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第34章「海に還す強がり」(01)
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渚が指示した順番で、まずは中サイズの流木をロープでまとめ、潮の引いた浜の奥へと運ぶ。砂が湿っていて足を取られるが、三人の呼吸が合ってくると、不思議と力は一つになっていた。
「せーのっ……」
「うぉ、そっち重っ!」
「踏ん張って!」
重みが傾くたび、アマリが体重をかけ、渚がバランスを取る。亮汰も不満を言いながら、ロープが手に食い込むのも構わずに引いていた。
次第に空が薄明るくなり、遠くの水平線が茜色に染まりはじめる。
「なぁ、アマリ」
ひと息ついたタイミングで、亮汰がぽつりと尋ねた。
「なんでそこまで、朝から笑ってんの? キツくね?」
「んー……キツイけど、こういうの、日本ではあんま無いじゃん?」
「どういうの?」
「“誰かのため”って思う前に、“まず動く”こと。カリフォルニアだと、こういう朝って、けっこう多いんだよ。みんなで、浜のこと守る朝」
アマリは指先で砂をつまんで空に放った。風がそれを舞い上げる。
「オレ、日本に来てよかったって思えるの、こういう時間なんだ。みんなと、黙ってても、通じる作業。こういうの、すごく大事」
亮汰は、ふっと目を伏せた。
最初は正直、面倒くさかった。こんな早朝、誰も見てないところで流木を片付けるなんて――って、どこかで思っていた。
けれど今、隣で真っ直ぐロープを引く渚や、前を向いて微笑むアマリを見ていて、何かが少しずつほどけていくのを感じていた。
「……オレさ。ずっと“自分の正しさ”だけで、やってきたつもりだったんだよな」
思わず、ぽつりとこぼす。
「なのに、今みたいに“ただ黙って一緒に動く”だけで、妙に納得できちまうって、なんか、悔しいな」
アマリも渚も、それに返事はしなかった。ただ、また一本、流木へと手を伸ばす準備を始めた。
“言葉じゃなく、行動で返す”。
それが今の正解なんだと、亮汰はようやく気づく。
「……よっしゃ、もう一本いこうぜ」
亮汰が声を上げると、渚が小さく頷き、アマリが満面の笑顔を浮かべた。
「イエス、リョータ! ナギサ、ワンモア!」
その瞬間、ようやく朝日が昇った。七里ヶ浜の海面に、まっすぐな金色の道が現れ、三人の影を長く照らした。
その光の中で、流木はまるで“海へ還る記憶”のように、静かに、少しずつ運ばれていった。
(End)
「せーのっ……」
「うぉ、そっち重っ!」
「踏ん張って!」
重みが傾くたび、アマリが体重をかけ、渚がバランスを取る。亮汰も不満を言いながら、ロープが手に食い込むのも構わずに引いていた。
次第に空が薄明るくなり、遠くの水平線が茜色に染まりはじめる。
「なぁ、アマリ」
ひと息ついたタイミングで、亮汰がぽつりと尋ねた。
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「どういうの?」
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最初は正直、面倒くさかった。こんな早朝、誰も見てないところで流木を片付けるなんて――って、どこかで思っていた。
けれど今、隣で真っ直ぐロープを引く渚や、前を向いて微笑むアマリを見ていて、何かが少しずつほどけていくのを感じていた。
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思わず、ぽつりとこぼす。
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「イエス、リョータ! ナギサ、ワンモア!」
その瞬間、ようやく朝日が昇った。七里ヶ浜の海面に、まっすぐな金色の道が現れ、三人の影を長く照らした。
その光の中で、流木はまるで“海へ還る記憶”のように、静かに、少しずつ運ばれていった。
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