある。それでもはまった時の効果の方が大きいという判断だ。
「もうそろそろ10分経つわね。呼んでこようかしら」
「いや、私が起こしてくる。料理が運ばれてきたら先に食べていたらいい」
フォルトはそういうとスッと席を立って部屋に戻っていく。食事が出てくる前にキルドとカークスも降りてきた。
「2人ともおはよう」
「おはよ~、ふぁ」
あくびをしながらキルドが返事をする。カークスも返事はしたもののどこかまだ眠そうだ。
「ほらほら皆さん。今日は出発の日ですよ、しっかり食べてくださいね!」
リサが料理を運んでくる。事前に頼んでいた分だ。カークスやキルドの料理は魚中心のようだ。いつもとは違うところを見ると、昨日のうちにフォルトに頼んでおいたらしい。
みんなでそろって食べ始めると、寝起きとはいえさすがに食べるスピードが違う。みるみるカークスたちのお皿は減っていき数分で空になった。
「あなたたち急いで食べると消化に悪いわよ」
「大丈夫だって、毎日続けてるし」
「そんなこと言っていられるのも今のうちよ。できるときは注意しなさい」
「はいはい、それよりもうすぐ食べ終わるから」
私の皿を指さすキルド。残念ながら食べるのが遅い私はまだ5分の2ほど料理が残っている。このままだと折角早く起きたのに出発の時間が遅れると急いで食事を再開する。
「また、キルドは急かしてる」
「別に急かしてはいないよ。ただ、ティアってしっかり食べるよね」
「ほうおそわったもん」
「食べ終わってからしゃべれ」
「…そう教わったからよ。きちんと噛んで食べれば満腹感も増すし、栄養もきちんと取れるわ」
「ティアは結構食にこだわりがないのにそういうところはこまかいよね」
「これは絶対に譲らないって感じだよね」
「まあ、冒険者は想定外のことも起きるし、食料に対して意識が高いのはいいことだが」
「そうそう、フォルトを見習ってちゃんと食べなさいよ」
ただ食べるスピードを合わせているだけのフォルトを例にして挙げる。ちょっと悪いとは思ったが他にいないので仕方ない。そんなやり取りをしながら朝食を食べ終え、いざ工房へと向かう。
「すみません」
「おう、ティアか時間通りだな。ほらこれだ!」
工房ではすでにヴォルさんが剣を置いて待っていてくれた。横でカークスが代金を払い剣を手に取る。
「これは…」
「ちゃんと言われた通りに両刃だった剣の片側を削ぎ落して片刃にした。その際に刃の部分にはフォルトの槍の金属を加工して付けたのと、落とした部分は重さや形がいびつになるから、そこは打ち直してある。ほんとだったら新規に作り直したいところだがな」
「ありがとうございます。しかし、これでは安いのでは?」
「まあ、ちょっとはな。だが、他人の剣をどうこうして金をとるってのもな。そこは工房として気になるからよ。次はうちで作ってくれりゃあいい」
「この剣を超えるだけのものを持ってきます」
剣の形を変えただけとはいえ、やはり新しい武器との出会いにカークスも興奮気味だ。私も訓練用の件ではなくお爺様からこれをもらった時はうれしかったし。
「それじゃあみんな、行くとしよう」
カークスの掛け声とともに私たちは頷いて工房を後にする。
「しっかり仕事してこい!」
というヴォルさんに励ましの言葉をもらって、私たちは門まで到着する。
「お前らか。この前は済まなかったな」
「バルガスさん、久しぶりですね。喜んでいただけて良かったです」
「ああ、今度も長いのか?」
「10日か2週間ぐらいの予定です」
「それはそこそこ長めだな。遠くにでも行くのか?」
「いいえ、距離は近いですよ。滞在日数が長いので」
「そうか、荷物は以上ないな。よし行ってこい!」
私たちはバルガスさんに通してもらい街道に出る。本当にあの人は兵士なんだろうか。その辺の団長といわれてもみんな信じてしまうだろう。
「さて、ここから南に向かって進むわけだけど、街道沿いに進むだけだから簡単だね」
私たちは歩きながら村までの予定について話す。キルドの言う通り、村までの道は狭いところもあるけれどきちんとした街道が整備されており、問題はないように見える。
「後は野営地だな。最近、村と王都の中間あたりでは盗賊が目撃されているらしい」
「あ~、あそこは村に行く以外にも分かれ道になってるからね。街の方の荷馬車を狙ってるのかな?」
「おそらくはその線だろうが、村からの商人の行き来はこれまでさほど護衛もなかったからそちらかもしれん。あっちは簡単に行き来できるが実入りも少ないからな」
今行こうとしている村は王都からさほど遠いわけでもない。しかし、飛竜の住む山に近く森に特産物があるわけでもなく、産業としては地の利も行かせていないところだ。村人たちは個別に王都まで行くこともあり、商人にしてみればこんなものがありますよといっても、目新しさをアピールできず購買意欲もあまりないという。
それが最近は盗賊の発見が相次いでいるとは思わなかった。
「1泊は避けられないでしょうから、分岐の手前かその奥かね。どちらがいいとも言えないわね」
奥で張れば村にわざわざ行くような冒険者はあまりいないから、新米だと思われて襲われる可能性もある。かといって分岐の手前なら街へと目指すパーティーとして、そこそこの実入りが期待できる。
もちろんその際には被害も出るだろうが、分け前も自動的に増える。盗賊がどんな判断を下すかまでは私たちにはわからない。冒険者という時点であきらめてくれる可能性もあるわけだから、それが一番いいのだが。
「セオリー通りなら村の方で張る方がいいと思うが…」
「どっちにしたって来るときは来るんだからいけるところまで行こう。そしたら村についてゆっくりできるし」
「ちゃんと、着いたら情報収集をしないといけないのよ」
「まあ、着いた先は少し休もうとは思っていたが、それならエミリーの提案にするか」
エミリーの意見を採用し、私たちは今日は分岐点を過ぎて村側の街道で休むことになった。
「とりあえず、魔物よけの護符は張るわね」
「前にも張ってくれた奴だな、頼む」
「テントの設営はこっちでするよ」
「なら、料理はわたしがするね。覚えたての奴やりたかったんだ~」
エミリーが無性に張り切っている。この前にカリンの村に行ったときに教わった料理を試したくて仕方ないのだろう。流石に街道沿いという事で魔物たちも出てくることはなく、順調に私たちは村への道のりを進んでいった。
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