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第14章「ステージに消えた歌詞」(02/02)
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――忘れたはずの歌詞が、音に乗せるたび、断片的に浮かんでくる。
声は震えていた。それでも、観客は静かに、じっと望愛を見守っていた。いや、見てはいない。客席の多くが、暗がりに包まれている。それが、不思議と安心感を与えていた。
(……一文字ずつでもいい。今は、ここから逃げない)
1番をなんとか歌い切ると、後奏のタイミングで照明がわずかに明るくなり、会場から軽い拍手が起きた。
その瞬間だった。
「おい、間奏中に飲むなって言っただろー!」
袖から広樹の鋭い声。演奏中、ベース担当の新入生がスポーツドリンクのボトルを持ち上げかけ、慌てて楽器に戻ったらしい。
客席にくすっとした笑いが起き、望愛もつられて小さく笑ってしまった。
笑った瞬間――ふっと、心のどこかが緩んだ。
2番の入り。
思い出した。サビのフレーズが、明確に頭に浮かぶ。
「♪光の向こう、君がいるなら――」
声が舞台全体を震わせた。観客が、息を飲むような静けさを作る。その一音一音に、望愛の決意が宿っていく。
照明が徐々に明るくなり、最後の大サビを迎える。観客席の前方から、ペンライトがひとつ、またひとつと灯る。
(ああ、なんでだろう。怖いはずなのに、今は――)
眩しい、と思った。
涙が滲みそうになるのを、なんとかこらえて、最後の一小節を歌い切った。
「♪この声が、届きますように――」
静寂の一拍のあと、万雷の拍手が会場に響いた。
望愛は深々と頭を下げ、袖へと戻っていった。
楽屋の裏側に回ると、恭平が待っていた。照明スタッフとの連絡を終えたばかりのようで、またあの、見慣れた笑顔を浮かべていた。
「……やりきったね」
「……うん」
望愛は肩で息をしながら、小さく頷く。恭平は何も言わず、そっとタオルを差し出してきた。
そのタオルを受け取ろうとした手が、ふと重なった。
「……さっきの、“途中で放棄しない人になろうとしてる途中”って」
「うん?」
「それって、私のこと、ちゃんと見てたってこと?」
恭平は少しだけ、苦笑いを浮かべて、照明が落ちたばかりの講堂の舞台を振り返った。
「君は放棄しそうで、しないんだよ。俺、そういう人、好きなんだよね」
その言葉に、望愛の心臓が――まるで、今さっきまで歌っていた曲のリズムのように、弾けた。
そして、何も言わずに望愛は頷いた。
その小さな頷きが、彼女の決意を表していた。
途中で放棄しない。
その第一歩が、今ここに刻まれたのだった。
声は震えていた。それでも、観客は静かに、じっと望愛を見守っていた。いや、見てはいない。客席の多くが、暗がりに包まれている。それが、不思議と安心感を与えていた。
(……一文字ずつでもいい。今は、ここから逃げない)
1番をなんとか歌い切ると、後奏のタイミングで照明がわずかに明るくなり、会場から軽い拍手が起きた。
その瞬間だった。
「おい、間奏中に飲むなって言っただろー!」
袖から広樹の鋭い声。演奏中、ベース担当の新入生がスポーツドリンクのボトルを持ち上げかけ、慌てて楽器に戻ったらしい。
客席にくすっとした笑いが起き、望愛もつられて小さく笑ってしまった。
笑った瞬間――ふっと、心のどこかが緩んだ。
2番の入り。
思い出した。サビのフレーズが、明確に頭に浮かぶ。
「♪光の向こう、君がいるなら――」
声が舞台全体を震わせた。観客が、息を飲むような静けさを作る。その一音一音に、望愛の決意が宿っていく。
照明が徐々に明るくなり、最後の大サビを迎える。観客席の前方から、ペンライトがひとつ、またひとつと灯る。
(ああ、なんでだろう。怖いはずなのに、今は――)
眩しい、と思った。
涙が滲みそうになるのを、なんとかこらえて、最後の一小節を歌い切った。
「♪この声が、届きますように――」
静寂の一拍のあと、万雷の拍手が会場に響いた。
望愛は深々と頭を下げ、袖へと戻っていった。
楽屋の裏側に回ると、恭平が待っていた。照明スタッフとの連絡を終えたばかりのようで、またあの、見慣れた笑顔を浮かべていた。
「……やりきったね」
「……うん」
望愛は肩で息をしながら、小さく頷く。恭平は何も言わず、そっとタオルを差し出してきた。
そのタオルを受け取ろうとした手が、ふと重なった。
「……さっきの、“途中で放棄しない人になろうとしてる途中”って」
「うん?」
「それって、私のこと、ちゃんと見てたってこと?」
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「君は放棄しそうで、しないんだよ。俺、そういう人、好きなんだよね」
その言葉に、望愛の心臓が――まるで、今さっきまで歌っていた曲のリズムのように、弾けた。
そして、何も言わずに望愛は頷いた。
その小さな頷きが、彼女の決意を表していた。
途中で放棄しない。
その第一歩が、今ここに刻まれたのだった。
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