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第30章 由比ヶ浜防波堤 (00)
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夜風が少しずつ涼しさを増し始めた由比ヶ浜。海の表面にはうっすらと雲がかかり、けれど空には満月がしっかりと顔を覗かせていた。
波の音が、遠くで繰り返しリズムを刻む。昼の喧騒を忘れたかのように、海は、ただ淡々と呼吸していた。
その防波堤に、三人分の影が並ぶ。
望愛が足元に座り込み、膝を抱える。少し離れて彩希が立ったまま空を見上げており、恭平はその二人の間に立って、にこやかな表情を保ったまま、風を受けていた。
「…ねえ、月、でかくない?」
望愛の呟きに、彩希がすっと視線を戻す。
「今日は中秋の名月だって。観月会とかもあったけど、こっちのほうが空が広いし、よく見えるよね」
彼女はそう言って、肩の力を抜くように深呼吸した。
恭平はポケットから缶ジュースを三本取り出すと、二人に順番に手渡す。「冷えてるよ。彩希にはジンジャーエール、望愛にはピーチティー」
望愛がちらりと恭平を見上げる。「なんで分かるの、私の好きなやつ」
「そりゃ、いつもバイト帰りに買ってるの見てたら覚えるって」
恭平の笑顔は変わらない。でも、その目元には、ほんの少し疲れが滲んでいた。
缶を受け取った望愛が、ぽつりと呟いた。
「……私さ、変わりたいって思ったんだよ。ちゃんと、最後までやれる人になりたいって」
その言葉に、彩希がゆっくりと振り返る。
恭平も、その言葉を聞いて、深く頷いた。
「途中放棄ばっかしてきたからさ。小学校の作文も、中学の部活も、ギターも…いっつも途中で投げ出してきた。でも、今回だけは…ちゃんと最後までやりたいって思った。……でも、怖い」
風が、望愛の髪を揺らす。そのまま彼女は自分の手のひらを見つめ、膝の上でぎゅっと握りしめた。
「望愛」
彩希の声が、冷たくも、優しく響く。
「口で言うのは簡単。でも、変わるって、行動で証明するもの。意志って、決意じゃなくて行動の積み重ねでできるって、私は思う」
望愛は、すぐには答えられなかった。
でも、その隣で恭平が、月を見上げながら笑った。
「じゃあ、さ。月ってさ、毎月出てるけど、満月になるまでちゃんと続けてるんだよね。途中で曇って見えなくなることもあるけど、それでも月は、自分のペースで光り続けてる」
「……なんの話?」
「つまり、途中がぐだぐだでも、最後にちゃんと満ちたら、それでいいって話」
望愛がふっと鼻を鳴らした。「それ、うまいこと言ったつもり?」
「つもりじゃなくて、本気で言ってる」恭平は、いつものように笑って答える。「望愛が本気で“変わりたい”って思ってるなら、俺は全力で応援するよ。だって、仲間でしょ」
望愛の視線が、恭平から彩希へ、そしてまた自分の手元へと戻る。
缶のプルタブを、少しだけ迷ってから、カチリと引いた。
開いた缶の中から立ち上る甘い香りに、ふっと微笑む。
「変わるって、…怖いけどさ。やってみる」
その言葉に、彩希が一歩だけ望愛の近くへ来て、月の光の中で小さく頷いた。
波の音が、遠くで繰り返しリズムを刻む。昼の喧騒を忘れたかのように、海は、ただ淡々と呼吸していた。
その防波堤に、三人分の影が並ぶ。
望愛が足元に座り込み、膝を抱える。少し離れて彩希が立ったまま空を見上げており、恭平はその二人の間に立って、にこやかな表情を保ったまま、風を受けていた。
「…ねえ、月、でかくない?」
望愛の呟きに、彩希がすっと視線を戻す。
「今日は中秋の名月だって。観月会とかもあったけど、こっちのほうが空が広いし、よく見えるよね」
彼女はそう言って、肩の力を抜くように深呼吸した。
恭平はポケットから缶ジュースを三本取り出すと、二人に順番に手渡す。「冷えてるよ。彩希にはジンジャーエール、望愛にはピーチティー」
望愛がちらりと恭平を見上げる。「なんで分かるの、私の好きなやつ」
「そりゃ、いつもバイト帰りに買ってるの見てたら覚えるって」
恭平の笑顔は変わらない。でも、その目元には、ほんの少し疲れが滲んでいた。
缶を受け取った望愛が、ぽつりと呟いた。
「……私さ、変わりたいって思ったんだよ。ちゃんと、最後までやれる人になりたいって」
その言葉に、彩希がゆっくりと振り返る。
恭平も、その言葉を聞いて、深く頷いた。
「途中放棄ばっかしてきたからさ。小学校の作文も、中学の部活も、ギターも…いっつも途中で投げ出してきた。でも、今回だけは…ちゃんと最後までやりたいって思った。……でも、怖い」
風が、望愛の髪を揺らす。そのまま彼女は自分の手のひらを見つめ、膝の上でぎゅっと握りしめた。
「望愛」
彩希の声が、冷たくも、優しく響く。
「口で言うのは簡単。でも、変わるって、行動で証明するもの。意志って、決意じゃなくて行動の積み重ねでできるって、私は思う」
望愛は、すぐには答えられなかった。
でも、その隣で恭平が、月を見上げながら笑った。
「じゃあ、さ。月ってさ、毎月出てるけど、満月になるまでちゃんと続けてるんだよね。途中で曇って見えなくなることもあるけど、それでも月は、自分のペースで光り続けてる」
「……なんの話?」
「つまり、途中がぐだぐだでも、最後にちゃんと満ちたら、それでいいって話」
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「つもりじゃなくて、本気で言ってる」恭平は、いつものように笑って答える。「望愛が本気で“変わりたい”って思ってるなら、俺は全力で応援するよ。だって、仲間でしょ」
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