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第46章 鎌倉市成人式会場ロビー
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新年を迎えて間もない朝。鎌倉市の成人式会場は、着物やスーツに身を包んだ新成人たちでにぎわっていた。
ロビーの隅では、スタッフジャンパーを羽織った三人——恭平、望愛、彩希が、式典の受付ボランティアとして立っていた。
しかし、すでに現場は軽く混乱状態だった。
「え、これ……配布名簿、年代順になってるじゃん。出席番号じゃないの……?」
彩希がテーブルの上に並べられた封筒束を手に取り、眉をひそめた。
「……うっわ、2004年組が前で、2003年組が後ろ……でも受付列は番号順に並んでるよ? これじゃ詰まるに決まってるじゃん……」
次々と到着する人々に、列の進行はストップ気味。ロビーには小さなざわめきが生まれつつある。
そんななか、彩希は素早く手帳を開いた。
「じゃあ、名簿並び替える。あたし、2003年組からやるから、恭平は封筒番号だけ読み上げて」
「了解~。年末に封筒バイトやったから読み上げ得意だよ~」
恭平はいつもの笑顔で頷き、ぱらぱらと束をめくって読み始める。
「えー、2035番、佐藤さん。2036番、瀬戸さん——」
その横で、望愛は少し離れた机に向かい、補充用の名札シールを黙々と切っていた。
最初は「こういうの、地味に苦手なんだよね」と言っていた望愛だったが、いざ始めてみると意外にも集中していた。
「……この人たち、一生に一度の記念日なんだもんね」
ぽつりとつぶやく望愛の声に、恭平がそっと振り返る。
「うん、ちゃんと気持ち込めて配りたいよね」
「じゃあ……がんばるか」
望愛はそのまま作業を続け、数分で封筒の一列を整えて持ち場へ戻った。
やがて彩希が全体に呼びかける。
「はい! 列を一度ストップします! 名簿を番号順に並び替えて再開しますので、10秒だけお待ちください!」
その瞬間、会場全体の空気が一変した。
並び直した配布物がリズムよくさばかれ、受付列もスムーズに流れ始める。45分の遅れが、あっという間に10分で解消された。
式典開始10分前。ロビーにはようやく落ち着いた空気が戻ってきていた。
「ふぅ……終わった……」
望愛がペンを放り出すように机に置いた。手元には、綺麗に仕分けられた名札と予備封筒の山。
「……途中で放り出さなかったね」
彩希が声をかけると、望愛はちょっとだけ苦笑して答える。
「……今日は、やりきってみたかった。なんとなく、ね」
目を伏せたその横顔に、彩希は何も言わずに頷いた。強くなったな、と内心で呟きながら。
そこへ、恭平が紙コップを三つ手に戻ってくる。
「ココア三つ、買ってきました~。冷えたでしょ、朝からずっと立ちっぱだったし」
「やさしいね、相変わらず」
彩希が笑い、望愛もふっと表情を緩めた。
「……ねえ、あたし、ちゃんと大人になれてるかな」
小さな声だったが、ココアを手にした恭平がそっと言った。
「それ、俺も考えた。でもさ——」
彼はロビーの奥で笑顔を見せる新成人たちに視線をやった。
「今日こうして、人のために動けたってだけで、十分じゃない?」
望愛は、少し目を潤ませながら、静かに頷いた。
振り返れば、あっという間の一年だった。迷って、逃げて、立ち止まって——けれど、こうして今は、ちゃんとここに立っている。
冬の日差しがロビーのガラス越しに差し込み、三人の背中を温かく照らしていた。
(第46章 了)
ロビーの隅では、スタッフジャンパーを羽織った三人——恭平、望愛、彩希が、式典の受付ボランティアとして立っていた。
しかし、すでに現場は軽く混乱状態だった。
「え、これ……配布名簿、年代順になってるじゃん。出席番号じゃないの……?」
彩希がテーブルの上に並べられた封筒束を手に取り、眉をひそめた。
「……うっわ、2004年組が前で、2003年組が後ろ……でも受付列は番号順に並んでるよ? これじゃ詰まるに決まってるじゃん……」
次々と到着する人々に、列の進行はストップ気味。ロビーには小さなざわめきが生まれつつある。
そんななか、彩希は素早く手帳を開いた。
「じゃあ、名簿並び替える。あたし、2003年組からやるから、恭平は封筒番号だけ読み上げて」
「了解~。年末に封筒バイトやったから読み上げ得意だよ~」
恭平はいつもの笑顔で頷き、ぱらぱらと束をめくって読み始める。
「えー、2035番、佐藤さん。2036番、瀬戸さん——」
その横で、望愛は少し離れた机に向かい、補充用の名札シールを黙々と切っていた。
最初は「こういうの、地味に苦手なんだよね」と言っていた望愛だったが、いざ始めてみると意外にも集中していた。
「……この人たち、一生に一度の記念日なんだもんね」
ぽつりとつぶやく望愛の声に、恭平がそっと振り返る。
「うん、ちゃんと気持ち込めて配りたいよね」
「じゃあ……がんばるか」
望愛はそのまま作業を続け、数分で封筒の一列を整えて持ち場へ戻った。
やがて彩希が全体に呼びかける。
「はい! 列を一度ストップします! 名簿を番号順に並び替えて再開しますので、10秒だけお待ちください!」
その瞬間、会場全体の空気が一変した。
並び直した配布物がリズムよくさばかれ、受付列もスムーズに流れ始める。45分の遅れが、あっという間に10分で解消された。
式典開始10分前。ロビーにはようやく落ち着いた空気が戻ってきていた。
「ふぅ……終わった……」
望愛がペンを放り出すように机に置いた。手元には、綺麗に仕分けられた名札と予備封筒の山。
「……途中で放り出さなかったね」
彩希が声をかけると、望愛はちょっとだけ苦笑して答える。
「……今日は、やりきってみたかった。なんとなく、ね」
目を伏せたその横顔に、彩希は何も言わずに頷いた。強くなったな、と内心で呟きながら。
そこへ、恭平が紙コップを三つ手に戻ってくる。
「ココア三つ、買ってきました~。冷えたでしょ、朝からずっと立ちっぱだったし」
「やさしいね、相変わらず」
彩希が笑い、望愛もふっと表情を緩めた。
「……ねえ、あたし、ちゃんと大人になれてるかな」
小さな声だったが、ココアを手にした恭平がそっと言った。
「それ、俺も考えた。でもさ——」
彼はロビーの奥で笑顔を見せる新成人たちに視線をやった。
「今日こうして、人のために動けたってだけで、十分じゃない?」
望愛は、少し目を潤ませながら、静かに頷いた。
振り返れば、あっという間の一年だった。迷って、逃げて、立ち止まって——けれど、こうして今は、ちゃんとここに立っている。
冬の日差しがロビーのガラス越しに差し込み、三人の背中を温かく照らしていた。
(第46章 了)
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